読み物

With a warm feelings ①

呼吸すること 揺らぎのかたち

呼吸すること 揺らぎのかたち



私の母方の祖父母は、東京の下町で家族で医療用刃物の小さな研摩工房を営んでいた。
絵に描いたような寡黙な職人の祖父だったが、晩酌で気分がよくなってくると饒舌になり、孫の私に向かって子どもには難しい話を調子よく喋り始めるのだった。

「1ミリもぶれない仕事を人間がやるのはすごいことだけど、機械でできることは機械がやればいいんだ。
人がやるどんなものにもそれぞれ違う僅かなぶれや歪みがある。
それぞれ違う僅かなぶれや歪みにも臨機応変に対応できるのが人のすごいところだし、
誇っていい仕事だと思うんだな。
おじいちゃんが趣味で撮ってる写真があるだろ?

三脚立てりゃあきっちりした写真が撮れるが、
手でカメラ構えりゃあどんなにがんばろうとシャッター切るときにほんのちょっぴり揺れるんだ。

揺らいだ写真には撮る人の呼吸も写っていて、だから伝わってくるものがあると思うね俺は」

そういうものかと聞いていて、今ではすっかり刷り込まれた話だ。
あれから時代は移り変わってはいるが、祖父の話はあながち間違っていないのかもしれない。

原料からガラスを自家調合し、透明で柔らかな質感のものを作り出すとりもと硝子店さん。
端正な磁器を手がけていた感覚が生かされた、シンプルな黒いうつわを丁寧に作り出すsu-nao homeさん。

どちらも強い作家性や主張を声高に叫ぶ作風ではない。
それぞれが作るものの中に現れる独特の「揺らぎ」を持ち味として、健やかな中に静かで美しい響きを宿している。
じっと見つめると見えてくる、耳を澄ますと囁いてくる。
フォルムや質感、色合いの揺らぎは、つくり手たちの呼吸なのかもしれない。

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