読み物
With a warm feelings ④
あたたかさと緻密さと 松本圭嗣さんインタビュー / 前篇
“気持ちよく使ってもらわないと意味がないですよね”
ブランドsu-nao homeを立ち上げ、黒の陶器のうつわを作る松本圭嗣さん。比較的薄手でありながらも丈夫さも兼ね備えています。金属のように硬質に見える時もあれば、漆のうつわのような柔らかな表情を見せてくれる時もあり、その存在感は独特です。大学生時代のアメリカ留学をきっかけに陶芸の世界に入り、卒業後は岐阜県多治見市にある多治見市陶磁器意匠研究所へ。その後は磁器のうつわやオブジェの世界で制作を重ねながら2004年に大阪のご実家の一角にある工房で陶芸教室を始めます。そして2015年に今のsu-nao homeをスタートさせます。磁器から陶器へ、そしてろくろ成形からタタラ成形へと技法も転身。経歴を見ると、大胆で思い切りがいい方なのかな?と印象を受けるかもしれませんが、お話からは緻密な考察や細やかな感受性、そしてあたたかなお人柄の一端がちらりちらりと垣間見えました。
○今は丁寧にできる仕事だなと
僕、タタラ始めた頃、ずいぶん簡単やと思ったんやね。それまで磁器でろくろ挽いてたくさん細かいこと気をつけながら仕上げて…に比べたらなんやずいぶん簡単やと。でも実は全然、そんな浅いもんじゃないなって始めてしばらくしたらけっこう奥深いって気がついて。そんな簡単でもなく、ちゃんとこう時間をいっこいっこかけて労力かけないとで、今は丁寧にできる仕事だなと思うようになりました。
最初は磁器と並行してたんですね。磁器作りながら黒いものを作りたいなと、釉薬のテストとか色のテストとかずっとしてて。タタラはね…型づくりは磁器では自分が思うようにできなかったんです。すごくこう歪んだりとか割れたりとか、素材の制約もあってタタラ作りでは当時はすごく難しかったんです。で陶器でやろうと思って。
○最後に焼きとか乾燥で、あとはもういいようにゆがんでくれたらちょうどいいなあっていう
素材の魅力ってあるじゃないですか。磁器やったらすごくシャープできれいで完璧な感じ。陶器は土くさいやつだったら焼きの魅力とか。で、タタラづくりはこうゆがむんですね。気持ちのいいゆがみと、気持ちの悪いゆがみがあったりして。ゆらぎというか。いいゆらぎが出せたらいいなと思っていてというのはありますね。
それにはやっぱり、すーごいきれいに作るんです。すーごいきれいに作って、で、ゆがむんです。そのゆがみや揺らぎと、適当に作ったゆがみとは、質が僕ん中ではずいぶん違って。作るときはだからほんまにね、めちゃめちゃ丁寧につくって、めちゃめちゃきれいに作るんです。で、焼いたらちょっとゆがむ。少しロスも出るんですけど、それで気持ちのいい、心地いい揺らぎが出るんです。焼く前まできれいに作るのが大切で。
機械で作ったらあんまりゆがまないですよね。それとはまた違うんですね。こう自分の中にイメージがあって、いかにこう最初のほうで(必要以上)にゆがませないように作るかってことに注力してます。で最後に焼きとか乾燥で、あとはもういいようにゆがんでくれたらちょうどいいなあっていう。
やり始めた最初の頃は、今ほど厳しくは作ってなかったんですよね。さっきも言ったけど、タタラけっこう簡単やと思ってたし。磁器はけっこう時間かかんのに、タタラは楽ちんやなあと。まあ作品を厳しく見るようになった今でも磁器に比べたら、やっぱり楽ちんなんですけども。いろんな意味で。とにかく今は質を上げたいという感じです。ただ目が厳しくなっていくとロス(と見なす品)が増えていくんですね、これいいのかなあ(笑)。
※上は焼成時、歪んでしまったプレート。カーブがすごいけれどオブジェのような美しさも感じた。
○目が厳しくなってきてるんかもしれないけど
土のテストもしてます。余計なゆがみは減らしたいし、耐火度高くて溶けにくい土というのを作ろうと思って。今よりもいい感じに。
で、土屋さんがいて。(※名字の土屋ではなく、土を売っている店という意味の土屋さん)土屋さんにそんな話したら、けっこういろんなこと教えてくれて。今いくつかテストしてて、もう少し土を改善できたらなと。もちろん自分の技術的なこともやっていくんですけど。土の専門家に話を聞くことって今まであんまりなくて。自分で勝手にやってたなと。話してみたら、やっぱり土のプロなんで細かいこともちゃんと知ってはるんですよね。ちょっと質問したらすごいこう返してくれて。電話くれたりして。すげえいいなあと思って。これがうまくいったら改善するなと。
あと前から言ってましたけど、四角い皿ができないですね(苦笑)。目が厳しくなってきてるんかもしれないけど。どんどん取れなくなってますね。土を改善したらほんと良くなると思うし、なってほしい(笑)。