読み物
平野日奈子 白秋ふわり ③


通奏低音のように。
それは物事の底流に在るもので、気付かぬうちに知らぬ間に、もの全体に影響を与える。「もの自体」だけではなく、根源となるその作家自身の存在は欠かせない。それだけに作品のみならず出展作家さんのことを少しでも知って頂きたいという思いがいつもあります。
簡潔な一問一答ですが作家さん自身からの誠実な言葉と考えをお読み頂きながら、作品を紐解く手助けや愛着を深めていく入り口になれば幸いです。
今回は展覧会を行う秋の季節にちなんだ質問にもお答え頂きました。
質問1
はじめましての方に向けての、経歴とは違う自己紹介をお願いします
───小さい頃は絵を描いたり、小説を読んだり、家にある料理本を眺めているのが好きでした。家の手伝いでお皿を出してと言われて、今日はこっちの皿でカレーをよそおうとか今日のラーメンは重い黒天目の器だとかっこいいなぁ、などいろいろ載せてみるのが好きだったのも今に繋がっているなぁと思います。
中高は美術系の学校は行って、絵画やデザインの授業もいろいろ受ける中で、ろうけつ染めや刺し子などの時間があって自分の手を動かしながら作れる工芸がしっくりいくなぁと思った時に、陶芸なら食べる事も好きだったので、ちょうどいいと武蔵美の短大の専攻で選んでから、やきものを続けています。
器をメインに、アクセサリーやオブジェなども使っています。
質問2
久しぶりの展覧会となります。百職のお客様にとっては比較的新しい印象のコバルト釉、青の釉薬、黄色の釉薬、三種類それぞれの特徴などを教えてください
コバルト釉
普通コバルトはブルーに発色するのですが、いろいろ試して今使っている土との相性でマットなグリーンになっています。紫色の食べ物(玉ねぎやブルーベリー)など少し載せてあげるととても似合います。
青
青の釉薬は15年前くらいから気になっていて、なかなかうまくいかず、調合を少し変えては試してはまた様子を見てを繰り返していたのですが、温度を変えたりしてやっと落ち着いてきました。還元落としのかかり具合で紺の中に水色や白が出てくるところも気に入っています。
黄色
釉薬が重なった所に白の結晶やもう少し濃いとピンクの結晶が出て、ちょっとした温度や釉薬の厚さでも表情が変わるのでぜひ1枚1枚比べてみてください。
アスパラとかブロッコリーとか載せると春っぽくなります。
質問3
今まで訪ねた中で、最も印象に残っている場所はどこでしょう。その時の思い出もよかったら少し教えてください
───20代の頃にケニアで活動している太鼓のグループの主催のツアーに参加して、バスで何回も乗り継いで行った村。太鼓を教えてもらったり(私は全然叩けません)夜通し太鼓や踊りの儀式を見せてもらって、その後の朝日が登る前のエメラルドグリーンがかった空を丘から見たのがとても綺麗でした。
質問4
子供の頃、夏休みが終わるのは淋しかったですか?それとも学校が始まるのが楽しみなタイプでしたか?
───宿題は全然やらないタイプでしたが、ダラダラしているのも飽きるのでそろそろ学校でもいいかなぁと思っていました。
質問5
これから迎える秋で一番好きな食べ物を教えてください
───梨。近所の野菜の直売所で大きな豊水が出ると嬉しくなって抱えて帰ります。
質問6
夏の終わりや秋のはじまりで、風情を感じるのはどんな瞬間ですか?
───夜になって虫の声がにぎやかになって、夕方の色と影の色が変わってきたなと思う時です。
質問7
秋を迎えたらしてみたいことはなんでしょう?
───最近秋はわりとひたすら制作していることが多くて、いつかすごく綺麗な紅葉を見に山に登りたいと思っています。
質問8
これまで一定期間、継続して今のお仕事をされてきたと思います。自分の力でものごとと向きあい続ける中でご自身が大切に感じた一番大きなものはなんですか?
