読み物
小野陽介 Polaris ⑤
小野陽介さんロングインタビュー / 後篇
2022年最後の展覧会がやってきました。
今思い出しましたが、2019年に百職でさせて頂いた小野陽介さんの個展は、ご自身にとって初個展だったそうです。
そして今回百職ではようやく、小野さんの個展の第二回目を迎えることができそうです。
陶芸家のお父様がいるご実家から昨年冬に独立。ご結婚もされ、茨城県石岡市に新しい工房を移した小野さんのもとによく晴れた秋の終わりの日にお訪ねしました。
筑波山が眺められる、少し小高い場所にある工房とお宅。古い建物を、今もまだ少しずつリノベーションをしながら暮らしているということ。
古い倉庫のようなガレージのような場所が小野さんの現在の仕事場。味わいがあり、以前よりも広くて開放感がありました。
そこで窯出しした作品を見せて頂き、お昼ごはんのあと、すぐそばのこちらも味わいのある古民家のご自宅に場所を移してお話を聞かせて頂きました。
今回は後篇のロングインタビュー。
小野作品の一端を感じるよすがになれば嬉しいです。
〇「使えたらいいな」から「どうにか使えないかな」
‐庭の土を土を掘ってみようと思ったのは何かあったの?
小野:いや、掘ってはないんですあれ。浄化槽(を設置するときに出た土)です。
‐浄化槽?
小野:浄化槽の工事をしている時にユンボでガッとやったら(粘土)層が結構出てきて。
‐ああ、なるほどね。
小野:せっかく出てきたんで使えたらいいなと思って。ただ土分が多いから形も作れるんですけど石がやっぱ重いんだと思うんです。それで結構長石の粒がボッとなったりするからとりあえず薬で使えないかと。多分黄土に近いです。酸化で焼いたら使えるんじゃないかっていう仮説はあるんですけどそれはまだやってないです。
‐へえー、それはじゃあ本当に偶然出てきた土が使えそうかなって思ったんだね。
小野:そうです。「使えたらいいな」から「どうにか使えないかな」になりましたね。
‐土とか石とかも人によってアプローチの方法が違いますけど(小野さんは)原土も使ってるっていう話。まあ昔からそうだと思うんですけど、そこに何かこだわってるものがあるんですかね?
小野:僕はめちゃくちゃ原土単味とかそういうのにはこだわってないかもしれない。ただ土味とかは好きですけど単味じゃなきゃいけないとかそういうのはないです。でも単味で面白ければそれを使いたい。
‐そのほうがいいよね。
小野:でもまだ出会えてないです。出会いたいっすよね、この土いいなってそういうのがほしいとは思いますけど。
‐周辺からなんか出てきたものから作ってみるっていうのは、陶芸家さんは考えたり憧れる方、割といらっしゃいますよね。
小野:憧れますね。だからまあこだわってはないけど…教えてほしい(笑) それでなんか自分の作風にしっくりくるものがあったらいいなってのはあるんですけど。
‐オリジナリティの説得力が増しますよね。
小野:でも別に今すぐそれが必要っていうわけではまだなくて、ぼちぼち探していこうかなって感じ。
‐まあここ(茨城県石岡市)に来てまだそんなに時間も経ってないからちょっとずつ見つけていけるといいですよね。
〇良い習慣ができかけてるからなんかどっか行けるんじゃないかと
-前から思ってましたけど釉薬についても釉の出方もそうですし小野くん結構細かいですよね。色についてのイメージというかニュアンスや理想が明快。
小野:あ、そうですか?
‐はい。色もだし釉薬の流れ方だとか割とこうしたいという思いを持って気にしてるほうかなっていうふうには思いますよね。だから他の作家さんだったら火に任せて、まあこれもいいかなってパスするところを、意外とポイント絞って理想を持って見てるなと思うんですけど。
小野:そうなんですね。ちょっと(釉薬の)動きがないといやだとかかな。
‐それは自分が格好いいなって思ってる作家さん、まあルーシー・リーも格好いいなって以前言ってましたけど、あるのかな影響が。
小野:別にこの人だけにめちゃくちゃ影響を受けたってのはあんまないですね。
‐何人か名前挙げてくれたことあるよね?
小野:いろんなところから影響受けてきてそれが出てきてますね。ちょっと最近この人が割と自分が求めてるものに近いんじゃないかなと思ってる人がいて。トシコ・タカエズさんって知ってます?
‐トシコ・タカエズさん?
