読み物
小野陽介 Polaris ④
小野陽介さんロングインタビュー / 前篇
2022年最後の展覧会がやってきました。
今思い出しましたが、2019年に百職でさせて頂いた小野陽介さんの個展は、ご自身にとって初個展だったそうです。
そして今回百職ではようやく、小野さんの個展の第二回目を迎えることができそうです。
陶芸家のお父様がいるご実家から昨年冬に独立。ご結婚もされ、茨城県石岡市に新しい工房を移した小野さんのもとによく晴れた秋の終わりの日にお訪ねしました。
筑波山が眺められる、少し小高い場所にある工房とお宅。古い建物を、今もまだ少しずつリノベーションをしながら暮らしているということ。
古い倉庫のようなガレージのような場所が小野さんの現在の仕事場。味わいがあり、以前よりも広くて開放感がありました。
そこで窯出しした作品を見せて頂き、お昼ごはんのあと、すぐそばのこちらも味わいのある古民家のご自宅に場所を移してお話を聞かせて頂きました。
前篇、後篇のインタビューです。
小野作品の一端を感じるよすがになれば嬉しいです。

〇諦めて空っぽになって「あれ?何したらいいんだろう?」って思って1ヶ月ぐらい悩んだんですけど「そうだ、俺陶芸好きだっけ」って
‐百職では3年ぶりの展示で…多分3年ぶりですよね、2019年以来。
小野:そうです。
‐まず小野くんが陶芸の道に進もうと思ったきっかけから教えて頂けますか。
小野:きっかけ…なんか自然とやりたくなったんですよ、最初。
‐大学卒業してからすぐではなく。
小野:そう。でも、大学にいる時ぐらいからもう結構器っていいなって思ったんです。ちょこちょこ色々見に行くようになって。
‐美術館や現代作家さんの展覧会などですか?
小野:展覧会は行かなかったかな。(器を)売ってるお店に行ったりとかして「ああ、面白いな」とは思ってて。でもその時まだ漫画家目指してたんです。漫画はアシスタントとして1年間東京で頑張っていたんですけど、どうにも合わないと実感することが多く、諦めたんです。で、諦めたらなんか空っぽになったんです、その時。
‐好きだった漫画なのにやってみたら合わなかったというショックな心境ですか?
小野:そう。諦めて空っぽになって「あれ?何したらいいんだろう?」と1ヶ月ぐらい悩んだんですけど「そうだ、俺陶芸好きだっけ」と。なんかいつか多分陶芸やるだろうなと思ってたところもあって。

‐それはやっぱり身近(ご両親は益子の陶芸家 小野正穂さん・優子さん)に陶芸があったからということでしょうか?
小野:そうそうそう。なんとなく僕だったらこういう風に作るなとか、こういう表現したら面白いんじゃないかって自然と考えてたりする。妄想とかしてたんです。
‐自分に置き換えて、陶芸を見たり考えていたりしていたんですね。
小野:まだやるとは思ってなかったんだけど、漫画を諦めた時点で、いつかじゃなくて今やれないかと思った。で、焼き物やろうと実家に帰りました。なんだろう、具体的にこういう理由があってやりたいとかはなくて普通に自然にやりたいって。自然に面白いなって思ったのは多分身近にあったのが一番良かったですよね。それでもう魅力は知ってたから気がついたら引き込まれてた。
‐なるほど。こんなものづくりがしたいんだ!といった強い意気込みは最初からありましたか。
小野:最初はなかったかな。最初は本当に自然ですね。
‐家に戻ればすぐ身近に陶芸がある環境が自然な姿勢につながったのかもしれませんね。
小野:それは大きかったですね。
‐学校にも通っていましたね、瀬戸の(愛知県立瀬戸窯業高等学校専攻科)。
小野:ああ、そうです。その前に一回実家に戻ったんですよ、1年間。震災で親の窯が壊れたからそれを直すの手伝おうっていうのもあったし、それで1年間実家でちょっと親に教えてもらいながら過ごして。でもやっぱり学校行ったほうがいいんじゃないかと両親から話があって、そうだなと自分も思いました。それで瀬戸に行きました。
‐ご両親の勧めもあったんですね。確かお父さまとお母さまの出身校もそこでしたね。
小野:そうですね。まあ地元が益子だから、益子以外のやきものも学べるならどこでもいいんじゃないみたいなのもありました。親も陶芸やっていますしね。

‐瀬戸の学校は1年間?2年間ですか?
