読み物

森谷和輝 resonance ④

森谷和輝さんに会いに行く / 後篇

森谷和輝さんに会いに行く / 後篇


森谷和輝さんの個展は今回で9回目。
百職を2009年にオープンさせた際、お取扱いをお願いした第二号の作り手が森谷和輝さん(第一号は先月展覧会をしてくださった陶芸の高木剛さん)。
2010年にはじめて個展開催して頂いて以降、毎年展覧会をお願いし、今年も無事迎えることができました。
グループ展も含めるとこれまで15もの展覧会に出展してくださっています。
そんなに続けていたらやることがなくなってしまいそうにも思えますが、一つの展覧会が終わると森谷さんとともにやってみたい次の目標が自然と浮かんできます。
森谷さんがいつまでも尽きないガラスの面白さを見つめ続けるように、私もまた森谷さんの作るガラスの中に美しさと他の誰とも違う個性を多分見ているのだと感じます。
まだ模索している構想中の作品に触れるところから始まり、昨年にも少し披露してくださった新たな素材「透きガラス」についてなど、森谷さんは何を考え、どのように変化しつつあるのか。
ひとつの〈過渡期〉を迎えているとも言える今について聞かせて頂きました。
展覧会に興味を持ってくださっている方にもぜひ読んで頂いた上でお運び頂けると嬉しいです。

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使い易さは愛着にも繋がる。だけど…自分の中ではそれが一番じゃない


渡邊:材料の話に戻ると、材料作りにある程度しっかり取り組んでいる間は、作品制作にまで時間がとれないこともあると思うんですが、焦りを感じたり作品が出来てこそだなって感じる時はありますか。

森谷:自分は現象みたいなものとか素材自体に興味がすごいあるからやりたかったことはできてるんです。ただ実際モノになってないから、使う人には届いていないってことになる。だから材料作りの期間は自己満足みたいな感じなのかもしれない。

渡邊:まだかたちになってないけどもっともっと作りたいものがあるんでしょうか。今は頭の中にだけあるけど、作ることができていないものが。

森谷:ああ、無い。

渡邊:無いですか(笑)

森谷:理想しかない(笑) 僕はガラスが楽しいし、それを喜んでもらいたい。喜んでもらうって僕の中では、ずっと大事にしたくなるとかそばに置いておきたいみたいな。それって別に使い易いからとかじゃなくて、雰囲気が好きとかいろいろあるじゃないですか。使い易さだけを求めてはいないっていうのは自分でも…うん、わかってる。


渡邊:そのものが持つ存在感や気配。触れた時の感じや五感を刺激するような部分ですかね。

森谷:やっぱそこに自分が面白いなって思っているガラスの表情みたいなものが出てたりとか。実際それが愛着が湧いてくれるかとかは手にしてくれた方次第だから、なんか壊れにくいとか…えっと、何だろう、重すぎないとか?そういう使い易さは愛着にも繋がる。だけど…自分の中ではそれが一番じゃないんです。

渡邊:そうですね、用途が一番だと考えて作ってるガラスではないと私も感じています。森谷さんのお品が好きで、よく見に来てくださる方や手に取ってくださる方のお話をだいたいまとめると『森谷さんが作るガラスの雰囲気が好き』という方が圧倒的に多いんですよね。ガラスを型詰めして溶かしたりガラスの円板溶かして型に添わせるといった間接的な方法で成形するという、ある意味での不自由さや制約の中、その方法だから生まれるガラスの魅力や良さみたいなものがあると思うんですよね。森谷さんの作品に対するお客様の反応から受け取れるのは、皆さん必ずしも利便性や実用性を求めてということではなく、きれい、面白いという感覚的な感想や反応が多いです。それはもしかするとお客様方の中でも「現象が面白い」という森谷さんの感覚も共有してくれてるのかもしれないとも感じます。森谷さんはガラスの現象の面白さを魅力に変えて伝えられる人だから、お客様にもそれが伝わって楽しみにしてくださっているんだと思います。

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森谷:じゃあいいんだ。

渡邊:いいです。(カメラマンに)森谷作品のどこが魅力ですか?

カメラマン:手触り。

森谷:そう?

