読み物

森谷和輝 整音 ④

A piece of artwork with glass 作品紹介 バーナーワーク篇

A piece of artwork with glass 作品紹介 バーナーワーク篇

作品紹介 はじめに


■技法のおさらい


森谷和輝さんのガラス技法は大きく分けると2種類。
バーナーワークで作るガラス、キルンワークで作るガラスがある。

・バーナーワーク
森谷さんの場合は、酸素バーナーによって棒状や管状の硬質ガラスを溶かしながら成形していく。
使うのは「ホウケイ酸ガラス」という理化学器具等に使用される透明度が高く、耐熱性、耐衝撃性を持つガラス。古い時代にランプの灯りを主な熱源としていたことから欧米では伝統的なニュアンスを込めてランプワークと一般的に呼ばれる。もっと現代的なニュアンスやイメージの中においてはフレームワークの呼称を使うという。ガラスは紀元前に起源を持つといわれ、その最も初期段階に装飾品などの制作でバーナーワークは行われていたとされている。

・キルンワーク
キルンは窯の意味で、電気窯である。低温(とはいっても800度前後)の窯で、型を用いてガラスを融かし成形する。森谷さんが使うのは「廃蛍光管リサイクルガラス」という、独特の淡い淡い青緑色が特徴的なガラス。
キルンワークは更に多くの技法が枝分かれしており、そのどれもが歴史が古い。
もっとも有名な例はパート・ド・ヴェール技法。非常に細かい粉末状の無色のガラス(森谷さんが使用するもガラスと違って、更に細かくさらさらしている)と色ガラスを混ぜるなどして、粘土で作った原型をもとに耐火石膏で鋳型を起こしそこにガラスを詰め窯で焼成する。歴史としては古代メソポタミア文明の頃(紀元前15世紀-16世紀)に金属の鋳造技術を応用し発祥したとされている。
ちなみにガラスを取り出す過程で鋳型を壊さざるを得ないため大量生産には向かず、その後紀元前1世紀頃の古代ローマ時代になって吹きガラス技法が発明され量産する技法もこれを機にが新たに生まれていくこととなる。

キルンワークの中でも森谷さんが多く用いる技法はキャスティングスランピング
※調べるとキャスティング技法は古代ローマ時代の紀元前1世紀に発明されたと言われている。

(1)キャスティング 型の中にかけら状のガラスを敷き詰め流れ融けることで成形する技法。
(2)スランピング 予め作っておいた板状のガラスを型に置き、焼成すると型に沿って重力で流れ融けていくことを利用して成形する技法。




作品紹介|The case of Lampworking バーナーワーク篇 


「つくり手としては目の前ですぐかたちが作れてガラスに道具を介して触れるところが魅力。そういう意味では即興性があるガラスの様子が、使う側の人にも感じてもらえる楽しさがあると思います。(森谷)」

バーナーワークのガラスについて森谷さんは昔からよく「バーナーのガラスは中に水をいっぱいに入れておくと本当にきれいですよね」と話す。
高い透明度で凛とした硬度を帯びたホウケイ酸ガラスだが、森谷さんのバーナーワークによってやわらかで揺らぎのある輪郭が生まれる。
ガラスの中を水で満たしてみると、ガラスと水との境界がたちまちぼんやりとしてくる。
不純物など何ひとつ感じられず、硬質だったはずのガラスは水に溶かされたかのように水と同化して、そこにはただ水そのものだけが不思議な実在感を湛えて存在している錯覚を起こしそうになる。どこまでも澄み切った純度の森谷さんのバーナーワークのガラスは、ただ静かに空間にあることを好んでいるかのようだ。


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kui |新作

まず先に花器kouの存在があって生まれた新作。
今回の展示前に「kouの別バリエーションを作ってほしい」と百職側からリクエストして、森谷さんが作ってくださった花器。
作品名のkuiは杭?
キャンドルの炎のような細長い形は優美な印象。
細長い形はどちらかというと西洋的な印象を与える形。

けれど和の草花にも良く似合うたおやかもある。


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kou

すっかり定番となった花器kou。
グラスの、ステムのような脚がついた花器は個性的で、上品な印象。
丸い部分や脚は、ひとつひとつバーナーで熱した材料であるホウケイ酸ガラスを吹きガラスのう要領で吹いて作るので個体差が生まれる。
脚の長さも異なるし、水を入れる部分の球体部は真ん丸に近い形、やや細長めの楕円のような形など様々なものが生まれる。
プロポーションの異なる中から、自分だけのものを選ぶお楽しみが醍醐味。



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sankaku|新作

片手の中に収まってしまうくらいの小さな三角柱の形をした花器。
インタビューで「最近あまりやってなかったけど実は自分らしいのはこれかなっていう花器」と話していたのは、恐らくこの花器のことだろう。
型を使いそれに沿って制作したり、やや技巧的なものに取り組んできた数年。
今回ももともとは複雑で自分の内に内に向けた形を追っていたらなんだか疲れたのだそう。
自分が好きで、みんなも好きな感じをやろう。
いったん立ち止まってから、もう一度手を動かして出来たものは好きなやつだった。
以前はこういった大らかな作品群もあったけれど久々に見た気がする。
さりげない原点回帰。
森谷さんの大らかで飾り気のない少年っぽさをこの作品から感じる。
お会いして以来、十角形や八角形、六角形などポイントポイントで多角形のアイテムを森谷さんは少しずつ作ってきている。
今回は三角。
新しい多角形アイテムがまた増えて嬉しい。




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tide cup|新作

tideとは潮。
tideシリーズ、これはカップ。
無機質な質感のホウケイ酸ガラスに、ゆらめきを思わせるテクスチャーが与えられている。
カップというさりげないアイテムだけれども、森谷さんのバーナーワークの新しい場所に感じられる。
縁は真っ直ぐにカットされていない。
少し波打つような。
時折風で波立つ小波のようなディテール。
遠くでささやかに聞こえる潮騒のような静謐さは、うっかりすると聞き逃してしまう、見逃してしまう。
耳を澄ましてほしい。
少しの間だけでいいから、映る影をじっと見つめてみて。



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tide bowl |新作


tide(潮)シリーズ、これはボウル。
こちらもまた無機質な質感のホウケイ酸ガラスに、光が差すとゆらゆらと影が揺れるようなテクスチャーが与えられている。
どこにでもありそうな小鉢くらいのサイズのカップ。
でもそこに濃淡のある陰影、あるいは凹凸の影がはかなく零れているのを見てしまったら、美しいと感じざるを得ない。
カップと異なり、口縁は柔らかな気配の線を描いている。
凪の水面のような広がりをと、森谷さんは言った。
私は海と空との境目をゆるやかに漂う水平線だと思った。
どちらにせよ、私たちは海を思ったのだった。
薄く軽いけれども、耐衝撃性を持つホウケイ酸ガラスは見た目ほど繊細でもヤワでもない。
流しに落としたくらいでは割れない、頼もしさを備えていることも付け加えておきます。


続きは 「A piece of artwork with glass 作品紹介 キルンワーク篇 ①」 にて

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