読み物
森谷和輝 つながり/循環 ②

毎夏の展覧会前に、森谷和輝さんの工房に伺って打ち合わせをするのも恒例となっている。
初夏に訪れると去年よりも明るくなっていて、室内を良く見渡すと住まいの壁の一部が白い漆喰造りになっていた。
漆喰の壁に光が映り込み、見本にと運ばれてきた森谷作品の硝子も仄々と明るかった。
そんな中、森谷さんの口からふと「工芸」という言葉が出て、少し驚いた。
これまで森谷さんと交流を重ねる中で、彼の口から工芸という言葉が出たことはほとんどなく、ただただ硝子という素材に魅せられたものづくりを貫いてきている印象があった。あえて森谷作品をカテゴライズするとしたら、従来の工芸というより、より現代的なライフスタイルとの親和性を持つものづくり、言うなれば生活工芸とかクラフトがより近しいようにも感じるが、ある面ではとてもアーティスティックな表現をしているようにも見え、自由度の高い、とらわれない魅力を森谷さんの硝子は有している。
そんな作品を手掛ける彼が考える工芸とはなんだろう。
──なるほど。繰り返されること、反復が生み出すもの。繰り返しても決して同じものは生まれない。何故なら人間として成長や変化していったり、何かから影響を受けることで変容していきますね。
森谷:そうです。繰り返すというのは、プロダクト的に同じものを量産的に作るという意味とは違うんです。繰り返してるけど、少しずつ変わっていくみたいなことです。繰り返して少しずつやることで僕は変わっていけるのかもしれないです。ぱっぱっとは変われないし。
──確かにそうですね。森谷さんには合ったのかもしれませんね。
森谷:はい。自分にはすごく合ってたなと思います。硝子の道を選んで、荒川さん(硝子工芸家の荒川尚也さん。森谷さんは荒川さんの工房で2009年から二年間研修生として勤めた)のもとで働いた時期に、同じものを繰り返すという作り方を知りました。その前はもっとアートみたいなところから入ったんです。オブジェとか、一発勝負みたいな制作を取る方法です。
──大学時代はアート寄りだったそうですよね。
森谷:そうです。大学の時もそうでした。アート制作みたいなことに興味があったので。そこから荒川さんのところで仕事をするようになり、毎日同じものを作るようになりました。
──即興的なものから、反復性を知るフェイズに。
森谷:荒川さんは、一個一個がいいんのではなく作る流れ全体を良くしたい、とおっしゃっていたのを記憶しています。
──吹き硝子的ですね。吹き硝子の方の制作工程を見せて頂くと動きがすべて連動していて、その全体の流れというものの大事さはわかるような気がします。
森谷:一個が良くてもしょうがない、みたいな感じですね。作ってる全体の流れが良かったらそれでいいと。そういうのにすごく影響を受けたのかなと思っています。対してキルンワークは一個制作するのに時間がすごくかかる方法なので、吹き硝子のような作り方はできないんです。でも単純な形で繰り返し同じものを作れるようなやり方を僕は選びました。選んだのは多分、かっこいいと思った吹き硝子のやり方を、キルンワークでしたかったからだと思っています。だから、形は単純なもので繰り返し作れて、でも繰り返してるんだけどちょっとずつ変わっていくみたいな。自分の中でも、変わっていって欲しいと望む部分があると思うんです。こんな作り方をしているので続けていられると思っています。枯渇しないし、飽きませんし。cucu(立方体を二つ組み合わせた箸置き)とか作っていて、飽きるだろうと思われそうですけど、飽きないんですよ。ちょっとずつ改善できたりとか、こういうことなのねとわかったり。こうしたらもっと良くなるかもしれないと思いつけるのがいいんです。ただただ作ってる期間もあるんですが、何か他のことをやっていたりしてると、急に、あっ、これはあっちに応用してみようかとか、この考えであっちも良くなりそうといった閃きがあったり。そんな作り方を続けているからこそ、今も続けてできてるなと思います。アイデアはいっぱい周りの人が「こんなの作らないの?」とか言ってくれますから。自分自身も欲しくなったりね。ただ自分が欲しいと思うものは知れているので。「これいるの?」みたいなところから、例えばスタンドライトもそうで、そんな感じから始まって、形になるまでに自分自身の考えも変わっていくみたいなこともあります。
