読み物

ふつうの 少し先の 風景 ④

一問一答 |吉田 慎司さん編

一問一答|吉田 慎司さん編


一問一答|“やはり、自分は永遠のクラシックだと思っているのですが、手箒です


出展作家さんのことを少しでも知って頂きたいという思いのもと、この度もご紹介記事を上げております!
今回はいつもと趣向を変え、スタンダードに一問一答形式にしてみました。
どきどきしながら質問をお送りし、そして戻ってきた回答にまたどきどきしながらまずは店主の私が読むというもしかしたら一番自分が楽しかったかもしれないとはたと思ったりもしましたが。
シンプルな形式ですが作家さんのふだんの表情や過ごし方、考え方などもちらりと覗くことができて興味深いものになりました。
一問一答形式、そして末尾には店主の私が思い浮かんだ小文というスタイルになっています。




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質問1 自身の制作をする上でもしくは日々暮らす中で大事にしている本あるいは映画はありますか?もしくは仕事をしている時によくかける音楽などはありますか?

吉田 ―最近の持論として、工芸を工芸足らしめるものは詩情なのではないか…という思いがあります。
機能、歴史、背景、色々あると思うのですが、人の核心に届き、心を動かす事が要なのでは。という思いです。
という事で本のお店の中にアトリエがあることもあり、詩集や歌集には日常的に触れているのですが、現代歌人は豊富過ぎて絞れません。(笑)
(土地柄、敢えて影響を多く受けたと言えば、山田航さんでしょうか…現代短歌の入り口に、山田航さんの『桜前線開架宣言』をおすすめします。)
こちらでも、少し紹介していたり…
https://www.syoten-navi.com/entry/2019/05/13/090000

映画はヌーヴェルヴァーグが好きです。
ガチャガチャしたり、オチのある様な映画は苦手で。隙間の味わいこそ本分だと思っています。

何時間かはルーティンでニュースや報道を聞いています。
民衆やマイノリティの側に立ちたくHIPHOPも毎日必ず聴いています。
が、これはこれで長いので別の機会に…(笑)




質問2 座右の銘や好きな言葉、大切にしている言葉があったら教えてください。

吉田 ―最近小説はあまり読めていないのですが一番偉い小説家だと思っているのがドストエフスキーで、カラマーゾフの兄弟に出てくるゾシマ長老の発言の中の「全人類の幸福と調和」という言葉が好きです。
ビッグスケール…




質問3 手仕事のものでご自身で大事にしているもの、使っているもの、(所持していないけれど)記憶に残っているもの、いずれか教えてください。

吉田 ―愛用の道具とも繋がるのですが、作業に使う菜切包丁ですかね。
通っていた大学の近くに元大工の棟梁がやっていた刃物屋さんがありまして。
美大の近くなので、学生がよく来る店ではあるのですが1本買うにしても「砥石はあるのか?」「研ぎ方わかるか?」と聞いてくる面倒な刃物屋さんでした(笑)
ただ刃物の事は本当に大好きで、聞けば2時間でも3時間でもお話してくれる。
長居すると奥から奥さんまで出て来て説明に加わって、職人仕事の窮状を嘆く話を延々とするという…商売する気があるのか無いのか分からないお店。(笑)
自分にとって初めて触った鋼の刃物。
ステンレスに比べれば切れ味は世界が違うという感じです。

「きちんと手入れすれば、一生じゃなくて二生使えるよ」という言葉を信じて大切にしています。
売るものと、話す事と、愛情と知識が寸分なくくっついているようで…信頼できる道具という、職人の入り口に立たせてくれた方のように思います。




質問4 今回制作されている中で、特に力を入れている作品、ご覧になってほしい作品について教えてください。

吉田 ―やはり、自分は永遠のクラシックだと思っているのですが、手箒です。
片手で使い、性能を求められるTHE・道具 に位置するものだと思います。
パッと見てわかる方もあまりいないとは思うんですが、いつも、編む強さやサイズ感、密度などが微妙に変化していて理想に近づくようにしています。
そんな細かい調整をするのは常に完成とする理想があるからで…長年培って来た中での黄金比のようなものがあるのだと思います。
上手くいったな!というものはいつも先に売れていくので、見た目ではなかなか分からなくても伝わっているのだなーと思います。




質問5 三人展、ご自分以外の橋本晶子さんや金城貴史さんの印象、或いは籠や木の匙について思う浮かぶイメージのいずれかを教えてください。

吉田 ―すず竹細工は真竹の北限以北で育まれた非常に郷土性が高い仕事だと思っていて、郷土の仕事に憧れる身としてはすごく好きな素材です。
地元だと、みんな家にある、という事で…土地に紐付く仕事、というのは自然の理に適っていて、必要とされる仕事なのだと思います。

木の匙は本当に道具としての機能が求められる仕事で、歴史や背景が面白いですよね。

中世ヨーロッパには皿や食器のない時代もあったり、西洋のスプーンは皿を持ち上げない事を前提としているので作りが違いますし、箸以外の精巧な木の食器が日本で使われた歴史は以外と長くないのでは?という気もします。
文脈おたくなのでどんな思考で作っているのか…と、想像するだけでドキドキします(笑)。


※本文写真は吉田さんより
年季の入った刃物は文中でも触れている愛用の菜切り包丁





*****

吉田慎司さんのこと

もう長いお付き合いになります。
たぶん10年近く。
お会いしたときから知識も多岐に渡って豊かで、その豊富さには圧倒されるほどで憧れにも似た気持ちを抱くつくり手さんです。
本当にありがたいことにご一緒にお仕事させて頂く恩恵にも預かりながら、箒以外の吉田さんの世界観も楽しませて頂いております。
現在札幌を拠点とする吉田さんは箒づくりだけでなく、詩歌にも造詣が深く、詩歌に力を入れた書店も経営しながら、その書店内にご自身の作業アトリエを持っています。
言葉にいつも熱意を感じ、様々な事象について考えを述べる姿はよく見させてもらっていましたが、ご自身の箒の造形については今まであまり聞いたことがないなと思っていました。
そこで今回のQ&Aに加えて、更に次のような質問をしました。

『理想というのは吉田さんご自身の頭にあるものなのでしょうか?或いは、たとえば最初に箒作りの教えを伝授してくださった柳川さんの箒が頭に浮かんだりするのか?長年培って来た中での黄金比とも書いていらっしゃるので、あらゆるものが心のうちで混ざり合い抽出され、今ご自分の中にあるのでしょうか?ふだんはよくお考えや思いといったことは目にしたり耳にしてきたけれど、具体的に美しいと思う形だったり、理想としている箒の姿の話をお聞きしたことがなかったなと思い当たり聞いてみたくなりました』

とボールを投げると、こんなお返事が。

『そうなんです、伝えたい思いが先行しているので(笑)造型に関して話題にすることがすごく少ないのですが…
師匠らの形と、色々な所で見た物。また自分の作ってきたもの。もしかしたら箒以外のものなどのデータベースに似た体感があって着地点がくっきり見えている感じかと思います。最近自覚したのですが…
先日テレビの細かい取材があって具体的に聞かれたのですが、イメージなのでなんとも言えないという感じ、ですが。たまにできる、上手くいったなー!というものは近い形になっているのだと思います』

言葉を多彩に操る知的な印象の吉田さんですが、制作となるととても繊細な意識の中で探りながら毎回の仕事を積み重ねているのだということが分かり新鮮でした。こんなにも溢れるような感覚を持ったつくり手さんもそうそういないんじゃないかと思います!

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