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2022.09.25 Sunday

読み物

叶谷真一郎 Listen ⑥

  • 叶谷真一郎さんロングインタビュー / 後篇

    叶谷真一郎さんロングインタビュー / 後篇

    数えてみるとはじめてクラフトイベントで知り合ってから今年で10年になる叶谷真一郎さん。
    神戸市北区で拠点を構え、百職もその神戸に二年前に移転してきて、いよいよ叶谷さんの展覧会を迎えます。
    お付き合いが長い分、だいぶ以前にお聞きしたことを今改めてお聞きしてみたり。

    インタビュー後篇は、同席してくれた真一郎さんの奥様で発酵料理家の尚子さんとの丁々発止のやりとりにクスリとさせられ、ふだんのお二人の生活がちらりと見える瞬間が面白いです。
    真一郎さんの真面目で誠実がゆえの独特の考え方や、自分の作品たちについてこれからの展開にも触れています。
    どうぞお楽しみください。


    ○僕はちゃんと考えすぎ


    ―多分なさそうな気がするんですけど、座右の銘とか…

    真「はい、座右の銘とかもう、無いですね」

    ―(笑)まあでも大切にしてる言葉などはさっき話してくれましたね。座右の銘じゃないけど、心に響く言葉はあるってことですね。イチローの話とか

    真「そうですねえ。そういう感じになるかな、じゃあ。特に気の利いたそういう座右の銘とかことわざ的なものとかはないですけどねえ。この前半分冗談みたいなので言ってたのが『群れない、媚びない、靡かない』っていう(笑)それかなあって言ってたんですけど」

    ―手仕事のもので何か自分が作ったものでもいいんだけど、何か大事にしてるものとか、自分が持ってるものじゃないけど、こうどこかで見たもので記憶に残ってるものとかありますか?

    真「そういうのもね、考えたんですけど思いつかなかったんですよね。うーん」

    ―素晴らしい作品は見てらっしゃるんでしょうけど。好きなアート作品とか

    真「いやあ、それもねえ…」

    尚「絵とかは?」

    真「絵?特にねえ…同じよ。うーん」

    尚「この人(の絵)も好きで、この人(の絵)も好きくらいの感じやから。お真の特徴ですよこれは」

    真「ああ、ああ。好きな食べ物のこととか?」

    尚「そう。好きな食べ物を何回聞いても答えません。例えば二択三択とかでこれとこれは?って聞くじゃないですか。『いやあ、どれも別に同じくらい好きやしなあ』くらいな感じで。だから絶対そのはっきりとこれっていうことをあんまり言わない。というか思わないんでしょうねえ」

    真「言えたら言うんですよ。あえて言わないんじゃなくて」

    尚「だからこの人の性質?あたしなんかだいたい聞かれたらこれ言うとか決めてるとかあるんですけど。食べ物とか、おでんの具は何が一番好きとかさあ、そういうことでも『いやあ…』って絶対答えなくって、ちょっとイラっとするんですけどね」

    真「(笑)」

    尚「だいたいこれっていうのがあるやろって、聞いたこっちからしたら思うけど。まあそういう人やなって感じです、何聞いても。そうやって今も、これもこれも別に好きやねんけど一番を答えることができない。そういう感じのところがあるなって今聞いて思い出した」

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    叶谷家の愛犬ハチ(本名:八十郎)は現在13歳

    ―無いことは無いんだろうなとは思いますけどね。今日熱弁を振るってらっしゃったし(黒澤明のこととか)。無いことは無いんだけど

    真「一番を答えられる人はすごいなと思いますけどね。だから僕はちゃんと考えすぎなんですよね、真面目に」

    尚「そうやわあ、真面目。そんなん私なんか今日言ったのと明日言ったの違うかもしれんけどくらいな感じで答えちゃうからねえ」

    ―(真一郎さんと)同じような考えですね私も

    尚「そうやね、渡邊さんもやっぱそういう、なんかちゃんとした人なんやろね、きっと」

    ―私は融通が利かないんです本当は。答えますよ、答えるけど、本当は心の中で思ってます。『これって本当は単純には言い切れないんだけどな』って感じながら、(向こうが)答えないと困るだろうなと思うので答えるんですけど。本当はいろいろ思ってます、心の中では(笑) でも良いと思います。だってそれが本当の答えなんでしょ?だからそれでその、例えばおでんの中の具で『たまごが好き』っていうことにその人の人間性が見える場合もあるかもしれない。そう聞かれても結局『どれも割と好き』っていう答えに人間性が見える場合もある。答えって、どの具材が好きかより、人間性がわかるほうがいいと思うんですけどね。ただほとんどの人は『結局どれが好きなのか知りたいんだけど』と質問に対するそのものの答えをほしいなと考えるかもしれませんね

