読み物
金城貴史 匙ごころ ②

作家紹介 金城貴史さんへの一問一答
通奏低音のように。
それは物事の底流に在るもので、気付かぬうちに知らぬ間に、もの全体に影響を与える。「もの自体」だけではなく、根源となるその作家自身の存在は欠かせない。それだけに作品のみならず出展作家さんのことを少しでも知って頂きたいという思いがいつもあります。
簡潔な一問一答ですが作家さん自身からの誠実な言葉と考えをお読み頂きながら、作品を紐解く手助けや愛着を深めていく入り口になれば幸いです。
今回は展覧会を行う秋の盛りにちなんだ質問にもお答え頂きました。
質問1
はじめましての方に向けての、経歴とは違う自己紹介をお願いします
───岐阜県中津川市にて木の食具を専門に製作しております。
知人に頼まれたことをきっかけに匙の製作を始め、15年ほど経ちました。
なるべく遠く深くまで辿り着くには試行錯誤を重ねる必要があると思い、あまり手は広げず、製作物を匙まわりのものだけに絞っています。
現在の製作は大きく二つに分けることができます。
型紙を作成しその修正や変更を重ねながら時間をかけて一つの形を追求する定番の匙と、型紙を作成せずにその時々の感性に身を任せ即興的にフリーハンドで造形・加飾していく取り分け用の大匙です。
2つの異なるスタイルの製作を行ったり来たりすることが、今の自分にとっては良いようです。
質問2
今まで訪ねた中で、最も印象に残っている場所はどこですか。その時の思い出もよかったら少し教えてください
───伊勢神宮。好きで何度か参拝しています。
一度、日の出前後のまだ暗い時間に一人で参拝したことがあります。そのとりわけ静謐で厳かな空気はとても印象的でした。
質問3
この時期、学生の皆さんは秋は文化祭や運動会、音楽祭などイベントが多い時期でもありますが、金城さんは学生時分、どのイベントが楽しみなタイプでしたか?
───小学生のころを思い返してみると、運動会より学芸会が好きだったように思います。
発表に向けた一輪車や縄跳び、劇の練習などを一生懸命に取り組んでいた記憶があります。その頃から絵を描くことも好きで、大学生になっても落書きのような絵を描いていました。
ただ大学生時代に一番注力していたのは音楽で、大阪の新世界にあったBRIDGEというライブハウスのFestival Beyond Innocenceという音楽祭に出演できたことは大切な思い出です。
質問4
秋もいよいよ盛りですが、秋の食材や料理で一番好きな食べ物と、それについて思うことがあったら教えてください
───秋刀魚。今年のサンマは大きくて安い(去年と比べて)ですね。
この間食べた戻りカツオもとても美味しかったので、また買いたいです。
サンマだったり、春のホタルイカ、果物だとイチジクなどは、自然をそのまんま丸ごと食べている感覚になれて、なんか好きです。あと美味しい柿を食べると、こんな綺麗な甘味は他にないんじゃないかと思います。
質問5
秋を過ごす中で風情を感じるのはどんな瞬間ですか?
───朝晩の冷え込み、夜に漂う金木犀のかおり、虫の音。
質問6
子供の頃でも大人になってからでもいいのですが、秋にまつわる思い出をひとつ教えてください
───いま5歳の息子がいます。
12月初旬の生まれなのですが、臨月で病院へと診察に向かう峠の道で、晩秋の陽射しを浴びた紅葉が輝いていました。もうすぐ産まれてくる命への少しの不安と大きな期待の中で、それらが今までになく美しく感じられました。
質問7
これまで一定期間、継続して今のお仕事をされてきたと思います。ものごとと向きあい続ける中でご自身が大切にしてきたものはなんですか
───常に同じ場所にとどまらないこと。
技術も感性も、更新できなくなったら終わりかなと思います。
匙ばかり作っているので傍から見るとずっと同じことをしているように見えると思うのですが、幸い僕自身には同じことをしているという感覚がないので続けられているのだと思います。
(了)