読み物
濵端弘太 木を見て我を見る ④


恒例のロングインタビューシリーズ。
今回も展覧会をして頂く木工作家の濵端弘太さんにお話をお伺いする機会を頂きました。
インタビューというより、作業中の濵端さんの仕事をみながらお話をしたという今回です。
時折作業に見入ってしまったので、話と話の間に空白があったり、唐突な質問もあります。
漆を塗る作業を人に見せるのはそういえば初めてということで、まずは自分が埃っぽくないかどうかがとても気になりました(笑)
そこまで口数の多いタイプではない濵端さん。
仕事をする姿から見えてくること、そこで生まれたやり取り。
行ったり来たりする対話の中で、徐々に濵端さんの人柄や考えなどが浮かんできたのではないかなあと思います。
店主渡邊(以下渡邊):漆部屋は仕事の性質上そんな汚くしている人いないと思うけど、 やっぱり綺麗ですね、濵端くんの仕事場は。 ほんと綺麗。 藤嵜先生(濵端さんが3年間弟子入りしていた大阪の木漆工芸「槌工房」主宰の藤嵜一正氏。大阪府指定無形文化財木工芸保持者でもあります)のところもこんな綺麗だったんですか?
濵端弘太さん(以下濵端):あそこは人数がいるんで、手が回るんで綺麗にすることはできますね。
渡邊:そうなんですね。ここのように一軒家だとこうして使い分けができるからすごい良いですよね。こんな良いところが近くにあるなんて。(5年ほど前に以前仕事場にされていたご実家から徒歩1~2分の場所に新たに工房を移されました)
(濱端さんが作業を始める)
渡邊:これ(漆箆の汚れ)を落としてるの?
濵端:先端を研いでなるべく綺麗に使えるように。ギザギザだったら(漆が)まとまらないんですよね。
渡邊:なるほど。作業を始める前にやるんですか?それとも作業が終わった後にもする作業ですか?
濵端:終わった後はこの溶剤とかがまだ残ってるんで。
渡邊:なら作業が始まる前にやった方が効率が良いってことですね。盆は立派な輪花だね。美味しそうに見えます。
濵端:こういうお菓子ありますよね。何でしたっけ、ハーベスト?
渡邊:ハーベストってありますね。美味しそう。定盤(漆を練る作業台のこと)載せている引き出しのような台はどうしたんですか?
濵端:これは仏壇の台座みたいなやつで。
渡邊:あっはっは!なるほど!そうか、専用のものではないんですね。なんだろうと思いました。
濵端:これいいですよね(笑)
渡邊:ちょうどよく収まってますね。仏壇の上は解体されて?
濵端:はい。
渡邊:箆の感触はものによって違いますか?
濵端:最初は固いんですけど、 糊で固められてるのを叩いて切って削って、こういう風にするんです。これはまだ一回も使ってないやつなんで。
渡邊:なるほど。穂先がちょっとまだ慣れてない。慣らすのに何か特別なことをしたりは?
濵端:柔らかかったら割っていきます。
渡邊:この前の手乃音さん(茨城県つくばの生活道具のお店)の展示はどうでした?どんな手応えがありました?
濵端:んー、そうですね。今まで作ってなかったようなやつを作ってみたんでどうなるかなと思ってたんですけど、割と受け入れてくれて良かったです。
渡邊:ああ、それは嬉しいですね。今までは輪花系に人気が集まる感じでしたか?
濵端:うん、ですね。今回は塗りのものとかも多かったんです。
渡邊:(手乃音さんのインスタグラムの)投稿を見返してきたんです、ここに来る前に。結構ガッツリ漆のうつわという感じも多かったですね。
濵端:まあ木工作家で通ってるんで(笑) 木工のうつわ(漆を用いていない作品)かなって思ってきたらお客さんは「あれ?」みたいなこともあったと思うんですけど。
渡邊:あれ漆のうつわなの?っていうね。そうだね、木工作家っていうと一般の人がイメージするのはも木々の色を活かしたオイル仕上げのものを作っているイメージが強いかもしれませんね。お客様と話していると、木の器と、漆の塗っている器は別のカテゴリーっていう意識を持ってる人も確かに多いかな。(ある器に目が留まって)あ、これはアンモニア燻蒸の作品ですか?
