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2021.10.25 Monday

読み物

With a warm feelings ⑤

  • あたたかさと緻密さと 松本圭嗣さんインタビュー / 後篇

    あたたかさと緻密さと 松本圭嗣さんインタビュー / 後篇


    “気持ちよく使ってもらわないと意味がないですよね”

    ブランドsu-nao homeを立ち上げ、黒の陶器のうつわを作る松本圭嗣さん。比較的薄手でありながらも丈夫さも兼ね備えています。金属のように硬質に見える時もあれば、漆のうつわのような柔らかな表情を見せてくれる時もあり、その存在感は独特です。大学生時代のアメリカ留学をきっかけに陶芸の世界に入り、卒業後は岐阜県多治見市にある多治見市陶磁器意匠研究所へ。その後は磁器のうつわやオブジェの世界で制作を重ねながら2004年に大阪のご実家の一角にある工房で陶芸教室を始めます。そして2015年に今のsu-nao homeをスタートさせます。磁器から陶器へ、そしてろくろ成形からタタラ成形へと技法も転身。経歴を見ると、大胆で思い切りがいい方なのかな?と印象を受けるかもしれませんが、お話からは緻密な考察や細やかな感受性、そしてあたたかなお人柄の一端がちらりちらりと垣間見えました。



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    ○お客さんを見ていて、使ってくれる人を見ていて


    歳とったのかなとも思うんですけど、なんか僕結局喜んでもらえたことが、人に喜んでもらえることが喜びやなと思うんですよ、今は。(su-nao homeを始める以前)オブジェとか磁器やってた頃は自分が喜んでたんですね。今はsu-nao homeのうつわを使ってくれた人が喜んでくれたら嬉しいな、と。そんな感じで。それに自分の作りたいことも追求できて。ありがたいことだなと。

    多治見にいた頃は、けっこう競争やったんですよ。誰が売れていくか、有名になっていくかみたいな。そういうとこがあったんですね。ついていた先生自体もそうだったし。そういうもんだと思ってた。で僕、そこから離れて大阪に来て。離れてみると気持ちも楽やし、心地もいい。今は周りの陶芸やってる人じゃなくて、お客さんを見ていて、使ってくれる人を見ていて。別の違う世界があった。それでまた作ったものを買ってもらえてるいるからね。本当にありがたいなと思います。

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    ○「満足」を買ってもらっていたり使ってもらったりしてる話


    僕たちの仕事って「満足」を買ってもらっていたり使ってもらったりしてる話でしょう?気持ちよく使ってもらわないと意味がないですよね。お客さんが、もし(うつわの)形が気になるとかあればすぐ気持ちよく替えますし。そうしたらお客さんも気持ちよく買えるし「気持ちいい対応してもらえたなあ」って思う体験が価値になるっていうか。それが先につながっていく。そういう話なんかなあと。

    あと陶芸教室を始めた頃ね、いいものを作ってもらおうと思ってたんですよ。今は楽しんで帰ってもらおうと思ってて。満足って、人それぞれ違うから。いいものを作りたい人も来るし、遊びたい人も来るし、息抜きしたい人も来るし、その人が楽しかったなあと思って帰ってもらえたらいいもの作れるより大切やなあと。女の人のほうが「感情のいきもの」とかいうけど、人間ってどんな人でもどちらかというと感情とか感覚を大事にしてるんちゃうかなあ。


    su-nao home |松本圭嗣 略歴

    1973 京都市生まれ
    1995 アメリカ サウスダコタ州 Dakota Wesleyan University で陶芸を始める
    1998 追手門学院大学 経済学部卒業
    2000 多治見市陶磁器意匠研究所 修了
    2000 板橋廣美師事
    2004 大阪高槻市に「やまぼうし工房」設立
    磁器の制作及び陶芸教室を主宰
    2015 陶器ブランド「su-nao home」を立ち上げる
    (HPより抜粋)


