読み物

With a warm feelings ⑦

皆で燃やす火とあたたかさ、たやすことなく とりもと硝子店 鳥本雄介さん、由弥さん / 後篇

皆で燃やす火とあたたかさ、たやすことなく とりもと硝子店 鳥本雄介さん、由弥さん / 後篇

“チームでやると、その火がね、使える火が多くなるんです”


とりもと硝子店さんは、ガラス作家の荒川尚也さんの工房「晴耕社ガラス工房」で長くスタッフとして働いていた鳥本雄介さん・由弥さんご夫婦が営んでいます。夫婦であり、良き制作パートナーでもあるお二人。
百職に初めて届けられたとてもプレーンな姿かたちのコップ「フリーカップ」が個人的にとても気になって、これについてお聞きしたところ思っていた以上の思いがここには込められていました。
後篇はフリーカップを中心としたインタビューです。

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○フリーカップのこと

練習のために作り始めたコップで、大事にしてるコップというかね。あれでいろんなことを今でも確認してるというか。ガラスの生地の柔らかさとかもきっちりやっとかないとすぐ野暮ったくなるんで。
なんかかっこいいのができる時はね、何も考えなくてもかっこいいのができて。そのためにいろんな準備をしとかないとかっこよくならない。きっちり押さえるとこ押さえないと。そういうのがね中々。
いけると思ってたけど、あれ?今日ダメだねとか。それはなんでだろうというのを検証して。むしろどうにでもなるもんってあるんですよ。割とどんな感じでもなんとかなっちゃうっていう。うちの場合、少ないんですけどね。ごまかそうとしてないんでね。ごまかしてやっちゃったらうまくなんないと思ってるので。お客さんに納得してもらえるようになりたいけどまだまだね、押さえないといけないとこがたくさんあるけど、せめてね今ね、今作っててこれいいね、かっこよくできたねと思うもんで安定させたい。まだね、なんかそんなこともいかないですよね。早くそこくらいになりたいんだけど。そこってたぶんずっと動いていくとこやから。いつまでもそんな風に思っちゃうのかなと。階段のぼってって、けっこう上に来たなって思っても、その時思ってた上のほうっていうのは実は下のほうだったりするんだよって。たぶん皆さんそんな感じなんだろうと思いますけどね。

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僕がやりたかった当時のコップっていうのが、同じように作ってるつもりだけどどうしてもブレるっていうかね。同じものをしようと思ってもできないって、どうやればいいんだろうなと思って。
出来るだけ均一に同じものを作ろうと思うものがフリーカップであったのに対して、絶対に同じようにやってるつもりでももうちょっと揺らぎというか誤差というかブレというか…なんて言ったらいいんやろ、まあそれでやり始めたのがアブク(アブクシリーズ)。あとはね、それまでずっとお酒を飲むコップばかりずっと作っていたのでソフトドリンク飲むコップがほしいなと作り始めたのがアブクの細。

フリーカップ作る時、いろいろテーマがあって、あんまり薄くピンピンにしようと思ったら鉄の型に当たっているとこと当たってないとこの差がすごく出ちゃうなとかね。だから気分にもよるんですけど、底にちょっと肉をためるのか、全体的に同じ肉厚ぐらいにするのかっていうのもね。やろうと思うとテーマがいろいろあって。

底のほうがちょっと肉を厚めにした場合と、底もだいたい同じくらいにした場合とでとっても印象が変わるので。どっちがいいかというわけではなくて、どっちも良かったりするんです。まあ物が違うからなあって。名前変えてもいいぐらい物が違うんです。でもどっちもいいってことにしとこうかなって。

あと、何種類かまとまったご注文をお店さんからもらった時に、たとえば丸い感じのものばっかりの時なんかは底がちょっとビシッとしたもんがあったほうがなんかいいよねって、勝手にこっちでバランスとったり。そんなこと考えて作れる時ばっかりじゃないですけど、ゆとりがある時はね、そういうこともします。お店の人が開けた時に、わ!とか、やった!とか思ってくれたら嬉しいじゃないですか。

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由弥さんのつくるお料理はいつも健やかで、いつもおいしい。


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吹く男は、出し巻き卵をつくるのもとてもお上手。



とりもと硝子店
(鳥本雄介、由弥) 略歴

鳥本雄介 1975年生まれ。
鳥本(旧姓 酒井)由弥 1978年生まれ。
晴耕社ガラス工房に勤務、荒川尚也に師事。
それぞれ自身の作ったものを世の中に発表しながら、ガラスの技術だけでなく様々なことを学ぶ。
退社後、2人で窯を築く。
2015年独立、開窯。「とりもと硝子店」として活動を始める。



*****
『フリーカップ

練習のために作り始めたコップは、フリーカップという名がつき、とりもと硝子店のスタンダード商品となりました。
プレーンなグラスから個性が滲み出てくるためには、たくさん、たくさん作りこむことだと思います。
18年かけて、まだ千個ほどしか作れていませんが、まだ見ぬ一万個先に作るフリーカップは、今よりも多くのことを語れるはずなので、これからもひたすら作り続けます。』

雑誌nice thingsさんにフリーカップが掲載された際に、雄介さん自らが寄せた文章だそうです。


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フリーカップの由来や所以、とりもと硝子店さんが大切にしているガラスだということは、私は今回初めて知りましたが、ただその物のみを見てもどこかに何か惹かれるものがありました。
すとんとした真っ直ぐな円筒形で、何かすごく特徴的なデザインを与えられたりされているわけでもない。
ただ、そこに在る。
とりもと硝子店さんの調合したガラスが融かされ、そして一個のものとして、かたちを与えられ、そこに在る。
とても透明で、置いておいたらその場にそのまま溶けていってしまいそうなほど柔らかで豊かな質感のガラスは、ずっと前からそこにあったような感覚。
どこがとか何がとか、説明をするのが難しいけれど。
気がついたら手を伸ばして触れている、思わず使っていたと気がつくかもしれません。

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往々にして、とりもと硝子店さんが作っているほかの作品たちもそういう佇まいのものなのです。

とてもプレーンで飾り気ない素の表情だけれど、その「素」のガラスを真面目に楽しみながら作っているからだろうと思います。

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ごく当たり前の日々の暮らしの中にも、ちいさな楽しみや喜びを見つけて過ごしている方には、きっとこのとりもと硝子店さんのガラスたちの心地良さに心惹かれてしまうのではないでしょうか。

ガラスそのものだけでも慎ましやかに美しく、そして飲み物を入れたり料理をよそったり暮らしの中に置いてみたりすることで、ますますその魅力がきらめき始めること。
ぜひたくさんの人に感じてもらいたいです。

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