読み物

平野日奈子 白秋ふわり ②

平野日奈子さん インタビュー

平野日奈子さん インタビュー

多治見を拠点にする陶芸家 平野日奈子さんの個展を2019年以来、6年ぶりに開催する。数年の時を経ても、展覧会をさせて頂きたかったのにはいくつか理由がある。
ひとつに、変わらないプレーンな使い心地のよさがある。のびやかな風情と独特の愛嬌を備えた線やフォルムという個性を持ちながら、いざ料理を載せると決して邪魔をすることがない。うつわと料理が不思議なくらいの調和を見せる。うつわの中に〈日々の食事に自然と融合する〉ことを重視する自分自身にとって欠かせない条件でもあり、平野さんの器はこれまで何度も私の食卓に登場している。 
ふたつめは平野さんの魅力ある人柄と生き方。とある別の作家さんの展覧会に足を運び、そこで偶然手に取った平野さんの作品。それがきっかけで平野さんからお礼のメールを頂くこととなり、そこからアトリエに伺うことになった。そこで初めてお会いした平野さんは自分と同年代で、柔らかなお人柄の中にも目指したい先を見つめ自分の作品や仕事と向き合おうとするたくましさもあり、しなやかに手を動かし続けている姿が印象深かった。そんな姿勢が好きだと感じた。
私は、彼女の作るものを信頼している。楽しみを見出しながら自信を持ってお勧めできることから、しばらく時間が空いたとしてもまたいつか自分の手で紹介させて欲しいという思いがずっとあった。今回再び念願叶って個展をさせていただくにあたり、彼女の工房に6年ぶりに伺った。制作の日々で悩むことはあっても、しなやかに仕事と向き合う姿勢は今も変わらず、新たな挑戦や仕事の深まり、陶芸以外の過ごし方などの幅も広がったようで、爽やかな表情で楽し気に話す様子が印象的だった。


s-DSCF9177.jpg
土、窯、釉薬との日々


───これまで真冬と真夏に訪問したので、今回の訪問(6月初め)はずいぶん工房の空気も温度も違います。

平野:そうなんです。今は快適ですよ。

───冬場の寒さで土が凍ってしまう大変さを以前お聞きしましたね。


平野:そうですね。冬は水道の水が凍りますし、土も凍ってしまう年があるくらいです。作業中に手がしびれることもよくあります。だから冬場は工房内が少し温まってから作業を始めます。今のような初夏の時期だと朝のうちから仕事もできますし、まださほど暑くないので本当に過ごしやすいです。


───陶芸家だけに仕事に必要不可欠な陶土は量も種類もたくさんあるから管理が本当に難しいと思います。


平野:相変わらず工房がすごく散らかっていて恥ずかしいんですが、いろいろな種類を使い分けるので土もたくさんあります。耐熱の土も使いますし、そうでない土もあります。粒の細かいものや粗いものなどを釉薬と組み合わせています。


───窯増えましたか?以前は窯1台だったような記憶があって。

s-DSCF9219.jpg


平野:どうだったかな。奥のブルーの窯は小さいけどあると便利で。テストやったり急ぎの時用や、焼き方なんかで別の違う方法にしたい時に使ってますね。もう一台の大きい窯とブルーの小さい方では、焼き具合が違うんです。小さいので焼いた感じが良かったら小さいので焼くしかないってこともあったり。青釉は小さい窯でやらないといい色が出なくて。小さいのを何回も焚くと時間かかってしまって。還元落としを小さい方でやっているんですが、大きい方で還元落とし(
陶芸の焼成方法の一つ。冷却還元とも呼ばれる。窯の温度が下がる段階で意図的に還元状態を作り出し、独特の色合いや質感、光沢などを出すこともできる)をやると釉薬がブクブクになっちゃって。

───ちょっとしたことで変わってしまうのが難しいところですよね。釉薬はこれまでと変わらずご自身で調合されていますか?


