読み物
森谷和輝 resonance ②
森谷和輝さんに会いに行く/前篇
森谷和輝さんの個展は今回で9回目。
百職を2009年にオープンさせた際、お取扱いをお願いした第二号の作り手が森谷和輝さん(第一号は先月展覧会をしてくださった陶芸の高木剛さん)。
2010年にはじめて個展開催して頂いて以降、毎年展覧会をお願いし、今年も無事迎えることができました。
グループ展も含めるとこれまで15もの展覧会に出展してくださっています。
そんなに続けていたらやることがなくなってしまいそうにも思えますが、一つの展覧会が終わると森谷さんとともにやってみたい次の目標が自然と浮かんできます。
森谷さんがいつまでも尽きないガラスの面白さを見つめ続けるように、私もまた森谷さんの作るガラスの中に美しさと他の誰とも違う個性を多分見ているのだと感じます。
まだ模索している構想中の作品に触れるところから始まり、昨年にも少し披露してくださった新たな素材「透きガラス」についてなど、森谷さんは何を考え、どのように変化しつつあるのか。
ひとつの〈過渡期〉を迎えているとも言える今について聞かせて頂きました。
展覧会に興味を持ってくださっている方にもぜひ読んで頂いた上でお運び頂けると嬉しいです。
ガラスの現象が面白い、しか無い気がします
店主渡邊(以下渡邊):工房をお訪ねするまでに展覧会のタイトルを考えておこうって思ってたのにまだ決められていなくて。
森谷和輝さん(以下森谷):タイトル。
渡邊:以前の展覧会では『整音』と付けさせてもらったことがありました(2021年開催個展)。今年の展示をやるにあたっては定番の作品について調整したり整えていきたい部分があるとお聞きしていたのでそれが頭にあって。新作を作りたい気持ちもあるけど、やっぱり定番品の制作にも取り組みたいとあったので。それで今、自分の中に『調律』という言葉が出ていまして。
森谷:音っぽいやつですね。
渡邊:はい、音っぽいやつです。観に来られる方にしたら抽象的じゃない方がいいのかもしれないけど。たとえば『コーヒーのためのガラス』なんていうほうがわかりやすいのかなって(笑) でもそういう感じではないなと感じていたので。
森谷:剛さん(陶芸の高木剛さん)の展覧会タイトルは『As it is.』とつけたんですよね。
渡邊:そうです。『自然体で』とか『ありのままで』という意味です。
森谷:ああ、そういう意味なんだ。剛さんはそういう雰囲気ですし似合いますよね。もっと僕のほうから何かイメージ伝えられたらいいんですけど。そういえばこれ、意外と積み木(百職からリクエストを出した構想中の作品のこと)っぽいなと思って。
渡邊:素敵。琥珀糖みたい。いいですね、見ようによっては『山』とか見立てて遊べる。重ねてもいいし。自由に見立てられるのがいいですね。
森谷:それで作ってみたんですけど、どうなんでしょう…。
渡邊:私はすごく好きです。
森谷:用途無いですけどね。
渡邊:無いですね。
森谷:(お客様に購入してもらって家に持ち帰ったら)ちゃんと居場所つくってもらえますかね?
渡邊:作ってもらえますよ。私はすごくいいと思います。手応え無い?
森谷:手応え無くはないんですけど…どうしたらもっと良いのかなって。サイズとかもなんとなくこのぐらいかなって作ってみたけど、売る時にバラバラ過ぎるかもと。箱か袋かひとまとめにできる何かがあれば置いといてもらいやすいかなって。あと、もっといろんな形があったほうがいいのかなとか。
渡邊:森谷さんのアクセサリー作品用の箱だと小さいですかね…。あれに収まるように設定すると大きさに制限が出ちゃう。今のこのサイズだと少し小さい気も。
森谷:バングル入れてた箱だったら良さそうですね。でも考えてみると箱だと置いとかなくなるかもですね?最初だけで。
渡邊:うーん、四角の箱の中にきれいに収まるパズルも見た目は面白いですよね。そこから出して飾る人もいれば、人によってはその四角の中に収まってる見た目が綺麗でそのまま飾る人もいるかも。同じ形でカットで統一しなくてもいいような気もします。端材を使うならなおさら…わかりにくいかな。言ってる意味わかりにくいですか?
