読み物
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ⑤


col tempo土居祥子さんがくださるメールにはいつも、季節ごとの風景や流れる時間に思いを馳せる文言が散りばめられており、それがとても心地よい気持ちにさせてくれます。
そこで、周囲の自然、
なんでもない毎日のひとつの瞬間も、目を凝らすと心動かされるものがたくさ
日々変わる空や、街を流れる川の水面の表情、差し込んできた陽射しが今日は特別澄んでいるなとか。
愛おしむように過ごす庭での時間は、作品にも知らず知らずのうちに良い影響を与えているのかもしれません。
※仕事部屋の窓際写真を除き、このページの植物や庭に関するお写真は土居さんからお借りしたものになります
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土居:制作とともにある日々の中で、
お昼ご飯は庭や軒下で食べることも多く、
窓を全開にして作業できるこの時期は、
この夏は、空に浮かぶ雲がおもしろいなぁと、
この夏から主な制作場所がリビングから2階の部屋になって、小窓からよく空の景色を眺めるようになったからだと思います。
目の前に広がる田んぼでは稲の収穫が終わって、
そして、自然が生み出す美しさには敵わないなぁと、
庭の紫陽花が好きで、ドライフラワーにして色が抜けていく様がとても興味深くて。青やピンクの花の色が抜け、緑になり、最後は茶色へと変化してゆく。緑や青で染めた革は日焼けなどの要因で退色しやすく、もとの革の色の茶色が混じるように浮き出てくるのですが、これも自然のことなのだなぁと思ったり。
庭で好きな場所は、下屋下とウッドデッキ。家の中と外の庭をつないでくれている場所です。
ここで染色などの作業をしたり、お昼ご飯を食べたり、
庭のお気に入りスポットは、
我が家の庭が一番華やぐ、春。ムスカリたちがはじめに咲き、そこからミモザ、チューリップ、
その後は大好きな紫陽花たちが色形さまざまに咲き、夏は雑草生い茂る緑の中に家庭菜園のプチトマトの赤が映えます。
秋はもみじの紅葉が夕暮れに美しく、
自然との関りは、
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col tempo 土居祥子(どいしょうこ)略歴
1985年生まれ 地元の普通高校、大学を卒業
2008年 百貨店に入社
2014年 フィレンツェへ短期留学
鞄職人養成学校「scuola del cuoio」にてバッグ作りの基礎を学びながら、
2018年 col tempoとして制作活動を始める
《col tempo はイタリア語で「時と共に」という意味
【時と共に 変わっていく、育っていく。 そんな、ずっと使い続けたい 革のもの】
をコンセプトに、フィレンツェの伝統技法を用いた縫い目のない革小物や革を纏うようなシンプルなバッグを制作》
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ④


今回初めて、
きっかけはcol tempo土居さん。
「制作の時には、必ずと言っていいほど三温窯 佐藤幸穂さんのマグカップと八角皿をおともにしています」
ということからでした。

三温窯さんは父子二代で作陶をされている窯。
お父様である佐藤秀樹さんが1983年開窯。
息子である幸穂さんが2010年から加わり、協業されています。

「大らかであたたかな安心感を覚えて、
という土居さんの言葉が表すように、
訪れた秋田県五城目町の工房。
2代目である幸穂さんと連絡を取らせて頂き、
豊かな木々に囲まれた広い敷地に工房はあり、移築してきたという古い木造建築の作業場、奥に進むとガス窯と登り窯の窯場が築かれていました。
そして住居(内装は少しずつ父・秀樹さんが自作し、増築部分は幸穂さんが基礎から作ったという見事なもの)も併設されていました。
幸穂さんに工房内を丁寧に案内して頂き、多岐に渡ってお話を聞かせてくださいました。
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佐藤:父は会津若松の宗像窯というところで七代目の方に師事して修業し、その後修行の年季が明けて秋田に来て、ここ五城目町で仕事を始めて40数年になります。器の形はその宗像窯の形が結構入っています。そこは民藝運動に関わっていた窯元だったので柳とか濱田庄司が窯を訪ねてきていたという話は聞いています。

私は、秋田公立美術工芸短期大学では漆コースで、短大の付属高校では金属コースでした。陶芸は避けていた気がします。ふにゃふにゃと柔らかいものより、金属や木材など手や道具でカキっとした形を立体物を作ることが好きでしたので立体であれば何でも興味がありました。その結果、いろいろな素材に触れる機会が多かったです。


