読み物

やきもの、益子、近藤康弘 ①

新しい場所へ

新しい場所へ




今年の春先からどこかためらいを帯びた声が続いていて、それがずっと気にかかっていた。
個展はする方向で進めていたものの、最終確認のためにかけた電話だった。

「渡邊さん、俺たぶんやれそうです展示」
近藤さんの声は、長い長い夜が明けて差し込んだ眩しい朝のひかりのように明るく、そしてどこか照れくささを滲ませた笑いを含んでいた。
カレンダーはもう9月になっていた。

受話器越しの吹っ切れたような明るい響きを耳にして、ああもう大丈夫ねと自分もいつしか微笑んでいた。

約ひと月後、届いたうつわたちに思わず歓声を上げた。
そこには着実に進化を遂げ、貪欲に変化を見せる近藤さんそのものの作品があった。
脈々と続いてきた益子焼の土臭さをまといながら、端々に軽やかなディテールも持ち得た姿へと変貌を遂げていた。
昨年のデンマークへの学びの旅から芽生え始めたものかもしれない
さすがだな、と。
さすが近藤康弘という男だな、と嬉しくなった。

ふとひとつのうつわに目がいった。
飛鉋で模様が施された、三彩の鉢。

懐かしさを覚えた。

三彩で施釉した小皿は近藤さんがはじめて百職で個展をしてくれた時に並んだことはあったが、その後見ることはなくなった。
何年ぶりだろうか。
懐かしいと近藤さんに告げると、益子にやって来た当初を思い出したことがきっかけで久々にやってみたのだという。
そのほか今回送られてきたうつわには最近あまり見ていなかった打刷毛目、修行時代に培った飛鉋のものもあった。

「もっと素直に正直に生きたいし、いいなと思ったことをやりたい
と近藤さんは口にした。

今まで得てきたものを取り出して篩にかける。
捉われていたものを手放す。
心軽くなり、それでも手もとに残ったもの。
それが「今」で、新たな近藤さんの姿だった。

益子焼の気風を備えながら新たな時間の中で得たものを結晶させた「今」の近藤さんのうつわたち。
楽しみにお待ちください。

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