森谷:パズルですよね?
渡邊:そうそう。
森谷:なら一個ずつ飾るんじゃ、これだとやっぱり小さすぎるかなあ、パーツの一個が。もっと質量があったほうが。飾るっていうと。
渡邊:そうですね…一個だけ飾るってなった時にもう少しインパクトがあっても。
森谷:そう。ちょんちょんってこう(置いた時)。素材としての色や質感の違いがあっていいですよね。小さいと魅力が半減するというか、わかりにくくなっちゃうかなと。
渡邊:この白いのが新しい(ガラス)ので作ったものですか?
森谷:白いのは粉なんですよ。ちょっと細かめ。これが(粒度が)めっちゃ大きいかけらの。そしてこれが白いガラスで作ったやつなんです。ポットミルっていうね、コロコロ転がして粉にする道具を用意したので、それで粉がいっぱい作れるようになって。
渡邊:おお。便利な道具が加わるといいですね。
森谷:だから粉の表現もしてみたいですね。
渡邊:去年開催した『夏の家』展の際、お話を伺ったときに、溶解炉を手に入れてガラスを再生することもやっていきたいなとおっしゃっていたと思うんですね。そこから発展して「ひとつの作品の中でいろんなガラスの魅力がわかるようにしたい」ともおっしゃっていて。たぶんこう粒度が違うとか色や明るさが違うとか。あれからそのへんの作業や制作はどうですか?
森谷:最近はそうですね…「ひとつの作品の中でいろんなガラスの魅力がわかるように」というのは、これ(実験作品のパズル)が一番わかりやすいですね。最初のアイディア出しで見せてもらったカラフルなやつとか色ものはそこまでできないなと思ったけど。粒度の差でいろんなガラスが組み合わさっているみたいなのは作ってみたいなと。
渡邊:グラデーションしているという言い方はちょっとおかしいかもしれないけど、粒度の違いによって作るガラスにこんなに違いが出せるんだというのがわかる点は本当に面白いですから。見る人に『こういうこともできるんですよ』ってそれぞれのガラスの美しさをシンプルにお見せできる。
森谷:そこからって気もしますよね。これは現象だから。僕はいつも現象を面白がっているだけでそこで終わっちゃうから。
渡邊:終わっちゃう?
森谷:そうなんですよね。作っているほうとしてはそれが楽しいわけで。なのかなあ…。
渡邊:現象があって、わかりやすい例だとそれを生かしたフォールグラスだったり、ほかの作品も制作されてますね。作品の中に、現象の面白さや美しさがしっかり落とし込まれてると私は捉えているんですが…もっともっと発展させたいといった欲求があるんですかね?