小野:はい、その人はもしかしたら近いかなと。いや、全然もうオブジェなんですけど色合いとか、ちょっと結晶釉とかも使ってるし、ちょっと土っぽいのも使ったりとか。
‐ああ、割と両方あると。
小野:しかも割と民藝感もある。民藝にも影響を受けているみたいな。
‐ああ、なるほど。それも感じるんですね。
小野:別にその人を俺は目指してるわけじゃないけど、最近ちょっと「あれ、もしかしたら似てんのかな」ってふと思ったりするんです。
‐ちょっとシンパシーを感じるぐらいで。
小野:前から好きだったんですけど最近もしかしたらここ近いかなと。
‐やろうとしてるところにちょっと近いと。
小野:近い…うーん…近い…近いのかなあ。ちょっとわかんないです(笑)
(トシコ・タカエズの作品写真を見る)
‐ああ、これ。すごいね、格好いいね。
小野:もう大御所ですよこの人。影響受けてる人も結構多いんじゃないかな。
‐大胆だなあ。(この作品とか)大きいね。
小野:オブジェなんですけど色使いとか結構理想と近くなるじゃないかなと思って。もう結構古い人ですけどね。初めて(壺や花器の)口を閉じた人なんです。(※クローズ・フォルムと呼ばれている)
‐花器とかそういうことじゃなくて。
小野:口閉じちゃったんです。それが当時センセーショナルだったのかな。それ以外にも土臭いのもあるし、白の使い方とかも綺麗だし。いいなと思って。自分突き詰めるとこんなのかなとか。
‐再三言ってますけど壺とか見てると小野くんがオブジェの作品を作るっていうのも多分すごく合ってると思うんですよね。
小野:作りたいですけどね。お父さんのオブジェも好きですけどね。まあ影響受けてる人は結構多いです。
‐その時々にいろんなものを見てるってことじゃない?
小野:なんか憧れますよね、この古陶磁目指してますって作家さん多いじゃないですか。この時代のこの作品にすごい影響を受けて、とか。
‐室町時代の常滑のナントカカントカとか。
小野:そういうのいいなって思うんですよね(笑) なんかそういうの無いなって。いろんなことに影響受けすぎて。無国籍なのかなって。
‐そうそう、無国籍だよね。いろんな国のいろんなものが見えるようになってきたからね、時代的にも。だからそれはそれで自由な感じがあっていいのかなって思うんですけどね。
‐これからの指針としても釉薬にすごい没頭してるから何か掴めるものがあるんじゃないかな。
小野:(テストピースなど)良い習慣ができかけてるからなんかどっか行けるんじゃないかと思ってるんですけど。
‐どっか行ける?
小野:どっかに辿り着かないかなって。
‐いろいろ目指してるものがあって自分が大事にしてるものって意味で展覧会のタイトルをつけました。
小野:ありがとうございます。(DMを見て)素敵な写真ですね。
‐それは北半球の天体図です。
小野:ああ、これ格好いいですね。なんか一瞬「なんだこれ?」って思って。
‐もっと写真たくさん使おうかと色々悩んだんですけど…たまたまです。この写真がイメージに合うかなと思って。よかった。
〇一品ものも作りたいですね。そこは目指したいって思ってます
‐ところで、漠然と良い器を作りたいとかっていうことはみんな考えてると思いますけど、新しい場所に来て何かこういうことはやってみたいなってことはありますか?新しく挑戦してみたいこととか。
小野:ありますけどそんな目新しいことではなく…オブジェとか。
‐猫のごはん皿とか?