濵端:これは鉄染めですね。
渡邊:鉄染めのものを使っていくと染色はしてるけど色変わっていきますよね。
濵端:明るくなっていきますよね。
渡邊:染めてあるからそんなに変わらないのかなと思うけど、実際使ってると色の変化を感じられますね。
渡邊:休みの日をつくったりしますか?
濵端:休みの日をつくるというか疲れたなって思ったら休みます(笑)
渡邊:どこか出かけるとか?
濵端:休んでも、(庭の)草刈りとかやらないといけないんでね。
渡邊:仕事を休んでもだいたい皆さんほかにやることありますよね(笑) 益子の近藤さん(陶芸の近藤康弘さん)もそうでした。畑作業に追われてますって言ってました。「そっちもやらないといけないんでね」って。庭仕事をするというよりかは草刈りですか?
濵端:そうですね。僕は畑はやってないので。草刈りが大変で。
渡邊:どこまでが敷地?
濵端:作業場の向こうにもあるんですよ。
渡邊:へえー、まだ敷地が。木を置いてるとか?
濵端:木あります。
渡邊:屋根作って置いてあるとか?
濵端:もともとあった倉庫があって。たまにヘビが入ってくるんですよ。
渡邊:出た、ここにもヘビが。近藤さんのところもマムシとかアオダイショウとか出て、(屋根から)落ちてきたらしいよ、ドーンって工房の中に。
濵端:僕の場合は、この工房の中はないですけどね。
渡邊:ここは出ないよね、綺麗だもん。倉庫には入ってきたりするんだ。追い払う?
濵端:いや、勝手に向こうが逃げていくんで。「なんか木出すんか?」みたいな。それで「あ、すいません」っていう。
渡邊:ははは(笑) 向こうのほうが主導権あるんだ。濱端くんの場合は仕事をする中で何を作ろうかなって考えていることの方が多いんですか?
濵端:そうですね、あんまり何か見に行ってヒント得るっていうのはないかもですね、最近特に。っていうか長崎は見に行くものがあまりないので。
渡邊:それは[長崎には自分が見たいものが少ない]という意味で?
濵端:なんかね大阪とか京都とかそういう所に行ったら何かやっぱりあるんで。
渡邊:そっか、修行時代のほうがもしかしてよく見に行ったりしてたのかな。神戸の竹中大工道具館には行ったことあるって話でしたよね。
濵端:そうですね。修業時代に、先生と工房のみんなと急遽行くことになって。ただその時、たまたま僕、すごい頭が痛くて具合悪かった記憶があって。
渡邊:大阪から神戸行って展示見たら2~3時間はかかっちゃいますよね。具合悪かったらせっかくだけどあんまりゆっくり見てないんじゃない?
