読み物
森谷和輝 整音 ②
森谷和輝さんロングインタビュー / 前篇
“ 展示会でだけのものを作ったりとかはこっちも楽しいし、お客様も特別感を楽しんでもらえるかな ”
昨年は変則的に十月に行いましたが今年は例年通りに戻って、森谷和輝さんの個展は恒例の七月に行います。
森谷さんとご一緒するのも十一年目となりました。
昨今では二年に一度くらいのペースでの展覧会が多いように感じますが、森谷さんとは毎年ベースでという刻みになっています。
独特のテクスチャや色合いを持つキルンワークのガラス作品、薄手の耐熱ガラスで柔らかないびつさに愛嬌を感じさせるバーナー作品という、まったく異なる制作方法を言わば「二刀流」で行っており、その両方において、それぞれの目標ややりたいことを見出しながら、一年に一度の歩みを見せて頂いています。
あっという間の一年ながらも、過ごす中ではやってみたいことや課題というのは尽きないようです。
2021年の夏の足跡はいったいどんなもので、今いったい何を考えながら制作をされているのか。
今回は電話インタビューにてお話を聞きました。
森谷さんの謙虚なお人柄とさりげない中にも作ることへのますますの意欲など、森谷さん自身が撮影してくださった工房のお写真とともにお楽しみください。
バーナー作業の視点、
○ 『お父さんが余裕を持てますように』って書いてて(笑)
――ようやく展覧会のフライヤーを送らせてもらいました、遅くなりました。
森谷「今回あのー、タイトル(整音)をつけてもらって。あれすごいいいですよね。僕も最初見た時ちょっと感動して」
――感動?ありがとうございます!
「僕この言葉、ほんと知らなくって。まだ意味わかってないんですよね。だから自分なりの感じだと、展示会の…展示会やってる時に聴こえてくる音とか、僕が思ったのは、ですけど。そういう音とかが記憶に残るようなものをしたいって思っていて」
――うんうん。
「場の。ほんと雰囲気」
――気配だったり?
「そうそう。そこにいて作られているみたいな。そういうのを自分も体験したい。お客さんもね、そういう場にいて記憶に残るようなものができたらいいなと思うので。なんか僕がタイトルから受けた印象はそういう感じで」
――ありがとうございます、嬉しい。
「そういうのにしたいなと思ったんすよね。全然言葉に出来てないけど」
――いえいえ、わかるような気が。展示会って、その時、その時間、その季節とか消えていくんですよね、結局。場は作られていくんですけど消えていくもので。だからこそその消えちゃう時間とか場とか音とかを大事にして、記憶に残していける展示、時間にしたいですよね。私は、目の前の時間や一日、日常を過ごすことを流すんじゃなくて、今一度大切にしたい、焦らずに過ごそうよ、と自分に言い聞かせるような部分もありました、このタイトルを決めたときは。
「うーんなるほど。焦らずか。そういえば今年も七夕あったでしょ。短冊をねちょっと前に書いたんですけど、なかなかお願いが思いつかなくて。思いつかなくないですか、お願いって?」
――そうですね、改めて出してってなると思いつかないかな、当たり前のことしか。
「ね。健康第一とか」
――ね、そういうの。
「娘がなんか僕のお願い書いてくれて。『お父さんが余裕を持てますように』って書いてて(笑)」
――すごい(笑)一番のお願いかもしれない。
「素晴らしいですよね。で『展示会が成功しますように』ってのも書いてくれて」
――ふえ〜良く見えてる(笑)
「具体的に僕の願いを二つ書いてくれて」
――それさえあれば、ですね。
「そ。本当にそれだよ、と思って。それがうまく行けばすべてが丸く収まるよと思って。家族も平和だよきっと。もう本当に余裕を持とう余裕を持とうと、ずっと、焦らない焦らないと自分に言ってて」
――そうですね、まだ私たちの世代はフルで働いているしね。余裕をって心がけることは大切ですよね。
「そう。そう思って『よし散歩行こ(愛犬の)』って出かけるわけですよ」
○ 面白いから出そ。これ好きだから
――今回気に入っている作品とかありますか?
「花器。予定ではいろんなの思っているんですけど。結局積んで戻ってみたいなのを繰り返していて。やってはいますよ。始まってはいます(笑)でも実になるのはちょっとしかないかも」
――大丈夫、そういうものですよ。展覧会はここから出発点みたいなものだから。
「ああそう、うん、なんかね百職の展示っていつもそんな感じで。いつも何かしらきっかけをもらって、そこから一つのものに詰めていけるみたい場なんですよね」
――ああ、嬉しいです。
「展示本番でうまく出せるといいんですけど」
――今回、撮影用に大鉢を出してくれた理由は?
