読み物
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ⑥
秋田県五城目町の三温窯さんを訪ねて。
④から引き続き、三温窯の二代目 佐藤幸穂さんにお話を聞かせて頂きました。
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佐藤:素材はなるべく周辺のものを使っています。土は購入した粘土のほか、
採った粘土は干して水簸(※すいひ/掘った原土を水に入れ混ぜ、
水簸した後の土は別途購入した土と調合してから、
釉薬には、周辺で採れる植物(稲藁・欅の木・雑木・松・杉)
藁はこんな感じに燃やすんです。灰というより炭みたいな感じ。
軽トラック満杯に藁をもらって、それを燃やして加工してます。
こちらは藁灰を使った釉薬のテストピース。その時々で変わる灰の濃度や採れる土との色感やテクスチャなどをテストする。
ふだんの定期的な窯焚きはガス窯を使っています。
小さいほうは灯油窯で、こっちは素焼きしかできないんですけど、足りないものをこれで素焼きして作り足したり。
この窯場の建物も移築してきたもので、梅雨の時は上のほうにロープ張って洗濯物干したりすることもあります(笑)。
ガス窯は父が修業先で使っていたものをもらってきたそうで。向こうでは予備の窯だったそうで。すごい古いんです。父が改造して煙突を外に出すよう作り替えたと。焼きに癖があるので変えたいなあとも思うんですけど。あとは容量が小さいので数が欲しいご注文などに応えにくかったりもして。でもガス窯大きくしたら、いよいよ登り窯を焚かなくなっちゃうかもしれないなとかいろいろ考えることも多いですね。
登り窯で窯を焚くのは今はだいたい一年に一度です。
この登り窯は二代目の窯になります。基礎部分は父が作っていました。立ち上げるのは私も手伝って。大口(登り窯は傾斜に沿って上に向かい幾つかの焼成室が続く構造。大口は登り窯の一番下(手前)の部屋で薪を投げ入れて温度を上げる燃焼口の役割をする箇所)のところから、ずーっと上まで積みました。
窯焚きにかかる期間は丸二日くらいです。三日かかる時もありますけど、だいたい二日くらい。窯の規模を考えるともう少し短くできるんじゃないかなと。焚き方を工夫していきたいです。
大口に物を入れることもあります。灰がかかったようなものを狙いたい時や、父が焼締めの酒器をやりたいというのでそういうものを入れたりだとか。でも最近はそういうものは置いていないのでもう少し窯焚き期間を短くできるんじゃないかなと。
あと湿気抜くのにどれくらいかかるかですね。梅雨時期とか大雨降った後だと時間がかかってしまいます。今年は夏に焚いて「湿気を一生懸命抜かないといけないね」って窯詰めする前に一回空焚きして、それから窯詰めして焚きました。
冬場の一月とか二月に焚いたこともありますけど詰めるのが大変で。粘土が凍っちゃうから。道具土(※どうぐつち/窯詰め作業で、作品の下に敷くなどして釉薬のくっつき防止や作品同士のくっつき防止、棚板や柱のすき間固定に使う砂気の多い粘土のこと)をつけて置いても、それが凍っちゃう。そうするとばさばさになっちゃって。焼いていて崩れたりすると大変ですから。焼き板にも全部道具土を使うのでそれがサクサクっともろけちゃうと(窯の)中で崩れる原因になりかねないので。冬の時はずっと石油ストーブ焚いたまま窯詰めを進めました。大変だったので結局「冬はちょっと無理だね」という話になりました。
この場所で登り窯を焚くには、凍らない時期、暑くない時期が一番いいですね。
器を作るうえで使いやすさを一番に考えますが、こんな線はどうかと極端な形も考えたりします。
釉薬や土のことも考えますが、作り始めはモノトーンで形(シルエット)
自然の線や形がきれいだと思いますが作品の形として表現しようとは思っているようです。
制作はリメイクの繰り返しです。同じ器でも前回の反省点を踏まえて改良しつつも少しやりたい工夫
住んでいるところの四季がはっきりしており自然に触れ合うことが
蝉が鳴き始めた日や鳴き終えた日など。
ちなみに房周辺はニイニイゼミが多くいつも7月の初めに鳴き始めます。終わりは10月中旬のツクツクボウシです。
瞬間に感じることもあれば、時間が経ってから「あの日から変わった」と思い起こすこともしばしばあります。
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作品の根幹となる粘土や釉薬材料のこと、一年に一度焚かれる登り窯のこと。開窯当時から使われているガス窯のことや、窯焚きに使う日々の薪割りに周辺の草刈り。譲ってもらった大きな樹木を日にちをかけて切り分けていったり。
