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叶谷真一郎 Listen ⑤

叶谷真一郎さんロングインタビュー / 中篇

叶谷真一郎さんロングインタビュー / 中篇

数えてみるとはじめてクラフトイベントで知り合ってから今年で10年になる叶谷真一郎さん。
神戸市北区で拠点を構え、百職もその神戸に二年前に移転してきて、いよいよ叶谷さんの展覧会を迎えます。
お付き合いが長い分、だいぶ以前にお聞きしたことを今改めてお聞きしてみたり。

インタビュー中篇では近年の作陶について葛藤や転換についてと、敬愛する人たちの言葉を読み解き、自らの仕事や生き方に目を向けフィードバックさせる叶谷さんの姿勢が独創的です。
真一郎さんの奥様で、発酵料理家の尚子さんも同席して頂いて賑やかに和やかに話が進んでいきます。
どうぞお楽しみください。


○やりたいことをやるとお客さん減っていくのかなあっていう思いもあるんですけどそれを恐れるとね、何にも変わられへんな


―最近は土感をもっと重視するようになってきたということですけど、何かきっかけがあったんですか?

尚「もともと土物の薪窯のやつとか好きやん?」

真「まあそうだね、焼締とか」

尚「そういう器がすごい好きで日常の器を作るにあたっても土の粗さとか」

真「土が感じられる」

尚「そういう器が好きやったけども…ちょっとずつやり始めた最初の頃、この人の手(作風)はよく『磁器も作ったほうがいい』とか『作り込むような綺麗に作る器のほうが良い』とか色々言われたりして。それでそうかと思ったんよね」

真「そうだね。自分でも言われて向いてるのかなと感じてたかな」

尚「ほんなら綺麗なやつとか向いてるって言われるから土が細かいやつとかやりだして。つるっとしたやつとか洋っぽいやつとかも作ってみたりしてん。そうやっとったらなんかしっくりこない。自分が好きなやつと違う。だから自分の好きなやつが良いっていうふうに思いだして。土がごろっと出るようなやつとかのほうが料理もそういうのに盛られているのが好きだから。今は自分の好きなほうに行きたい。もしかしたら今後はまた変わるかもしれないけど…それを良いと思ってくれる人に向けて作りたいからまあいいよねっていう。ゴツっとしたりしたのも入れたいっていう。アイテムによっては変えてる感じやんな」

真「そうやなあ。なんかずっと昔から買ってくれてた人を大事にしようという思いにちょっと引きずられてたんで。そうなると『ちょっと変えられへんな』と思っちゃったんですよ。お客さんてずっと来てくれる人ばかりじゃないし。そこに囚われんでもいいかなっていう。もしかしたら僕のやりたいことをやるとお客さんどんどん減っていくのかなあっていう思いもあるんですけど、それを恐れるとね、何にも変わられへんなっていう。その時に思ってることをやったほうが、もうちょっと自分に正直にいったほうが結局自分の満足…自己満足じゃない満足が得られるんじゃないのかなって。仕事に対する充実感とかに。そこ、大事なんじゃないかと思ってきて。あんまり今までの事に囚われんでもいいかなって。その時その時でもしこうやりたいって思ったらそれをやったらええかなって思って。早ければ来年の今頃にまた鎬やってないとも言えないですね(笑)ずっと悩んでいたのは、自分が作りたい、良いなあと思うものと、自分が作ってるものが違うっていうこともあって」

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―数年前からおっしゃってましたよね

尚「そういう人も多いやろけどね。性格とか向き不向きとかあるやろし。ただ、この人が『ほんまテンション上がらへん』ってなって。『もうほんましんどい』って。『自分が良いと思ってないものがすごい売れていくとか全然嬉しいとは思えないしすごい嫌や』ってなってて」

―自分の意識と、求められているものと間に解離があったってことかな

真「そう。例えば今までずっと、全部形揃えて寸法揃えて作るっていうのをやってきて。でもそういうのは崩して、揃ってなくてもいいからと思ってやろうとしてもできないんですよね。蹴轆轤に変えたらちょっとは自然にゆがんだ感じになるかなあとか。なんなら目つむって轆轤したほうが自然な感じになるんちゃうかーとかも思ったことあるんですけど。でもそこまでは自分としてはできないし変えんでいいかなって、否定しなくていいなと思ったので、それは今まで通りやろうって思って。トンボで測って作って全部揃える基本寸法は同じで。逆にそれができない人もいるし。あえてヘタウマっぽく作らんでもええかなって思って。割り切れましたね。それで、その素材感っていうのについてはもうちょっとだけ意識してやっていこうと思うんです。まあどうなるかちょっとわからないですけど。あんまりやり過ぎても使いにくかったりとかいろんな面で不都合が出てくるねえ。まあほどほどにそこらへんは」