──年月が経つ中で自分自身も変化していくことってありますね。そうやって時間を積み重ねて作品と制作に向き合っていくことで、ほかのいろんな作品ともつながり、うまく流れが生まれているように思えますね。いい流れが。
森谷:そうですね。停滞してた時もあるような気もするけど。面白い、新しいことにチャレンジしないと澱んじゃいますよね。あとね結構3Dプリンターは本当に大きな刺激でした。革命です。できることが一気に増えました。
──すごいサポートしてくれてる感じがしますね、森谷さんのことを。
森谷:はい。できなかったことがいっぱいできるようになりました。
(了)
森谷和輝さんのつくる硝子はどんな種類があり、どんな方法で作られているのか。
ご紹介のため、以前の記事を再掲しました。
展覧会をより深く楽しみたい方は、ぜひこの機会にご覧ください。
「A piece of artwork with glass」
おさらい・バーナーワーク https://tenonaru100.net/photo/album/1121777
キルンワーク キャスティング https://tenonaru100.net/photo/album/1121778
キルンワーク スランピング https://tenonaru100.net/photo/album/1123844
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森谷 和輝(もりや かずき)略歴
1983 東京都西多摩郡瑞穂町生まれ
2006 明星大学日本文化学部造形芸術学科ガラスコース 卒業
2006 (株)九つ井ガラス工房 勤務
2009 晴耕社ガラス工房 研修生
2011 福井県敦賀市にて制作を始める
森谷和輝 つながり/循環 ①

毎夏の展覧会前に、森谷和輝さんの工房に伺って打ち合わせをするのも恒例となっている。
初夏に訪れると去年よりも明るくなっていて、室内を良く見渡すと住まいの壁の一部が白い漆喰造りになっていた。
漆喰の壁に光が映り込み、見本にと運ばれてきた森谷作品の硝子も仄々と明るかった。
そんな中、森谷さんの口からふと「工芸」という言葉が出て、少し驚いた。
これまで森谷さんと交流を重ねる中で、彼の口から工芸という言葉が出たことはほとんどなく、ただただ硝子という素材に魅せられたものづくりを貫いてきている印象があった。あえて森谷作品をカテゴライズするとしたら、従来の工芸というより、より現代的なライフスタイルとの親和性を持つものづくり、言うなれば生活工芸とかクラフトがより近しいようにも感じるが、ある面ではとてもアーティスティックな表現をしているようにも見え、自由度の高い、とらわれない魅力を森谷さんの硝子は有している。
そんな作品を手掛ける彼が考える工芸とはなんだろう。
──告知用に先に送って頂いたseiは久しぶりでしたね。ひっくり返した裏側はかなり研ぎ澄まされた仕上がりになっていたり、以前のものから今のものまでの変遷を感じて面白かったです。
森谷:seiは頭の中でこういうのどうかなと思っている形があるので、それを狙って作っていきたいです。今はまだ少し適当に巻いている感じになっているので。あと以前はこうツンツンツンツンツンついて泡を入れていたんです。今は泡が自然に入るようになったのがいいなと思ってます。溶かし具合で泡があったりとかしてくれるのがいいんです。
──作り方が変わると、自ずとできるものにも現れますね。
森谷:ちょっとずつ変わっていくのがいいなと思っています。同じものを作ってるけどちょっとずつ変わっていくような。先日「工芸とはなんですか」みたいなことを聞かれたんです。「あなたにとって工芸的な部分はどこですか」と尋ねられて。とっさに思いつかなくて。
──難解な質問ですね。
森谷:その時は「手で触って作ることです」みたいなことを言ったんです。でも冷静に考えて今言いたいのは、素材と技術があり、それを用いて同じものを繰り返し作りながらも徐々に変化していくといったものがすごく工芸的だなと。積み重ねていくといった感じ。
──工芸の背景にある人間的なものを感じますね。