    尚「うん。聞く時は答えを知りたくて聞いてるからやろね。聞くほうの期待よね、多分。『え、大根とか何か好きな具材言ってよ』みたいなとことかあるやん。だってそうじゃないと聞かへんやん、人は。だから聞かれるってことはそういうことなんやろうと思う。それ答えられへんからいつも『え~、え~』ってあなた言ってるねんな」

    真「そう、そんなん聞くなよって感じ」

    尚「だいたい私はもうお真にはそういうのあんまり聞かないけど。もう答えないんでね」

    真「昨日ラジオでパラちゃん(お笑いコンビ「メッセンジャー」のあいはら雅一)が言ってたわ。うまい棒の、うまい棒占いで何味が好きかとかって勝手に占っていい加減な占いしとるらしい(笑)あの味が好きな人はあーそれはどういうあれですねえとかいって。いい加減な、出鱈目ですけどね。それができるようになったとかって言ってて。なんかそれみたいやなって思って。面白かったけどね」

    ―お二人の話ずっと今聞いてましたけど、質問に対してずばりの答えになってるかどうかはともかく、「らしさ」が伝わってくる言葉が返ってきてよかったです


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    ○土感ある一方でそのうち磁器とかそういうのもあっていいかな



    ―今回気に入ってる作品とかシリーズとか、色でもいいですけど、何かありますか?

    真「それもまたちょっと難しいんですよね…」

    ―そうおっしゃる気がしてました(笑)

    尚「私なんかはこれとこれとこれみたいな感じで言っちゃうからねえ、いつも。まあ、あなたはね」

    真「どれもといえばどれもやし、どれもそうじゃないと言っちゃうと、ちょっとお客さんがえ?って思っちゃうかもなって思うからそういう言い方もできないけど、そうともとれるんですよね。うーん、難しいです」

    ―どれも力入れて作ってますけどって

    真「そうそうそう、だからどれもいったら同じだから、これっていうのは…うーん、よう答えんなあ…えー…」

    ―新しく作った、近年の釉薬だったりとかでもそれはそれでやっぱり考えてるだろうし、以前からやってるやつでも多分試行錯誤してやってますしね。

    尚「最近はちょっと灰粉引も嫌やって自分では言ってる」

    ―嫌や?

    真「嫌…うーん、はっきりとは言えないけど」

    尚「テンション上がらへんみたいな」

    真「そうやなあ。なんかね、年齢的に50になったんですけど食生活でちょっとこってり系が無理になってきたんですよ。ラーメンだったらとんこつはちょっと後でしんどくなる。もうちょいあっさりした塩ベースとかのほうがいける。焼肉もあほほど食べてたカルビがもう無理みたいになってきたのと、なんか似てるなと思ったのが、灰粉引は鉄粉がばーって出るじゃないですか。ちょっとそれがね、若干うるさく感じ出したんですよ。焼きによってはね、今ここにあるこれはね(いくつか持ってきた灰粉引のうつわを見せながら)いいんですよ、おとなしめでいいんですけど、還元が強くかかるとこの灰の緑とかも濃く出て、鉄粉もうわーって出たりするとちょっと、ああこってりやなあって思う時があって。うまく窯をコントロールしようとするんですけど、なんかちょっと難しくて。土の状態もあるんだと思うんですけどね、その時の。結構鉄分が含まれてたら鉄粉うわーって出るし。窯との関係もあるしで。それを抑えたいなって最近ちょっと思ってきてて、あっさりとした感じで焼きたいなとか思ってまして」

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    ―うんうん、なるほど

    真「ちょっとあっさりし過ぎかなと思うくらいでもいいかなと思ってきてて。そんな感じにだんだんなってきてますね。作品全体を見直した時にちょっとあっさりとした白も欲しいなって。なんやったら粉引じゃなくて磁器でもいいんかなとか思って。磁器は前からちょこっと作ったりはしてたんですけど。ここでもう少し取り組んでもいいかなってずっと思ってはいるんですけど。あの白さが中に入ったらいいかなって思ってますね。今後のテーマとして。さすがに全部磁器とはいかないですけど、少しそういうあっさり薄味のが入ってもいいかなって自分の中で思ってるかな。そう言いながら一方でちょっと土感がどうとかって言ってますけどね。ただ、うん、その灰粉引と白っていう関係でいえばちょっと白も入ったらいいかなと思ってます。土感ある一方でそのうち磁器とかそういうのもあっていいかなっていう、うん。」

