読み物
harmonia ③
染織テキスタイル作家の飯島たまさんの作品づくりは大別すると〈
紡ぎ・染め・織りと、
今回の展示ではコースターやクロス、ブックカバーなど、
近年取り組んでいらっしゃるイギリスやヨーロッパ由来とも言われ
飯島さんのルーツのようなものでもあり、
飯島さんならではの制作スタイルやつくり手に至るまでの経緯、今回の展覧会タイトルにちなんだ音や五感についてなどの話を通して、飯島さんの作品を紐解く手がかりを求めてお話を伺いました。
harmonia 飯島たま×小川麻美×橋本晶子 展
2023/3/25(土)-4/2(日)
12:00-17:30
会期中休 3/28(火)、29(水)
最終日4/2(日)のみ16:30終了
‐ 初日3/25(土)の12:00の部と13:00の部のみ事前予約制
(初日14:
詳細はこちらをどうぞ
harmonia ②
山梨
染織の飯島たまさんのところへはご無沙汰してしまっていて、
もうそんなに経ってしまったんだなあと古い写真を見返した。
当時たまさんは山梨の勝沼にいて、
たまさんは愛犬のミニチュアピンシャーのPさんと出迎えてくれた
六月も終わりのこの季節は、まだ青い葡萄がたわわに実っていた。
見上げれば葡萄の青と木漏れ日。
こんな景色は生まれて初めてだった。
たまさんは当時の家先の庭でも、
それから数年後、
今度の家は、新たに建築した住まい。
新しくても、
庭先にはやっぱり草花が植えられていることはもうわかっている。
ミニピンのPさんと、
生けるものから糸を紡ぎ、染め、布を織るたまさんの営み。
久しぶりに展示参加して頂き、皆さんにご覧頂けるのが私も嬉しくて楽しみで仕方ない。
竹筬と筬通し|筬(おさ)は機織りの際に、織布の幅や経糸の密度を保つための道具で、筬通しは筬に経糸を通す道具。どちらも飯島さんの大切な愛すべき道具。お守りのようなものでもあるかもしれない。
神奈川
陶芸の小川麻美さんの工房にだけは、
知り合ってからずいぶん経つのに(11年!)。
ご結婚後はそれまでの神奈川県平塚から、
行ったことはないのだけれど、
ご家族には、大切な2匹の猫、茶トラ白のじんくんと、
そう、実は今回の三人の作家さんは全員「猫飼い」
最初、仕事場である工房には立入禁止にしていたという猫たち。
でも徐々に徐々に猫たちはするすると入り込み、
きっと猫たちも
「大好きなご主人様は別室でいったい何してんねん?」
「
などと気になって仕方ないはず。
見守られながら(時に邪魔されながら?)
窯場には、
その前には、
これは炭化焼成もできる仕様の窯。
前の持ち主も前の前の持ち主も炭化焼成で使っていたのだから窯も
結婚後に建てた新居に新たに仕事場を併設した際、
当時、麻美さんに電話をすると、よく
「窯がまだ来ないんですよね〜」
とじれったそうにため息をついていたのを思い出す。
炭化は、20時間近くかけて作品を焼成した後に行っていく。
徹夜を余儀なくされる作業だけれど、変化の度合いのなかなか読めない炭化という手法がすごく
今回の三人展ではこの炭化で仕上げた作品が多いとのこと。
麻美さんの作品で私が最も大好きなのも炭化の作品。
とにかく今は、
岩手
もう3年も前になる。
9月の半ば、橋本晶子さんに案内してもらった二回目の盛岡。
一緒に歩いた道は、北上川の支流にあたる中津川沿い。
水が澄んでいて、川底の石までよく見えた。
市街地だけど、広くてのびやかな景色だった。
向こうの山はそびえるようではなく、
古くから続く喫茶店や、
そこにいる人たちは、やや癖があって、シャイで、
話が始まると、
次こそは、またこの道を歩きたい。
harmonia ①
「
と人々は考えていた。
数学者ピタゴラスは宇宙の奏でる音楽を、天球の音楽と呼び
「宇宙が音楽を奏でており、それがこの世の調和〈
と不思議な調和をもたらす音楽と宇宙について、
三月の展覧会でお迎えする、染織の飯島たまさん、
3人のものづくりの工程でも様々な音が生じる。
素材が発する音もある。
あらゆるところで「音」が姿を現す。
音に耳を澄まし、
3人のつくり手が行き交い絶妙なトライアングルが織り成す空間で
小野陽介 Polaris ⑤
2022年最後の展覧会がやってきました。
今思い出しましたが、2019年に百職でさせて頂いた小野陽介さんの個展は、ご自身にとって初個展だったそうです。
そして今回百職ではようやく、小野さんの個展の第二回目を迎えることができそうです。
陶芸家のお父様がいるご実家から昨年冬に独立。ご結婚もされ、茨城県石岡市に新しい工房を移した小野さんのもとによく晴れた秋の終わりの日にお訪ねしました。
筑波山が眺められる、少し小高い場所にある工房とお宅。古い建物を、今もまだ少しずつリノベーションをしながら暮らしているということ。
古い倉庫のようなガレージのような場所が小野さんの現在の仕事場。味わいがあり、以前よりも広くて開放感がありました。
そこで窯出しした作品を見せて頂き、お昼ごはんのあと、すぐそばのこちらも味わいのある古民家のご自宅に場所を移してお話を聞かせて頂きました。
今回は後篇のロングインタビュー。
小野作品の一端を感じるよすがになれば嬉しいです。
〇「使えたらいいな」から「どうにか使えないかな」
‐庭の土を土を掘ってみようと思ったのは何かあったの?
小野:いや、掘ってはないんですあれ。浄化槽(を設置するときに出た土)です。
‐浄化槽?
