読み物
清夏の入り口 ①

触れて伝わる時間
ガラス造形作家の森谷和輝さん。2011年から毎夏、百職では展覧会を続けて頂いている(2020年の回だけは秋の10月開催)。
実は付き合いが始まった当初、百職で開催する個展に合わせガラスを題材にしたワークショップ開催の話が出た。確か2012年か2013年だったと思うが、開催のための最少催行人数が集まらず実現されなかった。
その後の2014年の静岡手創り市の出展時、来場者向けにパーツを選んで組み立てる風鈴のミニワークショップをはじめてご自身のブースでされたが、人に教える難しさも感じ、以降の開催はしなかったという。
それから十年ほど経った今回、思いがけず森谷さんからご提案があり、念願だった森谷さんによるワークショップを展覧会のプレイベントとしてさせて頂くことになった。「内容はこんな感じで、作業はこんな様子で進めていくのはどうだろうか」とイメージを共有しながら対話を重ね、作品制作も大変な中、並行して開催準備に取り組んで頂いている。
なぜ今回、ワークショップを提案してくださったのか。どんな心境の変化などがあったのかが気になり、展覧会の打ち合わせの合間に少しだけ訊ねてみた。
ガラスと触れ合ってもらうのはすごくいい機会だなと思った
───すごく嬉しかったんですけど、今回どうしてワークショップやってくださろうという気持ちになったんでしょう。
森谷:始まる前にちょっとやるのがいいなと思ったんです。展覧会がいきなり始まるんじゃなくて予告みたいな意味もあっていいなと。ほかにもそういうワークショップをやっている作家さんがいたのも自分への後押しになりました。その方はガラスの花器などの展覧会だったようです。会期の前にその人が作った花器に参加者の皆さんがお花を活けて、楽しかった後にその花器を選べる。それから展覧会本番が始まって、それがすごく楽しそうだなと。自分に置き換えたら、実際ガラスに触ってもらったら、こうやって作ったりするんだと思ってもらえるし、自分なりにお気に入りの何かができて持ち帰る。それっていいことじゃないかと。その後で展覧会が始まって展示に行ったらまた作品の見方も変わるかなと思って。
森谷さん宅での打合せ時、試しに予行演習をしてみることになった時の様子
───よくわかります。展覧会のいい導入にもなるし、展覧会が終わって自分で作ったものが手元にあることで思いや時間が濃くなる気がします。
森谷:同じ大学の先輩である渡辺隆之さん(陶芸家・造形作家)と今年再会した時に「あの時* 作った風鈴、今も使ってるよ」と言ってもらえて(*過去に森谷さんが静岡手創り市出展時にブースで行った『パーツを選んで組み立てる風鈴づくり』のこと)。もうだいぶ昔のことなのに、ええ!あの時のですか!?って、こちらももうびっくりしてしまって。渡辺さんも同じようにその回の手創り市に出展していて、ワークショップはお子さんと参加してくれたんだったかな。その時のことはあまり覚えていないんですけど、その時の風鈴が今もあるっていうのは僕にとっても嬉しかったですね。そこでのワークショップというのはブースに寄ってくれたお客さんにぱぱっと教えるような感じだったけど、僕は教えるのは向いていないなとその時すごく実感しちゃったから、それ以来ずっとやっていなかったんです。
今も相変わらず、人前に出て教えるのは得意じゃないんです。うまくできるのかな。教えるのはほかの人にやってもらいたいくらい。
ともかくガラスと触れ合ってもらうのはすごくいい機会だなと思ったんです。手磨きをやってみる時間をみんなで持つのは思い出としても楽しいものになるんじゃないかと思い至りました。
(了)