読み物
冬の家 ③
波多野裕子さんへ冬に纏わるQ&A/冬の家 episode02
通奏低音のように。
それは物事の底流に在るもので、気付かぬうちに知らぬ間に、もの全体に影響を与える。「もの自体」だけではなく、根源となるその作家自身の存在は欠かせない。それだけに作品のみならず出展作家さんのことを少しでも知って頂きたいという思いがいつもあります。
今回は4人の方が集う展覧会ということで、それぞれの皆さんに一問一答形式でお答え願いました。質問テーマに冬を織り込み、感じ方、過ごし方、楽しみ方などから作品や人柄が淡く浮かび上がるようです。
それぞれの方の作品からイメージを膨らませた「冬の家 小話」も合わせて掲載します。
①自己紹介をお願いします
波多野──ガラス(パート・ド・ヴェール寄りのキルンキャスティング技法)
②冬は好きな季節ですか?苦手な季節ですか?
波多野──冬は2週間ぐらいなら好きですが、現実的には苦手です
③ご自身の冬の暮らしで欠かせない暮らしのアイテムを教えてくだ
波多野──ウールのルームブーツ
④秋の終わりから冬にかけて様々な風物詩がありますが楽しみにし
波多野──衣替え
⑤今年の冬にやりたいことを教えてください(新しいことでも、毎
波多野──断捨離
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冬の家 episode02
「ああ、寒う。早く家に帰ってご飯作って食べて、ぼーっとしたい」
書店販売員を長く務める彼女(47歳)は、ようやく一人娘が地方の大学へ進学し、夫は単身赴任となった今年から、数十年ぶりのシングルライフを送っていた。
帰りの道沿いにある美術館のナイトミュージアム寄り道コースも捨てがたいのだけれど、寒くなってきたこの頃は仕事が終わったらまっすぐ家に帰って諸々を済ませてからの、おこもり時間コースがめっぽう気に入っている。
家に着き一通りのことを済ませ、寝室のドアを開け、電気のスイッチを入れた。
部屋の中央の辺りだけがぼんやりと浮かび上がり、柔らかいガラスの灯りに包まれる。
たくさんの文字を追って疲れた目を癒すように、眼鏡をはずす。
さて今夜は何を聴こうかな、とスマホのプレイリストから音楽をかける準備をする。
やがて静かに空間を震わせるようなウッドベースの低音が鳴りはじめた。
彼女はそのリズムに呼応するように、お気に入りの銀色のオブジェに手を伸ばすと、そっと指で弾いて揺らした。