小野:浄化槽の工事をしている時にユンボでガッとやったら(粘土)層が結構出てきて。
‐ああ、なるほどね。
小野:せっかく出てきたんで使えたらいいなと思って。ただ土分が多いから形も作れるんですけど石がやっぱ重いんだと思うんです。それで結構長石の粒がボッとなったりするからとりあえず薬で使えないかと。多分黄土に近いです。酸化で焼いたら使えるんじゃないかっていう仮説はあるんですけどそれはまだやってないです。
‐へえー、それはじゃあ本当に偶然出てきた土が使えそうかなって思ったんだね。
小野:そうです。「使えたらいいな」から「どうにか使えないかな」になりましたね。
‐土とか石とかも人によってアプローチの方法が違いますけど(小野さんは)原土も使ってるっていう話。まあ昔からそうだと思うんですけど、そこに何かこだわってるものがあるんですかね?
小野:僕はめちゃくちゃ原土単味とかそういうのにはこだわってないかもしれない。ただ土味とかは好きですけど単味じゃなきゃいけないとかそういうのはないです。でも単味で面白ければそれを使いたい。
‐そのほうがいいよね。
小野:でもまだ出会えてないです。出会いたいっすよね、この土いいなってそういうのがほしいとは思いますけど。
‐周辺からなんか出てきたものから作ってみるっていうのは、陶芸家さんは考えたり憧れる方、割といらっしゃいますよね。
小野:憧れますね。だからまあこだわってはないけど…教えてほしい(笑) それでなんか自分の作風にしっくりくるものがあったらいいなってのはあるんですけど。
‐オリジナリティの説得力が増しますよね。
小野:でも別に今すぐそれが必要っていうわけではまだなくて、ぼちぼち探していこうかなって感じ。
‐まあここ(茨城県石岡市)に来てまだそんなに時間も経ってないからちょっとずつ見つけていけるといいですよね。
〇良い習慣ができかけてるからなんかどっか行けるんじゃないかと
-前から思ってましたけど釉薬についても釉の出方もそうですし小野くん結構細かいですよね。色についてのイメージというかニュアンスや理想が明快。
小野:あ、そうですか?
‐はい。色もだし釉薬の流れ方だとか割とこうしたいという思いを持って気にしてるほうかなっていうふうには思いますよね。だから他の作家さんだったら火に任せて、まあこれもいいかなってパスするところを、意外とポイント絞って理想を持って見てるなと思うんですけど。
小野:そうなんですね。ちょっと(釉薬の)動きがないといやだとかかな。
‐それは自分が格好いいなって思ってる作家さん、まあルーシー・リーも格好いいなって以前言ってましたけど、あるのかな影響が。
小野:別にこの人だけにめちゃくちゃ影響を受けたってのはあんまないですね。
‐何人か名前挙げてくれたことあるよね?
小野:いろんなところから影響受けてきてそれが出てきてますね。ちょっと最近この人が割と自分が求めてるものに近いんじゃないかなと思ってる人がいて。トシコ・タカエズさんって知ってます?
‐トシコ・タカエズさん?
小野:はい、その人はもしかしたら近いかなと。いや、全然もうオブジェなんですけど色合いとか、ちょっと結晶釉とかも使ってるし、ちょっと土っぽいのも使ったりとか。
‐ああ、割と両方あると。
小野:しかも割と民藝感もある。民藝にも影響を受けているみたいな。
‐ああ、なるほど。それも感じるんですね。
小野:別にその人を俺は目指してるわけじゃないけど、最近ちょっと「あれ、もしかしたら似てんのかな」ってふと思ったりするんです。
‐ちょっとシンパシーを感じるぐらいで。
小野:前から好きだったんですけど最近もしかしたらここ近いかなと。
‐やろうとしてるところにちょっと近いと。
小野:近い…うーん…近い…近いのかなあ。ちょっとわかんないです(笑)
(トシコ・タカエズの作品写真を見る)
‐ああ、これ。すごいね、格好いいね。
小野:もう大御所ですよこの人。影響受けてる人も結構多いんじゃないかな。
‐大胆だなあ。(この作品とか)大きいね。
小野:オブジェなんですけど色使いとか結構理想と近くなるじゃないかなと思って。もう結構古い人ですけどね。初めて(壺や花器の)口を閉じた人なんです。(※クローズ・フォルムと呼ばれている)
‐花器とかそういうことじゃなくて。
小野:口閉じちゃったんです。それが当時センセーショナルだったのかな。それ以外にも土臭いのもあるし、白の使い方とかも綺麗だし。いいなと思って。自分突き詰めるとこんなのかなとか。
‐再三言ってますけど壺とか見てると小野くんがオブジェの作品を作るっていうのも多分すごく合ってると思うんですよね。
小野:作りたいですけどね。お父さんのオブジェも好きですけどね。まあ影響受けてる人は結構多いです。
‐その時々にいろんなものを見てるってことじゃない?
小野:なんか憧れますよね、この古陶磁目指してますって作家さん多いじゃないですか。この時代のこの作品にすごい影響を受けて、とか。
‐室町時代の常滑のナントカカントカとか。
小野:そういうのいいなって思うんですよね(笑) なんかそういうの無いなって。いろんなことに影響受けすぎて。無国籍なのかなって。
‐そうそう、無国籍だよね。いろんな国のいろんなものが見えるようになってきたからね、時代的にも。だからそれはそれで自由な感じがあっていいのかなって思うんですけどね。
‐これからの指針としても釉薬にすごい没頭してるから何か掴めるものがあるんじゃないかな。
小野:(テストピースなど)良い習慣ができかけてるからなんかどっか行けるんじゃないかと思ってるんですけど。
‐どっか行ける?
