読み物

叶谷真一郎 Listen ①

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叶谷さんは言った。
「叶谷さんっていったら、
え?鎬のうつわがないならじゃあ何があるんだっけ?と実際思っている人もいるかもしれないですけど、
でも全然いいんですよ、それでも。
むしろ特徴のないのが特徴です、ぐらい言ってやろうと思っているんで。
素直に作ったらいいなと」

慎重に言葉を選びながら、こうも話してくれた。
「自分が成長しているなという実感がほしい。
ないといやなんですよね。
同じことをやるのは後退するみたいな。大げさに言えばですけど。
すごい売れている作品があってもそればかり作り続けるというのは自分にはちょっとできなくて。
そこからひとつステップを上がるみたいなことを思うとそこに引き摺られちゃまずいなと」

ひとつずつ考えながら真摯に言葉を紡ぐと、すぐさま
「まあ、過去の自分を越えていける能力が僕にはないから。
ハードル低いところでちょっとずつマイナーチェンジしていくほうが僕には合ってるかなというか、要は気楽なんです」
と照れ隠しするかのようにお決まりの自己評価低めな言い回しをして笑った。

買う人、売る人。
作家が何を思って作っているかなどは特に知らなくても、
ほしかったうつわがあれば、
映えるうつわがあれば、
売れるうつわがあれば。
要件は満たすし、事足りる。

作る側もあえて「思い」を「言葉」にして押しつけることは好まない。
できたものの中に、すべてがあるから。

でも思いは存在する。
たとえあなたにとって
ほしいとは思ってなかったものであっても
映えそうにないものであっても
売れ筋でないものであっても
必ず在るもの。

私は思いを作品の中に聞きたい。

叶谷さんは自身の売れ筋の作品を知っている。
そして心の声に耳を澄ます。
今はどんなものが作りたいのか。

見てくださる皆さんへ
願わくば、まずは一度深呼吸してから、
静かにうつわの前に立ってみてもらえたらと思う。
それから「Listen」。
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