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―やり過ぎても違うものになってしまいますよね

真「180度(変わる)ってことは無いと思いますけど、90度もちょっとまあ難しいと思うんですけど…実際は45度いくかどうか、10度20度かもしれないけど、ちょっとこう変化を出せたらって思ってますね」

―作家さん自身からするとすごい変化したなと感じていても、一般の人からすると『え?なんか変わった?』みたいに言われること良くある話ですね

真「そうそうそう。だから自分では変えたつもりでもお客さんは『え?』って思うことあると思う」

―ただ気が付く人は気が付く

真「やし。かといって自分がわざわざ発信する気も毛頭ないんで。それはちょっと違うと思うんで。自分でそれをわかっていればいいと思ってるんで」


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問いかけを大事にせなあかんなって思ってます


―変わっていこうという部分も、変化というより元々は自分の中にあったものを出して行こうっていう感じですね

尚「そうやなあ。だから悩まなくなってきたしね」

真「うん、悩まなくなってきた。やっぱこの仕事はやらされてるわけじゃないから。やっぱりちょっと楽しめないとだめだなと思いましたね、うん。仕事だからさ、楽しいことばかりじゃないんやけど自分で選んだ仕事やし別に組織の中に入ってやってるわけじゃないし嫌々やってるわけでもないから、どっかで楽しいなあと思えることやらないと思ってる。となったら自分に正直にもう少しやりたいようにとはずっと思って」

―誰のためにやるかっていったら自分のためにですね

真「そう。といっても自己満足ではないんだけど。やっぱり使う人の立場にも立って、とも思うんですけどね。実際はなかなかそんな形に表現できるかどうかわからないですけどそこをチャレンジするってことは大事かなって思って。また脱線するかもしれないですけどイチローが言ってた言葉で『結果も大事だけどプロセスも大事』っていう良く言う有名なやつがあるんですけど。それは本当に思いますね。あの、うーん、常に自分には頭の中に置くようにって言ってて。それがなかなかできないんですけどね。結果を出すってことも大事だけど。彼が言うには野球人っていうよりも人として大切なこと、プロセスは。それでまた山本周五郎の言葉なんですけど…」

尚「えー。まだ言っとんの?」

真「あ、すいません…。えーっと、人の価値って何を成したのかよりも何を成そうとしたのかっていうのがあるんですけど、ちょっとイチローの言葉と似てるなって。それとノムさん(元プロ野球選手・監督などの野村克也氏)、この間亡くなったあの人のことも好きで、インタビュー談話集を読んですごいなんか感銘を受けんですけどね。『問いかけを大事にする』っていう…僕の仕事の場合これは本当に必要なのか、それでいいのか、という問いかけを大事にせなあかんなって思ってます。この部分必要なのかとか、それこそ鎬は必要なのかとか(笑)、絶対必要なのか、無くてもいいのか、あったほうがいいのか、なきゃだめなのか、そういう問いかけとかも、あと自分の仕事を全体的に見て今やってることは本当にそれでいいのかとか、そういったことは大事にせなあかんなと思いますね。なんかね、野村さんが書いてた本読んだ時にすっごい参考になるなってことがたくさん書いてあったんでノムさん。王さん長嶋さんよりノムさん派なんですけど」

―ノムさんは知将ですよね、考えて分析する人

真「うん。だから共感できる部分が色々。あの人の場合はスターに対するやっかみとかもあったんでしょうけど」

―それを隠そうともしてなかった(笑)

真「そうですね、正直に言うてましたね(笑)。ただ、言ってることはすごいまともで、あれで何で阪神タイガースは結果出なかったんやろって不思議でしょうがないんですよ」

―いい線までいった時もあったのにね

真「まあ結局だめでしたけどねえ。でもあんな人の元でプレーできたらいいな。(ノムさんは)表現の仕方とかで人から苦手にされる場合もあるんやろうなって思ったりするんですけど」

―イチローさんが仰っていた結果とプロセスの話でいうと、今度行う展覧会についてもし結果がもし良くなかったとしても…

真「そこにどう頑張ったのか、中身が次にきっと繋がると思います。もちろん結果は大事ですけど。個展やったらちゃんと数を揃えられるかとかそういうの大事ですけど。何をどう取り組んだのかとかは大事にしなければいけないって、これは肝に銘じなきゃとは思っています。ちょっと忘れて追われちゃうと意識が薄くなっちゃうこともあるんでそこは常に意識しないといけないなとは思ってますけど」

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