実際の現場に足を踏みいれさせてもらい、流れる空気を体で感じることで三温窯さんが作り出すものの中に詰まった仕事の「厚み」を実感させて頂きました。
すべてのはじまりは、父の佐藤秀樹さんが独立し、五城目町でやきものに適した土が採れる場所を見つけ工房を建て、開窯されたところから。
健やかな自然があり、その恵みを大切に分かち合いながら、ひとつひとつやきものを生み出していくことそのものに、深い尊さを感じました。
受け継がれる素朴で善良なものづくりがこれからも続き、良き皆さまのもとへ届くよう切に願います。
すべてをご紹介しきれませんでしたが、三温窯さんの仕事の一端が、読んでくださった方々のこころを温めてくれますように。
三温窯(さんおんがま)
1983年 秋田県五城目町にて開窯
【三温窯 佐藤幸穂(さとうゆきほ)略歴】
1985年 秋田県五城目町生まれ、秋田公立美術工芸短期大学卒業
2009年 輪島漆芸技術研修所髹漆科卒業
2010年 実家の三温窯にて作陶始める
2017年 日本民芸館展に出品、以降連続して出品
2019年 工房からの風出展
2021年 初の個展を埼玉県にて開催
2022年 北のクラフトフェア出展
2023年 松本クラフトフェア出展、埼玉県にて個展を開催
2024年 松本クラフトフェア、北のクラフトフェア出展
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ⑤
col tempo土居祥子さんがくださるメールにはいつも、季節ごとの風景や流れる時間に思いを馳せる文言が散りばめられており、それがとても心地よい気持ちにさせてくれます。
そこで、周囲の自然、
なんでもない毎日のひとつの瞬間も、目を凝らすと心動かされるものがたくさ
日々変わる空や、街を流れる川の水面の表情、差し込んできた陽射しが今日は特別澄んでいるなとか。
愛おしむように過ごす庭での時間は、作品にも知らず知らずのうちに良い影響を与えているのかもしれません。
※仕事部屋の窓際写真を除き、このページの植物や庭に関するお写真は土居さんからお借りしたものになります
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土居:制作とともにある日々の中で、
お昼ご飯は庭や軒下で食べることも多く、
窓を全開にして作業できるこの時期は、
この夏は、空に浮かぶ雲がおもしろいなぁと、
この夏から主な制作場所がリビングから2階の部屋になって、小窓からよく空の景色を眺めるようになったからだと思います。
目の前に広がる田んぼでは稲の収穫が終わって、
そして、自然が生み出す美しさには敵わないなぁと、
庭の紫陽花が好きで、ドライフラワーにして色が抜けていく様がとても興味深くて。青やピンクの花の色が抜け、緑になり、最後は茶色へと変化してゆく。緑や青で染めた革は日焼けなどの要因で退色しやすく、もとの革の色の茶色が混じるように浮き出てくるのですが、これも自然のことなのだなぁと思ったり。
庭で好きな場所は、下屋下とウッドデッキ。家の中と外の庭をつないでくれている場所です。
ここで染色などの作業をしたり、お昼ご飯を食べたり、
庭のお気に入りスポットは、
我が家の庭が一番華やぐ、春。ムスカリたちがはじめに咲き、そこからミモザ、チューリップ、
その後は大好きな紫陽花たちが色形さまざまに咲き、夏は雑草生い茂る緑の中に家庭菜園のプチトマトの赤が映えます。
秋はもみじの紅葉が夕暮れに美しく、
自然との関りは、
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col tempo 土居祥子(どいしょうこ)略歴
1985年生まれ 地元の普通高校、大学を卒業
2008年 百貨店に入社
2014年 フィレンツェへ短期留学
鞄職人養成学校「scuola del cuoio」にてバッグ作りの基礎を学びながら、
2018年 col tempoとして制作活動を始める
《col tempo はイタリア語で「時と共に」という意味
【時と共に 変わっていく、育っていく。 そんな、ずっと使い続けたい 革のもの】
をコンセプトに、フィレンツェの伝統技法を用いた縫い目のない革小物や革を纏うようなシンプルなバッグを制作》
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ④
今回初めて、
きっかけはcol tempo土居さん。
「制作の時には、必ずと言っていいほど三温窯 佐藤幸穂さんのマグカップと八角皿をおともにしています」
ということからでした。
三温窯さんは父子二代で作陶をされている窯。
お父様である佐藤秀樹さんが1983年開窯。
息子である幸穂さんが2010年から加わり、協業されています。
「大らかであたたかな安心感を覚えて、