平野:しています。コバルト釉はかなり長くやり続けているのでそうでもないんですが、青い釉薬がまだ難しいです。とにかく釉薬は、濃度であったり掛け方であったり、器によっても出る具合が違ってくるので、常に少しずつ調整しながら行なっています。


───6年前の展覧会ではなかった青の釉薬のきらきらしている感じや、黄色の釉薬の微妙な色の重なりがすごくいい。器の形状によって釉薬の流れ方も違っていますね。釉調の変化が奥深くて面白いですね。


平野:ですよね。青はかなり表情にバリエーションあったりしていて。どれもきれいですし、同じ釉薬を使う中でも手触りや質感、細かい表情の違いが出るので、そういうのが自分でも好きで作りたいなと思ってます。使う人の自分のお料理によっていろいろ選んでもらえたらいいですね。


s-DSCF9178.jpg
作ること、感じることと向き合う

───短大卒業後、多治見市陶磁器意匠研究所、studio MAVO(陶芸家の安藤雅信氏が若手作家支援のために設立した多治見にあるレンタル工房)での活動を経て、独立築窯されていますが、当初からまずは食のうつわを制作していこうというスタンスだったんですか。

平野:武蔵野美術短大の時代は工芸デザインにいて。デザインコースで平面っぽいのをやっていたんです。でも考えながら手で作るのも好きで、少しずつ土が向いてるかなあと思うようになりました。食べるのも料理も好きなので、自然な流れで食のうつわに気持ちが向きました。

s-DSCF9175.jpg


───では食器から、飾る用途のインテリアのものにも興味が広がってきたんですか。


平野:そうだなあ。それは両方一緒というか同時にあった気がします。自分の中ではそんなに区別していない感じです。どっちも自分の中では最初から一緒にある感じですね。食べることも暮らしのものも、アイディアを練って作れそうなものは作ってみたいと思っています。


───最初の頃、東京での展覧会を拝見した時にも、すでに食器あり、花器やインテリアのものあり、オブジェ的なものもありといった感じで様々なものを作っている印象が強かったです。初期の頃に発表されていた道草花器なんかも印象に残っています。

s-DSCF9193.jpg


平野:ですよね、そうなんです。せっかく展覧会に来た人がもしかしたら食器だけ見てもつまらないかなって。うつわのほかにも「ああ」って感じるものがあったら嬉しいんじゃないかと思ったんです。イメージしたり想像して作るのがとにかく好きなのかもしれません。友人にこんなうつわを作ってほしいと言ってもらうのも楽しいです。友達が「きんぴらごぼうとかいっぱい作った時に、冷蔵庫に入れて、そのまま食べる時にチンして出せるうつわがほしい」と言われた時にこれは作った器です。でも作ったらこんな感じじゃなかったらしく、べつのもののほうが使いやすいって言われて、なるほどって思ったり。でもいいんですよ、このうつわも。もりもり入れてもいいですし、真ん中に置いて余白を楽しむ感じでも盛りつけ出来るし。


───日本のうつわの形とは違う雰囲気がいいですよね。ヨーロッパの古いバスタブみたい。ソープディッシュのようでもあるし。こちらのうつわもいいですね。


平野:ポテトサラダとか盛ってもいいかな。このコバルト釉の緑のうつわはお刺身とか載せてもよさそうです。


───お洒落。お酒にも合うお料理が浮かびますね。


平野:そうですね、食事もお酒も好きだからそうなっちゃうのかもしれない。


───食のうつわに限らず全方位的に制作している平野さんですけれど、ニーズがあるからというよりはどれもご自身が好きであるからなんでしょうか。


平野:オブジェなんかも自分自身が好きです。他の方の作品でもあれこれ身のまわりに置いてます。石とか貝も集めがちです。白い壁に何か飾るのも好きですし。思わず触れてみたくなるようなものが作れたらいいなと思っていますし、自分でも惹かれます。食器やオブジェのほかにはアクセサリー(ピアス、イヤリング、ヘアゴム、ブローチ)も相変わらず作っています。器では使いにくい釉薬や仕上げもアクセサリーであれば可能だったりするところが魅力ですね。アクセサリーを展示している時に鏡があったらいいなと思ったので今では掛けるタイプの鏡や、置き型の鏡も作っています。

s-DSCF9199.jpg


───様々な分野のものを作ることで平野さんの創作自体にとってもプラスに働いている感じですか。


平野:そうですね、単調になってくると実は飽きるんです。性格なんでしょうね。違うこともしたくなるんです。イベントや展覧会前に細かい作業の多いアクセサリー作りをしていて時間が無くなってくると「何やってるんだろう」と思えてくることもあるんですが、それでも一つのものばかりやっているよりはやっぱり楽しいです。


s-DSCF9205.jpg
多治見の空気、これからやってみたいこと

───多治見での暮らしにすっかり定着されてもう長くなったと思いますが、最近の多治見の様子はいかがですか。お店さんとものづくりの作家さんとが交わって催事をするなどつながりを深める機会も増えたとお聞きします。

