読み物
YUTA 須原健夫 境界を潜る ⑤
境界「祈り」②
(左から)
匙
菓子匙
テーブルスプーン
デザートスプーン
「掬う」は、「助う」「救う」が源になっているともいう。
食べる事を助けるカトラリーとして、もっとも身近な匙、スプーン。
食べることを手助けするというのは、ひいては身体や心も、助けてくれることに繋がる。
自分の手で掬い取ったひと匙が、身体に染み込んで、心を潤す。
使う人々に、此の道具たちを、結い和すことができるよう、願う。
(左から)
付き匙
テーブルフォーク
原初があり、長い時を経て洗練へと向かう。
皿の上で繰り広げられる、多彩な働きぶり。
絡め、まとめ、突き刺し、押さえる。
シンボリックな形は、ある種の鳥のように美しく舞い、食事を助け、その瞬間のふるまいをも魅力的にする。
菓子切り
ヒメフォーク
細い薄い花びらのような形をした菓子切りは、菓子を音もなく鮮やかに切り分けるのが得意だ。
そしてその花びらを二枚に分けると櫛形へ姿を変え、果物などを刺して口に運ぶのが得意な道具になる。
兄弟姉妹のようなカトラリーふたつ。
マドラー
ピック
少し窪ませた頭の形が特徴的で、飲物の海の中に沈ませ攪拌していても良く混ざる気がする。
なくてもなんとかなる道具だけれど、グラスの中で小さくきらめく光と影の綺麗さは特別。
ピックはシリーズの中でもっとも細くて華奢で、まるで光の針のように見える。
柄には小さく光が揺れ動くような細やかな鎚目がつけられているのがとてもリリカルに感じる。
どちらも、まるで詩を詠むように作られている感覚を覚える。
思いを持って作られたものを当たり前のように日常的に使う。
いろいろな物に込められた思いや考えに目を向けて、寄り添うきっかけになるかもしれない。
茶匙
窪みがつけられた掬いやすい形は、西洋の流れを組んでいるように感じる。
柄こそないが、細いほうを指でつまみ、広いほうでたっぷりと掬い上げる。
指のような丸みのこの小さな中に、すべての機能が集約している。
ミニマルでいて柔らかに描かれた輪郭は、素材である真鍮の温かみとよく調和している。
茶箕(ちゃみ)
端は平坦で、両側は丸みを帯びて手になじむ。
茶筒の中にともに仕舞われやすいように作られている。
あくまでも茶を淹れるのに必要量をすくうための形状で、簡素な佇まいが美しい。
形に寄り添い、鎚目は細く長くつけられている。
アイススプーン
形状の装飾性は、風に吹かれ、はらはらとほとんどが剥がれ落ちていった。
アイスクリームを掬うための、必要最小限。
持ちやすい柄の長さ、先端の柔らかな曲線、断面の滑らかさ。
真鍮に伝わってくるアイスクリームのひんやりとした冷たさは、心地良い。
細い線条のように施された鎚目は、気配のような唯一のほのかな装飾。