小野:2年です。
‐学校は楽しかったですか?一人暮らしをされていましたか?
小野:楽しかったです。一人暮らしでバイトしながらですよね。学費とかも自分で稼がなきゃいけなかったし。
‐学校では基本的に陶もやるし磁もやる?
小野:そうです。でも瀬戸は半磁器をよく扱ってましたね、基本的には。半磁器で、貫入土っていう土があるんですけど…。
‐「カンニュウ」ってあの「貫入」?
小野:そうです、漢字はそうです。貫入土っていう、まあ半磁土ですね。
‐練習用の土ですか?
小野:練習用です。
‐半磁の土と陶土は結構手触りなども違いますね。挽きやすいとか挽きにくいとかはありましたか?
‐磁土(磁土はかなり柔らかいので扱いは難しい)よりかはまだましだったかもしれませんね。
小野:うん、半磁土は挽きやすいっちゃ挽きやすいけど、めちゃくちゃ腰があるので、伸びやすさはなかったです。
〇突き詰めるみたいなのが好きなのかもしれない
‐(学校時代に)苦手なことや苦労したことはありましたか?それとも全教科優秀でしたか?
小野:いや、別に優秀ではなかったです(笑) ただ苦手とかは無かったかな。思ったより型物とかが好きだったかなあ。今の作品にはそんなに反映されてないですけど。
‐あ、最初の頃、確かに型物も好きだとおっしゃってましたね。
小野:なんか先生からもこっち(型物)の方が向いてんじゃねって言われてたんですけど結局やってないですけどね。
‐そうでしたか。今は型物よりかは轆轤での仕事のほうに楽しさや、性に合っている感じはあるんでしょうか。
小野:そうですね、轆轤も好きだから…。(しばらく考えて)んー、轆轤のほうがなんだかんだいって好きだったのかな。でも型物も多分好きですよ、ただやってないってだけで。出し惜しみしてるってわけじゃないですけど(笑)
‐型物をやってみようかなというお話は、今回の展示について事前に電話でお話した際にも、そう話していらっしゃいましたね。
小野:そうです。型物はもしかしたら増えるかも。型がなんで好きかっていうと多分ひとつの形を時間をかけて突き詰められるからっていうのもあるんだと思います。
‐型物は、まずはベースの原型をしっかり考えて作り始めますしね。
小野:そうです、それが多分楽しいんだと思います。そういう意味では多分手びねりとかも好きだと思います。こう何か考えながら作れるから。
‐轆轤とは全然時間の使い方が違うでしょうね。
小野:だからそういう意味ではもしかしたら轆轤は苦手なのかも。でも轆轤でも例えば花瓶とかはちょっと時間かけるんですよ。そういう時は楽しいっちゃ楽しいですね。焦っちゃう時もあるけど(笑)
‐さっきもお話していましたね、朝イチの時間になさると。
小野:そう、結構集中力を要するから。多分1個に時間をかけるのが…ひとつのものを作るのに時間かけて考えるのが結構好きなのかもしれない。とは言っときながらそういう作品ないっすけど(笑) そういうのに全振りした作品はないですけどね。
‐そちら(時間をかけて作る方向性)寄りに寄ってる作品で言うなれば、花器や壺はそれではありませんか?
小野:多分(ひとつの作品を)突き詰めるみたいなのが好きなのかもしれないですね。父から教わってる轆轤って一発で挽くとかあんま触らないとかっていうのを俺は教えられたから素直に(教えられたように)やってました。なんだかんだ言ってそういうのも取り入れようとはしてます。
‐轆轤ならではの作り方を大事にするとなると、その時のフィーリングや考えて体を動かすことで形に現れるというか、そういうアドリブ的なものも轆轤の魅力でもあるように思います。
小野:そうですね。未だにこう…若干形が揃っていなかったりっていうことはよくあるんですけど、そういうのはあんま気にしないです。
‐職人仕事として求められたりすると揃えるっていうことに徹する必要もありますね。今まで型物の作品っていうのはあまり見たことありませんが、オーバルの作品などが新しいものだったりしますか。
小野:オーバルは一年くらい前に型作ってやってます。もうちょっといい形にできそうだとかもうちょっとこうすればよかったとかありますね。
(何をしているのか気になったのかお母さん猫のちろぴがやってくる。小野家ではちろぴとちろぴが生んだ4匹の子供たち、合計5匹もの猫たちが暮らしている。)
小野:ほんとちろぴが可愛くて。
‐今敵意がないってことをちろぴに示すために私、一生懸命瞬きをしています…。
(しばしインタビューを中断し猫たちと戯れる)
〇料理にどう使うかみたいなことが、可視化されたというか
‐家族ができたことで仕事のやり方とかに何か変化はありましたか?たとえば猫を飼っていたら猫のごはん皿作ってあげたいなとか。
小野:一回作りましたよ。
‐本当ですか。どういったものですか?
