読み物

col tempo土居祥子さんと三温窯さん ①

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想いを馳せつつ手を動かす


土居さんの工房兼お住まいをお訪ねした日。
子供の頃からものづくりへの興味が高かったのか、学生時代から例えば美術部にいたりものづくりの活動をしていた経験があったのかを聞いてみました。
すると
「全然。中学校の時はソフトボール部でした。高校時代は陸上部。体育会系なんです、私」
と。

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土居さんが〈革〉という素材に出会い、意識したのは、大学卒業後に就職した百貨店。
「販売職で、一番初めに配属されたのが紳士革小物売場だったんです」
そこには革製の鞄や財布、ベルトも多く取り揃えていたそう。
当初は販売員としての商品知識を充実させるべく商品展示会やタンナー(〈tanner〉とは、採取された皮をなめし加工しなめし革にする人やメーカーのこと)さんのもとに運んでいたのが、次第に革そのものの魅力、革を素材にものづくりする人々の思いに触れ、強く心を惹きつけられるように。

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そんな中、新婚旅行先のフィレンツェで立ち寄ったのが革小物の工房兼お店の「Il Bussetto」。
昔ながらの伝統技術で作られたコインケースとカードケースを手にすることに。

工房を兼ねたお店では、店頭で実際に革小物をつくる職人技を目にすることができたそうです。
同時にそれは、今や土居さんが「師匠」と呼ぶその人、熟練の革職人ジュゼッペ・ファナーラさんとの出会いでもありました。
目の前で繰り広げられる作業。
手技によって少しずつ形を成し、生み出されていく。
物が生まれていく光景と、その魔法のような時間に魅せられた土居さん。
それが彼女のその後の人生にも「魔法」をかけたのかもしれません。

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自分の好みの革を選んではバッグなどレザークラフトを趣味で行うように。
しかし次第に制作技術や知識面で自らに物足りなさを覚えるようになったと言います。
革のものづくりの工程や技術を学びたいという思い。
それとともに胸に浮かんでくるフィレンツェでの出会い、「Il Bussetto」のこと。

旦那さまのあたたかい応援と後押しもあり、土居さんはフィレンツェにある皮革職人の養成学校「scuola del cuoio」に留学し、鞄作りの基礎を学ぶことに決めます。
そしてイタリアに渡る前に「Il Bussetto」のファナーラさんに宛てて〈どうしてもこれ(縫い目のないコインケースやカードケース)学びたい〉とイタリア語で手紙を書き、送ります。
その願いに〈見るだけならいいよ、おいで〉と受け入れてくれたファナーラさん。

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「師匠の制作作業が見られるのは、学校が終わってからの放課後、毎日1時間とかほんのちょっとでした。限られた時間の中だから、その日見せてもらえる工程にも限りがあるんですよね。終わったら当然、制作物は次の工程に進むわけですけど、師匠はひとつだけそのままの状態のものを残しておいてくれて。で、私が次に行ってから、前の続きからを見せてくれたりだとか。すごい優しくて。留学期間は3か月だけだったので、完成までの工程をひと通り見せてもらうまでで終わってしまいました。留学中にすべてを作れるようになったわけではないんです。だからこそ師匠が少しずつ教えてくれたものを思い出しながら自分で必ず形に出来るようにしたいって」

帰国して数年後の2018年、土居さんは「col tempo」を立ち上げました。

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「フィレンツェの革小物は、先人の作り手が繋いできた知恵を借りて形にできているので、何度作っても、技法の面白さや奥深さに、すごいなぁと思わずにはいられませんし、どんな思いでこの技法が繋がれてきたのだろうと想いを馳せつつ手を動かしています」

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