読み物
耐冬花 ②
作家紹介 前嶋洋明さんへの一問一答
通奏低音のように。
それは物事の底流に在るもので、気付かぬうちに知らぬ間に、もの全体に影響を与える。「もの自体」だけではなく、根源となるその作家自身の存在は欠かせない。それだけに作品のみならず出展作家さんのことを少しでも知って頂きたいという思いがいつもあります。
作家さん自身からの誠実な言葉と考えをお読み頂きながら、作品を紐解く手助けや愛着を深めていく入り口になれば幸いです。
今回は展覧会の季節である冬のはじめの季節、作家二人が愛する椿についての質問もさせて頂きました。
質問1
はじめましての方に向けての、経歴とは違う自己紹介をお願いします
───家族だけで営む小さな町工場の次男として生まれました。働くということは物を作るという事と刷り込まれていたのかもしれません。
小学生のころに閉めてしまった工場の名前は「前嶋製作所」。僕の屋号「前嶋硝子器製作所」はそこから来ています。製造業でありたいという願いも込めて。

質問2
近藤康弘さんと知り合った経緯、その時の第一印象、そこから変化した点をそれぞれお聞かせください。
───益子でお世話になっている器屋さんの紹介で参加させて頂いた生け花の勉強会でお会いしたのが最初だと思います。優しく温和な人柄とは違って、男性らしく力強く無駄のない、真っ直ぐな花を生けられる方だなと思った記憶があります。
それからは椿の話を色々と教えてもらったり、椿の苗木を探しに遠方に出かけたりと僕にとっては椿の先生です。
そしてこの2年間、近藤さんの闘いを少し離れたところからですが見続けてきました。今では近藤さんの花はやはり近藤さんを写していると思います。強く、真っ直ぐな方です。
質問3
今まで訪ねた中で、最も印象に残っている場所はどこですか。その時の思い出もよかったら少し教えてください
───若い頃は放浪の癖があり、バイクで様々な土地を旅しました。
その中で特に記憶に残っているのは、徳島県南部の海岸線です。複雑に入り組んだ地形と澄んだ海に浮かぶた島々、ちいさな入り江毎に点々と続く集落。広大な、雄大な景色よりも自然の中に人の営みがある風景が美しいと感じた初めての体験だったかもしれません。
質問4
前嶋さん、近藤さんともに椿愛好家とお聞きしていますが、椿のどういった点が魅力ですか?また、これから育ててみたい方にひとつだけアドバイスをするとしたらなんですか?
───椿は厳寒の中に咲く数少ない花の一つで、一年を通して葉を落とさない常緑樹でもあります。
その生命力と美しさから古来より寺社仏閣、茶道、華道と様々な儀式、様式で重用されてきました。その為多くの椿が挿し木を繰り返し現在までその多様な種を伝えています。戦国大名が、茶人が愛した花と、限られた地方だけで密かに数百年愛され守られた花と全く同じ花を手にし、愛でることが出来るのです!(半分以上近藤先生の受け売りです)
そんな歴史や逸話に目を向けて椿を選ぶのも楽しいかもしれません。育て方にアドバイス出来るほどではありませんが、椿は丈夫ではありますが根が浅いため水切れには注意して下さい。成長もゆっくりなので庭木にしたい方は接ぎ木苗を選ばれた方がよいと思います。
質問5
展覧会が始まる頃にいよいよ冬の入り口に差し掛かりますが、季節の食材や料理で一番好きな食べ物と、それについての所感を教えてください
───京都にちなんでという訳ではありませんが修学旅行のお土産で買って帰った聖護院かぶらの千枚漬けに感動して以来、無類のカブ好きです。この辺りでは聖護院かぶらは手に入らないので普通のカブですが味噌汁、ポトフ、煮物にステーキと様々に楽しんでいます。
そんな万能なカブですがやっぱり千枚漬けが一番好きでスーパーで3つ一束だったら2つは漬けてしまいます。
質問6
冬のはじまりを迎える中で、風情を感じるのはどんな瞬間ですか?
───庭の木々が葉を落とし、いよいよ椿がその姿を際立たせる事。工房が暑いから温かいに変わる事。そして冬の笠間は夕日がとてもきれいです。
質問7
子供の頃でも大人になってからでもいいのですが、冬にまつわる思い出をひとつ教えてください
───子供のころ凧揚げに行ったのに凧を揚げたくないと駄々をこねた記憶があります。その感覚は今でもあって伸びきった糸の緊張感とどこかに飛んで行ってしまうかもしれないという不安感はいまでも苦手かもしれません。
質問8
これまで継続して今のお仕事をされてきたと思います。ものごとと向きあい続ける中でご自身が大切にしてきたものはなんですか
───時にほかの仕事もしながら硝子製作は絶えず続けてきました。独立してからは必要最低限の設備で主に地元の酒蔵さんから頂いた空き瓶を溶かして製作しています。自分に与えられたもの、場所でこそ作れるものを。特別でなく何でもない日々の為のものを、その日々の中で繰り返し使われる中でより特別になりえるものを。そんな野望を持って製作しています。
(了)
前嶋 洋明(まえじま ひろあき)略歴
1982 茨城県ひたちなか市に生まれる
2005 ガラス工房カモス(茨城県笠間市)にて制作を開始
2010 鵜沢ガラス工房(茨城県常陸太田市)にてアシスタント研修
2011 ガラス工房カモスのスタッフとして勤務 個人制作活動としてNoraglassをスタート
2021 茨城県笠間市に築炉 前嶋硝子器製作所として独立