    *****

    文中、タタラ作りとか型作りという言葉がよく出てきます。
    これはsu-nao homeで採られているうつわ制作技法のこと。
    タタラ(タタラづくり、型づくり、板づくりなど他の呼び方もある)は粘土を板状にし、均一な厚みを利用し作品を成形する技法のことです。
    かたまりの状態の粘土を糸を用いて切って板状のものをまず作ります。
    あとは作りたいものの型に沿ってかぶせたり、型の中に押し込むなどして成形します。

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    塊の状態からろくろで挽いていく中で厚みを構築していくろくろ成形とは異なる点です。
    熟練のつくり手はできるだけ均一な厚みに挽いていきますが、それでもほのかな凹凸がろくろのリズムとして表面に出ます。

    この、板状にした比較的均一な厚みの板土から作られているという部分でも、su-nao home独特の端正で淡々としたトーンが出来上がっているのではないかと思います。
    プロダクトのうつわに近いような佇まい。

    それでいて、土からのゆらぎ、焼成からのゆらぎ、松本さんの手仕事の呼吸のかすかなゆらぎを感じます。
    風にそっとたゆたうかのような輪郭やうつわの口辺のささやかな角度。

    独特の黒い色も。
    それぞれがそれぞれの黒の濃淡を持っていて、陰影も感じます。
    食卓をシャープにモダンにまとめ上げてくれるので洋のお料理は一段とかっこよくお店風に。
    土もののうつわや漆のうつわなどと合わせると、柔らかな気配をまとって、しっとりと和の料理を引き立てます。

    松本さん自身で調合しているというこの黒い色の釉薬には一般的な黒系の釉薬よりもかなり高い配合で金属成分を入れているそう。
    色合いや質感を決める大切な工程も、度々工夫とテストを欠かさないそうです。

    su-nao homeのうつわの「su-nao」はその響きの通り、素直からとったもの。
    かっこつけるわけでもなく、載せた料理の素直な良さをそっとさり気なく引き立ててくれます。
    シンプルで、使っていけばいくほどにじわじわと、その使い勝手の良さに改めて気がつかせてくれるようなうつわ。
    その黒い色も、少しずつ時間をかけてその家ごとの表情も表れてくるでしょう。

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    そしてもうひとつ。
    仕上げとしてオイルを刷り込んでいるいるという、この質感もひとつの大きな魅力。

    やきものはそもそも、その焼成ごとに、あるいは制作時期によって表情や質感も異なります。

    松本さんからも
    「年単位や窯単位で質感が違っている事はあると思っています。買っている土や原料の変化は避けられない事で、釉薬の濃さや焼く温度なんかもちょこちょこ変えたりしています」
    というメッセージをもらいました。

    一見するとささやかな違いかもしれませんし、そこにオイルを刷り込み仕上げても、やはり何か劇的な変貌を遂げるものではありません。
    それでもいくつか群れのように並んでいる姿を眺めると、オイルの染み込み具合から発する色の濃淡、しっとりした表情のひとつひとつの差異がとても美しいです。 黒の中の濃淡の景色は繊細でひとつの大きな魅力に感じます。もちろんオイル仕上げにされているのは、刷り込むことでできる油による薄い塗膜で料理を載せた時のうつわ自身の汚れを防止する意味が大きいでしょう。
    実用と美しさへの細やかな心遣いそのものが、su-nao homeといううつわの特徴だと思います。

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    レストランのような気分で食事を味わいたい時も、いつものふだんの家庭料理を楽しみたい時でも、ふと手にとりたくなる。
    オブジェを作る世界で制作の時を過ごしていた松本さんが次に目指したのは、そっといつもの料理を支えるような脇役の、生活の道具としてのうつわ、静かな存在感。
    日常にゆっくりと溶け込んでいくように、あなたのいつもの料理を楽しみながら盛りつけてみてください。派手ではなくても、ふとした瞬間に浮かぶいきいきとした料理を見れば、また手にとりたく心地良さや使いやすさをきっと味わって頂けるかと。 

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