───手のひらにのせ、いいなと思えるものであったらいいなということと、おおらかなものでありたいなということです。
平野日奈子 白秋ふわり ②


多治見を拠点にする陶芸家 平野日奈子さんの個展を2019年以来、6年ぶりに開催する。数年の時を経ても、展覧会をさせて頂きたかったのにはいくつか理由がある。
ひとつに、変わらないプレーンな使い心地のよさがある。のびやかな風情と独特の愛嬌を備えた線やフォルムという個性を持ちながら、いざ料理を載せると決して邪魔をすることがない。うつわと料理が不思議なくらいの調和を見せる。うつわの中に〈日々の食事に自然と融合する〉ことを重視する自分自身にとって欠かせない条件でもあり、平野さんの器はこれまで何度も私の食卓に登場している。
ふたつめは平野さんの魅力ある人柄と生き方。とある別の作家さんの展覧会に足を運び、そこで偶然手に取った平野さんの作品。それがきっかけで平野さんからお礼のメールを頂くこととなり、そこからアトリエに伺うことになった。そこで初めてお会いした平野さんは自分と同年代で、柔らかなお人柄の中にも目指したい先を見つめ自分の作品や仕事と向き合おうとするたくましさもあり、しなやかに手を動かし続けている姿が印象深かった。そんな姿勢が好きだと感じた。
私は、彼女の作るものを信頼している。楽しみを見出しながら自信を持ってお勧めできることから、しばらく時間が空いたとしてもまたいつか自分の手で紹介させて欲しいという思いがずっとあった。今回再び念願叶って個展をさせていただくにあたり、彼女の工房に6年ぶりに伺った。制作の日々で悩むことはあっても、しなやかに仕事と向き合う姿勢は今も変わらず、新たな挑戦や仕事の深まり、陶芸以外の過ごし方などの幅も広がったようで、爽やかな表情で楽し気に話す様子が印象的だった。
───これまで真冬と真夏に訪問したので、今回の訪問(6月初め)はずいぶん工房の空気も温度も違います。
平野:そうなんです。今は快適ですよ。
───冬場の寒さで土が凍ってしまう大変さを以前お聞きしましたね。
平野:そうですね。冬は水道の水が凍りますし、土も凍ってしまう年があるくらいです。作業中に手がしびれることもよくあります。だから冬場は工房内が少し温まってから作業を始めます。今のような初夏の時期だと朝のうちから仕事もできますし、まださほど暑くないので本当に過ごしやすいです。
───陶芸家だけに仕事に必要不可欠な陶土は量も種類もたくさんあるから管理が本当に難しいと思います。
平野:相変わらず工房がすごく散らかっていて恥ずかしいんですが、いろいろな種類を使い分けるので土もたくさんあります。耐熱の土も使いますし、そうでない土もあります。粒の細かいものや粗いものなどを釉薬と組み合わせています。
───窯増えましたか?以前は窯1台だったような記憶があって。
平野:どうだったかな。奥のブルーの窯は小さいけどあると便利で。テストやったり急ぎの時用や、焼き方なんかで別の違う方法にしたい時に使ってますね。もう一台の大きい窯とブルーの小さい方では、焼き具合が違うんです。小さいので焼いた感じが良かったら小さいので焼くしかないってこともあったり。青釉は小さい窯でやらないといい色が出なくて。小さいのを何回も焚くと時間かかってしまって。還元落としを小さい方でやっているんですが、大きい方で還元落とし(陶芸の焼成方法の一つ。冷却還元とも呼ばれる。窯の温度が下がる段階で意図的に還元状態を作り出し、独特の色合いや質感、光沢などを出すこともできる)をやると釉薬がブクブクになっちゃって。
───ちょっとしたことで変わってしまうのが難しいところですよね。釉薬はこれまでと変わらずご自身で調合されていますか?