小野:マコ(奥様)が実家で飼ってた猫がいてそれ用に。
(奥様もやってくる)
奥様:めちゃくちゃ可愛いんですよ、見てください。(スマホの写真を探しながら)何かしてほしいとか作ってほしいとか、そういう発言はほぼしないようにしてるんですけど、ただこれはすごい素敵だなと思って。あ、これです。
‐あ、良いですね、これ絶対良いですよ!
小野:作ったほうがいいすかね?(笑)
‐猫のごはん皿は欲しい人いっぱいらっしゃいますから。
小野:へえ。
‐需要はありますよ、本当に。お問い合わせ頂きますよ。猫のごはん皿はいいですね。
小野:じゃあ作ろうかなあ、サイズ感もこのくらいがいいかな…いや、でもまだ作るかどうかはわかんないっす(笑)
‐猫ちゃんはやっぱりこうやって(地面に皿を置いて)食べるより高さがあったほうが食べやすいからあの形がベストだと思います。
小野:そうですよね。みんな(小野家の猫たち)にも作ってあげるか…。
‐5匹いるから5つ。良いですね。もし作ったらそれを彼や彼女らが使って食べてるのを写真に撮って送ってください。それでご紹介させてください。
小野:それで紹介するんですか(笑)
‐けっして私が見たいからとかじゃないですよ?(笑) お皿だけお見せするよりも、猫さんがそれで食事していたり、お使いになられている写真をお見せすると説得力が増すんだと思います。
小野:お使いになられる…。
‐猫様が実際にお使いになっているのを見て、皆ときめくんです。嗚呼、うちのにゃん達にも使わせたいと。猫も家族だから家族に器を作るという意味では良いですよね。
小野:そうですね。いやあ、作ろうかなあ…どうしよう。
‐作らなきゃいけないものがたくさんありすぎて間に合わないかもしれませんね。
小野:うーん、無理かもしれない。あと一窯しかないから。
‐もうちょっと大きい窯だったらよかったですが仕方ありませんね。さっきの猫のごはん皿もそうですが、家で使う器をというか奥さんがこういうのあったらいいんじゃないとかそういう話が出たりはしますか?
小野:ああ、ありますあります。これくらい(のサイズ)のカップが実は結構使いやすいとか色々「ああ、なるほど」っていうのはありますね。
(小野さんの友人、鳥取の陶芸家 廣瀬泰樹さんのカップを手に取りながら)
‐このカップは安定感がありますね。土の雰囲気もこなれていますね。
小野:これ、クラフトフェアまつもとで売ってた時すごいガサガサだったんですよ。だから自分でヤスリかけてつるつるにして。
‐ガサガサすぎると洗い物して布巾で拭くと引っかかっちゃったりしますね。
小野:そうですね。まあ俺はわかってるからいいけど普通の人はそうはいかない。
‐普通の方は「あれ、ガサガサする!」「どうしよう…」と困る方もいるでしょうね。そうやって他の作家さんの作品を見て自分の作品について考えるっていうのも大事な時間かもしれません。話は脱線しましたが、これは奥さまに好評なんですね。
小野:この作品は廣瀬くん(廣瀬泰樹さん)の。
‐うん、良いですね。
小野:ね、なんかいいっすよね。なんだろう、手(に持った時)の重量感みたいな。
(今度は猫のむぎちゃんがやってくる。廣瀬さんの器に興味津々の様子)
小野:そういえば廣瀬くんの家も猫飼ってますよ、二匹くらい。
‐じゃあこれ廣瀬さん宅の猫ちゃんの匂いがするかもしれませんね。
小野:するかもしれないです(笑) 最近は猫飼ってる作家さん多いですよね。
‐多いですね、最近は結構お家で動物と一緒に暮らしたりとかしてる方たくさんいる…あ、撫でさせてくれた。
小野:いつもは(ぶち猫の)ぶちと(ハチワレの)ハチがいつもわちゃわちゃーってして、いつも真っ先に来て甘えてくるから一番人懐っこいかと思ったら…全然来ないね(笑)
‐全然来ませんね、梨の礫ですね。
小野:むぎが一番大人しいんですけどね。
‐大人しいのにわざわざ来てくれたんですね、よかったです、ありがとう。実は好奇心旺盛なのでしょうか、静かでも。
