2021.05.13 Thursday

読み物

森谷和輝さんとガラスと ⑤

  • A piece of artwork with glass 作品紹介及び考察 前篇   

    A piece of artwork with glass 作品紹介   



    00 序

    01 技法のおさらい

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    02 考察① The case of Lampworking バーナーワーク 

    03 考察② The case of Kiln-casting キルンワーク  キャスティング

    04 考察③ The case of Kiln-slumping キルンワーク  スランピング

    05 考察④ The case of other そのほか ―青のシリーズ、花器や照明、装身具





    定番.JPG
    00 序

    今回は第一便として送ってくれた作品の紹介と考察に触れていく。
    その前に。

    出会った本当にはじめの時。

    森谷和輝さんが
    「これはガラスが全然うまく流れてくれなくて」
    と、制作工程の説明ですごくガラスの流れのことばかり話していた。
    ガラスといえば吹きガラスで、流れというのは何を意味しているのか。
    すぐに理解できなかった。
    ようやく、まずかけら状のガラスを融かして円板をつくり、そのガラス円板を型に置いて焼成すると型にそってガラスが融けていき皿なら皿が作れるのだとわかり、驚いた。
    今以上に当時は無知だった。
    だからそのキルンワークのスランピング技法を聞いて、世の中にはそんなふうにガラスの性質を研究し、利用して制作に落とし込んでいく技法があるんだと不思議な感動を覚えた。

    素材の性質を知るということ。
    それは何もガラスに限ったことではない。
    陶磁器、木竹工、漆芸、金属工芸、染織などほかの手仕事の世界も然り。
    どんな性質や特性があるのかを色々な角度から見て、知り、わかるようになってくると、その性質を生かしたものを作ることや、逆に作りたいものからそれに適った素材をピックアップすることもできる。
    わかっていたつもりだったことが、突然すとんと自分の中に落ちたのを感じた。

    ただ、美しいとか、なんとなく好きというだけではく、いったいこれはどんな方法によって作られているのか。

    制作の工程にどんな工夫や仕組みがあって、閃きがあるのか。
    そこには想像もつかなかったクリエイティヴィティがつくり手の数だけあり、その人の中に積み重なっている。地層のように。
    まだ知らない世界がたくさんある。
    それを知りたくなった。


    知ることの楽しさ。その扉を森谷和輝さんが開いてくれた。





    キルンバーナー各種.JPG
    01 技法のおさらい

    もう一度森谷和輝さんのガラスについて簡単におさらいを。
    大きく分けると2種類。
    バーナーワークで作るガラス、キルンワークで作るガラスがある。

    ・バーナーワーク
    森谷さんの場合は、酸素バーナーによって棒状や管状の硬質ガラスを溶かしながら成形していく。
    使うのは「ホウケイ酸ガラス」という理化学器具等に使用される透明度が高く、耐熱性、耐衝撃性を持つガラス。古い時代にランプの灯りを主な熱源としていたことから欧米では伝統的なニュアンスを込めてランプワークと一般的に呼ばれる。もっと現代的なニュアンスやイメージの中においてはフレームワークの呼称を使うという。ガラスは紀元前に起源を持つといわれ、その最も初期段階に装飾品などの制作でバーナーワークは行われていたとされている。

    ・キルンワーク
    キルンは窯の意味で、電気窯である。低温(とはいっても800度前後)の窯で、型を用いてガラスを融かし成形する。森谷さんが使うのは「廃蛍光管リサイクルガラス」という、独特の淡い淡い青緑色が特徴的なガラス。
    キルンワークは更に多くの技法が枝分かれしており、そのどれもが歴史が古い。
    もっとも有名な例はパート・ド・ヴェール技法。非常に細かい粉末状の無色のガラス(森谷さんが使用するもガラスと違って、更に細かくさらさらしている)と色ガラスを混ぜるなどして、粘土で作った原型をもとに耐火石膏で鋳型を起こしそこにガラスを詰め窯で焼成する。歴史としては古代メソポタミア文明の頃(紀元前15世紀-16世紀)に金属の鋳造技術を応用し発祥したとされている。
    ちなみにガラスを取り出す過程で鋳型を壊さざるを得ないため大量生産には向かず、その後紀元前1世紀頃の古代ローマ時代になって吹きガラス技法が発明され量産する技法もこれを機にが新たに生まれていくこととなる。

    キルンワークの中でも森谷さんが多く用いる技法はキャスティングスランピング
    ※調べるとキャスティング技法は古代ローマ時代の紀元前1世紀に発明されたと言われている。

    (1)キャスティング 型の中にかけら状のガラスを敷き詰め流れ融けることで成形する技法。
    (2)スランピング 予め作っておいた板状のガラスを型に置き、焼成すると型に沿って重力で流れ融けていくことを利用して成形する技法。





    バーナーワーク.JPG
    02 考察① The case of Lampworking バーナーワーク 

    「つくり手としては目の前ですぐかたちが作れてガラスに道具を介して触れるところが魅力。そういう意味では即興性があるガラスの様子が、使う側の人にも感じてもらえる楽しさがあると思います。(森谷)」

    バーナーワークのガラスについて森谷さんは昔からよく「バーナーのガラスは中に水をいっぱいに入れておくと本当にきれいですよね」と話す。
    高い透明度で凛とした硬度を帯びたホウケイ酸ガラスだが、森谷さんのバーナーワークによってやわらかで揺らぎのある輪郭が生まれる。
    ガラスの中を水で満たしてみると、ガラスと水との境界がたちまちぼんやりとしてくる。
    不純物など何ひとつ感じられず、硬質だったはずのガラスは水に溶かされたかのように水と同化して、そこにはただ水そのものだけが不思議な実在感を湛えて存在している錯覚を起こしそうになる。どこまでも澄み切った純度の森谷さんのバーナーワークのガラスは、ただ静かに空間にあることを好んでいるかのようだ。

