2021.04.11 Sunday

読み物

ふつうの 少し先の 風景 ⑤

  • 作品紹介|金城 貴史さん

    作品紹介|金城貴史さん

    金城 貴史(きんじょう・たかし)略歴

    1981 兵庫県西宮市生まれ
    2010 長野県上松技術専門校木工科修了
    2011 奈良県にて匙の製作を始める
    2016 岐阜県中津川市に移住
    2021 現在同地にて製作


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    金城さんを初めてお見かけしたのは、京都の知恩寺での手づくり市だったような気がしています。
    はっきりした記憶じゃないのは、その当時行く先々のクラフト系のイベントや市で何度もお見かけしていたから。
    どのイベントでだったかな、と記憶の糸がこんがらがっている。

    金城さんが独立されてほやほやの2011年頃、私もいろいろなイベントを巡って歩いていた時期、偶然お見かけしていたのでしょう。
    初めて話したのは、たぶん静岡手創り市だったでしょうか?
    お顔は見かけていたのに、話しかけるまで結構時間がかかりました。
    あの時お話することができたから顔見知りにもなれましたし、こうして今回の展示まで続いてきました。
    本当によかったなあとしみじみ思います。



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    以前使用していた材はもう少し多岐に渡っていた覚えがありますが現在はもっぱら写真のイタヤカエデを使用されているそうです。
    分厚い。

    (あとは制作に応じてヤマザクラや栗等々、異なる材も入れていらっしゃいます)
    木の肌がきめ細やかで、独特の光沢を放つ木目が特徴的です。
    木材の中でもカエデは堅い部類に入ると思います。

    せっかくなので、金城さんがメールで説明してくれた文を引用します。

    *****
    ちなみにお送りしたイタヤカエデの板ですが、あの厚みだと、一つの墨付けから2本の匙が取れます。
    チョークで囲んでいる部分は、繊維の流れが大きく曲がっているのと、芯割れが入っているので、匙としては使えない部分です。
    黒い箇所はカエデ特有の金条(カナスジ)と呼ばれる鉱物質が堆積した部分で、硬いことが多く、削ると刃が欠けます。
    カナスジは強度的な問題はないので、使える時はそのまま匙にします。
    *****

    匙の素地を仕上げする時、大概の制作方法ではサンドペーパーを使って表面をなめらかにすることが多いです。

    しかし金城さんはご自身でよく研いだ切れる刃物でこつこつと彫って仕上げまで持って行っているので、彫った跡が荒れることなく本当になめらか。
    サンドペーパーを使うことは今もないそうです。
    手に取って間近で見た時に「これサンドペーパー使ってないって、えええ!」と驚愕し衝撃を受けたことをよく覚えています。

    刃物を砥ぐ、ということも実はひとつのかなり大きな技術です。
    木工で食べているプロのつくり手さんでも「刃物砥ぎは苦手」という方もおられます。

    (だって毎日台所に立ち料理の腕をふるう主婦の方でも、大事な道具とは言え包丁研ぎまでは自信持ってできます!と言える方、そう多くないですよね)

    刃物を研ぎ澄まし、その刃物を扱う技術も、これまでの年月をかけて高め磨いてきた金城さんの姿勢。

    制作の基礎を支える部分をおろそかにしない、ということにとても信頼を寄せています。
    堅い材でも、よく切れる刃物であればより美しく滑らかに切削することができますし、タヤカエデと金城さんの刃物はすごく相性がいいだろうなと思います。


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    大きいほう| 匙A、フォークA(古色) イタヤカエデ
    小さいほう| 匙a、フォークa(弁柄) イタヤカエデ

    西洋アンティークカトラリーを想起させる佇まいで、その通りにヨーロッパ圏で見られるような金属製カトラリーの意匠が看て取れるシリーズ。
    正面からは首もとのエレガントにシェイプされた姿が優美。
    しかし横から見たフォルムは以外にもしっかりとした太さを持ち、木という素材が持つ生命力や力強さが溢れている。

    小さいほうのフォークaはケーキフォークとして使えるような造り。
    刺す部分の左側だけが少し太く作られていて、横にして堅めの菓子や果物を切り分けようとする時もここでしっかり押したり切ったりができる。


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    匙C(古色) イタヤカエデ

    頭部分は楕円の丸みが広々としている。
    たっぷりと掬える印象で、人によってはカレースプーンによさそうと選ぶかもしれない。
    柄は細身だが、握りこんでも疲れないような丸みが軸から柄の先までを優しい線を描いている。
    全体がとても微妙なカーブを描いていて、口の中へ運びやすい感覚を覚える。
    写真だと平面的に見えるかもしれないが、実際はゆるかな曲線が印象的で美味しい食事をすいすいと心地良く口中へ運び込んでくれそうである。