森谷:少し前までの自分は、硝子の表情のことについてよく話していたんです。硝子のことを聞かれると表情が云々みたいな話になりがちで。でも最近はそれだけじゃなくなってきたなと。素材が一番大事で、それを十分に表すために技術はすごく必要。自分の頭や心にあるものを、技術を発揮して表現する。それを繰り返していくことで、より良いものが生まれてくると思うようになりました。自分は硝子工芸やってると思ってないから困っちゃうんです。硝子が好きで作ってますみたいなのが始まりでずっと来ているのですが、あえて工芸的な部分を言うなら、素材と技術、繰り返していくことがそれかなと。そういうのが最近思うことです。
→→→後篇に続く
森谷 和輝(もりや かずき)略歴
1983 東京都西多摩郡瑞穂町生まれ
2006 明星大学日本文化学部造形芸術学科ガラスコース 卒業
2006 (株)九つ井ガラス工房 勤務
2009 晴耕社ガラス工房 研修生
2011 福井県敦賀市にて制作を始める
土居祥子 つながり/循環 ②

今回の展覧会では、近作のショルダーバッグ〈walk〉が登場する。
土居「walkは、息子の送り迎えのときにスマホと鍵を持ち歩くために欲しくて作ったポシェットです。昨年の夏前頃から作って使いはじめて、すでに私の日々の暮らしの中でよき相棒となっています。walkを生み出すときに考えていたのが、トートバッグたちを作るときに出て、たまる一方だった端革を使って作りたいなということ。小さいバッグなので1つのパーツでできるのですが、大きさの異なる3つのパーツを縫い合わせる仕様にしているのは、このためです」
私自身も、仕事のリフレッシュに家から5分の京都御所でのぶらぶら散歩は欠かせない。
運動という意味ではちょっと足りないかもしれませんが、気分転換にはぴったり。
たくさんの荷物は必要なくて、ハンカチと鍵と小銭があればいいくらい。
新作のミニショルダーのwalkは、旅先などにもぴったり。
朝食はホテルや旅館内のレストランへ…なんてこともよくありますが、最低限のものだけ身につけて出かけたい時に。
早起きしてちょっとその辺をぐるっとしようか、なんて時に颯爽と身につけたい。
ミニマムな用途だけに絞ったスタイルで、男性にもぜひ見てほしいモデル。
土居さんも
「walkは男性にもぜひ」
と。
ショルダーストラップは結ぶ位置を調整することで使う人のお好みで長さを変えられるようになっており、身長165cmの土居さんの場合は付属のストラップを調節して身につけているとか。
ちなみに長めがお好みの方や、身長体格が大きい方などにも対応できるように、もう少しロングタイプのショルダーストラップもご用意してくれているとのこと。
───
歩く時間。
家に籠もってものを作る日々の中で、外に出て歩くことは心身ともによいリフレッシュの時間になっています。
私にとっては息子の園への送り迎えが歩く時間。
その日の天気や湿度、風の様子でいつもの道にも、毎日新しい発見があって自分が美しいなぁと感じる音や景色も日々それぞれで。
とくに1日の作業を終えて歩いてお迎えに行く夕方は夕陽の光と涼やかな風が心地よく労ってくれているかのようでとても好きな時間です。
持ってゆくのはスマホと家の鍵。
ときどきティッシュ (息子の鼻水がひどいとき)。
歩くときに必要なものだけをさっといれて軽やかに持つ小さなポシェットを新しく作りました。
名前は「walk」です。
(土居祥子さんのInstagramより引用)
───
土居祥子さんの手掛けるラインナップの中で、バッグはとりわけ等身大というものを大切にする姿勢を感じる。
彼女は、フィレンツェにある皮革職人の養成学校〈scuola del cuoio〉に短期留学し、鞄作りの基礎を学んだ。
土居「そこではクラシックなハンドバッグの作り方を学びました。型紙の作り方から、どういう芯材を入れるかとか。工作みたいで面白かったんですけどね。厚紙みたいなのに革のシートみたいなのを貼って、その上に更に表にくる革を貼ってとか、スポンジみたいなのを切ってそれを貼ったり入れたり。面白いんだけど、なんか…もっと革だけでシンプルにバッグ作りたいな、と。(中略)私が作りたかったのは結局、くたっとした体になじむようなトートバッグでした」