濵端:僕の記憶にあんまり残ってないだけで昼前ぐらいから行ってなんだかんだ夕方くらいまでいたはずなんです。
渡邊:見に行ったらそれぐらいになりますね。竹中大工道具館は展示が充実してますし。 行ったこと私もあるんですけど、1時間や2時間の短い時間じゃ見終わんないからまた行かないといけないなって感じで出てきました。見どころいっぱいあるから夕方くらいまでかかりそう。
濵端:インパクトは残ってるんですけど、体調が悪かったので具体的な記憶が薄いです(笑)
渡邊: 今だったらもっと楽しめますよ、きっと。うちの店からだと歩いて12~13分なんでけっこう近いので在廊の時にお時間あればぜひ。
→後篇へ続く
濵端弘太 木を見て我を見る ③


濵端弘太さんの個展をさせて頂くのは2017年、そして2019年に続いて三回目。
2017年の個展は、濵端さんにとっても初個展でした。
にも関わらず非常に多くの反響があり、展覧会にも大変多くの方が運んでくださりました。
当時のInstagramの投稿を振り返ると、展覧会最終日を終えての挨拶に
「(初個展で)今回はこんなにもたくさんの皆さまに作品を手に取って頂けるとは私の想像を超えていました」
と綴ってあり、その時の興奮冷めやらない思いや驚きを思い出しました。
初個展から6年。
濵端さんはそれから着実に作品を発表し続け、広くたくさんのお客様やお店さんに知られるように。
久々の展覧会の機会を今回迎えました。
今までもいろんなお話を聞かせて頂いてきましたが、まだお聞きしたことがなかった制作に際しての少し深い部分での内容、次世代に向けて、子供の頃のことなどなど《5つの質問》をさせて頂きました。
濵端さんの重ねてきた時間、作るものへ反映されている様々なことがちらりと覗いてみえるような、ほんの少し紐解けたかもしれません。
ちなみに今回の「5つの質問コーナー」に載せたお写真は、濵端さんご本人に撮影して頂いた貴重なもの。併せてお楽しみください。
───子供時代はどんなお子さんでしたか?その頃を振り返って、ものづくりや木工の道を選択しそうだったと思いますか?
濵端「物作りが好きな子どもでした。学校の図工でやったことを家で自分でやったりしてました。
版画とかも楽しくてやりましたがプチ日曜大工みたいなのが一番好きでした。
振り返ってみると木工の道を選んだのも納得しますね」
───「木」にちなんだ質問です。ご自身の身のまわりで、木を使用したもので惹かれるプロダクトやアイテムはなんでしょう?(例:木造建築、椅子、建物のドア、まな板、木箱、木製ベンチ等々、大きさや用途などは問いません)
濵端「具体的にこれというより長年使い込まれた木のものが好きですね。
テーブルや椅子、床や手すり、大きなボウルにお盆など。
年月を経て、木でできた「もの」が再び木に還っていくような。
そういった雰囲気を感じられるものが好きです」
────手に取ってくださる方にとって、ご自身が手がけたものは、どのような存在であってほしいですか?
濵端「見たとき触れたときに心が穏やかになったり楽しくなったりするものであり、長く傍に置きたいと思われるものであってほしいです」
長い手足から繰り出される猫パンチは強めだという、愛猫のふーちゃん。
少し前までは仕事場にも連れてきていたそう。
とっても美猫さん。
(了)
濵端弘太 木を見て我を見る ②


濵端弘太さんの個展をさせて頂くのは2017年、そして2019年に続いて三回目。
2017年の個展は、濵端さんにとっても初個展でした。
にも関わらず非常に多くの反響があり、展覧会にも大変多くの方が運んでくださりました。
当時のInstagramの投稿を振り返ると、展覧会最終日を終えての挨拶に
「(初個展で)今回はこんなにもたくさんの皆さまに作品を手に取って頂けるとは私の想像を超えていました」
と綴ってあり、その時の興奮冷めやらない思いや驚きを思い出しました。
初個展から6年。
濵端さんはそれから着実に作品を発表し続け、広くたくさんのお客様やお店さんに知られるように。
久々の展覧会の機会を今回迎えました。
今までもいろんなお話を聞かせて頂いてきましたが、まだお聞きしたことがなかった制作に際しての少し深い部分での内容、次世代に向けて、子供の頃のことなどなど《5つの質問》をさせて頂きました。
濵端さんの重ねてきた時間、作るものへ反映されている様々なことがちらりと覗いてみえるような、ほんの少し紐解けたかもしれません。
ちなみに今回の「5つの質問コーナー」に載せた仕事場のお写真は、濵端さんご本人に撮影して頂いた貴重なもの。ぜひ楽しんでご覧ください。
──今の道を選んだのはどこに魅力を感じたからでしょう?続ける中で、挫折を感じたことはありますか? うまくいかないと感じた時の乗り越え方は?
