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new traces

泥のように
街外れにある湿原の珍しい苔の下から、二万年前の物とみられる大量の道具が見つかった。それらは、道具と言うにはあまりにも自然に戻り過ぎていたし、何より、浅はかな断定を許さない程度には複雑さを持っていた。
いくつかの道具には真円の美しい穴が空いていたから、ひとまず人々はそこを覗いてみたのだけれど、その穴から覗く世界は、縄文時代よりも信仰を感じさせ、弥生時代よりも技術的で、古墳時代よりもさらに立派だった。それは多くの人に文明の頂点を感じさせたし、またそれに伴う破滅すらも感じさせた。
湿原の泥の中で空気に触れずにいたせいで、それらは辛うじて、何かであった事を失わずにいた。今、湿原は表面が乾き、ところどころがひび割れていたが、深い場所にはいつも、固くゆっくりと動く泥があった。それはここでは無いところから流れて来ているようだったが、それがどこなのかは誰にもわからなかった。
掘り出された道具は、固い泥がどこからか運んできたものかもしれなかった。それらはこちらの世界に居場所を持たなかったけれど、人々はそれらが見つかる度に自分達の世界が少しずつ変わっていくのを感じた。まるで世界の方がそれらの道具を含ませる為に変容していくようだった。
固い泥は今や、人々の中にも流れていた。
ゆっくりと彼らの中に景色を描いていった。