二人のお子さんと旦那さまと、そうした家族との飾らない日々の暮らしについて土居さんからしばしばお聞きすることを通して、それが彼女を人としても作り手としても慈しんでくれているのを実感する。
家族とのお出かけや散歩、旅、季節ごとのオケージョンシーンに身を浸す時間の中で、こんなものがあったらというふとした芽生えが、ものづくりへとつながっている。
日々の暮らしの中で、自らが欲しいと思えるものは、嘘がないし無理がない。
作り手自身が思い描いていたものを形にした時。
手で触れ目で見て〈心地よい〉と、こころから思えるものを、ほしいという人に手渡せるというのは、作り手自身を幸せにし、安心で包むだろう。
更には自身が作ったものを、使う人の希望に応じて、修繕することもできる。
自分の喜びが誰かを喜ばせ、誰かの喜びが自分の喜びともなる。
ものづくりは、喜びの巡りを生み出せるのかもしれない。
それはどんなに、生きる希望や喜びを自分に与えてくれるだろう。
手を動かすことによって、自分自身を受容し、安心と幸せをその身とこころにもたらすという、うつくしくも眩しい循環を、土居さんの中に見ている。
土居祥子 つながり/循環 ①

土居祥子さんとはどんな作り手でいらっしゃるのか。
ご紹介のため、過去の記事を次にまとめました。
ぜひこの機会にご覧ください。
「土居祥子さん 2024年ご紹介記事」
想いを馳せつつ手を動かす https://tenonaru100.net/photo/album/1253553
日々の暮らしの中で欲しいと思うもの https://tenonaru100.net/photo/album/1253571
自然の巡りを感じること https://tenonaru100.net/photo/album/1254076
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通奏低音のように。
それは物事の底流に在るもので、気付かぬうちに知らぬ間に、もの全体に影響を与える。「もの自体」だけではなく、根源となるその作家自身の存在は欠かせない。それだけに作品のみならず出展作家さんのことを少しでも知って頂きたいという思いがいつもあります。
作家さん自身からの誠実な言葉と考えをお読み頂きながら、作品を紐解く手助けや愛着を深めていく入り口になれば幸いです。
今回百職では2回目の展覧会を開催してくださる土居さん。街と自然が心地よいバランスで溶け合う滋賀県守山の自宅兼工房で、季節の移ろいにとても細やかに心寄せながら制作されています。
ものづくりへの純粋なこころのともしびをいつも大切にしながら、現代の日常的な暮らしの視座と、イタリアのフィレンツェで学んだ古き良き職人魂を受け継ぐ熱い志と技術は、お会いするたびにキラキラと輝きを増しています。
質問1
はじめましての方に向けての、経歴とは違う自己紹介をお願いします
───琵琶湖の近くにある自宅の一室で革のものづくりをしています。旅先で出逢ったコインケースに心惹かれ、持ち帰って暮らしの中で使うたびにその秀逸な形や使い心地にどんどん魅了されてゆき、この技を知りたい、とフィレンツェへ短期留学をしたのが28歳の時でした。
フィレンツェでの出逢いや経験が今のものづくりと共にある暮らしにつながっていて、革という素材がもつ面白さや魅力を感じてもらえるような革のものづくりができたらと思っています。
質問2
革を用いたものづくりを選んだ経緯、始めた頃に感じていたもの、そこから歳月を経て変化したこと、変わらない点をそれぞれお聞かせください
───前職は百貨店社員で、最初に配属された紳士革小物売り場で革製品を扱い革への知識を深めているうちに、どんどん革という素材の魅力にはまっていきました。でも自分がいいと思う経年変化豊かな植物タンニン鞣しの革で作られたバッグがその当時売り場にはなくて、自分で作ってみようと革工房がひらいている教室に通うようになりました。その後、フィレンツェでコインケースと出逢い、本格的に革のものづくりを学ぶようになっていきました。始めた頃は、切って、貼って、、まるで工作のようだな、と小学校の図工の時間に戻ったような感覚でした。最近になって漸く、作業一つ一つの意味を自分なりに解釈できるようになり、この小さな作業の積み重ねが美しさにつながっていることを心に留めながら手を動かせるようになった気がしています。