平野:しています。コバルト釉はかなり長くやり続けているのでそうでもないんですが、青い釉薬がまだ難しいです。とにかく釉薬は、濃度であったり掛け方であったり、器によっても出る具合が違ってくるので、常に少しずつ調整しながら行なっています。
───6年前の展覧会ではなかった青の釉薬のきらきらしている感じや、黄色の釉薬の微妙な色の重なりがすごくいい。器の形状によって釉薬の流れ方も違っていますね。釉調の変化が奥深くて面白いですね。
平野:ですよね。青はかなり表情にバリエーションあったりしていて。どれもきれいですし、同じ釉薬を使う中でも手触りや質感、細かい表情の違いが出るので、そういうのが自分でも好きで作りたいなと思ってます。使う人の自分のお料理によっていろいろ選んでもらえたらいいですね。
作ること、感じることと向き合う
───短大卒業後、多治見市陶磁器意匠研究所、studio MAVO(陶芸家の安藤雅信氏が若手作家支援のために設立した多治見にあるレンタル工房)での活動を経て、独立築窯されていますが、当初からまずは食のうつわを制作していこうというスタンスだったんですか。
平野:武蔵野美術短大の時代は工芸デザインにいて。デザインコースで平面っぽいのをやっていたんです。でも考えながら手で作るのも好きで、少しずつ土が向いてるかなあと思うようになりました。食べるのも料理も好きなので、自然な流れで食のうつわに気持ちが向きました。
───では食器から、飾る用途のインテリアのものにも興味が広がってきたんですか。
平野:そうだなあ。それは両方一緒というか同時にあった気がします。自分の中ではそんなに区別していない感じです。どっちも自分の中では最初から一緒にある感じですね。食べることも暮らしのものも、アイディアを練って作れそうなものは作ってみたいと思っています。
───最初の頃、東京での展覧会を拝見した時にも、すでに食器あり、花器やインテリアのものあり、オブジェ的なものもありといった感じで様々なものを作っている印象が強かったです。初期の頃に発表されていた道草花器なんかも印象に残っています。
平野:ですよね、そうなんです。せっかく展覧会に来た人がもしかしたら食器だけ見てもつまらないかなって。うつわのほかにも「ああ」って感じるものがあったら嬉しいんじゃないかと思ったんです。イメージしたり想像して作るのがとにかく好きなのかもしれません。友人にこんなうつわを作ってほしいと言ってもらうのも楽しいです。友達が「きんぴらごぼうとかいっぱい作った時に、冷蔵庫に入れて、そのまま食べる時にチンして出せるうつわがほしい」と言われた時にこれは作った器です。でも作ったらこんな感じじゃなかったらしく、べつのもののほうが使いやすいって言われて、なるほどって思ったり。でもいいんですよ、このうつわも。もりもり入れてもいいですし、真ん中に置いて余白を楽しむ感じでも盛りつけ出来るし。
───日本のうつわの形とは違う雰囲気がいいですよね。ヨーロッパの古いバスタブみたい。ソープディッシュのようでもあるし。こちらのうつわもいいですね。
平野:ポテトサラダとか盛ってもいいかな。このコバルト釉の緑のうつわはお刺身とか載せてもよさそうです。
───お洒落。お酒にも合うお料理が浮かびますね。
平野:そうですね、食事もお酒も好きだからそうなっちゃうのかもしれない。
───食のうつわに限らず全方位的に制作している平野さんですけれど、ニーズがあるからというよりはどれもご自身が好きであるからなんでしょうか。
平野:オブジェなんかも自分自身が好きです。他の方の作品でもあれこれ身のまわりに置いてます。石とか貝も集めがちです。白い壁に何か飾るのも好きですし。思わず触れてみたくなるようなものが作れたらいいなと思っていますし、自分でも惹かれます。食器やオブジェのほかにはアクセサリー(ピアス、イヤリング、ヘアゴム、ブローチ)も相変わらず作っています。器では使いにくい釉薬や仕上げもアクセサリーであれば可能だったりするところが魅力ですね。アクセサリーを展示している時に鏡があったらいいなと思ったので今では掛けるタイプの鏡や、置き型の鏡も作っています。
───様々な分野のものを作ることで平野さんの創作自体にとってもプラスに働いている感じですか。
平野:そうですね、単調になってくると実は飽きるんです。性格なんでしょうね。違うこともしたくなるんです。イベントや展覧会前に細かい作業の多いアクセサリー作りをしていて時間が無くなってくると「何やってるんだろう」と思えてくることもあるんですが、それでも一つのものばかりやっているよりはやっぱり楽しいです。
多治見の空気、これからやってみたいこと
───多治見での暮らしにすっかり定着されてもう長くなったと思いますが、最近の多治見の様子はいかがですか。お店さんとものづくりの作家さんとが交わって催事をするなどつながりを深める機会も増えたとお聞きします。
平野:多治見は割と最近変わったんです。本町通りに同い年くらいの子が新しいお店やり始めたりとか、新町ビルも若い男の子たちがやり始めたり。
───〈山の花〉さんでしょうか。
平野:そうそう。陶芸もあるし洋服も置いたりしていますよ。本町のほうも窯を作っている窯屋さんの子がお店を出したり。その前にもあるのも陶器商の方が大きなお店とレストランが入っている施設をやっていたり。そこのレストランさんが器を使ってくださっているので本当はお連れしたかったんですけど今日はお休みで。最近の多治見はかなり活性化している感じがありますね。
───古くからの産地ならではの部分を残しながら、新しい取り組みが生まれ始めているんですね。
平野:そうですね。どっちもいいですね。以前からのちょっと懐かしい感じの街の感じもやっぱり好きですし。知り合いも増えて、材料や制作のことも気軽に教えてもらったり共有できる。居心地がいいです。
───陶芸以外で今出来てないけど、出来るようになりたいことってありますか?