小野:どっかに辿り着かないかなって。
‐いろいろ目指してるものがあって自分が大事にしてるものって意味で展覧会のタイトルをつけました。
小野:ありがとうございます。(DMを見て)素敵な写真ですね。
‐それは北半球の天体図です。
小野:ああ、これ格好いいですね。なんか一瞬「なんだこれ?」って思って。
‐もっと写真たくさん使おうかと色々悩んだんですけど…たまたまです。この写真がイメージに合うかなと思って。よかった。
〇一品ものも作りたいですね。そこは目指したいって思ってます
‐ところで、漠然と良い器を作りたいとかっていうことはみんな考えてると思いますけど、新しい場所に来て何かこういうことはやってみたいなってことはありますか?新しく挑戦してみたいこととか。
小野:ありますけどそんな目新しいことではなく…オブジェとか。
‐猫のごはん皿とか?
小野:猫のごはん皿とか…あ、でも型で立ち物とかもいいかな。まあ平たいものだとオーバルとかですけど。
‐型で立ち物ですか、面白いですね。型じゃなきゃできない立ち物もあるよね。
小野:どうしても生活陶器とは変わっちゃうかもしれないけどオブジェ寄りの感じでやってみたいですね。あとはもうちょっとテストをいろいろしたいなと思いますね。
‐テストをするっていうことは作品作りの基盤になるよね。
小野:好奇心ですよね、これ、こうしたらどうなるのかなみたいな。いろいろテストしたい。あとやっぱもうちょっと単価の高い一品ものも作りたいですね。そこは目指したいって思ってます。オブジェとか壺とか10万くらいで売ってみたいです。いや、10万はわからないですけど(笑) それなりに値段のするものを、それに見合ったものを作りたいですね。
‐まあ時間をかけて作れるよね、ある程度の値段をつけていいっていうんだったら。生活陶器を作ってるとそれにかけられる時間とか手間っていうのは、なんていうんだろう、下敷きになる部分はテストとかをしたりして結局トータルで時間はかかってるけど、轆轤の時間だったりそういうものをどんどんやっていかなきゃいけないし、ちょっと作り方が違ってきますよね。もっと”作品”と呼べるようなものをやりたい感じだよね。
小野:そうですね、そこをそろそろやりたいなと思ってます。なんか引き出しが少ないなっていうか…。
‐ええー!でも引き出しを増やすのにみんなどうしてるんだろうね。
小野:テクスチャーの引き出しとか、だからテストしたいんですよね。なんかガビガビしたやつとか、みんなこれどうやってやってるんだろうっていうのがいっぱいあって(笑) だから知識が意外とないんだなって、意外と知らないことが多いんだなって最近思いましたね。
‐なるほど、手法だっていろいろあるからね。
小野:あと、興味というかまだやるかはわからないですけど最近面白いかなと思ってるのが野焼きしてから本焼きするみたいな。やってる人結構いるんですよ。多分野口悦士さんとか…いや、わかんないんですけどあれどうやってるんだろうって思って。あとオーストラリアの小澤陽子さん、結構俺好きなんですけどあの人のもしかしたら野焼きしてんのかなって思って。最近(野焼きする人)増えてきてるんじゃないかな。うつわノートさんでやってた…誰だっけ、焼き締めやったり鳥の酒器とか作ってる人。山本…山本雅彦さんか。結構好きなんですけどあの人も野焼き焼き締めかもしれない。
‐野焼きしてから本焼きで焼き締めってこと?
小野:(作品の写真を見ながら)んー、これ薪なのかなあ。でもちょっと前の投稿に野焼き焼き締めって書いてあったから。小澤陽子さんも好きなんですけど(写真を見せながら)ちょっとこう薪で焼いたような風合いとかあるんですけどすごい滋味深くていいなと思って。
‐なるほど、面白いねすごく。
小野:面白いですね、けどやるかどうかはわかんないですけど。興味はあります。
‐野焼きかあ、煙がいっぱい出るね。前、高木さん(高木剛さん)の家での野焼きはえらい煙出たわ。その時の野焼きは穴に埋めたとかじゃなくて耐火の四角い入れ物あるじゃないですか。あれなんて言うんだっけ…まあその中に作品を入れて薪とか藁とかを被せて火をつけて一昼夜くらいずっと剛さんが頑張って焼いてて。
小野:一昼夜も焼いてたんですか?
‐いや、違う、ごめん、夕方くらいで消してたわ。何時間焼いてたかな、7,8時間くらいかな。土器みたいなものを作ろうって話だったんで最初。だからその後焼き締めはやってないですけど。
小野:野焼き焼き締めは流行ってはないですけどやり始めてる人は結構いそう。
‐いつかやりたいことのひとつかな。良い環境をつくりながら自分の作りたいものや手法を考えられるって幸せだよね。
小野:やっとなんていうか自分の足で歩き始めた感はありますね。
‐手応えが違いますよね。(親元を離れて)暮らすっていうのは本当にお金が必要だったりして大変ですけど、でも大変なことをうまく片付けてやっていこうって、一個ずつ消化していくごとに自信がつくというか。
小野:そうかもしれないですけどなかなか自信がつかないですね(笑)
‐でも実感は湧いてくるんじゃないですか?生活に実感が湧いてくるとまた作る器も少しずつ何かの影響を受けて変わっていくかもしれないし面白いですよね。楽しみです。
小野:ありがとうございます。
〇これすごい気持ちいいっていうところに行きたいなって感じですよね。変態っす。
‐「心の拠り所」って言葉がありますけど今の作陶の拠り所って何ですか?自分のやる気なのか、この家での生活なのか。
小野:拠り所…考えたことなかったな。
‐そう『今、どこに向かい、目指しているのか。拠り所とする北極星を、心に、空に見る。そしてうつわの中へ映し出す。』恥ずかしい、自分で書いた文章です。
小野:素晴らしい文章ですよ。
‐もっと簡単な言葉で言うなら「支えになっているもの」って何だろうね。
小野:…猫?
