読み物
はじまりまたはおわり おわりまたははじまり ②
銀彩で描かれたどこか愁いを帯びた動物たちと、触れたら溶けてしまいそうな白が印象的な磁器作家の竹村聡子さんが暮らす長野県飯田市。
彼女の冬の風景や風物を訊いた。
「積雪の日の晴れの早朝と真夜中が好きです。
一面真っ白に降りしきった雪上に太陽と月の明かりが照らされて、どの季節よりも一日中外が明るい景色に毎年飽きることなく感動します。
またその雪上に残る明らかに犬猫以外の野生動物の足跡があると、普段こんな場所を駆けているのかと彼ら息遣いのようなものを感じられることも嬉しいです。
私の住む土地は干し柿の産地で辺りは柿の木が多いのですが、冬場は野鳥たちの餌が少なくなるので鳥たちのために柿の木に少し実を残してある光景も好きです。
──竹村聡子」
はじまりまたはおわり おわりまたははじまり ①
竹村さんの暮らす飯田市も、とりもと硝子店さんたちの暮らす京丹波町も、雪のある冬が訪れる。
野生動物たちの足跡、川の水の青さ、切ない程茜色に染まる山、新しい透明と出会う感覚。
厳しさと静けさの中、冬ならではの自然の営み、人々の暮らしはいつもそこにあり、竹村さん、とりもと硝子店さんたちは、楽しさや美しさ、ほっとする情景を見出していた。
冬を慈しみ、今この時の中に新鮮な喜びを見出しながら、春へと歩む。
ぜひお運びください。
冬の家 ⑤
通奏低音のように。
それは物事の底流に在るもので、気付かぬうちに知らぬ間に、もの全体に影響を与える。「もの自体」だけではなく、根源となるその作家自身の存在は欠かせない。それだけに作品のみならず出展作家さんのことを少しでも知って頂きたいという思いがいつもあります。
今回は4人の方が集う展覧会ということで、それぞれの皆さんに一問一答形式でお答え願いました。質問テーマに冬を織り込み、感じ方、過ごし方、楽しみ方などから作品や人柄が淡く浮かび上がるようです。
それぞれの方の作品からイメージを膨らませた「冬の家 小話」も合わせて掲載します。
①自己紹介をお願いします
石原── 1997年 愛知県立窯業高等技術専門校 修了。
瀬戸でやきものを学んでから随分経ちますが現在は、名古屋の西隣、津島という街で白、黒、無彩色のシンプルなうつわを制作。
個展、グループ展を中心に活動しています。
②冬は好きな季節ですか?苦手な季節ですか?
石原──寒いのが苦手なこともあって、冬はどちらかと言えば苦手な季節
でもここ数年は寒い冬は暖かい部屋で温かいものを食べると言う楽しみも見つけたので今展の冬の家では温かい食卓をイメージして制作したものをいろいろ展示したいと思います。
③ご自身の冬の暮らしで欠かせない暮らしのアイテムを教えてくだ
石原──私の冬の暮らしに欠かせないものは取手のないカップ。
仕事の合間や寒い外から帰ってきた時に温かい飲み物をカップに入れて両手を温めながらホッとできる冬に
④秋の終わりから冬にかけて様々な風物詩がありますが楽しみにし
石原──紅葉狩りに行くのも楽しみですが家の近所で色づいていく街路樹の様子を眺めるのも秋から冬にかけ
⑤今年の冬にやりたいことを教えてください(新しいことでも、毎
石原──冬の定番、作業場のストーブで焼き芋。
今年もまたやりたいです。
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冬の家 episode04
目下就活中の大学生の彼女(21歳)に、遅まきながら始めたアルバイトの初給料が出た。
幼い頃、母に手を引かれながらごくたまにだけ入る作家もののうつわの店があった。
「素敵ね」
と言いながら数々のうつわを前に、母はいつも見るだけで、決して買うことはなかった。
女手一つで自分を育てずっと応援し続けてくれた母に、何かうつわをプレゼントしたいと考えていたある日、彼女はふと通りかかったうつわ店のウインドウの前で立ち止まった。
ウインドウの向こう側に並んでいる、味わいある濃淡と柔らかな丸みを描いたきれいなグレーのゴブレット。
これを母と自分のとを二つおそろいで買ったら?
お酒もようやく飲めるようになったから。
いつもは素直に言えない〈ありがとう〉の言葉も添えて。
母と一緒にこれで飲んでみたい。
かすかな緊張を覚えながら、店のドアを押した。
バイト代が入った財布をお守りのように胸に抱き、この冬、彼女は生まれて初めて、一人うつわの店へ、ゆっくりと足を踏み入れた。
冬の家 ④
通奏低音のように。
それは物事の底流に在るもので、気付かぬうちに知らぬ間に、もの全体に影響を与える。「もの自体」だけではなく、根源となるその作家自身の存在は欠かせない。それだけに作品のみならず出展作家さんのことを少しでも知って頂きたいという思いがいつもあります。
今回は4人の方が集う展覧会ということで、それぞれの皆さんに一問一答形式でお答え願いました。質問テーマに冬を織り込み、感じ方、過ごし方、楽しみ方などから作品や人柄が淡く浮かび上がるようです。
それぞれの方の作品からイメージを膨らませた「冬の家 小話」も合わせて掲載します。
①自己紹介をお願いします
岩本──拠点はなく
場所 人 物 を透し、小さな輪の中からgallery イベントの 「 空間 」 を
様々な素材を使い、創る 仕事をしています
②冬は好きな季節ですか?苦手な季節ですか?
