日誌
すず竹を信じて
店は、中間地点であり交差点だと思う。
使い手と作り手が、出会い交わる。
作り手さんたちは、自らの制作に集中し、
見てくださる人々に喜んでもらえたら、
店は作り手の佳き品々を扱い、その魅力を伝える。
お客様には、まずはそのものを愛で、
Instagramの投稿やホームページでは様々な文章を書いて
でも今回の展示で、
すず竹細工や素材であるすず竹にまつわることは、今まで伝えてきたつもりだったけどまだまだ力不足も感じた。
確かあれは2017年頃のことだったと思う。
橋本晶子さんに連絡を取ると、開口一番
「山々のすず竹が枯れ始めていて、
という一大事が、不安げな声で語られた。
120年か60年の周期で花が咲き実がついたあとは、
地下茎は生きていて、もとの竹林に戻るには(
その時から今まで晶子さんや地元の方々は、
すず竹は直径1cmから細いものだと5mm程度の植物。
橋本さんに聞くと、
お出かけ用の手提げかごや市場かごを作るのに適する2mを超える
温暖化の影響ではと研究がされているが、
前述の通りすず竹は細いため、すず竹1本から作れるひごは、(
それを数年かけて貯めて集めて、
最近では短い竹を継いで手提げかごを作ることもあるそうだけれど
切り子さんと呼ばれる、山をよく知り竹を切り出し調達してくれる頼れる職人さんが、
しかし高齢化が進み辞めていく人も増えているため、高齢のすず竹細工職人さんたちは竹の調達を切り子さんた
橋本さんは年齢的に自ら山に入って竹採りをこなせるということで
せめて整備基金か何かはないかと調べたり、
直接的に手助けできることは今はまだ見つからない。
月並みだけれど、自分のできる範囲で環境に配慮することなら今すぐにでもできることだと思う。遠まわりでも積み重なることで、
詳しいことは知らなくても、ただただ鳥越すず竹細工の存在に惹かれている人、橋本晶子さんの作るものそれ自体に魅力を感じている人は私をはじめすでにたくさんいて、これからもっと増えていくに違いないし、それはとても嬉しい。
その上でそれらを取り巻く現状を少しでも知ってもらえたら。
どうして作れる数が少ないのか、
素敵な作品の数々を皆さんに披露する場を作らせてもらうことは、自分自身をい
私が店でこれからもご紹介していきたいのは一過性の流行品ではなく、普遍的なもの、traditionalなものを選びたい。
末永くお使い頂けて、次の世代にも伝えたいと心から思えるものがいい。
多くのファンがいる橋本晶子さんのすず竹の品々、そして鳥越すず竹細工そのものがいつか手に入らなくなったらと想像すると心が痛む。
今後も少しづつ長く作り継がれていくには、起きている現状を産地の方々や作り手さんだけの他人事にはせず、店である伝え手の私も自分のこととして注視したい。
ユーザーの皆さんにも、それぞれの立場から自分事としてほんのちょっとでも考えて頂くことは、決して小さくない手助けの一歩だと思う。
鳥越すず竹細工に限らず、作品が世に出来上がってくるまでには多くの自然が関わっている。
間にいる一次産業や二次産業で支えてくれる「
それを心に留めておきたい。
橋本さんは
「なかなか難しい問題ですが、(すず竹の)再生を信じて、
とメッセージをくれた。
いつ話しても彼女は朗らかで明るい。
今できることをと話す。
それがあればきっと大丈夫と思わせてくれる。
竹枯れは次の世代に命をつなぐために必要なことだとも橋本さんは
それは正しい。
地球という生命再生の一部を、
柔軟さと謙虚さと
すず竹細工の橋本晶子さんが先行紹介用に送ってくれた、脚付きの高台笊。
数年前、この作品を写真で送ってくれた時に驚いた。
長野の戸隠竹細工では見る形だけど、鳥越のすず竹細工では珍しいはず。
橋本さんはこんなものも作るんだとわくわくした。
今改めて橋本さんに、あれはどうして脚をつけたか聞いてみたら
「百職さんでお付き合いのある陶芸の高木剛さんの高台皿を見て、籠にも脚があったら素敵だし、便利だろうなと思って」
と返ってきた。
橋本さんの持ち味として、思考の柔軟さがあると思う。
良さそうだなと直感したものは異素材からのヒントでも、竹細工にあった形に仕立て直して、取り入れてみる。
ここで大切なのが、安直にやっているのではなく、良さそうな対象を理解してすず竹細工に似合う構造や形に咀嚼するということだ。
橋本さんのもうひとつの美点である謙虚さが、制作には常に生きていると思う。
橋本さんは、コロナ以前にすず竹の笊づくりの名人の方のもとに通い、笊づくりを習っていたという。
すず竹細工には、笊や弁当箱などその道ひと筋の名人がいて、彼女はその先輩たちをリスペクトし礼儀を払い、学ぶ姿勢をいつも持っている。
作るだけではなく、受け継ぐという感覚も、橋本さんの中には常にあるのだろう。
先人たちに教わった〈基礎〉があり、その基礎の土台があるからこそ「脚をつける」という〈応用〉が成立するのだ。
もう昔に読んだ、どの工芸の本だったか忘れてしまったけれど、そこには〈工芸は、昔から作られてきたそのままを形にするのではなく、現代の有り様を映してこそ未来につながっていくものだ〉的なことが書かれていた。
青は藍より出でて藍より青し、という言葉があるけれど、作り手も作品も店も、そうして時を越えていけたらいいなと思う。
橋本さんの作る籠や竹細工には、過去・現在・未来のそれぞれの楽しみがたくさん詰まっている気がする。
【次回展覧会】
harmonia
飯島たま×小川麻美×橋本晶子 展
2023/3/25(土)-4/2(日)
12:00-17:30
‐3/25(土) 12:00-14:00のみ予約優先制
‐close 3/28(火)、29(水)
‐最終日4/2(日) 16:30close