研修所で漆芸を学んでいた時、先生から『塗よりも形を作るほうが向いている』との言葉をもらった時があり、はっとしました。塗のもので身近なうつわを作ることを考えた時に、塗椀は別ですけど、マグカップや皿なんかはやっぱり素材として陶器のほうに広い可能性を感じたんです。今となってみれば子供の頃からのの仕事をそばで見てきたことが自分の中では強かったんだろうと。


家業に入った頃、漆の影響があるのか、(自分の作る)形が硬くて。父は最初から土をいじっているので土の柔らかさなどが風合いに出ていますけど、私は木工とか、平面出すことを一生懸命やっていたので。乾漆も好きだったんです。石膏取りをして形を作るのが好きで。その乾漆の型の作り方を生かして始めたのが梅型の小皿だとか八角皿です。ただそれがやきものに適したやり方なのか悩むこともあります。父は型ものはほぼやっていなかったですし、私はほかの窯に修行へ行ったりはしていないので。よそでいろいろ経験を積んでおけばよかったかもしれないと思うことがあります。父のやり方しか知らないので。



良かったと思うのは、形などはよそでの影響は受けずに、自分がいいなと感じたものをやってこられた点でしょうか。
作りたい形が思い浮かぶと、形や用途によっては他の素材の方が良かったりするともったいないので土で作る良さを優先的に考えます。


→→→続きは⑥にて
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ③


土居さんはフィレンツェにある皮革職人の養成学校「scuola del cuoio」に短期留学し、鞄作りの基礎を学びました。
厚紙みたいなのに革のシートみたいなのを貼って、
面白いんだけど、なんか…
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ②


今回の展覧会がいつもとはちょっと違う形になったきっかけは、土居さんと三温窯の佐藤幸穂さんとのつながりから。
秋田県五城目町の三温窯さんのもとを取材で訪れた際、まずはという口ぶりで、佐藤さんが土居さんとの出会いを訥々と話してくださったのが印象的でした。
標準語とほぼ近い口調に、時折ほんの少しだけ混じる秋田弁と思われるイントネーションもまた優しくて。
出会いとご縁に感謝し心から向き合ってくださっている姿勢に、誠実であたたかな佐藤さんの人柄を感じました。
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佐藤:実は土居さんを知ったのは、2019年の「工房からの風」
その翌年。応募した2019年度の「工房からの風」
何回かあったミーティングのタイミングもそのまま過ぎていってし
コロナ禍に入りしばらくは野外イベントの機会もなくなりましたが
そこでずっとほしかったコインケースも買えました。色、
それがこれです。毎日身につけてます。ちょっと雑に扱っているかもしれないですね。もっと丁寧に扱ってあげたほうがいい感じに育つのかな。
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話しながら、5年越しに手にしたコインケースを大事そうに撫でて手の中に収めていたのがまたいいなあと思ったのでした。
これからますます佐藤さんの手もとや日々に溶け込んでいって、ふさわしい姿へと育っていくのでしょう。
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ①


土居さんの工房兼お住まいをお訪ねした日。
当初は販売員としての商品知識を充実させるべく商品展示会やタンナー(〈tanner〉とは、採取された皮をなめし加工しなめし革にする人やメーカーのこと)さんのもとに運んでいたのが、次第に革そのものの魅力、革を素材にものづくりする人々の思いに触れ、強く心を惹きつけられるように。

工房を兼ねたお店では、店頭で実際に革小物をつくる職人技を目にすることができたそうです。
物が生まれていく光景と、その魔法のような時間に魅せられた土居さん。
自分の好みの革を選んではバッグなどレザークラフトを趣味で行うように。
革のものづくりの工程や技術を学びたいという思い。
それとともに胸に浮かんでくるフィレンツェでの出会い、「Il Bussetto」のこと。
旦那さまのあたたかい応援と後押しもあり、土居さんはフィレンツェにある皮革職人の養成学校「scuola del cuoio」に留学し、鞄作りの基礎を学ぶことに決めます。
「師匠の制作作業が見られるのは、学校が終わってからの放課後、毎日1時間とかほんのちょっとでした。限られた時間の中だから、その日見せてもらえる工程にも限りがあるんですよね。終わったら当然、制作物は次の工程に進むわけですけど、師匠はひとつだけそのままの状態のものを残しておいてくれて。で、私が次に行ってから、前の続きからを見せてくれたりだとか。すごい優しくて。留学期間は3か月だけだったので、完成までの工程をひと通り見せてもらうまでで終わってしまいました。留学中にすべてを作れるようになったわけではないんです。だからこそ師匠が少しずつ教えてくれたものを思い出しながら自分で必ず形に出来るようにしたいって」
帰国して数年後の2018年、土居さんは「col tempo」を立ち上げました。