平野:簡単ではないけど農業は憧れています。今ベランダではいろいろやっているんです。でもそんなにはできないので。
───ベランダ菜園をやっているんですね。このパイナップルソルベに入っているミントもベランダ産ですか?
平野:そうです。ハーブもいろいろ育てています。
───ベランダでも気軽に育てられる野菜ありますよね。ミニトマトだったり。
平野:ミニトマトは今6株はあります。けっこうやる気ある感じに思われそうですね。ミニトマト、ズッキーニ、青唐辛子、モロヘイヤ、茗荷、紫蘇、ネギ、パセリと…ちょっとやり過ぎてる。
───かなり種類があってびっくりしました。広いベランダなんですね。
平野:そうなんですよ。すごい広いんです。二階にあるべランで。あ、でもちょっとぼろぼろだから見せられないです。
───安心してください、無理にとは言いません。下からでも緑が茂っているのはちらっとわかりましたよ。
平野:わ。恥ずかしい。
───水やりはどうしているんですか?
平野:部屋の中央にお風呂があるという少し変わった造りで。そのシャワーがベランダまで伸びるのでばーっと水遣りしています。雑ですよね。(作物は)少しずつ成長していって最後の最後に収穫できるのが嬉しくて楽しいんです。
───陶芸にも通じるものがありますね。
平野:ああ、もしかしてそうなのかも。そういえばこの間、八ヶ岳のほうに友人と遊びに出かけることがあって。いろいろ調べていたら近くに農業大学(八ヶ岳農業大学)があって花畑プロジェクトをするんだけど花の苗を植える人手が足りないのでボランティアを募集していたんです。それで朝行って花植えをして、すごく楽しかったです。お手伝いは午前中だけでもいいし、一日中でもいいしみたいな。すごくいい場所でした。広大で気持ちよくて。私たちが植えたところはほんの一部だったんですけど来年行って咲いていたらいいな。お花などの植物も好きなんですよね。
───ハイキングや登山などのアウトドア系のことも以前からお好きだとおっしゃっていましたよね。
平野:はい、山登りや自然はずっと変わらず好きですね。外に行くと気がつくと自然を観察しています。それが作るものへ反映されているようなこともあります。農業は憧れなのでいい場所が見つかったらいずれ取り組んでみたいです。
(了)
平野 日奈子(ひらの ひなこ)略歴
1978 埼玉県で生まれる
1999 武蔵野美術大学短期大学部デザインコース卒業
2008 多治見市陶磁器意匠研究所卒業
2008 多治見市 studio MAVOにて制作
現在、多治見市内に工房を移し制作
→HP
→Instagram
森谷和輝 清夏の入り口 ②


毎年夏に森谷和輝さんが百職で展覧会をしてくださるようになってから15年が経つ。
昨年展覧会を開催してくださったのも7月。その直前の6月に工房を訪ね、話を伺った。長年仕事や作品と向き合う中、キルンで作るガラスの材料を新しくしていく現実と課題に対して、迷いながら一歩ずつ歩み出しているという状況を話してくださった。
そこからまた一年明けた今、ガラス制作の現場ではどんな変化があったのだろうか。森谷さんに会いに、桜の咲き始めた今年4月に福井県敦賀へ向かい工房でお話を聞いてみると、少々意外な言葉が飛び出した。
バーナーワークの途上
───以前に、ガラスというものは「固まっているけれど原子構造はバラバラで本当は流体とも言える物質」というのを森谷さんからお聞きしてそれ以来ずっと印象に残っています。今年は、まさにそういったガラスの流動性を感じさせるもの…たとえばそれをバーナーワークで作ってみてほしいんですがどうですか?