    尚「あとなんか最近ちょっと色物とかぐちゃぐちゃになってるよね」

    真「え、ぐちゃぐちゃ?どういうこと?」

    尚「ぐちゃぐちゃっていうか。なんて言ったらいい?黄土灰はこれとあれと…こっちもそう、これも黄土灰やでとか言って」

    真「ああ、それは土に直接かけるか、化粧の上にかけるかとか。あとはほんまは全然違う土調やけど、色が似てるからひとくくりにしようって。色分けですね。釉薬名でわけるんだったら全然違うけど、その釉薬名もちょっと…ほんましんどくて、思いつかないんですよね。思いつかないって言っちゃあれやけど。何とか釉って自分で独自の名前を付ける人あるじゃないですか。でもほんとちょっとないんですよね。小洒落た名前つけるっていうのも、うーんっていう感じで。色の見た目の印象で分けてるんですよ最近は。だから最近は混乱してますけどね」

    尚「粉引も含め灰粉引も含め白は全部白ですって感じやし。でお客さんは前につけていた例えば来待だったら来待って名前で覚えててくれる人がいるから、文字として見る時に来待がなくなってるんで混乱!みたいな。あ、そうそう来待といえばさ、丸鉢よくない?(真一郎さんに)渡邊さんに見せたっけ?」

    真「見せたよ。でも安定してない。まだわかんないなあ」

    尚「(うつわを出してきて)これこれ」

    ―ああ!それなら見せてもらいましたよ。良かったやつ

    真「化粧(土)との相性が難しいんだよ。違う調合にしたらうまくいくけど、発色が変わるし」

    尚「あたしはそれでもいいと思ったけど」

    真「うーん。黄色が強くなっちゃったからな。料理映えるのは今出してるうつわのその色だと僕は思う。けどあんまりうまくいってない」

    尚「最近皿が多いから鉢を作ったらいいと思ってて。小鉢、中鉢、大鉢。結構皿って最近みんなすごいやってません?」

    ―プレートは今、特にうつわの中でも主流ですよね。流行っているといってもいいかな。インスタ映えの影響が大きい。プレートはお料理を盛りつけて俯瞰で上から撮るといい感じの写真が出来上がりやすいから、そういうのを見てプレートほしがる人が増えているんだろうなあ。でもまた、いろんな料理作って盛鉢に盛るのもいいから探してるってお声も聞くようになってますよ。使ってみると小鉢も重宝しますよね。すっとメイン皿の横に添えるとすごくいい

    尚「そうそう。ふつうのふだんの食事の時に便利なんですよ。だからさ出したらいいかなって」

    真「うーん。10個焼いて2つ3つ取れるかもしれん」

    尚「えー、そんなに悪い?」

    真「最悪の場合」

    尚「でしょ?半分くらいはいけるでしょ。この間の窯出しの時にはもうちょっと出てたでしょ」

    真「まあ4個くらいね…」

    ―取れ高4割はいいとはいえないね…

    真「そうなんですよ!」

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    ―最近は特に様々な作風の作家さん、うつわが多様に流通してますけど、ふだんの暮らしの料理になじむうつわを作ろうとする真一郎さんの工夫や姿勢を待っている人、喜んでくれる人がきっとこれからも支持してくれると思ってます

    尚「うん、そういうことやんな。すごく独創的な料理作る人もいるじゃないですか?プロのシェフとかじゃなくても。ソースとか多用して。あんなんどういうふうに考えるんやろって。たまには作れても、毎日は無理やろって。基本はどんな人も作れるような料理をふだんの盛りつけでできるうつわでいいんじゃないかなって。私らの最近の答えかな」

    真「昔から作ってるような料理を、僕のうつわに盛ったらちょっとおいしそうに、1.5割増しでもいいから『おいしそうに見えます~』って言ってくれるのであれば、そうであればいいのかなって。うわあオッシャレーみたいな(笑)、映えるようなすごい料理や盛りつけじゃなくても、普通の食卓を豊かにできるようなうつわが作れたらいいかな」

    (了)



    叶谷真一郎(かのうやしんいちろう) 略歴
    1971 京都生まれ 兵庫県西宮市育ち
    1998 京都伝統工芸専門学校卒業後、丹波立杭焼窯元で勤務
    2003 奈良市内で独立
    2007 神戸市北区へ工房を移築
    2010 イベント等に出展し活動を開始

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