「あ、大鉢?理由とかってないんですけど。気に入ってるから。家でめちゃめちゃ使うし。すごい気に入ってる」
大鉢
――家でどう使ってますか?
「家では…なんだろうな?お刺身が多いかな。お刺身盛ったり。あれって大盛りをばっと行きたいじゃないですか?そういう時に出ますね。あと本当そうめんはやったりするし。サラダ的なのも多いですね。みんなで分けて」
――大鉢はもう4、5年くらい作ってますよね。
「ああ、もうそんな経ちました?あー、経ってますね。僕の中ではまだ新しいと思ってて。新しめの中でも、あれはだんだん自分の好きな感じになってるなあって。結構たわんじゃったりとか。そういう感じがいいなぁとは思っていて。まああんまりやり過ぎていると、人を選んじゃうけど。どうしよう、一個ね、すごいたわんじゃったやつがあって、出そうか迷ってんですよね」
――出してみては?
「みてもいいですか?ちょっとこれは注文仕事で納品したら全然違うよって言われるやつで」
――そういうのできちゃいますよね。そりゃあ。
「なんか意外とこういう変なやつのほうが、愛用できそう。ニュアンスがあって」
――気に入ってくれた方は他にないからってなりそうですね、うん。
「うん出そ。面白いから出そ。これ好きだから!」
――そばにあったんだ。
「ああそう、あります、今なでなでして。ね、こういうのって結構使う人によりますよね、大きさがね」
――大きい器は使う人、使わない人、使えない人がはっきり分かれますね。暮らしのスタイルや家族構成も関わってくるし。
「そう。人によってね、生きるのもあるし。なんか結局器だけがあってもしゃあないですよね。使ってくれる人がいてだなと思います。僕のほうがお客さんにどう使ってるのか聞きたいです。アイディアないので」
――それぞれ使う方のセンスによって同じ器でも見え方は全然変わってきますよね、それが面白い。
「そうやっていろいろ使ってもらえるものを作りたいですね。そうするとだんだん自分がなくなっていっちゃう。なくしたほうがいいというか。あんまり『こう使ってほしい』っていうのはなくて。僕はこうやって使ったりもするけど、『こう使ってほしい』というのはないから。自由にしてほしいし、いい使い方あったら僕にも教えてって思ってます」
小さい方のバーナーで、森谷さんが
○ だんだん厳しくなってきちゃって、眼が
(ガサガサ音がして、ガラスの当たる音がする)
「あっ、今ちょっとクリアのLLのいい感じのが出来てる。すいません、このタイミングで窯開けちゃった」
――あはは、よかったあ、いいのが出来てて。
「LLいいっすよ。大皿ばっかり」
――大きいのがうまくできると嬉しいですよね。
「そう、大きいのは好きだし。あ、でも銀彩のSは出ますよ。10枚くらい」
――わあ、たくさんある。
「改めてね銀彩皿はという感じ。銀彩が初代ですもんね、皿の中では」
――そうですね、初めて作ったお皿は銀彩でしたもんね。クリアじゃなくて。
「今回のは使いやすいんじゃないかな。形が前よりよくなった。焼き直したりを今回して。その分良くなったかな。一回できれいな形出ないんですよね。最初のやり方ってあんまり型に沿わせないで自重で落としたりってやってたので、それをもう一回焼き直してやってるんですけど」
――単純に焼き直すだけですか?ガラスを足すとかではなく?
「うん、じゃなくて単純に曲がっちゃってるのを修正する感じでやってます」
――型を変えるとかもせず?
「同じ型を使います。落ち方が曲がって落ちちゃったやつを正しく置いて、直すような感じでやってます。二度手間なんですけどね。 だんだん厳しくなってきちゃって、眼が。いいな、出せるなと思う基準がどんどん高くなってきちゃって。それで時間使ってしまってる」
――質を良くするための試行錯誤の段階なのでは?二度手間かもしれませんが大切なことですよ絶対。焼き直しというのは、そもそも均一に熱が行き渡るわけじゃないから、二度やることによって偏っていた部分にまた熱を加えて微調整するってイメージ?
「うんうん、そう。調整するとより良いなってものが出来て。こういうことですよね、どんどん時間がなくなるという。一発で決めてくる人もいるとは思うんですけど。もうほんと人のこと考えちゃダメですよ、すごい人いっぱいいるから」
――森谷さんもいいもの作っています。
「ああ、自分ではね、なかなかそう思えないんです。でもだからありがたいです、そんなふうに思ってもらえて」
小さいバーナーに酸素を送るジェネレーター。もう10年位頑張ってくれているとのこと。相棒!