そして、今でも変わらないのはコインケースが出来上がったときの感動です。昔から継がれてきた形はなんて美しいのだろう、この技法を生み出し繋いできた先人はすごいなぁと、何度作っても思うのです。
質問3
今まで訪ねた中で、最も印象に残っている場所はどこですか。その時の思い出もよかったら少し教えてください
───フィレンツェにある師匠の工房です。古い道具の数々、つくりかけのものがそこらじゅうに置いてあって、師匠のご機嫌な鼻歌が BGM。少しずつ形になってゆくコインケース、師匠の手の動き、かけてくれた言葉の数々…
濃密な時間を過ごした分、今でも心に占める割合が大きい場所です。
最近では、昨秋に訪れた信楽のMIHOミュージアム。紀元前に作られたという古代美術品の数々を目の当たりにして、何千年も前から人はものを作ってきた。そして道具としての用途を満たすだけでなく、手間をかけて装飾を施していた。今、私たちがやっていることも何も変わらないなぁ、と可笑しくもあり、ひどく心をうたれました。

質問4
ご家庭では庭づくりも楽しみのひとつとお聞きしていますが、園芸や植物、庭のある暮らしは自らに何をもたらしていると感じますか
───庭に実生の野ばらの木があります。春に愛らしい白い一重の花をたくさん咲かせて、秋冬には赤い実となり小鳥たちを庭に誘ってくれています。小鳥たちが実をついばむ姿をみていると、こうして鳥たちが野ばらの種を運んできてくれて、この場に芽吹き、枝葉を伸ばし、花を咲かせて実をつけ、また鳥たちがやってくるのだなぁと、大きな循環のなかにいることを感じさせてくれています。
質問5
展覧会は春のはじまりを感じさせる季節かと思います。春のはじめの風情を感じるのはどんな瞬間ですか
───ミモザの甘い香りをかいだ時。庭の大木の遅咲きのミモザは3月下旬ごろに満開を迎えて、ほわほわした鮮やかな黄色と独特の甘い香りが庭いっぱいにひろがって、とても幸せな心地にさせてくれます。そして、まためぐってきた春に「ありがとう」と心から思える瞬間です。

質問6
循環は自らの体内でも起こり、生活環境や宇宙にまであらゆるところにありますが、土居さんが循環と聞いて頭に浮かべるものはなんでしょうか
───自然の大きな循環はなんて無理がなくて美しいのだろうと思います。
ものづくりもまた、大きな時の流れの中で無理なく循環するようにありたいと思っています。
革は、食べることから生まれる副産物で、先人が古の時代から暮らしに役立つ道具へと作り替えて使ってきた素材です。先人たちが自然の理のなかでしてきたように、手元にある素材を自分の手を動かすことで暮らしに役立つ何かにしていくことは、無理がなくて心地がよいなぁと感じています。
質問7
これまで継続して今のお仕事をされてきたと思います。向き合い続ける中でご自身が大切にしてきたつながりはなんですか
───縁あって出逢えた人とのつながりを、特に大切に思っています。想い続けているといつか自然とつながるような、そんな気がしていて、今展もまさに、そう。作り手のお顔やエピソードが浮かぶものは、暮らしの中で使うたびに心に潤いを与えてくれていて、私が作るものもこうでありたい、と思うのです。ものを作ることが人との出逢いやつながりへと導いてくれていることは、とても幸せなことだなぁと思っています。
土居祥子(どい しょうこ)略歴
1985年生まれ 地元の普通高校、大学を卒業
2008年 百貨店に入社
2014年 フィレンツェへ短期留学
鞄職人養成学校「scuola del cuoio」にてバッグ作りの基礎を学びながら、伝統工芸品を作る工房「Giuseppe Fanara 1989」にて修行
2018年 col tempoとして制作活動を始める
《col tempo はイタリア語で「時と共に」という意味
【時と共に 変わっていく、育っていく。 そんな、ずっと使い続けたい 革のもの】
をコンセプトに、フィレンツェの伝統技法を用いた縫い目のない革小物や革を纏うようなシンプルなバッグを制作》
