小さな光。きらめく入口が開いた。
当たり前のものならばトンネルを潜ることはできる。いくつかたずさえてくるものの中に、折形で包んだスプーンなどのカトラリーがある。紙を折り結ぶと、包みが生まれる。昔から、結ばれたその中には神が宿るといわれる。おむすびの中に宿る神さまに今日こそ会えるだろうか。まだ見ぬ場所や人たちにも、結んで包んだカトラリーならきっと手渡せる。
滝はトンネルに近い。どんな滝も、その流れの後ろには深い洞穴を抱えている。実際にそれがあろうとなかろうと。この町には布引屋という店が、何軒かある。布引屋は宙に布を引いて滝をつくる。滝の後ろにはトンネルがあり、それは異なる世界へと繋がっている。僕はそこを通ってこの町に来る。いくつかのものをたずさえて。たいしたものは持って来られない。スプーンとか、石ころとか、当たり前手間日常的なものだけだ。路地を吹き抜ける風や、水脈から溢れ出す水のように、極めて当たり前のものしかトンネルを潜ることはできない。過度なものや、企みはそこを通れない。スプーンや石ころは布引屋の店先に並べられる。それらは、僕らの世界にとっては極めて当たり前のものだけれど、少しだけ層の違うこの世界では、ほんの少し刺激的に見える。ちらほらとお客さんも来るし、うまくやれば異人館も建つ。この世界の人達は想像する。少しだけ層の違うもの達が、初雪みたいにうっすらと暮らしの上に降り積もることを。僕は滝の裏側で想う。この世界の蒼のに強い空とか、川底を正確に描写しない水面の光り方を。そうしているうちに、地層は順番を変える。滝は、棚引く布になっている。text by Takeo Suhara