‐(笑) まさかの…いや、良いと思う、格好つけてなくて。『猫(家族)』って書いたらいいかな。いよいよ猫のごはん皿作らないといけなくなってきたよ、この展開は。3つくらい作んなきゃ。
小野:いやーダメですダメです(笑)
‐猫ちゃんも大事として。今器を作るうえで支えになってるものとか、欠かしたくないものとか、そういうことかな。
小野:んー、作ってること自体が多分楽しくなってくるだろうっていう期待?最初は楽しいと思ってたんですけど辛いことが多くて、うまくいかないなとか。多分やりたいことができるようになっていくとドーパミンがもっと出ると思うんですよね(笑) もっとドーパミン出したいなっていうのはありますね。
‐自信がついてきてね。成功体験とか?
小野:そうそう。まだ(ドーパミンが)出てないなって感じ。全く出てないわけじゃないですけど。ちょっと小さな喜びとかは少しずつあります。家族は家族ですごい拠り所になってますけどね。それとは別にもっとドーパミンを出したいっていうのが求めてることなのかなあ。なんか言い方がちょっとあれですけど。
‐安定した生活も心の安定の源にはなってるけど、器を作ることに関していうと…ドーパミン?(笑)
小野:うわあ、そのまま書かれたらどうしよう。
‐そう言われたらそのまま書くしかないからね。
小野:やっぱ冗談、冗談です。ドーパミンは書かないでください(笑)
‐わかりました。
小野:すごいノッてる作家さんとかいっぱいいるじゃないですか。
‐いらっしゃいますね、飛ぶ鳥を落とす勢いの方が。
小野:多分すごいやりたいことをやってんだろうなって思うこともあって。なんとなくわかる人もいるじゃないですか。そういうのがうらやましいなって思いましたね。
‐そうだね、作品の載せ方というか投稿の仕方とかでもね。
小野:ああ、すげえ楽しいんだろうな、ノッてるんだろうなって感じが…ドーパミンめっちゃ出てんだろうなって…いや、冗談です冗談です(笑)
‐ドーパミンがすごい出てくるなあ(笑) とにかく楽しみたいんだよね。思いっきり楽しみたいってことなんだね。
小野:やりたい表現ができるようになったらもっとめっちゃ楽しいんだろうなって思いましたね。ただ、そこに行けてないっていう苦しみみたいなものもあります。どうなんだろう、ずっとこんな感じなのかもしれない。
‐いろんな人がいるからね。
小野:なんかすいません、北極星どこに行った(笑) いやあ、変な汗出てきちゃった。でもみんなそうじゃないですかね、クリエイターって。そんな人が多いんじゃないですかね。
‐多いと思うよ。やっぱり自分を喜ばせたいがためにやってると思う。みんなキャッホー!って思いたいんだと思いますね。
小野:そうですよね。これすごい気持ちいいっていうところに行きたいなって感じですよね。変態っす。
‐頭気持ちよくなるってやつね。
小野:そうっす。それで生きれたら最高だなっていう、なんか身も蓋もない告白。
‐自分を楽しませるように努力するって一番健康的だと思いますね。
小野:本当に羨ましいなって思いました。
‐でもそのために小野くんもちゃんと頑張ってるって思いますよ。まず自分を楽しませることで器を見てくれる人も楽しませることができる。自分が楽しめてるとその人らしさが多分器にもすごい出ると思いますし、その人だけにしか作れないものが生まれると思います。そういう作品じゃないとやっぱりお客さんには届かないと思うんですよね。ほかでも見れるようなものにわざわざお金を出すかっていうと。ああ、すごい厳しい言い方しちゃった。でもね、ここ(石岡)に来て小野さんが作ったやつでしか出せない味があるからそれが欲しいっていう。代わりのきかないものが作れたら多分自分の脳的にはすごい楽しいことになってると思うよ。
小野:結局自分が楽しみたいからだなって思う。
‐もうそれは恥ずかしげもなく言っていいと思います。
小野:でも今の時代では昔と比べて世の中に合わせなくてもすごいニッチな層にも見つかりやすいというか。発見されやすいっていう状態だからある意味やりたいことやったほうがいいのかなって。やりたい表現とかやったほうがいいのかもしれないですよね。
‐そうだと思います。なんか最後いい感じにまとまったのでこれで終わりにします。(了)
小野 陽介(おの ようすけ)略歴
1987 栃木県益子町生まれ 作陶業を営む実父の側で幼い頃より陶芸に親しむ
2014 愛知県立瀬戸窯業高等学校専攻科卒業
2015 益子にもどり作陶に励む
2021 茨城県に移転、築窯
小野陽介 Polaris ④
2022年最後の展覧会がやってきました。
今思い出しましたが、2019年に百職でさせて頂いた小野陽介さんの個展は、ご自身にとって初個展だったそうです。
そして今回百職ではようやく、小野さんの個展の第二回目を迎えることができそうです。
陶芸家のお父様がいるご実家から昨年冬に独立。ご結婚もされ、茨城県石岡市に新しい工房を移した小野さんのもとによく晴れた秋の終わりの日にお訪ねしました。
筑波山が眺められる、少し小高い場所にある工房とお宅。古い建物を、今もまだ少しずつリノベーションをしながら暮らしているということ。
古い倉庫のようなガレージのような場所が小野さんの現在の仕事場。味わいがあり、以前よりも広くて開放感がありました。
そこで窯出しした作品を見せて頂き、お昼ごはんのあと、すぐそばのこちらも味わいのある古民家のご自宅に場所を移してお話を聞かせて頂きました。
前篇、後篇のインタビューです。
小野作品の一端を感じるよすがになれば嬉しいです。
〇諦めて空っぽになって「あれ?何したらいいんだろう?」って思って1ヶ月ぐらい悩んだんですけど「そうだ、俺陶芸好きだっけ」って
-百職では3年ぶりの展示で…多分3年ぶりですよね、2019年以来。
小野:そうです。
-小野くんのことをまだ知らない人も多いかなと思うので。知ってる人は知ってると思うんですけど、小野くんが陶芸の道に進もうと思ったきっかけから聞こうかな。
小野:きっかけ…なんか自然とやりたくなったんですよ、最初。
‐大学卒業してからすぐじゃなくて。
小野:そう。でも、大学にいる時ぐらいからもう結構器っていいなって思ったんです。ちょこちょこ色々見に行くようになって。
‐展覧会とか?
