読み物

近藤康弘 Nouvelle page ①

序


正直なところ、観に来てくださる方や買いに来てくださる方にとってはどんな作品が並んでいるか、魅力的な作品があるのかどうかが重要で、その時期につくり手が何を考え、思い、時に悩んでいるのかはさしたることではないのかもしれない。

だとしても、なんならつくり手の体温さえもほのかにまだ残されているような作品が並ぶ展覧会では、なおさら何もかもまるごと、しつらえる場に置いておきたいと思ってしまう。

作品というのはその人自身と循環しており、置かれている状況が混じりあい、気配を宿していると私は感じているから。

長年夢見てきた薪窯を、昨年ようやく自らの手で築いた近藤康弘さん。
さあこれからはすべてがいいほうへ動き出すと意気込んでいたところに窯へ湧き出す水との闘い、移転した敷地内に膨大な整備作業の必要性が出現するなど、やきものと生きる上での試練が訪れた。
或いは更なる新章がスタートしたと言えるかもしれない。

「前は暗闇っていうか、どうしようっていうふうに。いろんな人にこう自分の中の理想みたいなんはずっともう言い続けてるけどどうしていいかわかんないっていう状態。ようやく一歩踏み出してみたけど思っていたよりも難しくって失敗ばかりして」
と近藤さんは語った。

それでも、もともと持っていた理想の形に少しずつ近づいていきたいという。
先の景色がちょっと見えるようになってきてるだけでも全然違う」

念願だった築窯を成し遂げ、触れられる〈かたち〉を生み出せたことで〈自分を信じる〉という大切なアイテムを近藤さんはまたひとつ獲得できたのかもしれない。
自分なりの一歩を踏み出す。
始めることはいつでもできる。
新しいページをめくるように。

本展では近藤さんの旧知の相棒とも言えるガス窯に、補修中の薪窯、兄貴と慕う陶芸仲間の薪窯も総動員しながら、使う人と暮らしに寄り添ったやきものを作りたいという。
おなじみの飴釉や灰釉に加え、取り組み始めた益子黒釉や柿釉を用いて、益子の里山の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、近藤さんは〈益子のやきもの〉に新たな系譜を連ねていく。
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