濵端「子どもの頃から物を作るのが好きで簡単な木の工作などもやっていました。
木で物を作るのが好きだったんでしょうね。
高校卒業後はじめは家具作りを学びたかったのですが学校の事情があり伝統工芸の世界に入りました。
そこで小さな箪笥や小さな箱などを作るうちに大きな家具作りではなく小さなものを時間をかけて作ることの楽しさに魅了されそれが今へと続いていると思います。大きな挫折は今のところないですね。
うまくいかないと感じることはしょっちゅうありますが、仕事自体がというより作品作りでの試行錯誤という面でですね。
落ち込んだり沈んだりすることがあまりないのでうまくいかないときもそれはそれで楽しんでやってます」
───木工は家具やうつわなどふだんの暮らしに身近なものづくりですので、憧れを抱いていたり将来目指したいという人も多いと思うのですが、この道を目指したい人へ濵端さんなりのアドバイスを頂けますか?
濵端「木工の仕事内容はなかなかに地味で時間がかかるものですが、板や塊が作品に仕上がっていくときに見せてくれる表情の変化を体感できるのは作り手にしか味わえないものだと思います。
作品の大小に関わらずその感動はあるので、木工をはじめてみたいと思う方は小さなものからでいいのでぜひ挑戦してみてほしいです」
→②に続く
濵端弘太 木を見て我を見る ①


「材料の木を眺めている時は、ここから何を作ろうかと考える時。
と言った濵端さんは、
長崎の濵端弘太さんの工房を8月に訪れた。
2018年の秋以来の再会。
4月に別のギャラリーで行った個展では漆ものをいつもよりも多く
「割と前に戻ったみたいな。定番のやつを」
と話してくれた。
作りたいものや、やってみたいことはいろいろとある。
そこで重要なのは、材料の〈木材〉。
その時その時で、今どんな木材を所持しているかということ。
材によって作れるものが異なるので、木を見ながら、
すべては木から始まる。
自身の制作の源、原動力になっているものは?
すると少し考えてから濵端さんは言った。
「自分の作品ですかね。前のやつを見て、
濵端さんは制作において外的要因に頼ることがほとんどないという
手元にある素材の木を見つめ、自分自身を見つめて、
まったく健全で、潔い姿勢だと思った。
中学生くらいの時に読んだ村上春樹のあるエッセイの中で
〈レイモンド・チャンドラーが小説を書くコツについての文章で、
という内容が確かあって時折ふと思い出すのだけれど、
素材となる木材を見つめ、作品を生み出し、
それはとてもシンプルな円環だ。
展覧会で私たちが目にするものは、
近藤康弘 Nouvelle page ⑤


2020年11月以来の、近藤康弘さんとの展覧会の仕事。
いよいよです。
近藤さんは2021年1月に、益子内で新たな場所に移りました。
私は今年6月に打ち合わせで初めて訪問しました。
そこには近藤さんが、以前からやりたいと願っていたことが少しずつ形を表し始めていました。
近藤さんが益子にやって来て修業をしていた時に送っていた健康的な暮らし。
原点回帰し、前に進んでいきたいという気持ち。
引っ越し後、しばらく経ちましたが、自然と共に在る暮らしは一筋縄ではいかず、まだどっしり構えてというわけにはいかない。
それでも今の姿を映すようなうつわを作り、展覧会という場をひらく。
現在の考えや、つくり手としての自分や周囲との関わりについて、インタビューというよりは、気ままに語って頂きました。
近藤さんの工房やその周りの様子なども合わせて、展覧会を味わう一つのピースとしてお楽しみください。
近藤康弘さん(以下、近藤):現状がまだ全然落ち着いていなくて。落ち着いていると思っていたのが全然落ち着いていないから、とにかくもともと自分が思っていた理想の形にどんどん近づいていきたいなというのがあって。展示会で表現したいという気持ちは他の人より全然薄いかもしれないですね。
店主渡邊(以下、渡邊):表現って感じじゃないですよね、近藤さんはいつも。
近藤:時に世間の声とか需要に合わせて寄せていくようなところがあって。
渡邊:ジャンプに寄せるとか。
近藤:ジャンク?
