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濵端弘太 木を見て我を見る ⑤

濵端弘太さんにお聞きする 後篇

濵端弘太さんにお聞きする 後篇



恒例のロングインタビューシリーズ。
今回も展覧会をして頂く木工作家の濵端弘太さんにお話をお伺いする機会を頂きました。
インタビューというより、作業中の濵端さんの仕事をみながらお話をしたという今回です。
時折作業に見入ってしまったので、話と話の間に空白があったり、唐突な質問もあります。
漆を塗る作業を人に見せるのはそういえば初めてということで、まずは自分が埃っぽくないかどうかがとても気になりました(笑)
そこまで口数の多いタイプではない濵端さん。
仕事をする姿から見えてくること、そこで生まれたやり取り。
行ったり来たりする対話の中で、徐々に濵端さんの人柄や考えなどが浮かんできたのではないかなあと思います。


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濵端:漆は生ものなので古いやつと新しいやつを混ぜて使います。古くなったやつは乾きにくくなりがちです。今、炭の粉を入れてます

渡邊:以前から入れているんですか?

濵端:そうですね。黒くするのはいろいろありますけど、僕はいつもこれやってます。

渡邊:いろいろ試してみてこの方法に?

濵端:そうですね。

渡邊:藤嵜先生の秘伝ですか?

濵端:先生はあまり黒ってやってないんですよね。

渡邊:ああ、確かにそうですね。なんか赤いイメージ、朱とか。炭を使う人もいるんですね。すでに調合されて市販されている黒い漆もありますね。炭の粉を使うのは自分で黒の濃度を調整できますが、そういうところが気に入っているんですか?

濵端:なんか色味ですかね。調合された黒に炭を混ぜてもいいんですけど、なんていうんですかね、色が青っぽくなるっていうか。なんて言ったらいいんだろう…なんか不健康な人みたいな(笑) 

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渡邊:唇が青いぞみたいな。どこか不自然に感じるのかもしれませんね。

濵端:そうですね。気分が悪い黒みたいな。

渡邊:人為的というか。完全な黒は自然界にはないといいますよね。もう少し自然界に存在する黒に近い色を作ろうとしている感じなのかな。濵端ブラック。

濵端:真っ黒にするんだったらお歯黒とかでやるといいと言っている方もいるそうです。結構真っ黒な感じになります。

渡邊:そうなんですね。みなさんいろいろと試してるんですね。今までの作品の中で見てきているのが濵端さんが思っている色なんですよね。少し赤みというか、漆の色を感じる色。

濵端:木の色のところがあったり、黒くなってるところがあったりがいいですね。

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(細かい部分の塗りをしながら)

濵端:基本的に塗りにくいところからやっていくっていう。


渡邊:塗りにくそうですね、この側面とか。ただ刷毛さばきが気持ちいいですね、勢いがある。上手いなあ。

濵端:(塗りの)一回目っていうのは(木材が漆を)特によく吸うので、なるべく多く吸わせるっていう。だからすぐには拭かないっていう。だんだん今吸って無くなっていってるんで。

渡邊:夏と冬とで木地の吸収の変化ってありますか?湿度は季節によっても違うわけですが。

濵端:乾燥はそうですね。まあ梅雨とかだったらこうやっている時(塗りの作業中)にもう角が乾いてくるので(漆は湿度がなければ乾燥しません)、あんまり長いこと置いていると拭けなくなってくるんですよね。そういう時はテレピン(テレピン油。松の根から精製される油で漆の溶剤として使用される。松精油とも呼ばれる)使ったり。

渡邊:昔と比べて上手くなったなって思うときあります?学生時代とかと比べて。

濵端:学生のときとは比べられないですね、比べようがない(笑)

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渡邊:結構細かくしっかり拭き取りますね。

濵端:そうですね、ダマになったらやり直さないといけないんですよね。

渡邊:その定番の小皿だと何回くらい塗りますか?

濵端:んー、2回か3回ですね。

渡邊:それくらいが好み?

濵端:あんまりやると艶が出てくるので。

渡邊:マットめな感じにしたいと。艶があるものもクラシカルな感じで良いですし、マットなものは現代の作家さんの食器とも合わせやすい印象があります。

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渡邊:輪花のお盆は、凹凸があって細かいところも多いから難しそうですね。

濵端:導管が深いんで結構こうやって塗り込んでいかないと。


渡邊:ググググッと力の入れ方が違う。さっきと音が違ってる、グイグイってね。綺麗だね、なんやったらそのままでもいいくらい。難しいだろうなと思うんですけど毎回いつも綺麗やからすごいなと思います。気をつけてる点はありますか? 例えば丁寧にやるとか。

濵端:あまり丁寧にやるっていうもんではないんですね、僕は。

渡邊:なるほど。漆は丁寧にゆっくり塗っているイメージを持っている方も多そうです。

濵端:うんうん。でも僕はもっとこうビャーンって、この上に次のやつ乗せてこの上でまた塗ってみたいな。やっぱ数が多いんで。

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渡邊:お椀とかやってる工房はそういう感じの塗りですかね。

濵端:1回目(の塗り)とかだったらそうだと思いますよ。あとカトラリー系とか、箸の柄だったら台の上とかで広げて、でっかい刷毛でバーってやる。ゴロゴロゴロってやって。

渡邊:ええ、そうなんだ!

