読み物
ふつうの 少し先の 風景 ⑥
作品紹介|橋本 晶子さん
橋本 晶子(はしもと・あきこ)略歴
1978年 宮城県生まれ
2007年 岩手県二戸郡一戸町にある「もみじ交遊舎」で竹細工を学ぶ。柴田恵氏に師事。
2014年 「工房からの風」に出展
2015年 日本民藝館展 入選
今回はまず小さめの荒物から出来上がった竹細工たちを橋本さんは届けてくださいました。
荒物は、ざるや椀籠などごくごく普段づかいする道具たちのことをそう呼びます。
そして材料となるすず竹やひごも見本として送って頂きました。
左から。
採ってきたままのすず竹。
本当に細く、直径8ミリほどです。
採った時は皮がついていて、橋本さん曰く
「傷がつきやすいので皮をとる作業は丁寧に行っています」。
次に、皮をむき、二つ割りし、肉と呼ばれる身の部分を専用の道具で削ぎ落とします。厚みを揃えるためです。
左は荒物用のひご。
肉を削ぐといっても、荒物用はほとんど薄くせずに使うそうです。
右が、特上の手提げ籠などに使う用の特上仕上げのひご。
こちらは折れないように気をつけながらもっと薄くしてきれいに仕上げます。
作るものによって肉の厚みを変えるなどして、その物に見合った耐久性や造りに合ったひご作りの作業は本当に大事な作業。
最後に、以前工房にお訪ねした時の様子を掲載しました。
柄ざる
地元のお蕎麦屋さんに、実際に使う厨房道具として作ってお届けしているそうです。
すず竹をホオノキに巻きつけた部分も美しいです。
手つき楕円笊(ミニ)
岩手すず竹細工といえば、この楕円型の笊でしょう。
楕円型の笊は時々見かけますが、この構造の楕円ざるは岩手のすず竹細工独特の形です。
もとは箕笊といって、大きなちりとりのような形をした片側だけ口が開いている笊がこの地域では作られていました。
そこから両側の口を開けた形にし手をつけ、また別の使いやすいものを新たに生み出した、ということではないかと考えられます。
場所によっては「両手箕笊」という呼び名を聞いたりもします。
椀籠(小) 魚籠型の花かご
椀籠も魚籠も、岩手すず竹細工独自の姿をした荒物です。
今回は春という季節を思った橋本さんが、草花をあしらえる籠を、と考えてくれました。
この椀籠も鉢カバーになるくらいの小さいサイズ。
魚籠もやはり普通よりは少し小ぶりで、花かごで使ってみてくださいというご提案です。
すず竹の柔らかな若竹色と、柔らかな質感が編み目と相まってとても美しくつややかに輝いています。
角壷笥(つのつぼけ)
つぼけは農作業や収穫作業の際に、紐を通して腰に巻いて使う籠です。
これは角型のつぼけで写真、それをつのつぼけと呼びます。
今回のこのサイズは橋本さんの中では中型だそう。
(前回の展示では小型のつのつぼけがあり、はがき入れになどにちょうどよかったです)
紐通しの部分をフックにひっかけてみました。
針山(クッション部分はホームスパンの生地)
この小さな針山は伝統的なものではなく、橋本さんが考えてずっと作っていらっしゃるもの。
お師匠さんにはこういった遊びのものというか雑貨的なものを作ると渋い顔をされるということでしたが、現代的な感覚でいうとこういった小さなものも竹細工の入門アイテムとしてはぴったりだと思います。
ここからもっともっとすず竹細工の魅力を知って頂ければ嬉しいです。
手提げ籠(籐仕上げ)
いつも幾つか手提げを出してくださる橋本さん。
今回もかなり凝った編み模様を採用しています。
アランニットのように途中の切り替えがモダンで、さぞ手がかかるであろう…
これもまた伝統的な編み方の一つだそうですが、とても手間がかかるため今ではほとんど誰もやらないという。
ぜひご覧になってみてほしいもののひとつです。
2019年に訪れた、橋本晶子さんの工房で見せて頂いたひご取りの作業。
(ひご取りの呼称は、地域によって異なります)
まず「竹ひごの幅を揃える」工程。
V字状に固定されているものにはそれぞれ刃がついています。
この間にひごを入れ、押さえて引く。
そうして竹ひご一本一本が同じ幅で揃うのです。
もちろん、ほしいひごの幅サイズは作りたいものによって異なります。
「荒物の道具入れには太めの幅のひご、こちらのお弁当箱は細めのひごを」というように。
ですからひごによって、このはば取りのV字刃物も「間の幅の調整」をする必要があるわけです。
次はひごの肉をそいで厚みを揃える工程。
ここも機械などは使わず、刃物でそいでいきます(方言では「へぐ」と言ったりもします)
作業をしながら、橋本さんが
「最近は熱帯化が進んでいるみたいで、すず竹も柔らかくなっているからあまり薄くし過ぎないように気をつけている」
と言って、しなり具合を確認したり。
そもそも「厚みを揃える」というのは「しなり具合をできるだけ均一にする」という意味があるのでしょう。
そうすることで編む工程で編みやすさに繋がり、出来上がる品の実際の使い心地や強度に繋がるのです。
しかし竹だって個体差もあり、しなやかなものから硬めのものまでいろいろあり、この一本一本を見極めながら作っていくのは大変なこと。
作るものによってはこの竹ひごが100本必要な時もありますから、ひご100本作るというのはかなりの肉体労働。
竹細工は材料8割、なんて言葉もあります。
今までも竹ひごの話はうざいくらいに書いてきましたが(苦笑)、ひごの長さ、幅、厚みを揃えるのは本当に大切な工程です。
それは何故か。
①美観
編み上がった時の美観のため。一定の法則により端正な編組模様を生み出すわけですから、たかが数本であっても不揃いな竹ひごが混じってしまうと竹細工最大の魅力が損なわれてしまいます。
②編みやすさ、強度
編む工程で竹ひごの仕上がり精度が不揃いだと編みにくい。厚みやしなやかさが大きく違ってしまうと、ぶ厚いとしならなくて編めないし、薄かったら折れてしまいます。作業の効率も落ちます。そして出来上がったものの強度もまちまちになってしまいます。
これ以外にもあると思いますが、最終的に良いものを完成させるための下積みや下ごしらえ工程が、かなり大きく左右するのが竹細工だろうと感じます。
ほかにも年ごとに収穫時期によっては、竹の変色スピードが速い遅いなどもあるそう。
「編んだけど、思ったより早く茶色くなってしまったのですず竹らしくないから、展覧会に出すのをやめたものをあるんです」
とおっしゃっていました。
もったいないかもしれない。
けれどそういった細やかな見極めの積み重ねが今まで長く続いてきた岩手すず竹細工の伝統であり、そして一人のつくり手として橋本晶子さんが作り出す竹細工の「丁寧で誠実な美しさ」そのものなのでしょう。