小野:どうなんだろう、そうかもしれないですね。
‐家族の一員としてペットの器を作ろうっていう陶芸家さんも増えた気がしますね。
小野:多いんですね。まあ猫のえさ入れは作ってる人いますよね。
‐いらっしゃいますね、皆さん工夫を凝らしてやってますよね。色々あったほうがお客様も人間の器と一緒で選べるからいいんじゃないかなとやっぱり思います、いろんな選択肢があったほうが。猫のごはん皿を作ったときは奥さんの意見があったんですか?こういう形とかも。
小野:そうですそうです…あれ、そうだっけ。そうだよね?(笑) 高さがあったほうが食べやすいよって教えてもらってって感じで。でもちょっと大きかったかな、6寸くらいあったから。
‐6寸はそうですね、少々大きい気がしますね。
奥様:なんかすごいお洒落に見えちゃう。なんというか(盛り付けのバランスが)フレンチを食べに行ったときみたい(笑) ちょっと高級感が出ちゃう感じ。
‐フレンチ、たしかに(笑) 盛り付けは余白生かしてますよね、6寸の猫のごはん皿も大きいところにちょんっていう感じになりそう。ちょっと高級志向の猫ごはん。
小野:最近は斜めになってるプロダクトのエサ皿見ました。高さがあって斜めで。
‐台があって斜めに据え付けられるような形のごはん皿もありますね。色々考えるとこれも道具のひとつだから使いやすさを考えるっていうのでは同じですよね。
小野:でも猫はわかるのかなあ。「これすっげえ食べやすい!」みたいに(笑) 感動とかしてくれるんかな。
‐(笑) あるかもしれませんよ。彼ら(小野家の猫たち)のようにスリムな子たちは多分問題ないかもしれませんが、ぽっちゃりされている猫さんはしゃがむのがしんどそうに見えます。飼ってる方にお聞きすると、かがんで食べるのが苦しそうだとかいうお話もありました。何を選ぶかは飼い主さんの主観にはなりますね。次は、このお家で使っている小野くんの器で一番奥さんに評判がいい器はなんですか?
小野:えー、どれだろう(笑)
奥様:お皿じゃないけど結構マグが好きで。白っぽいやつ。ミルクたっぷりのカフェオレを飲むんですけどこれが一番しっくりくるんです。
小野:ああ、そう…なんだ。
奥様:そうなんです(笑)
‐小野くん、もしかしてちょっとがっかりですか?(笑)
奥様:器は瑠璃釉の…8寸かな?あれにサラダを盛り付けるのが好きかも。
小野:ああ、うんうん。なるほどなるほど。
‐8寸はリム皿?
小野:いや、リムじゃない。えっと…これだ、これと同じ形の。
‐ああ。(出していただいた器を受け取り)ありがとうございます。これくらいの大きさは初めて拝見したかもしれません。
小野:ああ、はい。これは(益子の)薪窯時代のやつで。
‐薪窯時代のですか。だからでしょうか、結構重さがあります。
小野:そうなんです、重いんすよ。それで、もうちょっと軽いの作ってくれってよく言われます
‐同じ大きさでももうちょっと軽いとよさそうですね。
奥様:(別の器を持ってきて) 忘れてました、これも好きです。
‐ああ、綺麗ですね。これは麺鉢で使われているんですか?
小野:麺鉢ですけど別に麺に限定しないです。
‐何に使うことが多いですか?
小野:サラダとかもいいですね。何か和えたりとか。
奥様:あと、今はそんなにないけども一人で今日は手抜き料理って時にラーメンに野菜たっぷり入れてそれを食べるのが好きだった。お洒落な食べ方じゃないですが…。
‐お洒落になりますよ。お洒落に早変わりです。なるほど。店頭でも麺鉢は人気でしたね。ざっくりしてると伝わりにくいかなと思って一応麺を盛って写真を撮って出していました。そのほうが最初はとっかかりやすいかと思ってそうしたんですが、それ以外でも使えるから結構応用範囲が広いうつわですね。サイズが大きいとそれだけ値段が張っちゃったりする場合もありますし、お求めやすい印象はありますね。
小野:これは4000円ちょっとくらいだったかな。これは値段って安いほうですか?