森谷:そうですね…やりたいんですけどバーナーワークで何をどう作ろうかなと最近は少し頭を悩ませていることも実はあります。自分でも柔らかさを感じるものをやりたいんです。一方で自分が今バーナーの仕事で使っているホウケイ酸ガラスは硬いんです。吹きガラスで使うガラスよりも薄くて硬い。やりたいことはあるんですが柔らかさを表現するには向かない素材だなとも実感しています。硬さが見えちゃうなあと思って。キルンで作っている葉皿とかは自然に感じませんか?
───感じます。融けてながれて広がっていくガラス自身の動きを利用しているから、自然に感じるのかもしれません。
森谷:自分自身で「こういう形にしよう」とか思ってやると、自然な感じにはならない。(そばにあったオーロラグラスを指して)これも、ここをこうへこませようと思ってやっちゃうとだめだけど、たとえばガラスを柔らかくして触るだけとか、止めてみるとか。でもバーナーで融かすタイプのホウケイ酸ガラスは硬いんで、自分からグイグイいかないと形ができない。自分の意思がありすぎないほうが自然に見えるんですけどね。これ(ストローステムの脚の部分を指して)とかもこの細さの棒を作るってことに集中すると、自分が消えるっていうか。キルンみたいにガラス自身の動きでというのとはまたちょっと違う表現がバーナーで作るガラスには必要なのかなと思うんです。形とかが大事だとはぼやーっとは思っているんですけど、どうやって形を作るの?みたいなところで探っている過程です。作っているといやな形は自分でもわかるので、それを少しずつなくしていったらいいんだろうなと。うまくいかない時は休みながらやっています。(キルンワークで制作する)フォールグラスみたいなものを、バーナーで作る発想は難しいでしょうね。僕の(つくる)形っていうのではなく、ガラスの動きによって出来上がる形っていうのがやっぱりいい。
今年の展覧会に向けて
───今年の展覧会に向けてリクエストを出すなら、2021年の個展時にいつもより多めに作って頂いた大鉢。たぶんあれ以来ご無沙汰になっているんですが、お客様からもちょこちょこリクエストを頂くのでお願いしたいものの一つです。
森谷:大鉢ね。そうなんだ、お客様から。僕も好きです。大きな(作品)はいつも何かは入れたいなと思っているんですよね。あと、大鉢サイズのボウルみたいなものは前から構想してます。今回作れるかはわからないけど、前々から作ってみたいと思っているもののひとつ。
あとはお茶(まわり)のもの…sun cupは実際に使ってもらっていいねと言って頂けることが多いようなので嬉しいから、できれば作りたいなと思っています。ただどうなるかはまだわからないです。うまくいかないこともあるので。カップ類と一緒に並べられるような片口もいいかな。片口は去年の新作ですが作る回数がまだまだなので今後はもっとやっていきたいです。最近は新作が少ないです。
───そうですか?百職の展覧会ではまだ出してもらったことないものが目の前にわりと多く並んでいます。楽しい。この脚の長いのはユーモラスなバランス。不思議なうつくしさを感じます。あとこの深皿は使いやすそう。深さがあるから盛りつけの幅も広がるかな。自分用にもほしいです。
森谷:ストローステムは新作です。最初は脚になっている部分をステッキみたいに太くして面白がっていたんですけど、後から冷静になって細くしました。見ていると脚の部分がきれいだなと思って。脚を細くして、試作のものより細部をシンプルにして。プリンを盛ったりするのがいいかなと思っています。
深皿も新作です。普通の日に、毎日使いたいなというのを大事にして作ったやつです。個体差はすごいあります。
───おっしゃる通りですね。今ここに並んでいる4枚を見ても、ガラスの透明度合いなどもずいぶん異なりますね。それが面白い。
森谷:コントロールが未だにうまくいってないです。ただ選ぶのは楽しいかも。もともとクリア皿のSサイズのお皿を作っていたら焼成後に上の段の棚板にくっついていて。たまたま縁の部分が伸びて深くなったのができてきて。この深い形状や感じがいいなと思って。大きさ的には(クリア皿Sサイズと)同じくらいです。ちょっと縁だけ伸ばして。これがねかっこいいなと思っています。
あとは新たに3Dプリンターを導入してます。さっき見てもらったやつです。それで型を作り直して入れ替えていくつもりなので、その辺が自分にとっては楽しみです。
(了)
森谷和輝さんのつくるガラスはどんな種類があり、どんな方法で作られているのか。
ご紹介のため、以前の記事を再掲しました。