平野:多治見は割と最近変わったんです。本町通りに同い年くらいの子が新しいお店やり始めたりとか、新町ビルも若い男の子たちがやり始めたり。


───〈山の花〉さんでしょうか。


平野:そうそう。陶芸もあるし洋服も置いたりしていますよ。本町のほうも窯を作っている窯屋さんの子がお店を出したり。その前にもあるのも陶器商の方が大きなお店とレストランが入っている施設をやっていたり。そこのレストランさんが器を使ってくださっているので本当はお連れしたかったんですけど今日はお休みで。最近の多治見はかなり活性化している感じがありますね。


───古くからの産地ならではの部分を残しながら、新しい取り組みが生まれ始めているんですね。


平野:そうですね。どっちもいいですね。以前からのちょっと懐かしい感じの街の感じもやっぱり好きですし。知り合いも増えて、材料や制作のことも気軽に教えてもらったり共有できる。居心地がいいです。



───陶芸以外で今出来てないけど、出来るようになりたいことってありますか?

平野:簡単ではないけど農業は憧れています。今ベランダではいろいろやっているんです。でもそんなにはできないので。


───ベランダ菜園をやっているんですね。このパイナップルソルベに入っているミントもベランダ産ですか?


平野:そうです。ハーブもいろいろ育てています。

s-DSCF9209.jpg


───ベランダでも気軽に育てられる野菜ありますよね。ミニトマトだったり。


平野:ミニトマトは今6株はあります。けっこうやる気ある感じに思われそうですね。ミニトマト、ズッキーニ、青唐辛子、モロヘイヤ、茗荷、紫蘇、ネギ、パセリと…ちょっとやり過ぎてる。


───かなり種類があってびっくりしました。広いベランダなんですね。


平野:そうなんですよ。すごい広いんです。二階にあるべランで。あ、でもちょっとぼろぼろだから見せられないです。


───安心してください、無理にとは言いません。下からでも緑が茂っているのはちらっとわかりましたよ。


平野:わ。恥ずかしい。


───水やりはどうしているんですか?


平野:部屋の中央にお風呂があるという少し変わった造りで。そのシャワーがベランダまで伸びるのでばーっと水遣りしています。雑ですよね。(作物は)少しずつ成長していって最後の最後に収穫できるのが嬉しくて楽しいんです。


───陶芸にも通じるものがありますね。


平野:ああ、もしかしてそうなのかも。そういえばこの間、八ヶ岳のほうに友人と遊びに出かけることがあって。いろいろ調べていたら近くに農業大学(八ヶ岳農業大学)があって花畑プロジェクトをするんだけど花の苗を植える人手が足りないのでボランティアを募集していたんです。それで朝行って花植えをして、すごく楽しかったです。お手伝いは午前中だけでもいいし、一日中でもいいしみたいな。すごくいい場所でした。広大で気持ちよくて。私たちが植えたところはほんの一部だったんですけど来年行って咲いていたらいいな。お花などの植物も好きなんですよね。


───ハイキングや登山などのアウトドア系のことも以前からお好きだとおっしゃっていましたよね。


平野:はい、山登りや自然はずっと変わらず好きですね。外に行くと気がつくと自然を観察しています。それが作るものへ反映されているようなこともあります。農業は憧れなのでいい場所が見つかったらいずれ取り組んでみたいです。

(了)


s-DSCF9182.jpg

平野 日奈子(ひらの ひなこ)略歴
1978 埼玉県で生まれる
1999 武蔵野美術大学短期大学部デザインコース卒業
2008 多治見市陶磁器意匠研究所卒業
2008 多治見市 studio MAVOにて制作
現在、多治見市内に工房を移し制作

HP
Instagram

1