読み物
近藤康弘 Nouvelle page ③
インスピレーションの存在 その2|新しい工房と庭、周辺の林
近藤さんが作陶したり、日々を生きる上でのインスピレーションとなる存在。
ふたつめは、2021年に益子内で移転した新たな工房と広い庭、そして周辺の林だろうか。
雨巻山という山に抱かれるようにして、近藤さんは新たな場所で暮らしながら作陶している。
以前も別の陶芸家の方が自らリフォームして暮らしていたという住居と陶房の建物。
横には江戸時代に建てられたという大きな古民家が印象的だ。
山あいにぽっかりと出来上がった平たい土地に建つ建物、そして庭。
庭には、以前の工房から運んできた植物も植え替え、庭の引っ越しもした。
その上、まだまだ新しい草花の株や苗もスタンバイしているような状態で、充実ぶりが著しい。
念願だった畑も小さな面積で始めたという。
修業時代の窯元には畑があり、その世話もしながら皆で作陶し、その楽しさがずっと心の内にあった。
古き良き益子の、半農半陶の暮らしを、新しい場所でしてみたかったのだという。
工房へ向かう道は沢と田んぼがあり、家と工房の奥へ進むと雨巻山の林道へ続いていく。
この林の散歩へ、一緒に連れて行ってもらった。
山に続くあちらこちらに異常がないかのパトロールも兼ねているようだったし、倒木があれば邪魔にならない場所にどかしたりもするという。
そして林に育つ草花を愛で、沢の風に吹かれるのを楽しんでいるようだった。
ここに暮らす者として、何かを守っているような姿も印象的だった。
新しい工房や畑を手に入れたが、その理想を現実の暮らしとして続けていくには大変なことも多い。
すべてが出来上がっているところに「ぽん」と収まるのではなく、収まってから同時進行で形成しながら生きていく。
家の手入れ、工房の手入れ、庭や山林の手入れをしながらやきもの作りをする。
広い庭の手入れでは、林に面しているところに生える大きな木々を伐採する作業もある。
木を一本切るだけでも大変な労力と時間が必要だ。
やきものだけに集中していればいいわけではなく、想像以上のやるべきことがたくさんある。
ひとつひとつのことと向き合いながら、近藤さんは手探りで進む。
新しい暮らし、新しい時間の過ごし方の模索。
それらはまだ始まったばかり。