読み物

夏の家 ②

石井美百さんに訊く

石井美百さんに訊く


7月展「夏の家」では4人の方に出展して頂きます。
建築家 久米岬さん、青竹編組の石井美百さん、イラストレーターの火詩(ひうた)さん、ガラス造形の森谷和輝さんです。
それぞれから生み出されたものたちが、同じ場に集まって、夏の家は呼吸し始めます。

4月に行われた展覧会打ち合わせ。
竹の石井さんは一番ご近所で垂水区のご自宅からやって来てくださり、他の三人とはまったくのはじめましてという状態。
建築家の久米岬さんとイラストレーターの火詩さんは、パートナーとして東京で二人暮らしをされており、この日も東京から。
そして、久米さん、火詩さんとはすでに何度も面識のあるガラスの森谷和輝さんは敦賀からいつものようにお越しくださりました。
4人の皆さんと一緒に顔を合わせ、それぞれが感じていること、考えていることを出し合いながら、少しずつ少しずつ皆で船を漕ぎ出しました。

あともう少しだけ4人の皆さんそれぞれの、心の内側、思考の内側のような部分も見てみたいと、質問を投げかけさせて頂いたり、インタビューをさせて頂きました。

展覧会に興味を持ってくださっている方にも、ぜひ読んで頂いて、足を運んで頂けると嬉しいです。


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――石井さんは紆余曲折も経て竹細工を習い始めるに至ったわけですが、それに至るまで大変なことはなかったですか?

石井「竹細工を学びたいという思いが強くなったころ、まず学べる場がなかなか見つかりませんでした。幸運にも主人が竹細工の盛んな大分に転勤になり、そこで一年近くいろいろなところに出向き、ようやく教えてくれる先生を探しあてることができました。もう執念ですね」


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――今回ご出展の皆さんが仕事にしている建築、絵画、竹細工、ガラス工芸はどれも「目指したい」という人が多い分野だと思いますが続けるにも苦労はあるはず。挫折を感じた出来事、そういった気持ちを抱いたことはありますか?うまくいかないと感じた時の乗り越え方は?

石井「竹細工を先生から教わった期間は2年弱、ひと月に2、3日程度だったので、まだまだ学びたいことがたくさんある中、神戸に戻りました。戻ってから販売するに至るまでの3年間は本当によく悩み、悶々とした日々を過ごしていました。何を作りたいのかも分からない時期もありました。技術的に上手くいかないことも多く、相談できる先生や先輩が身近にいたらいいのに、といつも思っていました
自分が家で使いたいものを作ったり、親戚や友人に頼まれて要望に添えるようなものを考え作っていくうちに、少しずつ覚悟のようなものが自分の中で固まってきたように思います。
できないことにとらわれるのではなく、自分が今出来ることに目を向けて、その中で精一杯のものを作っていく。
もちろんうまくいかなくてやる気を失う日もありますし、後退してるように感じることもあります。そんな時はふて寝したり、逆に体を動かしたり、どうせやらないといけない家事をしたり…と、ひとまず逃げて気分を変えます。
精一杯の気持ちと力で制作を続けていくことで、少しずつ前進していくと思います。そう信じて日々手を動かし続けています。」


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石井「ちょうど見頃の庭のアジサイ 挿木でいただいたものばかりですが、大きくなってきました」(写真も石井さん)


――今の取り組みを続けている原動力はなんですか?


石井「原動力は、単純に'好き、楽しい'という気持ちと、作ったものをいいと言ってくれる人の存在です」


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石井「道具一式を入れている竹かご。別府で竹細工を学び始めた頃に、先生に教えてもらいながら制作したもの。当時、想像以上に丈夫で驚きました。包丁などの重い道具を入れて持ち運んでも全く問題ありません」(写真も石井さん)


――ご自身の制作や作品のよりどころ(物質的なものでも、精神的なものでも)としているものを教えてください。


石井「竹細工は自然の中にあるものを材料としています。少し手を加え、自然を感じながら使い、最後に自然に返っていく…。自然の恩恵を享受し、寄り添いながら暮らしたいと想っています。その想いが制作のよりどころになっているような気がします」


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――「夏の家」にちなんで。幼い頃でも大人になってからでもいいのですが、家での夏の過ごし方に関する思い出を教えてください。またお気に入りの夏暮らしの風物(例:蚊取り線香の香りとか、庭先での花火とか)はなんですか?

石井「夏の家というキーワードで思い出すのは夕立です。子どものころ、夏の午後にはよく夕立があり、あわてて家の中に入り、窓から大粒の雨を朝顔越しに眺めていました。夏暮らしの風物といえば、よしずやすだれです。東向きに大きめの窓があるので、梅雨明けと同時によしずを立てかけます。朝の日差しが柔らかくなり、見た目にも涼しげです」


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石井「かわいいメダカ。長年の念願叶いました」(写真も石井さん)


――ご自身が手がけたものは、手に取ってくださる方にとってどのような存在であってほしいですか?

石井「日常使い出来るものを作っているので、それを使うことで少しでも心が温かくなったり、気持ちが豊かになったり…。そんな存在であってくれたらとてもうれしいです」


(了)


石井 美百(いしい みほ)略歴

1975   宮崎生まれ
2017   大分の別府や安心院で竹細工を学ぶ
2019   神戸に戻り地元の竹を使った制作を開始
2022 5月、テノナル工藝百職にて茶碗かごの受注販売会を初開催 10月、竹かご編みワークショップを開催
2023  弁当箱の販売を始める

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