渡邊:ジャンプ。
近藤:じゃんぷ?
渡邊:岩見さんとの二人展(同じ益子で作陶されている岩見晋介さんとの二人展が2022年11月に東京神田で開催された)は、王道ジャンプの世界って。(『週刊少年ジャンプの王道漫画みたいに多くの人が、楽しんでいただけるような展示会をテーマに掲げていましたが…』近藤さんのインスタグラムより)あれは裏テーマか。
近藤:ああ、ジャンプね。あれはどっちかと言うと自分ら主体だったり、自分らの好きなことをやった展示会で。百職さんのところとかだと結構お客さんの顔が見えやすくて求められているものがわかるっていうか。最近は納品とかも全然してないし、他のお店さんもなんですけど、どっちかと言うと今は気軽に自分で作りたいような感じのものを、そんな変わったものも作らずにやっていってる。(お客さんが受ける印象としては)やっぱりちょっと男臭いなという感じはあるんですか?
渡邊:んー男臭いっていう感じじゃないですね、近藤さんは。
近藤:もうちょっと百職さんの時はちゃんとバランスよく選びやすい感じに作ろうと思って。
渡邊:ちゃんと(笑)
近藤:今やっている陶庫さん(益子の老舗ギャラリー)での個展ではありのままでいきたいなと思ってて(取材当時の6月は陶庫さんで自身の個展開催中だった)。陶庫さんのいいとこは良くも悪くも(こういうものを作ってほしいと)言われないんですよ。 好きなことをやってよくて、それが逆に迷走もしちゃうんですよ。
渡邊:わかりますよ。うちも結構そうです。4人展みたいな時は言いますけど、基本的にはあんまり言わないです。あんまり言わないんで逆に「言ってください!」って言われる時があるんですけどね。
近藤:そういうのを岩見さんとよく話してたんですけど、岩見さんは昔から他所(陶庫さん以外のお店)だとリクエストがあってあんまりはめ外しちゃいけない。 でも陶庫さんだと自分でテーマを作って好きなようにやってきて、そのうち「テーマに頼りすぎてるな」みたいな境地に行き着いてしまって最近は自由にやってるみたいなことを言ってて。
渡邊:なるほど、テーマに頼りすぎてるね。
近藤:そう店主に言われたみたいで。
渡邊:結局テーマを決めることでまた自分を縛ることになりますよね。でも大事だとも思います、あえて縛りをかけるというのも。目指すところを置いたり、頼りにしたいものも欲しいですからね。それは決めたいですが…難しい。
近藤:珍しいっちゃ珍しい場所なんですよ、良くも悪くも。なんか社長さんは「人を見たい」みたいなところがあって。人に興味がある人なんです。
渡邊:ああ、わかるな(人を見る面白さ)。
近藤:だから許される範囲で失敗もさせてくれるっていうか、経験もさせてもらってるから。良いか悪いかわかんないですけど。
渡邊:良いことだと思います。そういう場所があるとありがたいですよね。失敗が許されないヒリヒリした場所も必要かもしれませんけど。
近藤:でもそのステージは今はまだ必要ではないかなと。自分でまだ立てる段階じゃないなっていうのを自覚してて、そういう話とかがあったら断る。自分を傷つけちゃうっていうか、結局。
渡邊:作れない状態に自分を追い込んだらダメだからね。できるだけ自分で自分のことをいいものを作れるように高めていくっていうことが求められてるはずですしね。人によっては厳しく追い込むことで作る意欲を高く持っていけるようなストイックな人、Mっぽい人も中にはいますよね、中にはね(笑)
近藤:一時そうやって追い込んでやってたんですけどおかしくなって。
渡邊:近藤さんには向いてなさそうです。
近藤さんの自作薪窯での初窯作品。窯から出した時に自分の窯でこんな釉調の美しいやきものが作れるんだと心打たれた記念のうつわ(非売品)
近藤:今回はありのままっていうか、自分なりにある程度百職さんに居てるお客さんに求められてるものを汲み取ってみたいな感じで。
渡邊:(百職には近藤さんの)ファンの方々が確かにいます。