カメラマン:手に持った時の感覚ですかね。重さとかもあると思うし表面の質感とかもあると思うし。手に持った時の馴染み具合というか、目で見る印象よりも直接触れた時の印象の良さが僕はありますかね。

森谷:そうなんだ。それはなんでなんすかね?(笑)

カメラマン:僕も個人でいろいろ買わせていただきましたけど、フォールコップ?あれはフォールグラスか、あれは。修理していただいたフォールグラスもまず目で見て面白いなって思ったのもありますけど、決め手になったのはやっぱり実際に手で持った時の独特な低重心の重さだったりとか、くびれている部分がよく手に馴染んだとか。あとは手に触れた時のちょっとざらっとした部分があったりつるっとした部分があったりとかっていう面白さが良いなと思って買ったんですけど。やっぱり触れた時の色んな情報が自分には心地が良かったから選んだ感じですかね。

森谷:…そうだと思います。いやほんとにね、そうだと思うんですよ。そういうのってやっぱ感じますよね?見てもわかんないぐらいのちょっとした何かがありますよね。

カメラマン:ありますあります。フォールグラスに関してはガラスが落ちてくるのをそのまま生かした形っていうのは後から聞いて。ああ、そういう理由でこういう形なんだっていうのはもちろんそれも面白いなとは思いましたけど。やっぱりそうですね、一番にくるのは直接触れた時の色々伝わってくるものですかね。

森谷:そんな気がする。確かに写真だとそこまではわからないですよね。

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カメラマン:特に森谷さん(の作品)は難しいと思います。色々撮らせていただいてますけど難しいなとは思いますね。単純に綺麗だなっていうのはあるんですけど、そこ以上のものが自分が買った時にも感じたものはあるんで。写真は、ちょっときっかけになってくれさえしたらいいかなって感じです。全部を伝えるのは難しい、(手触りは)やっぱり直接触れて皮膚に伝わるものなので難しい。(写真は)きっかけとして、実際に来ていただいて触れてもらえたら。触れてもらえさえすれば森谷さんのものなので(笑)

渡邊:面白いですね、はじめに視覚的なきっかけがあって、そこから手を伸ばして持ってみると、そこで新しい印象が加わって変わるというのが。

森谷:変わりますよね。

渡邊:フォールグラスの形の面白さは視覚情報として入ってくるんだけれども、独特の作り方からの低重心で、持つと重みがある。溶けた時のつるつる感や型に触れている面のざらざら感もあるし。とにかくたくさん感覚を刺激するものがあるけど見ているだけだとわかりにくいかも。そういうのって実物に触ることではじめて実感してわあってなります。

カメラマン:意外性が多いんでしょうね。目で見た印象と実際に手に取った時の意外性が多いからそれが面白いって思うんじゃないですかね。

渡邊:そういう時って、脳の中に刺激が送り込まれるらしいですよ。

カメラマン:まさにそういう感じだと思います。

森谷:うわあ、嬉し。

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渡邊・カメラマン:(笑)


森谷:ちょっと思い出してていいなって思ってた印象があるのが、僕が大学を卒業してからたまたま遊びに行ったんだったかな、その時に見せてくれたやつで。大学の課題で、キューブなんですけど、5cm角くらいの。キューブを磨くんですけど道具もそんなに無いから、手磨きでこう磨いていくっていう課題を出してみたらすごい良いのが出来たって言って先生が見せてくれて。角が丸くなっちゃうんですよね、キューブなんだけど手磨きだから。皆の磨き具合でちょっと角が取れた四角がいっぱい出来てて。めっちゃかわいかったんですよね。あれ、いいなっていうのを思い出してました。あの感じがいいなって。なんかすごい良いものに見えたんですよね。ピシってなった(角の整った)四角とは全然違ったんですよね。そういうのがいいなって思いました。それはすごいよく覚えてるんですよね。あれ何で良かったんだろう?例えば古い時代のものは、ものを作った当時は道具が無いじゃないですか。道具が無い、便利なものが無い時代につくられたものって甘さもあるしムラもあるし…でもなんか良いですよね。手で作ってるものはそういう甘さやムラが出るんだと思うんですよね。それがやっぱ既製品というか工場で作ったコップのつるつるっとしたやつとは違う手触りで感じる部分なのかなって。精度の問題なのか温もりの問題なのかはわからないけど。そういうものをつくりたいですね。

(了)


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森谷 和輝(もりや かずき) 略歴
1983 東京都西多摩郡瑞穂町生まれ
2006 明星大学日本文化学部造形芸術学科ガラスコース 卒業
2006 (株)九つ井ガラス工房 勤務
2009 晴耕社ガラス工房 研修生
2011 福井県敦賀市にて制作を始める

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