渡邊文矢 つながり/循環 ④

お住まいのほうでお話を聞かせて頂いた後、次は工房スペースにもお邪魔させてもらった。
住居と同じ敷地内にある、母屋よりはもう少しちいさめの古い建物を改造した場所。
彫刻刀(ノミ)、そのほか手道具や電動工具。見える場所にあるだけでも彫刻刀(ノミ)はかなりの数。お聞きすると仕舞ってあるものを含めると彫刻のための刃物類は300本以上はあるということだった。刃の幅、厚み、角度など、すべてが微妙に異なり、それを使い分ける。必要なサイズや仕様のものはもうほとんど揃っているが、それでもいまだに少し買い足すこともあるという。
彫刻作品づくりと並行し菓子型の制作もされており、作業机の上には作りかけのものがあった。精緻な仕事ぶりだった。
渡邊さんの趣味が集められた窓際の棚。鉱物、動物の小さな骨片、貝殻、実験中だという赤銅色の金属の珠など。
収集物たちが硝子瓶の中できらめいていた。
最近は川原に赴いた際に、これはという砂岩の石を拾ってきて、球体をつくる遊びを極めているようだった。仕事の合間の思い立った時に、金槌を手にし、少しずつ少しずつ石の角を叩き、削り取っては、球体に近づけていく。一度やり始めたら、時間を忘れてどこまでもやれそうで、どこで完成と見極めるか。泥団子のもうひと段階上の遊び、と渡邊さんは笑っていたけれど、これはなかなか終わりの見えない、どこまでも行ける遊びかもしれない。
おみやげにと、球体をひとつプレゼントしてもらうことに。幾つかあった中から大きいものを選ぶ。球体好きだけにずっと触っていられる。
触れながら、木彫の作品制作もいったいどこで終わりを決めるのかという疑問が浮かんだ。
終わりのない面白さを楽しめるということ。
今度またお話を聞いてみよう。

──1日のリズムはいつもだいたいどんな感じですか?
渡邊:9時くらいから仕事し始めて。午前中からちょっと2時ぐらいまでは作品を作って。そこから菓子型をやって。夕飯食べた後もちょっと菓子型をやって終わり。

──リズムが決まっている感じですね。夕飯の後にちょっとだけ仕事して終わり、でまた絵日記を書いたりとかできる時間もあるっていうのはいいですね。近くまでみんなでお散歩行ったりとかするとかは?
奥さま:いやー、渡邊がもう一人で散歩に行く感じですね。
渡邊:誘うんだけど、あんまり行くという返事は…。まあ僕も一人でいろいろプラプラするのは好きなので。


──この辺のお気に入りスポットは?
渡邊:川の方に歩いていって、それで最後川をチラッと見てかな。たまに川に降りてこうやって石を拾って。
──見つくろっているわけですね。
渡邊:川沿いで金槌持って。ちょっと怪しい人になってしまうから、こそこそ川に降りて。こんな重たいでっかいカバンを持って帰ってくる。
──どちらにせよ目立ちそうですね。
渡邊:目立っていると思いますけど、そもそも皆あんまり歩いてないんで。さほど…いや余計に目立っているかもしれないけど。
──ご高齢の方が多い地域?
渡邊:そうです。家の中にいらっしゃる方が多いけど意外と皆さん近所の様子を見てるんで。
奥さま:すでに噂されてるかもしれない。
渡邊:ちょっと学術研究してる学者さんみたいにそれっぽくして怪しくないようにさりげなく見てます。本当は熱中して見たいんですけど、品良くやっています。
(了)
渡邊 文矢(わたなべ ふみや)略歴
現在、岐阜県在住
1985 東京都町田市生まれ 神奈川・岩手にて小中高を過ごす
2005 京都伝統工芸大学校 木彫刻科 卒業
2007 井波彫刻伝統工芸師 井口琇月氏に師事 職人仕事の合間に自分の作品を作り始める
2011 年期明け 独立
2020 Vima House維摩舎|中島GLAb(台湾) 個展
2022 san galerie|中島GLAb(台湾) 個展
2023 小器藝廊+g (台湾) 個展、ギャラリー上がり屋敷(東京) 個展、cut&paste select shop|中島GLAb(台湾) 個展
2024 Hase (名古屋) 個展、msb gallery (東京) 個展
2025 Ippuku林森40|中島GLAb(台湾)個展「HOME」、Galerie Satellite|ギャラリー上がり屋敷(パリ) 個展

