読み物
森谷和輝 resonance ③
森谷和輝さんに会いに行く / 中篇
森谷和輝さんの個展は今回で9回目。
百職を2009年にオープンさせた際、お取扱いをお願いした第二号の作り手が森谷和輝さん(第一号は先月展覧会をしてくださった陶芸の高木剛さん)。
2010年にはじめて個展開催して頂いて以降、毎年展覧会をお願いし、今年も無事迎えることができました。
グループ展も含めるとこれまで15もの展覧会に出展してくださっています。
そんなに続けていたらやることがなくなってしまいそうにも思えますが、一つの展覧会が終わると森谷さんとともにやってみたい次の目標が自然と浮かんできます。
森谷さんがいつまでも尽きないガラスの面白さを見つめ続けるように、私もまた森谷さんの作るガラスの中に美しさと他の誰とも違う個性を多分見ているのだと感じます。
まだ模索している構想中の作品に触れるところから始まり、昨年にも少し披露してくださった新たな素材「透きガラス」についてなど、森谷さんは何を考え、どのように変化しつつあるのか。
ひとつの〈過渡期〉を迎えているとも言える今について聞かせて頂きました。
展覧会に興味を持ってくださっている方にもぜひ読んで頂いた上でお運び頂けると嬉しいです。
じわじわ理想に向かっていきたい
森谷:本当にね、二番手がちょうどいいんですよね僕。居心地が良いのよね。上がいて、最高の右腕になりたいんです。それが一番ね自分にはちょうどいいとこで、そのポジションが一番気持ちいいんですよね。
渡邊:どういう点においてですか?
森谷:付いていきたいんじゃないですか?そのほうが俯瞰して見れる。俯瞰してもっとこうしたいが見えるみたいな。人を雇ったことがないからわかんないですけど(もしスタッフを雇い入れるとなると)ちゃんと教えられるかなみたいな。
渡邊:荒川さん(晴耕社ガラス工房主宰の荒川尚也氏)の工房にお勤めの時には、下に後輩のスタッフの方々もいらっしゃいましたよね。
森谷:うん、いましたね。
渡邊:作業的に一緒にやったり、何かを教えるっていう担当になったことはありましたか?
森谷:ありますあります。それはあるんですけど…なんだろうね(笑) 今は「こういくぞ!」っていうのがパッと出てこなくて、すごい時間かかって「あ、そうだな」みたいなことがすごいあるから、それで「またかよ」ってなっちゃいそうなんだよね。最初から一番の納得のいく答えを出せない。あー、やっぱりこっちだったら…みたいな。誰かを雇ったらきっと振り回しちゃう。
渡邊:森谷さんの中のリーダー像は荒川さんですか?
森谷:荒川さんはね、そうですねえ、どうかな。とにかくすごく言葉で言ったりはしないですね。
渡邊:背中で語るような。
森谷:背中で。鳥本さん(とりもと硝子店の鳥本雄介さん。ともに荒川さん門下。鳥本さんは森谷さんよりも先に晴耕社に入っており、先輩にあたる)はちゃんと意を汲んで伝えてくれる人みたいな。僕は荒川さんのところでは一番のサブにはなれなくて。鳥本さんの右腕のような感じでした。僕は、鳥本さんみたいに自分の意見が言える人が好みなんでしょうね。男の好み(笑)
渡邊:(笑)そうなんですね、男の好み。
森谷:男の好みは、自分の中にないものを求めてしまうのかも。自分に意見をガッと出してくれるタイプの人のほうが好きだなと思うかな。自分と似た、僕みたいにあんまり意見を言ってこない人だと「ああ…」ってなっちゃうから(笑) 楽なんだけど仕事ではやっぱりやりにくいんですよね。「いくぞー!」って人のほうがいいのかもしれない。自分がやっぱりそういうタイプ(人を引っ張っていくタイプ)じゃないので。
渡邊:「僕が僕が!」というタイプの方がもし森谷さんのもとに入ってきたら?
森谷:どうなんだろう。僕は、自分が作んなきゃみたいなこだわりはそんなに無いかな。そういう面では一緒にやれると思う。やりたいなって気持ちもある。任せられないよみたいな、そういう感じではないので「ああ、こうきたんだね」「これはこれでアリだね」みたいな。そういう感じの仕事になりそう。それはすごく楽しそうですけどね。自分が楽だと思います、そのほうが。全部自分で決めてというより、ある程度人にかき回されてでもそっちのほうに行ってみて、こっち行くならこうしといたほうがいいんじゃないみたいな。そのほうがわかりやすいかな。完璧に教えてあげたいとかもないし、教えられるとも思ってなくて。どっちかというと一緒にやってお互いが成長できるとかそいういうところを期待して働きたいと思ってますね。でもそこまでいってないんで、理想を言えばみたいな話だから。
渡邊:そういうふうに考えることもあるんですね。
森谷:むしろ昔のほうが、荒川さんのところを出たばっかりの頃は影響を受けてたから、晴耕社のような雰囲気でやりたいっていうのもあったと思うんですよね。今は冷静に考えて理想はこうだなみたいな話になる。
渡邊:自分に合いそうなかたちはこうだなとわかってきたいうことでしょうか。
森谷:独立して10年経ってもこの感じだし。じわじわしか変わんないけど、じわじわ理想に向かっていきたい。こういう理想はあるけど熱く語ろうとするとちょっと恥ずかしくなってしまう。出来てなさ過ぎるから。以前は惜しげもなく話してたけど「お前は実際できてないよ」と自分で思うから、ちょっと言えないよって恥ずかしい気持ちになっちゃうかな。
→→→後篇に続く
森谷 和輝(もりや かずき) 略歴
1983 東京都西多摩郡瑞穂町生まれ
2006 明星大学日本文化学部造形芸術学科ガラスコース 卒業
2006 (株)九つ井ガラス工房 勤務
2009 晴耕社ガラス工房 研修生
2011 福井県敦賀市にて制作を始める