日誌

2023-06-12 16:44:00

莊司晶さんの焼杉の落とし蓋

e146e1626c559f3e5f0f6323508a59c3.jpg

京都に工房を構える木工家 莊司晶さんは、以前は山形の季節料理屋さんで板前をしていました。
そんな莊司さんの作るものは料理にまつわる日用道具などが多く、もう長く定番の一つとして制作しているのがこの落とし蓋。

今回は、14cmサイズ、16cmサイズ、18cmサイズの3種類が入荷しました。

dca5c03028f3326987b215e796b084cd.jpg

a343252991aa3d0c1256d371a2147ae6.jpg


サイズを選ぶ基準として、鍋の直径より2~3cm小さいものが、落とし蓋としてきちんと機能するのでおすすめです◎


材は抗菌作用を持つとされる杉。
取手は溝を彫って嵌めており、釘などは使っていません。
杉板で作った白木の状態のものの表面をあぶり焼杉にし、たわしで焦げをこすり落としています。
白木のものは香り高すぎて、繊細な煮物の場合は杉の香りが移ってしまい風味が損なわれてしまうそうで、莊司さんが勤めていた料理屋の厨房でも、落し蓋は白木よりも焼杉のものが多く使われていたそう。

fdd9bfc2ce0a5bee82ccf8d362cde482.JPG


焼杉となることで香りも和らぎ、たわしでこすられた表面は浮造(うづくり)に凹凸が表れ丈夫になり、防カビ・防腐性が高くなるそう。
(それでも最初は焼杉の香りもあるため、最初は何度か湯がいてアクの強いものの下茹でから使い始めて、匂いが気にならなくなってきたら煮物に使うようにするといいそうです)
落とし蓋をしてあげると、鍋の中の熱の対流が良くなりますから具材にまんべんなく火が通り、煮汁が染みわたります。
また落とし蓋をすると具材が鍋の中である程度固定されますので、沸いても具材が動きにくくなって煮崩れを防いでくれます。

8c459123fc79111f0a62163d83e83a48.jpg
d3c486dee0cad8d0d7f3281d03567cae.jpg


鍋でお湯を沸かす時にも重宝します。
鍋に水を張って、ぽんと落とし蓋を乗せてあげると、あっという間にぐらぐらと沸き立ちます。
急いでいる時にはほんとうに大助かりします。

4e300b85115570007df40729faef37d0.JPG
107bdf71b9c7aaed53a65d7f50534952.jpg


さて今はもうありませんが、この落し蓋を作り始めた頃、莊司さんが自ら文章を綴って手作りした素朴な冊子「落とし蓋のこと」というのがありました。
落とし蓋のお手入れや、板前時代に教わったおいしく青物(野菜の総称)を湯がくこつなどが、全編京都弁で書かれていて、思わず笑いがこみ上げました。
私の手元にひとつだけその冊子が残っています。

かなり長いですが転載します。
道具を愛好することはおいしい料理に通じるという考えや、莊司さんの真面目かつユーモアにあふれた人柄がわかります。
読んでいると、うつわや道具を凝ることは、そもそもなんのためなのかという根本や本質も同時に思い出させてくれます。

--------------

落とし蓋のこと|莊司 晶

…調理場では落とし蓋をよく使いました。白木のもんも有りましたが、焼杉のもんが多かったように思います。杉板に取手を付けて、サッと焦がしてある。毎日のようにたわしでごしごし洗うんで、角はすり減って丸うなっておりましたな。
最近はステンレスの落とし蓋を使ったり、そもそも落とし蓋を使わん方も居られる様ですが、やっぱり木の落とし蓋はええもんですよ。煮物はもちろん、鍋で湯を沸かすだけでも重宝します。
沸くのが早いんですよ。落とし蓋をすると。だから青物を湯がく時は必ず要ります。
落とし蓋をして湯が沸いたら、塩を少し入れます。これは野菜の旨味をなるべく逃さん為やと教わりました。それでグラグラっと沸いているところへ、適量の野菜を入れる。多すぎるのはいけません。なるべく沸騰している状態を維持しておくのが、美味しく湯がくコツです。だから野菜を入れたらすぐに落とし蓋をして、強火にして、早く百度にしてやる。短時間で調理するのが野菜を湯がく基本です。
それから心の中で茹でられてる野菜の気持ちになってみる。ほんまでっせ。もう芯まで熱くなったかな。もう十秒くらい。そろそろかな。手早く冷水に取ります。氷水でも良いんですけど、水道の流水で十分です。この時もなるべく早く温度を下げてやることが大切です。茹でて熱いまま放っとくと、色褪せてしまうでしょう?

…青物の話ばかりになりましたが、もちろん煮物に落し蓋は欠かせません。鍋の女房役とでも言いましょうか。煮物の時には鍋よりひと回り小さい落とし蓋がよろしい。当たり前?(笑) そう、鍋の直径より二~三センチ小さいのが使いやすいです。ぴったり過ぎると、ほんの弱火でも沸きすぎて煮崩れますし、小さ過ぎると水分が飛び過ぎたり、具材の頭が乾いてしまいます。

…手入れっちゅう程のことはありません。たわしでごしごし。多少の油っ気なら、水洗いだけでも十分です。木とたわしは相性が良いですから、よく落ちますよ。長時間濃い味で煮込んだり、脂のきつい煮物をした時は、落とし蓋だけしばらく湯がいてやると、しみ込んだ煮汁が出てきます。こうしておけば次に使う時、味移りしません。後は立て掛けたりザルに載せたりして乾かしておく。
…これは二十年ぐらいは使っていますが、丈夫なもんでしょう。

9d78d92dc70c5f348b669e35237ae64c.jpg

…料理の味というのは、やっぱり素材の良し悪しと調味の腕によるところが大きいです。そやけどおっくうがらんと下茹でするとか、野菜の面取りするとか、ご家庭でも器と盛り付けに気を使こてみるとか。ちょっとした手間の積み重ねが、美味しい味を作るんですよ。落とし蓋を使うのもそのひとつやと思います。
親方によく言われました。鍋の中いうのは、調理のどの段階で見ても美味しそうでないとあかん。
落とし蓋をかすかに揺らして、出汁の香りたっぷりの湯気を上げている鍋。どうですか。もう美味しそうでしょう。


【ご使用にあたって】
本品は杉板を直火で焼いたものですので、使い始めの頃は焼杉特有の匂いがあります。何度か鍋で茹でこぼして頂いた後、あくの強い野菜や蒟蒻の下茹でなどからお使い下さい。匂いが気にならなくなってきましたら煮物などにお使いください。