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とりもと硝子店 標 ④

とりもと硝子店|鳥本雄介さん、由弥さんロングインタビュー / 後篇

とりもと硝子店|鳥本雄介さん、由弥さんロングインタビュー / 後篇

過去には二人展やグループ展などでもう何度も百職の展示には出て頂いているとりもと硝子店さん。
実は今回、百職での個展は初となります。
鳥本雄介さん、由弥さんのご夫婦からなるとりもと硝子店さんは、それぞれが個々の作家として活動していた頃の作品が今も制作ラインナップの中には存在し、二人のとりもと硝子店となってからの作品も生み出していることから非常に多彩なアイテムを制作されています。
どうしても展覧会となると昨今は「展示即売会」といった傾向になりがちなのを、今回はあくまでも「展覧会」というものを念頭に置いた会になるよう、作品制作をまっとうしたいという気持ちも工房訪問の際に雄介さんは口にしていらっしゃいました。
中でも事前のQ&Aでは今回の展で見てほしい作品としてあげていた関守石。
私自身もとても気になる作品で、いったい何を感じ、考えながら制作をされているのか。
久々の作家さんの工房訪問では短い滞在時間の中でも顔を合わせてお話できる機会だったので、今回は関守石という作品を中心にお話をお伺いしてきました。
インタビュー後篇も、工房でのお仕事風景の写真とともにお楽しみください。


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○今までの生活ってものが作るものには色濃く凝縮されてるんやろうなあ

雄介「あれ(マーブルの関守石)はでもね、あの生地が出来たとして、あの生地を生かせんのはこういう形かなって基準で行き着いたという」

由弥「耐熱だからという理由じゃなくて。出来てきた大理石みたいなあのマーブルの感じがね。薄いシェードにしたりとかもしたんやけど、結局塊でああいう風にしたほうが一番落ち着いて。綺麗で縞瑪瑙みたいって」

雄介「そう。シェードにもしたくて。シェードにしたんですけど。まだ今のところは出さないかな」

由弥「関守石が耐熱である必要は全然ないけど、あのガラスはあの時にしか作れないものやから。何かの形にする時に落ち着くものがあるならそこに着地させたらいいかなと。それが関守石で」

――撮ろうとすると結果的に対象をすごく感じ取ろうとしたりして観察するんですね。関守石を撮影している時はガラスの塊の中にうねりを強く感じて。巻き取っているイメージとか窯の中でガラスが動いているイメージとかが湧いてきて。イメージを刺激する面白い作品だと感じました。

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(マーブルの関守石が登場してくる)

――色合いが食べ物みたいでおいしそうですよね。

由弥「そう、おいしそうなの」

雄介「でもガラスとしてはこれね、コップにした場合とかはあんまり飲み物はおいしそうによく見えないなと」

由弥「厚みがあったほうが面白いの。なんかね、ライトみたいに関守石をしてもいいかなって。夜に光ってるってどうかなって。中が空洞のも作ってもらったこともあって。でもまだそれ物になってなくて。どうなんやろう?とか。ライトにするにも光がごちゃごちゃするのいややしなあってまだ全然出来てないんやけど。そしたら餅匠しづくさん(今回鳥本さんのところに手土産にしたのが大阪の菓子舗「餅匠しづく」さんのお菓子)がInstagramに載せてはって。お店にあるみたいなんですよね?」

友人「ありますね。(※今回の工房取材ではメイン撮影を担当してくれた友人も同行してインタビューにも同席してくれていた)」

由弥「Instagramでしか見たことないんやけど、あれどうやって出来てんねんやろって。あれガラスなんですか?」

友人「あれたぶんガラスです。遠目からしか見えないんですけど…」

由弥「そっか。すごい気になってるんです。あれ、どれくらいの大きさなんですか?」

友人「いくつか種類があるんですよ」

由弥「あっ、そうなんや!」

友人「お店の中に展示スペースみたいなのがあって、時々そういう作家さんか何かの展示をしたりとか、そのスペースの入口のところにこれ(関守石)よりもう一回りちょっと大きいくらいのサイズのやつが一つと、もっと手に乗るくらいのちっちゃいのが入口のところのショップカードが置いてある辺りにあったりとか。いくつか種類ありますね」