濵端:そんなぐらいやらないと多分数が追いつかないでしょうね。

渡邊:予想外でした。これ今の塗り方は、思ってるよりも刷毛を素早く滑らかに動かしますね、すごい。

濵端:これだけやっても拭いたときにはまだ木目に入ってないところがあるんで、2回目でそこを全部埋めていくっていう。

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渡邊:なるほど、ちょっとずつ。見てる分には綺麗だけどそこは抜かりなく突き詰めるんですね。このお盆の場合はあと2回ぐらい塗りですか?

濵端:うーん、このお盆はどうだろう…あと1回ですかねこれは。やっぱり硬い木の方が仕上がりも早いんで、1回目でかなり吸わせた後はなるべく回数重ねないように。

渡邊:さっきお話してた艶が出ないように、ということでしょうか。輪花のような、こんなに塗りにくい形にしなきゃよかったなって思うことないですか?

濵端:まあ、ありますね。

渡邊:(笑) そうですか。なるほど。良かった、濵端くんも人間だった。このお盆は塗った方がやっぱりいいよなって思ったんですか?

濵端:これは本当のことを言うとあんまり塗るつもりはなかったんですけど、結構反って裏を削ったんですよ。だから厚みが薄くなって補強のために塗ってます。

渡邊:漆を塗るということで反りが少なくなったりとかってありますか?

濵端:んー環境によってじゃないですかね。どんだけ塗っても個展とかで10日とかそれぐらいずっと表向いて置いてたら、まあやっぱりどんだけ塗ってても反るんで。

渡邊:では展覧会の時は閉店したらひっくり返しておいたほうがよさそうですね。

濵端:そうですね、ひっくり返すのが一番いいと思います。

渡邊:次の百職での展覧会は、どういうイメージを持って作ったなどありますか?

濵端:んー、今回は割と前に戻ったみたいな。一つ前(の展覧会)が手乃音さんだったんでその振れ幅がすごいんですけど、結構定番のやつに戻ったかなみたいな。

渡邊:そういう気分だったってことですか?それともお店(百職)が神戸に移ってから初めて展覧会をやるからっていうことで考えてくださったりとかですかね?

濵端:…考えてはないですね(笑) 材料で決めたりはありますね、その時の持ってる材料みたいな。

渡邊:ああ、木を見て彫るって言ってましたよね。一つ一つの展示をどう組み立てていくかを難しく感じることはないですか?

濵端:さっき言ったみたいに材料を見て変わってくるので、それはその時のストックを見てどうやってもできないことってあるよねっていう。

渡邊:そうですよね。(ストックの材料を見て)この材ではこれは作れないな、用途と材が合致していないからよくないな、ということだってありますよね。材は自分で選んで注文されるんでしたよね。好みはありますか?

濵端:ありますねえ、うん。そうですねえ、楢とか…。

渡邊:楢。(ストックが)偏ったりとかは?

濵端:向こうの(部屋にある)ストックも材によってばらつきがあります。使いたい時に楢があんまりないとか、他の材でいっぱいで埋まってる時に(材木屋に)楢がいっぱいあったりとか。

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渡邊:その時に市場に何が流通しているかによって手に入るものも違うから、そういうことも起きますよね。

濵端:極端な例でいうと大きいお盆を作りたいなって思ってる時に大きい材がなかったら作れないんで。

渡邊:材を選んでる時は楽しいですか?

濵端:そうですね、ここから何を作ろうかと思ってるところですね。

渡邊:その時間はどうですか?結構好きですか?

濵端:好きと言われれば好きですけど、でもねえ。効率的にやらないといけないんでなかなかいいところばっかり選んではいけないっていう。

渡邊:なるほど、シビアなところがありますよね。

濵端:ある作品だけのことを考えたらこの部分を丸々取りたいけど、でも別の作品を作る想定で木取りしたら2つ取れるから、どうしようかなみたいな。

渡邊:そこが他の分野のものづくりとは違うところですよね。木取り(どのように部材を切り出すか決める作業)の配分は木工ならでは。

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渡邊:濵端くん自身の制作の源になっているものはなんですか?


濵端:制作源?

渡邊:原動力。お酒とかなしですよ。

濵端:(笑)。自分の作品ですかね、やっぱり。前のやつを見て、この時はこう思ってたけど、今見るとあんまりかっこよくないなみたいな。

渡邊:そう感じる時もあるんですね。納得して手を付けない作品もありますか?

濵端:そういうのもあります。いや…でもやっぱり変えていってますかね。輪郭とか変えなくても角度変えて高さを上げて立体感がある感じがいいなと思って変えたり。そういうのを見ていると、もっといいのを作りたい、いろいろやりたいなみたいなの出てきます。

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渡邊:過去の自分の作品を振り返ったり見直すことが、制作に生きているんですね。

濵端:そうですね。

渡邊:健康的。 健康的というと語弊があるかもしれない。健全のほうが合ってるかな。人に影響されてとか、他のものに頼るんじゃなくて、自分自身をもう一度見つめて、新しい作品づくりに生かすのは潔い姿勢ですね。

濵端:たまにお店に行った時や展覧会で他の方の作品をみた時に、この彫りはうまいなとかっていうのもありますけど、 デザインを学ぶとかはちょっと難しいですね。ガラスとか陶芸とか他分野の作品は、作るもののヒントというよりは、自分が使いたいかどうかって思って見てます。自分の製作に関連付けてじゃなく、そこから離れているような気がします。


(了)


濵端弘太(はまばたこうた) 略歴
1990年長崎生まれ
2011年 京都伝統工芸大学校卒業 大阪の木工家藤嵜一正氏に師事
2014年 長崎市で制作を始める

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