小野:猫のごはん皿とか…あ、でも型で立ち物とかもいいかな。まあ平たいものだとオーバルとかですけど。
‐型で立ち物ですか、面白いですね。型じゃなきゃできない立ち物もあるよね。
小野:どうしても生活陶器とは変わっちゃうかもしれないけどオブジェ寄りの感じでやってみたいですね。あとはもうちょっとテストをいろいろしたいなと思いますね。
‐テストをするっていうことは作品作りの基盤になるよね。
小野:好奇心ですよね、これ、こうしたらどうなるのかなみたいな。いろいろテストしたい。あとやっぱもうちょっと単価の高い一品ものも作りたいですね。そこは目指したいって思ってます。オブジェとか壺とか10万くらいで売ってみたいです。いや、10万はわからないですけど(笑) それなりに値段のするものを、それに見合ったものを作りたいですね。
‐まあ時間をかけて作れるよね、ある程度の値段をつけていいっていうんだったら。生活陶器を作ってるとそれにかけられる時間とか手間っていうのは、なんていうんだろう、下敷きになる部分はテストとかをしたりして結局トータルで時間はかかってるけど、轆轤の時間だったりそういうものをどんどんやっていかなきゃいけないし、ちょっと作り方が違ってきますよね。もっと”作品”と呼べるようなものをやりたい感じだよね。
小野:そうですね、そこをそろそろやりたいなと思ってます。なんか引き出しが少ないなっていうか…。
‐ええー!でも引き出しを増やすのにみんなどうしてるんだろうね。
小野:テクスチャーの引き出しとか、だからテストしたいんですよね。なんかガビガビしたやつとか、みんなこれどうやってやってるんだろうっていうのがいっぱいあって(笑) だから知識が意外とないんだなって、意外と知らないことが多いんだなって最近思いましたね。
‐なるほど、手法だっていろいろあるからね。
小野:あと、興味というかまだやるかはわからないですけど最近面白いかなと思ってるのが野焼きしてから本焼きするみたいな。やってる人結構いるんですよ。多分野口悦士さんとか…いや、わかんないんですけどあれどうやってるんだろうって思って。あとオーストラリアの小澤陽子さん、結構俺好きなんですけどあの人のもしかしたら野焼きしてんのかなって思って。最近(野焼きする人)増えてきてるんじゃないかな。うつわノートさんでやってた…誰だっけ、焼き締めやったり鳥の酒器とか作ってる人。山本…山本雅彦さんか。結構好きなんですけどあの人も野焼き焼き締めかもしれない。
‐野焼きしてから本焼きで焼き締めってこと?
小野:(作品の写真を見ながら)んー、これ薪なのかなあ。でもちょっと前の投稿に野焼き焼き締めって書いてあったから。小澤陽子さんも好きなんですけど(写真を見せながら)ちょっとこう薪で焼いたような風合いとかあるんですけどすごい滋味深くていいなと思って。
‐なるほど、面白いねすごく。
小野:面白いですね、けどやるかどうかはわかんないですけど。興味はあります。
‐野焼きかあ、煙がいっぱい出るね。前、高木さん(高木剛さん)の家での野焼きはえらい煙出たわ。その時の野焼きは穴に埋めたとかじゃなくて耐火の四角い入れ物あるじゃないですか。あれなんて言うんだっけ…まあその中に作品を入れて薪とか藁とかを被せて火をつけて一昼夜くらいずっと剛さんが頑張って焼いてて。
小野:一昼夜も焼いてたんですか?
‐いや、違う、ごめん、夕方くらいで消してたわ。何時間焼いてたかな、7,8時間くらいかな。土器みたいなものを作ろうって話だったんで最初。だからその後焼き締めはやってないですけど。
小野:野焼き焼き締めは流行ってはないですけどやり始めてる人は結構いそう。
‐いつかやりたいことのひとつかな。良い環境をつくりながら自分の作りたいものや手法を考えられるって幸せだよね。
小野:やっとなんていうか自分の足で歩き始めた感はありますね。
‐手応えが違いますよね。(親元を離れて)暮らすっていうのは本当にお金が必要だったりして大変ですけど、でも大変なことをうまく片付けてやっていこうって、一個ずつ消化していくごとに自信がつくというか。
小野:そうかもしれないですけどなかなか自信がつかないですね(笑)
‐でも実感は湧いてくるんじゃないですか?生活に実感が湧いてくるとまた作る器も少しずつ何かの影響を受けて変わっていくかもしれないし面白いですよね。楽しみです。
小野:ありがとうございます。
〇これすごい気持ちいいっていうところに行きたいなって感じですよね。変態っす。
‐「心の拠り所」って言葉がありますけど今の作陶の拠り所って何ですか?自分のやる気なのか、この家での生活なのか。
小野:拠り所…考えたことなかったな。
‐そう『今、どこに向かい、目指しているのか。拠り所とする北極星を、心に、空に見る。そしてうつわの中へ映し出す。』恥ずかしい、自分で書いた文章です。
小野:素晴らしい文章ですよ。
‐もっと簡単な言葉で言うなら「支えになっているもの」って何だろうね。
小野:…猫?