近藤:ここ数年自分の好みがどんどん骨董品にのめり込んだっていうか、やってるうちに使いやすさとかよりも自分の中の美意識みたいなものを(作品に)昇華できるかどうかに傾倒していって。これがなかなか昇華できない。自分で作って気に入るかどうかみたいなね。そうやって昔の人、濱田さん(濱田庄司)とかも色々な作品を見て味わって、それを自分の作品に写すんじゃなくて得た栄養分から出してくるみたいな。ここ数年そういう時期があったかな。それが吸収できてるかわかんないですけど、何かしらちょっと肥料みたいに効いてくれてたらなって。緩効性肥料じゃないけど後からじわりじわりと。決して努力は無駄じゃないってやっぱり言いたいじゃないですか。遠回りか寄り道してたのか。
渡邊:寄り道も必要なことだったっていう風にね。ここに来るまでの全ての道のりは必要なことだったって思いたいですよね。
近藤:一時は精神的にもかなり落ち込んでたけど気持ちが弱ってくるのはやっぱり良くないなと思って。本当に弱りきってたから弱ると今度は支えられなくなるっていうか脆くなる。 最近そこだけはちょっと健全にはなってきたんですけど、立場的にはまだ沈んでる感じはあって「もう壊れちゃう!」とかって思いながら床を踏み抜いて(笑) もう今はそこまで脆くはなってないんですけど。
渡邊:(4年前の工房訪問時)大谷石資料館に行く時のドライブ中とか結構ナーバスな話をしてたよね。
近藤:あそこら辺が一番沈んでましたね。
渡邊:まだ(百職での展覧会を)受けるか受けないかの話をしてたと思うんですよ、お邪魔した時。で、近藤さんが考えさせてくださいって言って。それで4月か5月くらいまでの、ギリギリでいいから返事くださいって答えて。そしたら返事がきて(展覧会を)やってくれるって話をしてくれた。
近藤:それで取材に来てくれたの2020年でしたっけ?
渡邊:2020年のたぶん3月か2月の末ぐらい。その時は「なんか俺人の前に出れるかどうかわからない」って言ってました。
近藤:その後、最後の梅雨の時期に(精神的に)壊れちゃって。それから引っ越すことになって「もう一度!」って思ってたけどまだ体はできてなくて。ちょっと無理して、また静かな時期が来た。でもその全てが自分だなって感じもあるし、先の景色がちょっと見えるようになってきてるだけでも全然今は違うっていうか。前は暗闇っていうかどうしようっていう。 いろんな人に自分の中の理想みたいなのはずっと言い続けてるけど、どうしていいかわからないみたいな状態だったんですね。一歩踏み出してみたけど思ってたよりも難しくて失敗したりして…。
(庭にヒヨドリが飛んできて)
渡邊:あっ!
近藤:あっ!…あの花(取材前に訪れた上三依水生植物園で買った草花)を狙ってきてるのかな、もしかして。
渡邊:来ましたね、舞い降りてきましたね。
近藤:やんちゃなやつらですね。
─────
近藤:百職さんのところには自分なりにある程度バランスのいい感じで出したいんですよ、今回は。普段そのバランスのいい感じをもう全然出せてなかったんで。
渡邊:チャレンジしたい。 なるほど、すごい。
近藤:いや、すごい感じじゃなくて自分なりの”ちゃんと”っていうか。きちんとって言ったらプレッシャーになるかな。選ぶときにどっちにしようかなぐらいに思えるような感じにはしたいなって。
渡邊:ああ、うん、すごいなって言ったのは、ある程度自分のしたいようにできるっていうところから、もう少し自分にプレッシャーかけてるじゃないですか。”ちゃんと”やれたらいいって。それがすごいなって、前進したなって思って。気持ちが上向いてて、それが「すごいな」って思ったんです。
近藤:ああ、ありがとうございます(笑) 上手くいくかはわからないけど自分なりにはやろうと思って。まあ今回は(うまくいかなかった時の)保険に岩見さんの(窯)もあるし、その時には多分ようやくガス窯も来てるから。
渡邊:ガス窯は新しくするの?
