読み物

YUTA 須原健夫 境界を潜る ①

滝はトンネルに近い

滝はトンネルに近い

滝はトンネルに近い。

どんな滝も、その流れの後ろには深い洞穴を抱えている。
実際にそれがあろうとなかろうと。

この町には布引屋という店が、何軒かある。布引屋は宙に布を引いて滝をつくる。
滝の後ろにはトンネルがあり、それは異なる世界へと繋がっている

僕はそこを通ってこの町に来る。
いくつかのものをたずさえて。
たいしたものは持って来られない。スプーンとか、石ころとか、当たり前手間日常的なものだけだ。
路地を吹き抜ける風や、水脈から溢れ出す水のように、極めて当たり前のものしかトンネルを潜ることはできない。過度なものや、企みはそこを通れない。

スプーンや石ころは布引屋の店先に並べられる。
それらは、僕らの世界にとっては極めて当たり前のものだけれど、少しだけ層の違うこの世界では、ほんの少し刺激的に見える。ちらほらとお客さんも来るし、うまくやれば異人館も建つ。

この世界の人達は想像する。少しだけ層の違うもの達が、初雪みたいにうっすらと暮らしの上に降り積もることを。
僕は滝の裏側で想う。この世界の蒼のに強い空とか、川底を正確に描写しない水面の光り方を。

そうしているうちに、地層は順番を変える。

滝は、棚引く布になっている。



text by Takeo Suhara

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