展覧会をより深く楽しみたい方は、ぜひこの機会にご覧ください。
「A piece of artwork with glass」
おさらい・バーナーワーク https://tenonaru100.net/photo/album/1121777
キルンワーク キャスティング https://tenonaru100.net/photo/album/1121778
キルンワーク スランピング https://tenonaru100.net/photo/album/1123844
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森谷 和輝(もりや かずき) 略歴
1983 東京都西多摩郡瑞穂町生まれ
2006 明星大学日本文化学部造形芸術学科ガラスコース 卒業
2006 (株)九つ井ガラス工房 勤務
2009 晴耕社ガラス工房 研修生
2011 福井県敦賀市にて制作を始める
森谷和輝 清夏の入り口 ①


ガラス造形作家の森谷和輝さん。2011年から毎夏、百職では展覧会を続けて頂いている(2020年の回だけは秋の10月開催)。
実は付き合いが始まった当初、百職で開催する個展に合わせガラスを題材にしたワークショップ開催の話が出た。確か2012年か2013年だったと思うが、開催のための最少催行人数が集まらず実現されなかった。
その後の2014年の静岡手創り市の出展時、来場者向けにパーツを選んで組み立てる風鈴のミニワークショップをはじめてご自身のブースでされたが、人に教える難しさも感じ、以降の開催はしなかったという。
それから十年ほど経った今回、思いがけず森谷さんからご提案があり、念願だった森谷さんによるワークショップを展覧会のプレイベントとしてさせて頂くことになった。「内容はこんな感じで、作業はこんな様子で進めていくのはどうだろうか」とイメージを共有しながら対話を重ね、作品制作も大変な中、並行して開催準備に取り組んで頂いている。
なぜ今回、ワークショップを提案してくださったのか。どんな心境の変化などがあったのかが気になり、展覧会の打ち合わせの合間に少しだけ訊ねてみた。
ガラスと触れ合ってもらうのはすごくいい機会だなと思った
───すごく嬉しかったんですけど、今回どうしてワークショップやってくださろうという気持ちになったんでしょう。
森谷:始まる前にちょっとやるのがいいなと思ったんです。展覧会がいきなり始まるんじゃなくて予告みたいな意味もあっていいなと。ほかにもそういうワークショップをやっている作家さんがいたのも自分への後押しになりました。その方はガラスの花器などの展覧会だったようです。会期の前にその人が作った花器に参加者の皆さんがお花を活けて、楽しかった後にその花器を選べる。それから展覧会本番が始まって、それがすごく楽しそうだなと。自分に置き換えたら、実際ガラスに触ってもらったら、こうやって作ったりするんだと思ってもらえるし、自分なりにお気に入りの何かができて持ち帰る。それっていいことじゃないかと。その後で展覧会が始まって展示に行ったらまた作品の見方も変わるかなと思って。
森谷さん宅での打合せ時、試しに予行演習をしてみることになった時の様子
───よくわかります。展覧会のいい導入にもなるし、展覧会が終わって自分で作ったものが手元にあることで思いや時間が濃くなる気がします。
森谷:同じ大学の先輩である渡辺隆之さん(陶芸家・造形作家)と今年再会した時に「あの時* 作った風鈴、今も使ってるよ」と言ってもらえて(*過去に森谷さんが静岡手創り市出展時にブースで行った『パーツを選んで組み立てる風鈴づくり』のこと)。もうだいぶ昔のことなのに、ええ!あの時のですか!?って、こちらももうびっくりしてしまって。渡辺さんも同じようにその回の手創り市に出展していて、ワークショップはお子さんと参加してくれたんだったかな。その時のことはあまり覚えていないんですけど、その時の風鈴が今もあるっていうのは僕にとっても嬉しかったですね。そこでのワークショップというのはブースに寄ってくれたお客さんにぱぱっと教えるような感じだったけど、僕は教えるのは向いていないなとその時すごく実感しちゃったから、それ以来ずっとやっていなかったんです。
今も相変わらず、人前に出て教えるのは得意じゃないんです。うまくできるのかな。教えるのはほかの人にやってもらいたいくらい。
ともかくガラスと触れ合ってもらうのはすごくいい機会だなと思ったんです。手磨きをやってみる時間をみんなで持つのは思い出としても楽しいものになるんじゃないかと思い至りました。
(了)