岩本──冬がすきです
一番すきな季節 冬生まれだし
母の故郷のグレーな空がすきだったからです
③ご自身の冬の暮らしで欠かせない暮らしのアイテムを教えてくだ
岩本──靴下
毎年靴下を贈ってくださる方がいて
普段 春 夏 秋 ほとんど靴下を履く暇がない(ビーサンだから)ので 毎年いただいた靴下を履いて散歩するのが好きなのです
④秋の終わりから冬にかけて様々な風物詩がありますが楽しみにし
岩本──楽しみ
芹を食べること
お雑煮 うどん たっぷりのせて食べること
⑤今年の冬にやりたいことを教えてください(新しいことでも、毎
岩本──また新しい場所に行くので
毎日散歩をしたり
氏神さまにお参りにいきたいです
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冬の家 episode03
在宅ワークで翻訳の仕事をメインにしている彼(36歳)は、外で働いているパートナーの帰りを待っていた。
もうすぐクリスマスの季節が来るけどあんまりそれっぽいのは照れくさいから、いつでも飾れそうなボタニカルな雰囲気のオーナメントを買ってみた。
あまり見たことのないドライの植物や布の端切れが巻かれた、ちょっと不思議な、でも懐かしいような雰囲気だ。
「またそんな余計なものを買って」
そうパートナーはぶつくさ言うかもしれないけど、好きなものの趣味は似ているから、買ってきたものたちのことをいつも案外気に入ってくれているのは知っていた。
いとおしむようにそれらを見つめる目がとても好きで、やっぱりいいでしょ?と訊くと、まあ悪くないかもねと、ちょっとひねくれた返しをしてくる。
そうやって二人でああだこうだ言いながら、たとえばカーテンをあたたかい素材に変えたり、開け放していた扉を閉めるようにしたり、家の中をあたたかくしつらえて彩る時間が僕らの冬には大切なんだ。
冬の家 ③
通奏低音のように。
それは物事の底流に在るもので、気付かぬうちに知らぬ間に、もの全体に影響を与える。「もの自体」だけではなく、根源となるその作家自身の存在は欠かせない。それだけに作品のみならず出展作家さんのことを少しでも知って頂きたいという思いがいつもあります。
今回は4人の方が集う展覧会ということで、それぞれの皆さんに一問一答形式でお答え願いました。質問テーマに冬を織り込み、感じ方、過ごし方、楽しみ方などから作品や人柄が淡く浮かび上がるようです。
それぞれの方の作品からイメージを膨らませた「冬の家 小話」も合わせて掲載します。
①自己紹介をお願いします
波多野──ガラス(パート・ド・ヴェール寄りのキルンキャスティング技法)
②冬は好きな季節ですか?苦手な季節ですか?
波多野──冬は2週間ぐらいなら好きですが、現実的には苦手です
③ご自身の冬の暮らしで欠かせない暮らしのアイテムを教えてくだ
波多野──ウールのルームブーツ
④秋の終わりから冬にかけて様々な風物詩がありますが楽しみにし
波多野──衣替え
⑤今年の冬にやりたいことを教えてください(新しいことでも、毎
波多野──断捨離
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冬の家 episode02
「ああ、寒う。早く家に帰ってご飯作って食べて、ぼーっとしたい」
書店販売員を長く務める彼女(47歳)は、ようやく一人娘が地方の大学へ進学し、夫は単身赴任となった今年から、数十年ぶりのシングルライフを送っていた。
帰りの道沿いにある美術館のナイトミュージアム寄り道コースも捨てがたいのだけれど、寒くなってきたこの頃は仕事が終わったらまっすぐ家に帰って諸々を済ませてからの、おこもり時間コースがめっぽう気に入っている。
家に着き一通りのことを済ませ、寝室のドアを開け、電気のスイッチを入れた。
部屋の中央の辺りだけがぼんやりと浮かび上がり、柔らかいガラスの灯りに包まれる。
たくさんの文字を追って疲れた目を癒すように、眼鏡をはずす。
さて今夜は何を聴こうかな、とスマホのプレイリストから音楽をかける準備をする。
やがて静かに空間を震わせるようなウッドベースの低音が鳴りはじめた。
彼女はそのリズムに呼応するように、お気に入りの銀色のオブジェに手を伸ばすと、そっと指で弾いて揺らした。