小野:展覧会は行かなかったかな。(器を)売ってるお店に行ったりとかして「ああ、面白いな」とは思ってて。でも、その時まだ漫画家目指してたから。
‐そうだよね、漫画家目指してたんだよね。
小野:漫画も1年間東京行ってから戻ってきたけどなんか合わないなと思って、漫画を諦めたんですよね。で、諦めたらなんか結構空っぽになったんです、その時。
‐好きだった漫画がダメだったみたいな、そういうショックで?
小野:そう。諦めて空っぽになって「あれ?何したらいいんだろう?」って思って1ヶ月ぐらい悩んだんですけど「そうだ、俺陶芸好きだっけ」って。でもなんかいつか多分陶芸やるだろうなと思ってたところもあって。
‐それはやっぱり身近(父親は益子の陶芸家 小野正穂氏)に陶芸があったからっていうこと?
小野:そうそうそう。なんとなく僕だったらこういう風に作るなとか、こういう表現したら面白いんじゃないかって自然と考えてたりする。妄想とかしてたんです。
‐作者を自分に置き換えて、陶芸を見たり考えていたりしたんだね。
小野:まだやるとは思ってなかったんだけど、いつかじゃなくてもう今やれないかって思って。で、焼き物やろうって実家帰って。でもなんだろう、具体的にこういう理由があってやりたいとかはなくて普通に自然にやりたいって。自然に面白いなって思ったのは多分身近にあったのが一番良かったですよね。それでもう魅力は知ってたから気がついたら引き込まれてた。
‐なるほど。これをやりたいんだ!みたいな激しい劇的なものではなくて。
小野:でもまあ「やったるで!」みたいなのはあったんですけど(笑)
‐あったんだ(笑)
小野:でも最初はなかったか。最初は本当に自然ですね。
‐そうかあ。家に戻れば陶芸をできる環境はあるっていうことがあったからよね?
小野:そうですね、それは大きかったですよね。
‐学校に入ってましたよね、瀬戸の(愛知県立瀬戸窯業高等学校専攻科)。
小野:ああ、それの前に一回実家戻ったんですよ、1年間。震災で親の窯が壊れたからそれを直すの手伝おうっていうのもあったし、それで1年間実家でちょっと親に教えてもらいながら過ごして。でもやっぱ学校行ったほうがいいんじゃねって親と話して、そうだなって。それで瀬戸に行きました。
‐ああ、そうか。ご両親の勧めもあったっていうことなのね。お父さんとお母さんもそこ出身校だよね。
小野:そうですね。まあ地元が益子だから益子以外ならなんでもいいんじゃないみたいなのもあって。まあでも親が陶芸やってるから。
‐それが一番大きかったかもしれないね。何をするのかっていうのをわかってるし。瀬戸の学校は1年間?2年?
小野:2年です。
‐2年間かあ。学校は楽しかったですか?一人暮らしでしたっけ?
小野:楽しかったですよ。一人暮らしですけどバイトしながらですよね。学費とかも自分で稼がなきゃいけなかったし。
‐うんうん、バイトもしつつ学校に行って学ぶっていう2年間ですよね。学校では基本的に陶もやるし磁もやる?
小野:そうです。でも瀬戸は半磁器をよく扱ってましたね、基本的には。
‐あ、そうなんですね。
小野:半磁器で、貫入土っていう土があるんですけど…。
‐「カンニュウ」ってあの「貫入」?
小野:そうですね、漢字はそうです。貫入土っていう、まあ半磁土ですね。
‐それは練習用の土っていうこと?
小野:練習用です。
‐ああー、瀬戸では半磁土が入手しやすかったのかな。
小野:そうですね。
‐なるほど。半磁の土と陶土は結構手触りとか違うし、挽きやすいとか挽きにくいとかなかったですか?(益子に)戻って、焼き物やるとかってなった時に。
‐磁土(磁土はかなり柔らかいので扱いは難しい)よりかはまだましだったかもしれないね。
小野:うん、半磁土は挽きやすいっちゃ挽きやすいけどめちゃくちゃ腰があって、伸びやすいとかではなかったですね。
〇突き詰めるみたいなのが好きなのかもしれない
‐(学校では)苦手だなって思ったり苦労したなっていうことはなかったですか?全教科優秀だった?
小野:いや、別に優秀では(笑) でも苦手とかは無かったかな。思ったより型物とかが好きだったかなあ。今の作品にはそんなに反映されてないですけど。
‐あ、最初の頃、確かに型物も好きだって言ってたね。
小野:なんか先生からもこっち(型物)の方が向いてんじゃねって言われてたんですけど結局やってないですけどね。
‐そうだったんですね。でも今は型物よりかは轆轤での仕事のほうが楽しいなというか、合ってるのかな。
小野:いや…轆轤も好きだから…。(しばらく考えて)んー、轆轤のほうがなんだかんだいって好きだったのかな。でも型物も多分好きですよ、ただやってないってだけで。出し惜しみしてるってわけじゃないですけど(笑)
‐やってみようかなっていうのは今回の展示のことをちょっとお話した電話の時にも、そう話してたね。
小野:そうです。だから型物はもしかしたら増えるかも。型がなんで好きかっていうと多分ひとつの形を時間をかけて突き詰められるからっていうのもあるんだと思います。
‐ああ、型物はまずはベースの原型をしっかり考えて作り始めますしね。
小野:そうです、それが多分楽しいんだと思います。そういう意味では多分手びねりとかも好きだと思います。こう何か考えながら作れるから。
‐轆轤とは全然時間の使い方が違いますよね。
小野:だからそういう意味ではもしかしたら轆轤は苦手なのかも。でも轆轤でも例えば花瓶とかはちょっと時間かけるんですよ。そういう時は楽しいっちゃ楽しいですね。焦っちゃう時もあるけど(笑)
‐さっきも言ってたよね、朝イチの時間にやるって。
小野:そう、結構集中力を要するから。多分1個に時間をかけるのが…ひとつのものを作るのに時間かけて考えるのが結構好きなのかもしれない。とは言っときながらそういう作品ないっすけど(笑) そういうのに全振りした作品はないですけどね。
‐まあ確かにね。そっち(時間をかけて作る方向性)寄りに寄ってる作品として花器だったり壺だったりがあるってことなのでは?