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    大きいほう|匙B(古色/弁柄) イタヤカエデ
    小さいほう|匙b(古色/弁柄) イタヤカエデ

    匙とレンゲの中間のような匙である。
    そのせいか、和食や中華の料理にはこの匙を合わせたくなるかもしれない。
    たっぷりとした首もとは健やかな印象と同時に、耐久性も抜群の形状。
    ちょっとやそっとのことでは動じず、折れにくいはず。
    お子さん用のはじめのお匙として使わせてあげてもぴったりだと思う。
    軽めのスープやポタージュ、炒飯なども掬いやすく、また口抜けもとてもよさそう。


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    ジャム匙(無塗装) 右利き用 
    写真左から クリ、カキノキ、ブラックウォルナット、ヤマザクラ、ホオ

    このジャム匙は、かなり以前から金城さんが作っているアイテムのはず。
    少しずつ形を変えているが、あまりほかでは見ないフォルムで、個人的には金城さんイコールこの匙という公式が頭の中にある。
    このくるんとした様子が、タツノオトシゴとかワラビとかゼンマイとかをいつも思い出させる。
    そして木材の本来の色をそのまま生かし見せてくれる無塗装の状態。
    木という自然素材のピュアな魅力、プリミティブでユーモラスな全体とディテールの形状と佇まいは、金城さん独特だと思う。
    へらになる部分の柔らかな膨らみとなだらかに削られた凹凸は、計算というよりも、いままでの経験と感覚からの湧き出しているのだろう。
    ジャムやスプレッドを優しく、そしてなめらか塗ることのできる動きを感じてほしい。


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    匙D スープスプーン(古色/弁柄) イタヤカエデ

    金城さんのスープスプーンは円。
    楕円より、おおらかで素朴な印象を覚えるかもしれないがたっぷりとスープや具材を掬って食べたいなら円が良いと思う。
    単純に掬う部分が広々としているから、雑に使って食べたとしても快適に掬えるはずだ。
    使いにくいというストレスを感じることもほとんど少ないだろう。
    首もとできゅっと細くなっているが、横から見ると実はかなりしっかりした太さを持たせているのでやはり折れにくく丈夫な造り。
    細身だけれども、柄全体は柔らかく角を取ってあるし美しく丸みを帯びて彫られており、手への当たりも優しい。
    どんな年齢の方にも安心して使って頂けるはず。


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    蓮華(古色/弁柄) イタヤカエデ

    使いやすそうで美しい蓮華をずっと探していた。
    そしてようやく出逢うことができたのでもう困ることはないだろう。

    すくう部分は少し浅めになっていて、口抜けもとてもいい。
    口に含んでもすっと抜けていってくれる。
    スープだってご飯ものだってラーメンだってなんでもいける。
    柄の造りもため息が出るほど美しい。
    柔らかに徐々に膨らみ、中心には筋が通り、丘のような稜線を描いている。
    稜線のような彫りは裏表に施されている。
    力強い自然の一風景のような造形美を手にしている気になって思わず見とれる。
    物愛に浸ってしまう蓮華。


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    塗装について。

    この金城さんの匙の色と塗装の質感も独特だなあと興味がありました。
    赤みがあるほうが弁柄、深い茶色は古色という呼称です。

    塗装方法は基本的に同じなのだそうです。
    赤っぽい弁柄は弁柄+柿渋、茶色い古色のほうは弁柄+松煙を混ぜたものを、それぞれ匙にたっぷりと塗装。
    乾燥後、柔らかいたわしを使って水洗いし表面の塗膜を完全に落とし、最後の仕上げは色止めと若干の艶だしのために拭き漆を一回のみ行っているそうです。

    とても柔らかい色の乗り方をしているので、初見では漬け込んで染めているのかなと思いました。
    ポイントは最後に行う一回だけの拭き漆じゃないかと個人的には見ています。
    これがあるからこそ、柔らかなふわあとした光沢が出ているのでしょう。
    オイル系の仕上げのつややかさとはまた違った魅力の、ほのかなつや。
    とても品を感じます。
    洋の要素が強いデザインのものでも、どこかしらに日本的な懐かしさを思わせるのは、古来から日本で使われ続けてきた素材で色づけをしているからかもしれません。
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