由弥「そうなんや…見たい!」

雄介「へえ〜」

由弥「いつか見てみたいなあと思ってて。関守石でもいつか明かりは作ってみたくて。これ(マーブルの関守石)もね、光が通ったところにすごくいい影が出てね」

雄介「アンバーの色がきれいやな」

由弥「このマーブルのは内包してくる光がここから見ると赤く見えるんやけど、厚みがあるから光が凝縮されてくんのかなあって。写真撮ってたらどんどん表情が変わる面白さがあって」

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――これもそうですけど関守石は蔓の結び方はいろいろ違って面白いですよね。結び方は変えている?

由弥「変えてる。基本的な結び方ってあるようでないようで実はあるみたいで。下にこういう締めてるところがあってぐっと上がってきて井桁に結んでって。これはオーソドックスな結び方だと思うけど、もっとシンプルなものもあるし。庭師の人が竹垣とかを結んで作っていく、その延長で出来てたっぽくて。調べたりするとあって。あまり決め過ぎずに好きなように結んでいけたらいいかなって。その時の素材次第。最近、川遊びをしている時に、ここの川沿いにすっごくたくさんいろんな種類の石があって。今まで石って拾ってきたらあかんって意識があって。でも拾えるようになって。それにちっちゃくて結んでなんか作品に出来るかなって。それこそ手のひらに乗るこんくらいのんとか」

――住んでる場所の自然が作品の中に生かされているって、作っている人の内面的には環境から受けるものが反映されていることを感じるので興味深いですね。

雄介「そうですね、意識しているというよりも影響を受けてる感じですね」

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――天候や自然の風物から作品の名前をつけているところもお二人の味わいの一つだなって。

由弥「なんかね私はすごく暮らしの仕方が変わったから、こっちに来て。子供と一緒にいるっていう時間が圧倒的に多くなったから。今は作って即品物や作品になるっていうやり方で。ガラスはそこに行ってガラスを溶かして成形して一晩経ったら出来て。それでも次の日に出てくるから短いんやけど時間は必要。でも子供たちがそばで遊んでても、この蔓とかだったら相手しながら編みながら即品物になるっていう。即物的な作り方も出てきて。作れる時間がものすごい短い。例えば20分とかの間にこの蔓の準備とかはちょこちょこちょこちょこしておいて。今出来るぎゅっと作った作品ってそういうやり方に今変わって。プランツドローイングも5分とかで描いて写真撮ったのが作品になるわけで、そういうののちっちゃい積み重ねになっていったのがこういうことに繋がってるのかなって。住んでる環境がもっと都会とかもっと海寄りとか、海だったらもっと違う天然素材を持ってきたんかなって。海なら貝とか。やっぱり影響受けますよね。近くが山だったから蔓になってるし、そういうのが今なんだろうなと。毎日が夢中で、自分だけじゃない軸で、子供たちの軸中心で過ごす中で僅かな時間の中に作るタイミングを入れて。それは彼も一緒やと思うやけど。

雄介 はい。毎日が一瞬ですね。

由弥 自分では気がつかないですけど今までの生活ってものが作るものには色濃く凝縮されてるんやろうなあ。


(了)


とりもと硝子店(鳥本雄介、由弥) 略歴
鳥本雄介 1975年生まれ。
鳥本(旧姓 酒井)由弥 1978年生まれ。
晴耕社ガラス工房に勤務、荒川尚也に師事。 
それぞれ自身の作ったものを世の中に発表しながら、ガラスの技術だけでなく様々なことを学ぶ。
退社後、2人で窯を築く。
2015年独立、開窯。「とりもと硝子店」として活動を始める。

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