小野:多分(ひとつの作品を)突き詰めるみたいなのが好きなのかもしれないですね。でもお父さんから教わってる轆轤って一発で挽くとかあんま触らないとかっていうのを俺は教えられたから素直に(教えられたように)やってました。
‐そういう話(一発で挽く、あまり触らない)は聞きますよね。特に現代の若手の作家さんが言ってるというよりかは、若手の作家さんのお師匠さんぐらいの方。唐津の中里さんとかそう言ってらっしゃるそうですよ。
小野:でも若手でもそういう考えを持ってる人、土物の作家さんなんかはいますけどね。
‐あまり土をいじくりすぎるといけないという若手の人も。
小野:うん。一発で挽くだとか。なんだかんだ言ってそういうのも取り入れようとはしてます。
‐轆轤ならではの作り方を大事にするってなってくるとやっぱりその時のフィーリングだったりとか考えている体を動かすことで形に現れるというか、そういうアドリブ的なものも轆轤の魅力でもあるのかなって思います。
小野:そうですね。未だにこう…若干形が揃っていなかったりっていうことはよくあるんですけど、そういうのはあんま気にしないです。
‐まあ職人さんとして求められたりすると揃えるっていうことに徹さないといけない場合もありますけどね。今まで型物の作品っていうのはあまり見たことがないけど、オーバルのやつとかが新しかったりするのかな。
小野:オーバルは一年くらい前に型作ってやってます。もうちょっといい形にできそうだとかもうちょっとこうすればよかったとかありますね。
‐そうだよね。型物でもどうしても実際に焼いてみたりとかすることで歪んだりとか反ったりとかして、もうちょっと型を改善しないといけないなっていうのはありますよね。
(何をしているのか気になったのかお母さん猫のちろぴがやってくる。小野家ではちろぴとちろぴが生んだ4匹の子供たち、合計5匹もの猫たちが暮らしている。)
小野:ほんとちろぴが可愛くて。
‐今敵意がないってことをちろぴに示すために私、一生懸命瞬きをしています…。
(しばしインタビューを中断し猫たちと戯れる)
〇料理にどう使うかみたいなことが、可視化されたというか
‐家族ができたことで仕事のやり方とかに何か変化はありましたか?たとえば猫を飼っていたら猫のごはん皿作ってあげようとか。
小野:一回作りましたよ。
‐本当!?どんなの?
小野:マコ(奥様)が実家で飼ってた猫がいてそれ用に。
(奥様もやってくる)
奥様:めちゃくちゃ可愛いんですよ、見てください。(スマホの写真を探しながら)何かしてほしいとか作ってほしいとか、そういう発言はほぼしないようにしてるんですけど、ただこれはすごい素敵だなと思って。あ、これです。
‐あ、良いよ!これ良いよ、絶対良い!
小野:作ったほうがいいすかね?(笑)
‐猫のごはん皿はねえ、欲しい人いっぱいいるから。売れるはず。
小野:売れるんすねえ、へえ。
‐需要はあるよ、本当に。オーダーできないかとか、お問い合わせきますよ。うん、猫のごはん皿はいいね。
小野:じゃあ作ろうかなあ、サイズ感もこのくらいがいいかな…いや、でもまだ作るかどうかはわかんないっす(笑)
‐猫ちゃんはやっぱりこうやって(地面に皿を置いて)食べるより高さがあったほうが食べやすいからあの形がベストだと思います。
小野:そうですよね。みんな(小野家の猫たち)にも作ってあげるか…。
‐5匹いるから5つか、良いね。もし作ったらそれを彼や彼女らが使って食べてるのを写真に撮って送ってください。それで紹介するので。
小野:それで紹介するんですか(笑)
‐けっして私が見たいからとかじゃないですよ?(笑) お皿だけ出してもダメなんです。猫が食べてお使いになられている写真を載せることで皆さんの”ほしい気持ち、やる気”が増すんです。
小野:お使いになられる…。
‐猫様が実際にお使いになっているのを見て、皆ときめくんです。嗚呼、うちのにゃん達にも使わせたいって。でも猫も家族だから家族に器を作るって意味ではなんか良いですよね。
小野:そうですね。いやあ、作ろうかなあ…どうしよう。
‐でも作らなきゃいけないものがたくさんありすぎて間に合わないか。
小野:うーん、無理かもしれない。あと一窯しかないから。
‐そうだよね、もうちょっと大きい窯だったらいいんだけどね。益子(実家)に行って焼かせてもらわなきゃいけなくなっちゃう。さっきの猫のごはん皿もそうだけど、家で使う器をというか奥さんがこういうのあったらいいんじゃないとかそういう話が出たりはしますか?