森谷:「ですよね」ってなっちゃうかなと思っちゃう。長く愛着を持ってずっと使いたいものとか、そこに置いておきたいみたいなのがその先にあるといいのかなと思います。現象すごいでしょ、みたいなので止まらないで。僕は面白がって作りたいんですけど。結果、その出来たものが、愛着が湧くようなものになっているといいですよね。
渡邊:なっているからこそ今まで見てくださった皆さんに伝わって、作品を手元にお迎えしてもらっていると思いますし、もし(愛着湧くようなものに)なっていなかったら…ここまでガラスを続けられないんじゃないかな。
森谷:そのへんって狙って作れるんですかね?使う側の人がそう思ってくれたらそうなるし、ならんかったらならんし。かといって『こうやって使ってください』みたいな感じはあんまりないんですよね。だからやっぱり「こういうのって面白いですよね」ぐらいでいいのかなって。
渡邊:面白いって大切だと思います。自然な初期衝動というか、純粋な根っこのところですよね、森谷さんの。そこが面白いからそもそもガラスを始められたとお聞きしていますし。どうしてガラスを選んだのかっていう。ベースの部分がちゃんとあって、その上に伸びている枝葉は続ける中でちょっとずつ変化?進化?していってると毎年感じます。
森谷:どういう変化があったのかわからない(笑)
渡邊:(笑) 使ってくれる人が少しずつ現れることで、ある時に『どうせ使ってもらうんだったら使い易さの部分も意識したい』という考えをお聞きした時なんかは、大きな変化?成長?を感じました。ありがたいことに森谷さんとはだいぶ長くお付き合いさせてもらっていますよね。意識されてないのかもしれないけど、人生を進むと同時に制作の現在地も動いているように見てます。ガラスの現象が面白いって今も常に感じますか?
森谷:ガラスの現象が面白い、しか無い気がします(笑) 特に、ガラスが変わる(2022年頃から、今まで使用されていた素材である廃蛍光管ガラスの入手が今後難しくなりそうな様相に。それに従い新たな材料の透きガラスに本格的に取り組み始めた)ってなったから、その用意のため色々な実験をずっと一年くらい、もうちょっと長いかもしれないけど、その準備が多かったのかなって。ようやくなんとなくガラスを溶かせるようになった(性質を見極めて溶かす温度やタイミングをつかめてきたという意味だと思われます)とか、粒度によって細かく仕分けできるようになったから、材料は少しずつできたぞみたいな。で、これで何しようみたいな感じなんですよ。
渡邊:着実に動いてますね。
森谷:なのかなとは思います。けど、すごい地味で人にお出しするようなことはしてない(笑) 地味なことばっかりして。何か作品ができたぞみたいな感じじゃなくて、ちょっとずつじわじわ基の基みたいなところができたみたいな。でも本当のところはちゃんとできてるのかな?っていう。
渡邊:できつつある、ということなのでは。だって少しずつでもこうやって形にしてる。
森谷:途中。途中なんですよ…。もっとこれがね、洗練されてきたらね、やりやすいのかもしれないですよ。すごい進みが遅い感じがする。まだ色々迷ったりとか、うまくいかない部分だったりとか。
渡邊:んー、進みは人ぞれぞれですよね。スピードを上げる…どんな方法があるでしょうか。
森谷:良い場所があったら一気に変わるけど。なんせノロノロしてるもんだから、思いきれないぞみたいな。思い切る余裕が無い。
渡邊:工房移設を考えることもある、ということですか?あとはアシスタントを入れたり、人材を育てるとか。
森谷:ね。弟子をやりたい人いるのかな。
渡邊:誰かのもとで教えを乞いながら働きたい人もいますよね。一旦学校や教育機関で勉強してそこから始めたい、どこかの工房で働くところからスタートしたい、すぐ独立したい人もいますね。
森谷:新たな仕事場を探してみるとかも「やってみればいいじゃん」って話なんですけど、ずっとこう動けずにいます。
渡邊:ここの環境だからこそそれが良い影響をもたらしてる部分はどうですか?
森谷:まあ場所ごとにいい部分はありますね。この前の仕事場なんてもっと機材も少なかったし。今もこんなところでやってるんだって気付かないでやってるけど(笑) 整えていくことをね、したいという気持ちはめっちゃあるんですよね。毎年言ってるかもしれない。
→→→中篇に続く
森谷 和輝(もりや かずき) 略歴
1983 東京都西多摩郡瑞穂町生まれ
2006 明星大学日本文化学部造形芸術学科ガラスコース 卒業
2006 (株)九つ井ガラス工房 勤務
2009 晴耕社ガラス工房 研修生
2011 福井県敦賀市にて制作を始める