近藤: いや、(前の場所から)持ってくるだけです。それがあるとなんていうかダブル保険で気持ちの中でもホッとするし。小野くん(陶芸家の小野陽介さん)のお父さん(益子陶芸界の重鎮 小野正穂氏)が「最初に楽をしちゃうと大変だから続かない」って言ってて、それの意味が分かった。自分の想像を超えてどんどん締め付けられて経済的にも苦しくなってくるというか回らないわけです。そのやった労力を無駄にゴミ燃やしてるみたいな感じで。そこら辺やってきた陶芸の先輩方はすごいなと思って。
渡邊:(先人の先輩方も)幾度も煮え湯を飲まされてきてるでしょうしね。
近藤:分かったような風に聞いてたけどやっぱり自分でやってみないと分からなかったなと。まだ全然分かってないだろうけど。
近藤:最近須原(金工の須原健夫さん。近藤さんとは高校からの親友でもある)と喋りました?
渡邊:喋りましたよ、やり取りしました。
近藤:状況の変化とかは聞いてますか?
渡邊:引っ越しの話ですか?聞きました。
近藤:俺も最近連絡とって、会う話とか向こうが言ってくれたけど今はそれどころじゃないって2回くらい断ってて。引っ越しのことは全然知らなくて、物件の契約した後に連絡くれて。
渡邊:知った時期は同じくらいですかね。4月末か4月の初めくらいかな。あそこ(以前の箕面の工房)はいよいよ出ることになるみたいな話を聞いて。
近藤:ねー。ワクワクしちゃいましたよ、苦労しそうだなとか思って(笑) すごいなと思って。「飛んだ!」みたいな感じ。行きよったと思って。
渡邊:(物件を)買うって言ったから「お、そうなんですね」って(ちょっと驚いた)。最終的には買うだろうなと思ってたけど、次のところが最終(最後の移転先)かどうかわかんないかなって、前仰っていたんですよね。(箕面の物件は)親戚の方の持ち物だからいつかは出なきゃいけないけど、最後はどうしようかなみたいな。
近藤:なんか話聞いてても新しい物件は良さそうな感じですよね。あそこら辺植木屋さんとか結構多いんじゃないかな。多分そういうエリア。地図で見たら牡丹園が近くにあったり、似たようななんとか園があって。京都だと茶花とかでも宝塚の業者さんが卸してたりして。
渡邊:へえーそうなんですね!それは知らなかった。
近藤:そうなんです。向こうだと宝塚は結構有名。こっちだと(埼玉県)川口の安行とかに植木屋さんが多いんだけど。そういうのが育ちやすい場所だと自然に集めやすいっていうか。
渡邊:(須原さんは物件を)いろんなとこに探しに行かれてましたよね。能勢に行ったりとかもしてた時期もあったし、もうちょっと山間の、丹波も行ったんじゃないかな。でも丹波だと「地域の消防団に入らないといけなそうだから」と渋ってたなあ。
近藤:今度展示会の時に、(新しい工房に)ちょっと寄らせてもらおうかなって。家主の息子さんと誕生日が一緒だったとかって地味に喜んでて。縁みたいなところに何かエネルギーを感じてるみたいで。俺も結構あったんですよ、そういうの。変な力が働いてないと説明できないことが結構あって。
渡邊:不思議な縁というものはありますよね、説明できないことって。近藤さんがこの家に住むときにもちょっと不思議なことがあったりしました?