小野:そうかあ。なんか2,3年前より全体的にみんな上がってますよね。
‐今年に入って燃料費が上がるとか政府がいろんな品目の値上げを順次やっていくっていう発表が今年の春ぐらいにもあったでしょう?その頃から作家さんも今年は値段を上げますっていう連絡が3件くらいは来ましたね。
小野:僕もさりげなく上げようかな(笑)。
‐コバルトは何年も前から上がってきてるでしょう?
小野:はい。でも今年になって急にがーんと上がりました。でも俺薪窯からガスになったからそれがある意味値上げというか。値段は変えてないっすけど。
‐ご無理ないようにしてくださいね。
小野:なんとかやっていけてます。今は、ですけど。でもギリギリですね、いつかは上げるかも。いつかというか割と(近いうちに)上げるかも。ちょっと皿とかは安すぎるかもしれないですね。
‐実際にいままでもご実家でご自身の器を使ってはいたと思うけど…あ、でも実家ではお父様の器が多かったんでしたっけ?
小野:多かったですけどお母さんが割と僕のを使ってくれてましたね。
‐その時より、結婚した今のほうが料理に使ってもらうことに対して身近になったのでは?
小野:ああ、そうかもしれない。使うことが身近になりましたね。料理にどう使うかみたいなことが、可視化されたというか、割とそうですね。自分でも洗い物とかはするんですけど「(この部分は)欠けやすいんだろうな」とか思ったり。
‐そうなんですね。今までそこまで実感して考えたことはなかったですか?
小野:そうですね。でも別にわかったからといってめちゃくちゃ改善するとかはないですけど。
‐でもそれをわかっているかどうか。見ようとするか見ようとしないかでは全然違いますよね。
小野:そうですね。
(猫たちと戯れ再びしばしの中断)
〇テストピースをちょっとぼけっとしながら眺めてて「あ、これこういうふうに発展させたほうがいいな」とか思考の遊びが増えた
‐だいぶ住環境変わりましたね。
小野:かなり変わりましたね。
‐奥さんもいて、猫も現れ。
小野:癒されてます。なんか緊張感が無くなっちゃった(笑)
‐いろんな影響がきっとあるんだろうなと思うのですが、自分にとってプラスになったと感じることはありますか?
小野:ありますあります。プラスは多いと思いますよ、やっぱ。ストレスが無いし。でも自分でコントロールしなきゃいけないっていう、全部やんなきゃいけないから、それが(自分には)いいと思いますよね。
‐そのほうがかえって楽なんでしょうか。
小野:最初は多分薪窯から離れたことによって、お客さんも離れる人は離れるっていう覚悟はしてて。
‐それ、最初すごい気にしていらっしゃいましたね。
小野:すごい気にしてた。実際やっぱり薪窯もよかったなっていうのはちょっとあるんですけど、でも絶対(親から)離れてやったほうが長期的に考えたら絶対合ってるなって。考えたことをすぐ行動に起こしやすいし。実家にいると親がいるからちょっと気を使っちゃうんすよ。顔色伺っちゃいますし。
‐確かに。何か手伝ってほしいことあるかなって身近にいるご両親のことも気になったりしますね。とはいえ自分の仕事も進める必要もありますし。
小野:あとなんか無意識で親が気に入るもの作らなきゃみたいな…いや、それはないか。
‐どの作品ですかと聞きたくなります(笑)
小野:んー、そういうのもあったかもしれないなあ。もうとにかくすごいもの作んなきゃみたいな。そういうのはあったかもしれません。もちろんすごいもの作りたいですけどね(笑)
‐それは自分のためにね。自分が満足できるすごいものってことですよね。
小野:あとは考える時間が増えたと思います。
‐新しい作品を作るときにいろんなタイプの人がいると思いますが、例えば轆轤に向かって土触りながらじゃないと考えられないみたいなこという人もいるようですよ。
小野:僕はそうじゃないですね。ふとした時にこう思いつくんですよ。寝てる時に「あ、ここはこうしよう」とか。前日にうーんって作りながらめっちゃ悩んだりしたのに、次の日の朝にぱっと思いつく感じですよね。あとは今テストピースを無造作に置いてたりするんですけどふとした時に思いついて確認したりとか、ちょっとぼけっとしながら眺めてて「あ、これこういうふうに発展させてほうがいいな」とか思考の遊びが増えたのはあるかもしれないな。多分(親元から離れたことで環境が)自分の空間になったからかも。自分がいいなと思える空間をつくろうとするとちょっと親父に似てくるんです。だから同じタイプの人が同じ空間にいたら潰しあっちゃうのかなって(笑) 多分お父さんも(身の回りを)ごちゃごちゃっとさせて、そういうのを眺めてる時にふとひらめくのかなって。いろいろと思考を分散させておいて。