    今回の第一便で届いているバーナー作品のroundglassはもうすっかり定番作品だ。初期の頃よりも背が低く浅めに作られるようになり、グラスとして以外にも料理を盛りつけるのにも用途が広がった。ぐるりと輪で囲んだような突起のあるフォルムは握りやすい。軽いためお子さんでも扱いやすい。

    もうひとつは新作のonion。名前は玉ねぎだが、直接のかたちのモティーフは垂直を測る道具がとのこと。水をたっぷり入れて吊るしてずっと眺めていたいオブジェ。草花をいけても素敵。空っぽのまま吊るしてぽっかりガラスの空洞を眺めるのも心地良い。





    キャスト.JPG
    03 考察② The case of Kiln-casting キルンワーク キャスティング

    「ガラスがゆっくり流れている感じ。本当にゆっくり融けていくんです。その流れているのを感じられると『ああ、きれいだな』と思っちゃう。ガラスの厚みの中に泡の動きがじわあとなっていて閉じこめられている感じです。そこがすきですね(森谷)」

    森谷さんはキルンワークの材料にしているかけら状のガラスを、粒度のサイズによって何種類かに選別している。
    キャストではきっちりとしたかたちのものも作りやすい。よりきれいなかたちに仕上がるように選別した中でも細かい粒度のガラスを、型の細かい部分に詰めるようにしているそうだ。十角皿や八角皿など昔から森谷さんが作っている多角形のシリーズがその例である。
    細かい粒度のガラスは融けると透明度はあまり高くない。うつろうようなほのかな明るさの中に、静かに密な様子で泡がとどまっている。

    この正方猪口もきれいな立方体が出ている。酒器としてつくられているが酒肴や箸休めの料理を盛りつけるのに愛用している人も少なくないはず。

    かなり初期から作っている十角皿も美しく角度が出ているがシルエットはやわらかい。最初は漬物皿という名前だったが確かによく似合う。

    角を落としてまるみのある角皿にしたのは新作の凪皿。片面はつるりとしたなめらかさで凪の状態の海のようだが、裏返して少しテクスチャーが感じられるいわば漣のような面のほうも捨てがたいので両面使いたい。菓子皿として以外にもグリルした野菜など汁気が少ない料理にも使える。





    スランプ フォールコップ.JPG
    04 考察③ The case of Kiln-slumping キルンワーク  スランピング

    「熱でかたちが変わっていくところ。自分で曲げているんじゃなくて熱や重力で落ちたり曲がったりしていて、なんか手もとでじゃないところでかたちが変わっていくのが面白い。あとで冷めて手に取って見れる、観察できる、痕跡みたいなのを探すのが一番楽しいかもしれないですね(森谷)」

    森谷さんの定番のフォールグラスやフォールコップはその名も「落ちる」。ガラスが上から下へと落ちてゆく動きを利用して作られている。ガラスの中の気泡も落下していくのが看て取れる。ガラスが収縮したようなしわが寄ったようなテクスチャーもユニーク。
    流れ、落ち、広がり、収縮し、動いてゆく。予測可能な範囲でコントロールしても、あとはガラスの動き次第。それゆえにひとつひとつの個体差が大きいが、その揃うことのない偶然性さえも楽しさや美しさに満ちている。

    新作となる、扇形のフォルムがユニークなのは水流皿。平たいのに泡の粒の流れに動きがあるので不思議に思うが、これは一度フォールグラス等のように円筒状のものを作ってから切り開きもう一度焼成して作っているそうだ。かたちに日本らしさも感じられるので和菓子を頂く時やお正月やお月見など和のお食事の際にも。

    ボウル型のうつわのピータン鉢は、森谷さんが師匠の荒川尚也さんのところで美味しいピータンを食べた時のことを思い出して作ったというだけあって(イメージが具体的)、使いやすい深さ。シリアルや切ったフルーツをざっくりと盛るのにもぴったり。ややぽってりとしていびつでラフな表情も新鮮なガラスの魅力。

    定番の小鉢は絶妙の浅めの加減で料理が盛り映えもするし用途の広いサイズ感と、合わせやすいシンプルなかたちがとてもいい。我が家では三本の指に入る出番の多さ。横から見たときのガラスが流れ落ちる表情も楽しめる。美しく使いやすい定番だ。

    オブジェ(一応weight、重しという名前)でishi weightと、soap weightもおすすめしたい。
    用途があるいえばあるし、ないといえばない。でもそのガラスの存在にただ触れて感じる、それはもうある種の役割であり、用途といいたい。
    美しさを無心に感じるだけで心が落ち着いたり心地よくなったりすることは、きっと誰もが幾度となくあるだろう。
    使うという意味での実用には満たないかもしれないが、感覚や気持ちを自由に解きほぐしてくれるもの。
    この展覧会で私自身が届けたいと願ったもは、このishi weightとsoap weightがすべて表してくれている。
    またこのishi weightに現れている独特の模様はとても簡単に説明すると、細かい粒度の透明度の低いガラスと粒度の大きい透明度の高いガラスを交互に注ぎ込むような仕組みで作られたものだそう。制作工程にもわくわくする。

    スランプ 水流皿など.JPG
    重し.JPG

    続きは 「A piece of artwork with glass 作品紹介及び考察 後篇」 にて
    (森谷和輝さんとガラスと ⑥へ飛びます)

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