‐(笑) まさかの…いや、良いと思う、格好つけてなくて。『猫(家族)』って書いたらいいかな。いよいよ猫のごはん皿作らないといけなくなってきたよ、この展開は。3つくらい作んなきゃ。
小野:いやーダメですダメです(笑)
‐猫ちゃんも大事として。今器を作るうえで支えになってるものとか、欠かしたくないものとか、そういうことかな。
小野:んー、作ってること自体が多分楽しくなってくるだろうっていう期待?最初は楽しいと思ってたんですけど辛いことが多くて、うまくいかないなとか。多分やりたいことができるようになっていくとドーパミンがもっと出ると思うんですよね(笑) もっとドーパミン出したいなっていうのはありますね。
‐自信がついてきてね。成功体験とか?
小野:そうそう。まだ(ドーパミンが)出てないなって感じ。全く出てないわけじゃないですけど。ちょっと小さな喜びとかは少しずつあります。家族は家族ですごい拠り所になってますけどね。それとは別にもっとドーパミンを出したいっていうのが求めてることなのかなあ。なんか言い方がちょっとあれですけど。
‐安定した生活も心の安定の源にはなってるけど、器を作ることに関していうと…ドーパミン?(笑)
小野:うわあ、そのまま書かれたらどうしよう。
‐そう言われたらそのまま書くしかないからね。
小野:やっぱ冗談、冗談です。ドーパミンは書かないでください(笑)
‐わかりました。
小野:すごいノッてる作家さんとかいっぱいいるじゃないですか。
‐いらっしゃいますね、飛ぶ鳥を落とす勢いの方が。
小野:多分すごいやりたいことをやってんだろうなって思うこともあって。なんとなくわかる人もいるじゃないですか。そういうのがうらやましいなって思いましたね。
‐そうだね、作品の載せ方というか投稿の仕方とかでもね。
小野:ああ、すげえ楽しいんだろうな、ノッてるんだろうなって感じが…ドーパミンめっちゃ出てんだろうなって…いや、冗談です冗談です(笑)
‐ドーパミンがすごい出てくるなあ(笑) とにかく楽しみたいんだよね。思いっきり楽しみたいってことなんだね。
小野:やりたい表現ができるようになったらもっとめっちゃ楽しいんだろうなって思いましたね。ただ、そこに行けてないっていう苦しみみたいなものもあります。どうなんだろう、ずっとこんな感じなのかもしれない。
‐いろんな人がいるからね。
小野:なんかすいません、北極星どこに行った(笑) いやあ、変な汗出てきちゃった。でもみんなそうじゃないですかね、クリエイターって。そんな人が多いんじゃないですかね。
‐多いと思うよ。やっぱり自分を喜ばせたいがためにやってると思う。みんなキャッホー!って思いたいんだと思いますね。
小野:そうですよね。これすごい気持ちいいっていうところに行きたいなって感じですよね。変態っす。
‐頭気持ちよくなるってやつね。
小野:そうっす。それで生きれたら最高だなっていう、なんか身も蓋もない告白。
‐自分を楽しませるように努力するって一番健康的だと思いますね。
小野:本当に羨ましいなって思いました。
‐でもそのために小野くんもちゃんと頑張ってるって思いますよ。まず自分を楽しませることで器を見てくれる人も楽しませることができる。自分が楽しめてるとその人らしさが多分器にもすごい出ると思いますし、その人だけにしか作れないものが生まれると思います。そういう作品じゃないとやっぱりお客さんには届かないと思うんですよね。ほかでも見れるようなものにわざわざお金を出すかっていうと。ああ、すごい厳しい言い方しちゃった。でもね、ここ(石岡)に来て小野さんが作ったやつでしか出せない味があるからそれが欲しいっていう。代わりのきかないものが作れたら多分自分の脳的にはすごい楽しいことになってると思うよ。
小野:結局自分が楽しみたいからだなって思う。
‐もうそれは恥ずかしげもなく言っていいと思います。
小野:でも今の時代では昔と比べて世の中に合わせなくてもすごいニッチな層にも見つかりやすいというか。発見されやすいっていう状態だからある意味やりたいことやったほうがいいのかなって。やりたい表現とかやったほうがいいのかもしれないですよね。
‐そうだと思います。なんか最後いい感じにまとまったのでこれで終わりにします。(了)
小野 陽介(おの ようすけ)略歴
1987 栃木県益子町生まれ 作陶業を営む実父の側で幼い頃より陶芸に親しむ
2014 愛知県立瀬戸窯業高等学校専攻科卒業
2015 益子にもどり作陶に励む
2021 茨城県に移転、築窯