‐思考の分散化。
小野:ごちゃごちゃってしてたのは親父の中で多分”遊び”なんですよね。で、多分僕もそうなんですよ。だから俺もやりたいことをやったらああいう家(実家)みたいになるんだろうなっていうか、ああいうごちゃごちゃした家になると思う。カフェみたいなおしゃれな工房にはできないかもしれない。カフェみたいな工房で、ごちゃごちゃにするか。
‐カフェみたいな工房だったらもういっそカフェに行くのがいいのでは(笑)
小野:たしかに(笑)
‐居心地がいい場所でありたい、っていう表われでしょうか。カフェみたいな工房にしたいなっていう考えは。
小野:そうですね。居心地がいい空間にしたほうがリラックスできるしテンションも上がると思うし。思考の遊びが増えたとはいってもまだそれほど変わってないかもしれないですけどね。でもふとした時にひらめく回数がうんと増えた気がします。まだ「気がしてる」ってだけですけど。
‐余白があったほうが自分には向いてると感じているのかもしれませんね。詰め込んだほうがいいっていう人もいたりしますし、いろいろですね。
小野:そういうことは多分ありますね。でもある意味詰め込みっていうのもあるのかな。いろいろがーっと考えて、休んだ時に思いつくみたいな。ちょっとリラックスしてる時とか何気ないときとかにひらめくことが多い気がしてますけど、まだかたちになってないですね。
‐まだここに移ってきて年数経ってないですからね。でも興味深い話です。仕事に追われないとアイデアが浮かばない人も現にいらっしゃいます。
小野:適度にストレスがあったほうがいいっていう話も聞きますけどね。僕は仕事に追われると本当に落ちるから…。(奥様と)二人して結構落ちやすいから。
‐新しいリムのお皿もお願いしたら作ってくださったり、釉薬にも力を入れていらっしゃいますが、形をつくるのがお上手ですよね。
小野:本当ですか?いやいや、まだまだです。なんかやっと思考の遊びが増えたので、よくよく考えたら普通そうだよなって。
‐どうなんでしょう(笑) いろんな人がいると思います。形もそうですが釉薬の調合に関しても同じで、自分の頭の中に余裕をつくって考えることでうまくアイデアも浮かぶ場合もある気がします。
小野:そうですね。テストピースとか見てると「あれ、これ使えるんじゃね?」とか思ったり、環境プラス気持ちの余裕みたいなものは大事かなと。でも切羽詰まってる時は切羽詰まってる時の…あれ、どういえばいいんだろう。
‐そうですね…切羽詰まってる時はそれはそれで思い浮かんだりするということでしょうか?
小野:いや、思い浮かばないです。でも色々発想が浮かぶことは増えました。いろいろこうしたらいいかなとか、こうしたら面白いかなとか。テストは増えましたけど…でもまだまだ失敗ばっかりです。
‐なかなか納得できるものを狙ってつくるのは難しいですよね。
小野:(器のひとつを手に取って)これもちょっと固いし…。
‐色味が?
小野:いや、釉調がもっと動きがほしいなと。こっち(新しい器)の色味のほうが好きかもしれない。ただ、動きがないなとも思う。そういうことを模索したりだとか。あとはいろいろ狙おうとするのもあるし、思考を分散して偶然にまかせてみたり、好奇心から発見するものがあったり。青伊羅保なんかはそうですね。どうなるのかなってやってみたら面白かったみたいな。
‐計算じゃなくて。
小野:好奇心で見つかるものもあるし、こっちは計算で狙ってるんですけどうまくいかないっていうね。あとは両方組み合わせてみたりとか。偶然なんか面白いもの見つかったけどもうちょっとこっち寄りにしたらいいかなとか。
‐なるほど。仮説を立ててコントロールしてみようという。
小野:そうですね。で、失敗してるっていう(笑)
‐でも成功なさるときもあります。
小野:そうですね。
後編に続く→→→Polaris⑤