小野:ああ、ありますあります。これくらい(のサイズ)のカップが実は結構使いやすいとか色々「ああ、なるほど」っていうのはありますね。
(小野さんの友人、鳥取の陶芸家 廣瀬泰樹さんのカップを手に取りながら)
‐うんうん、このカップは安定感がありますね。土の雰囲気もこなれている。
小野:でもこれ、クラフトフェアまつもとで売ってた時すごいガサガサだったんですよ。だから自分でヤスリかけてつるつるにして。
‐そうだったんだね。そうだね、ガサガサすぎると洗い物して布巾で拭くと引っかかっちゃったりするね。
小野:そうですね。まあ俺はわかってるからいいけど普通の人はそうはいかない。
‐普通の人は「ガサガサするじゃん!」「どうしよう」ってなるね。そうやって他の作家さんの作品を見て自分の作品について考えるっていうのも大事な時間ですよね。ちょっと話脱線したけど、これれ奥さんに好評なんだ。
小野:これは廣瀬くん(廣瀬泰樹さん)の。
‐これ、良いよね。
小野:なんかいいっすよね。なんだろう、手(に持った時)の重量感みたいな。
(今度は猫のむぎちゃんがやってくる。廣瀬さんの器に興味津々の様子)
小野:そういえば廣瀬くんの家も猫飼ってますよ、二匹くらい。
‐じゃあこれ廣瀬くんちの猫の匂いするのかな。
小野:するかもしれないですね(笑) 最近は猫飼ってる作家さん多いですよね。
‐多いですね、最近は結構お家で動物と一緒に暮らしたりとかしてる方たくさんいる…あ、撫でさせてくれた。
小野:いつもは(ぶち猫の)ぶちと(ハチワレの)ハチがいつもわちゃわちゃーってして、いつも真っ先に来て甘えてくるから一番人懐っこいかと思ったら…全然来ないね(笑)
‐全然来ないね、もう梨の礫だよ。
小野:むぎが一番大人しいんですけどね。
‐大人しいけど来てくれたんだね、よかった。なんだろう、実は好奇心旺盛なのかな、静かでも。
小野:どうなんだろう、そうかもしれないですね。
‐もしかしたらね。家族の一員としてペットの器を作ろうっていう陶芸家さんも本当に多いね。
小野:多いんですね。まあ猫のえさ入れは作ってる人いますよね。
‐いますね、皆さん工夫を凝らしてやってますよね。なんだろう、色々あったほうがお客様も人間の器と一緒で選べるからいいんじゃないかなってやっぱり思いますし、いろんな選択肢があったほうがね。猫のごはん皿を作ったときは奥さんの意見があったんですか?こういう形とかも。
小野:そうですそうです…あれ、そうだっけ。そうだよね?(笑) 高さがあったほうが食べやすいよって教えてもらってって感じで。でもちょっと大きかったかな、6寸くらいあったから。
‐あー、6寸か。ちょっと大きいかな。
奥様:なんかすごいお洒落に見えちゃう。なんというか(盛り付けのバランスが)フレンチを食べに行ったときみたい(笑) ちょっと高級感が出ちゃう感じ。
‐フレンチ、たしかに(笑) 盛り付けは余白生かしてますよね、6寸の猫のごはん皿も大きいところにちょんっていう感じになりそう。ちょっと高級志向の猫ごはん。
小野:最近は斜めになってるプロダクトのエサ皿見ました。高さがあって斜めで。
‐あー、なんか台があって斜めに据え付けられるような形のごはん皿もありますよね。そうだね、色々考えるとこれも道具のひとつだから使いやすさを考えるっていうのでは同じですよね。
小野:でも猫はわかるのかなあ。「これすっげえ食べやすい!」みたいに(笑) 感動とかしてくれるんかな。
‐(笑) あるんじゃないかな。彼ら(小野家の猫たち)みたいにスリムな子たちは多分問題ないんだけど、ちょっとお太りになられている猫さんたちとかはしゃがむのがしんどいっぽいよ。飼ってる人に聞くとちょっとかがんで食べるのが苦しそうだとか。高さがあるほうがご飯食べて飲み込んで胃にも負担が少ないというよ。まあ何選ぶかは飼い主さんの主観になるんですけどね。次は、このお家で使っている小野くんの器で一番奥さんに評判がいい器はなんですか?
小野:えー、どれだろう(笑)
奥様:お皿じゃないけど結構マグが好きで。白っぽいやつ。ミルクたっぷりのカフェオレを飲むんですけどこれが一番しっくりくるんです。
小野:ああ、そう…なんだ。
奥様:そうなんです(笑)
‐なんですか小野くん、ちょっとがっかりですか?(笑) 器じゃないんだ、みたいな顔してる。カップなんだ、みたいな。
奥様:器は瑠璃釉の…8寸かな?あれにサラダを盛り付けるのが好きかも。
小野:ああ、うんうん。なるほどなるほど。
‐8寸はリム皿?
小野:いや、リムじゃない。えっと…これだ、これと同じ形の。
‐ああ。(出していただいた器を受け取り)ありがとう。これかあ…へえ、これだけ大きいやつもあるんだね。
小野:ああ、はい。これはでも(益子の)薪窯時代のやつで。
‐薪窯時代の。だからかな、結構重さがあるね。
小野:そうなんです、重いんすよ。それで、もうちょっと軽いの作ってくれってよく言われます
‐同じ大きさでももうちょっと軽いといいね。
奥様:(別の器を持ってきて) 忘れてました、これも好きです。
‐ああ、綺麗。これは麺鉢にするってこと?
小野:麺鉢ですけど別に麺に限定しないです。
‐何に使うことが多いですか?
小野:サラダとかもいいですね。何か和えたりとか。
奥様:あと、今はそんなにないけども一人で今日は手抜き料理って時にラーメンに野菜たっぷり入れてそれを食べるのが好きだった。お洒落な食べ方じゃないですが…。
‐いや、お洒落になりますよ。お洒落に早変わり。なるほど。店でも麺鉢は人気でしたね。ざっくりしてると伝わりにくいかなと思って一応麺を盛って写真を撮って出してたんですけど。そのほうが最初はとっかかりやすいかなと思ってそうしたんですけど、そうやってそれ以外でも使えるから結構応用範囲が広いですよね。別の作家さんとかだとサイズが大きいとそれだけ値段が張っちゃったりするからお求めやすい感じでもあると思う。
小野:これは4000円ちょっとくらいだったかな。
‐だったよね。4000円プラス税だから4400円か、なるほど。
小野:これは値段って安いほうですか?