という土居さんの言葉が表すように、
訪れた秋田県五城目町の工房。
2代目である幸穂さんと連絡を取らせて頂き、
豊かな木々に囲まれた広い敷地に工房はあり、移築してきたという古い木造建築の作業場、奥に進むとガス窯と登り窯の窯場が築かれていました。
そして住居(内装は少しずつ父・秀樹さんが自作し、増築部分は幸穂さんが基礎から作ったという見事なもの)も併設されていました。
幸穂さんに工房内を丁寧に案内して頂き、多岐に渡ってお話を聞かせてくださいました。
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佐藤:父は会津若松の宗像窯というところで七代目の方に師事して修業し、その後修行の年季が明けて秋田に来て、ここ五城目町で仕事を始めて40数年になります。器の形はその宗像窯の形が結構入っています。そこは民藝運動に関わっていた窯元だったので柳とか濱田庄司が窯を訪ねてきていたという話は聞いています。
私は、秋田公立美術工芸短期大学では漆コースで、短大の付属高校では金属コースでした。陶芸は避けていた気がします。ふにゃふにゃと柔らかいものより、金属や木材など手や道具でカキっとした形を立体物を作ることが好きでしたので立体であれば何でも興味がありました。その結果、いろいろな素材に触れる機会が多かったです。
研修所で漆芸を学んでいた時、先生から『塗よりも形を作るほうが向いている』との言葉をもらった時があり、はっとしました。塗のもので身近なうつわを作ることを考えた時に、塗椀は別ですけど、マグカップや皿なんかはやっぱり素材として陶器のほうに広い可能性を感じたんです。今となってみれば子供の頃からのの仕事をそばで見てきたことが自分の中では強かったんだろうと。
家業に入った頃、漆の影響があるのか、(自分の作る)形が硬くて。父は最初から土をいじっているので土の柔らかさなどが風合いに出ていますけど、私は木工とか、平面出すことを一生懸命やっていたので。乾漆も好きだったんです。石膏取りをして形を作るのが好きで。その乾漆の型の作り方を生かして始めたのが梅型の小皿だとか八角皿です。ただそれがやきものに適したやり方なのか悩むこともあります。父は型ものはほぼやっていなかったですし、私はほかの窯に修行へ行ったりはしていないので。よそでいろいろ経験を積んでおけばよかったかもしれないと思うことがあります。父のやり方しか知らないので。
良かったと思うのは、形などはよそでの影響は受けずに、自分がいいなと感じたものをやってこられた点でしょうか。
作りたい形が思い浮かぶと、形や用途によっては他の素材の方が良かったりするともったいないので土で作る良さを優先的に考えます。
→→→続きは⑥にて
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ③
土居さんはフィレンツェにある皮革職人の養成学校「scuola del cuoio」に短期留学し、鞄作りの基礎を学びました。
厚紙みたいなのに革のシートみたいなのを貼って、
面白いんだけど、なんか…
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ②
今回の展覧会がいつもとはちょっと違う形になったきっかけは、土居さんと三温窯の佐藤幸穂さんとのつながりから。
秋田県五城目町の三温窯さんのもとを取材で訪れた際、まずはという口ぶりで、佐藤さんが土居さんとの出会いを訥々と話してくださったのが印象的でした。
標準語とほぼ近い口調に、時折ほんの少しだけ混じる秋田弁と思われるイントネーションもまた優しくて。
出会いとご縁に感謝し心から向き合ってくださっている姿勢に、誠実であたたかな佐藤さんの人柄を感じました。
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佐藤:実は土居さんを知ったのは、2019年の「工房からの風」
その翌年。応募した2019年度の「工房からの風」
何回かあったミーティングのタイミングもそのまま過ぎていってし
コロナ禍に入りしばらくは野外イベントの機会もなくなりましたが
そこでずっとほしかったコインケースも買えました。色、
それがこれです。毎日身につけてます。ちょっと雑に扱っているかもしれないですね。もっと丁寧に扱ってあげたほうがいい感じに育つのかな。
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話しながら、5年越しに手にしたコインケースを大事そうに撫でて手の中に収めていたのがまたいいなあと思ったのでした。
これからますます佐藤さんの手もとや日々に溶け込んでいって、ふさわしい姿へと育っていくのでしょう。