近藤:不思議なことしかなかったです、ここは(笑) 家を探しだして5日目で話が来たのかな。「2020年、個展中止、もう心折れました」って感じで。で、土地をどっか知らないですかと個展初日の予定日は物件巡りしてました。で、いろいろ地元の人に声かけてもらって見てみたんですけど、実際見たらピンとこないんですよね。何かどっか引っかかるというか、思ったほどないもんだなと思って。で、探しだして4日目だったか。俺を益子に案内してくれた須原の知り合いだった松本民芸家具を販売してた女の子がいるんだけど、その子の旦那が建築デザイナーで一級建築士でもあるんで家建てたって言ってて。実は前から新しく家を建てたので来てくださいって言ってくれてたけど5年も6年も行ってなかったんですよね。(近藤さんの)前の家は湿気がすごくて色んなところがカビたかカビたって言ってて、俺の中でもカビのない家がいいって言ってたんだけど、その新しく建てた家のこと聞いたら全然そんなことないですとか言ってるから夫婦でお邪魔させてもらって一緒にご飯行って昼間から飲み出して、向こうも最後夫婦で酔いつぶれるような感じ。そこはほんと八畳用のちっちゃなエアコン1個で結構広い建物全部が涼しくてカビも1つもなかった。じゃあ家建てる時はお願いしますとかっていきなりお願いして、向こうもデザイン料はいらんからとかっていろいろ言ってくれて。もうどうしていいかわかんない状態にちょっと希望の光みたいな、そんな家が存在するんだと思ったその日の夜かな、物件があるってグループラインが来て。
渡邊:それがここのことですよね?
近藤:そう。で、5日目の日に岩見さんに(返事は)早い方がいいって言われて、自分も早い方がいいっていうのは経験上わかってて。良い話があった時はすぐ動ける人間がだいたいいい思いをしてきて、ちょっと悩んでる人間っていうのはだいたい貧乏くじを引いてるっていうのを見てきたからものすごい動きが早かったんです。(メールが)来て1時間で決めた。最初2日後に奥さんと一緒に見に行くって予定にしてたけど、そう言ってる間に他に5人アポイントがあるって。小野くん(小野陽介さん)もいたし。もう「ここは俺のだ!」って。あとは出たとこ勝負、何が出るかって感じ。陶庫さんもびっくりしてた。「えー!5日で決めたん!?」って。他のとこも見ててあそこはいいんですけどねーとかって言ってたらあそこ焼き物屋さんぽくないとかって言われたりしてて、ここも焼き物屋さんぽいかどうかわかんないけど。
渡邊:焼き物屋さんが住み暮らしていたわけだから焼き物屋さんにぴったりの物件だと思います。
近藤:ただ(家屋周辺の土地の整備など)やることが多くて下手したら仕事に支障が出るかもしれなくて。仕事だけに時間を割ければいいんですけど、ほんじゃ今度周りが全部荒れ地になっちゃうから。
渡邊:そうですね、さっきもそのような(荒れた)木々が。(インタビュー前に周辺の土地を案内していただきました)
近藤:そう、でもそこをなんとかうまくやっていきたいなと思って。それこそ自分の理想の形に。さてどうなりますかね。
渡邊:ね、どうなりますかね。私はいつもの通り近藤さんがやりたいようにやってくれて…って大体いつも同じようなこと言ってますけど(笑)
近藤:そうですね(笑) その時その時で結局同じようなこと言ってくれてるような気がする。
渡邊:そうですね。でもその時その時で近藤さん結構劇的に状況が違うんで、一つ所にいない感じというか。
近藤:近藤劇場、ジャンプの主人公。
渡邊:そうですね(笑) 個展でも近藤さん自身がやりたいことをやってもらいたいです。
近藤康弘(こんどう・やすひろ) 略歴
1978 大阪府千里に生まれる
1997 京都で陶芸を学ぶ
2004 栃木県益子町 榎田勝彦氏に師事
2009 益子町にて築窯、独立
2021 益子内にて移転、築窯