小野:そうかあ。なんか2,3年前より全体的にみんな上がってますよね。
‐上がってると思う。特に今年に入って色々燃料費が上がるとか政府がいろんなものの値上げを順次やっていくっていう発表が今年の春ぐらいにもあったでしょう?その頃から作家さんも今年は値段を上げますっていう連絡が3件くらいは来ましたね。
小野:僕もさりげなく上げようかな(笑)。
‐ああ、それ何年か前から上がってきてるでしょう?
小野:はい。でも今年になって急にがーんと上がりました。でも俺薪窯からガスになったからそれがある意味値上げというか。値段は変えてないっすけど。
-うーん。それでやれそうならいいんだけど。
小野:なんとかやっていけてます。今は、ですけど。でもギリギリですね、いつかは上げるかも。いつかというか割と(近いうちに)上げるかも。ちょっと皿とかは安すぎるかもしれないですね。
‐実際にいままでもご実家でご自身の器を使ってはいたと思うけど…あ、でも実家ではお父様の器が多かったっけ?
小野:多かったですけどお母さんが割と僕のを使ってくれてましたね。
‐その時よりやっぱり結婚した今のほうが料理に使ってもらうことに対して身近になったんじゃない?
小野:ああ、そうかもしれない。使うことが身近になりましたね。料理にどう使うかみたいなことが、可視化されたというか、割とそうですね。自分でも洗い物とかはするんですけど「(この部分は)欠けやすいんだろうな」とか思ったり。
‐そうなんですね。今までもある程度わかってはいたけどそこまで実感して考えたことはなかった?
小野:そうですね。でも別にわかったからといってめちゃくちゃ改善するとかはないですけど。
‐でもそれをわかっているかどうか。見ようとするか見ようとしないかでは全然違いますよね。
小野:そうですね。
(猫たちと戯れ再びしばしの中断)
〇テストピースをちょっとぼけっとしながら眺めてて「あ、これこういうふうに発展させてほうがいいな」とか思考の遊びが増えた
‐だいぶ住環境変わったね。
小野:かなり変わりましたね。
‐奥さんもいて、猫も現れ。
小野:癒されてます。なんか緊張感が無くなっちゃった(笑)
‐やっぱりいろんな影響がきっとあるんだろうなって思うんですけど、自分にとってプラスになったないうこととかありますか?
小野:ありますあります。プラスは多いと思いますよ、やっぱ。ストレスが無いし。でも自分でコントロールしなきゃいけないっていう、全部やんなきゃいけないから、それが(自分には)いいと思いますよね。
‐そのほうがかえって楽なのかな。
小野:最初は多分薪窯から離れたことによって、お客さんも離れる人は離れるっていう覚悟はしてて。
‐それは最初すごい気にしてたよね。
小野:すごい気にしてた。実際やっぱり薪窯もよかったなっていうのはちょっとあるんですけど、でも絶対(親から)離れてやったほうが長期的に考えたら絶対合ってるなって。考えたことをすぐ行動に起こしやすいし。実家にいると親がいるからちょっと気を使っちゃうんすよ。顔色伺っちゃいますし。
‐そうかもね。何か手伝ってほしいことあるかなってご両親のこと思っちゃったりもするよね。でも自分の仕事もしたいわけだし。
小野:あとなんか無意識で親が気に入るもの作らなきゃみたいな…いや、それはないか。
‐それはどの作品ですかって聞きたくなっちゃうけど(笑)
小野:んー、そういうのもあったかもしれないなあ。
‐実際作ったかどうかはわかんないけど何かありましたか?”陶芸家”っぽい作品を作らないとねみたいな。
小野:ありましたね、なんか。もうとにかくすごいもの作んなきゃみたいな。そういうのはあったかもしれないけど。すごいもの作りたいですけどね(笑)
‐それは自分のためにね。自分が満足できるすごいものってことですよね。
小野:あとは考える時間が増えたと思います。
‐新しい作品を作るときにいろんなタイプの人がいると思うんだけど、例えば轆轤に向かって土触りながらじゃないと考えられないみたいなこという人もいるようですよ。
小野:僕はそうじゃないですね。ふとした時にこう思いつくんですよ。寝てる時に「あ、ここはこうしよう」とか。前日にうーんって作りながらめっちゃ悩んだりしたのに、次の日の朝にぱっと思いつく感じですよね。あとは今テストピースを無造作に置いてたりするんですけどふとした時に思いついて確認したりとか、ちょっとぼけっとしながら眺めてて「あ、これこういうふうに発展させてほうがいいな」とか思考の遊びが増えたのはあるかもしれないな。多分(親元から離れたことで環境が)自分の空間になったからかも。自分がいいなと思える空間をつくろうとするとちょっと親父に似てくるんです。だから同じタイプの人が同じ空間にいたら潰しあっちゃうのかなって(笑) 多分お父さんも(身の回りを)ごちゃごちゃっとさせて、そういうのを眺めてる時にふとひらめくのかなって。いろいろと思考を分散させておいて。
‐思考の分散化。
小野:ごちゃごちゃってしてたのは親父の中で多分”遊び”なんですよね。で、多分僕もそうなんですよ。だから俺もやりたいことをやったらああいう家(実家)みたいになるんだろうなっていうか、ああいうごちゃごちゃした家になると思う。
‐じゃあモダンにはなれないね。
小野:カフェみたいな工房にはできないかもしれない。
‐残念だなあ。
小野:カフェみたいな工房でごちゃごちゃにするか。
‐カフェみたいな工房だったらもういっそカフェ行くのがいいんじゃないかな(笑)
小野:たしかに(笑)
‐まあでも居心地がいいっていうのもあるのかな、そのカフェみたいな工房にしたいなっていう考えは。
小野:居心地がいい空間にしたほうがリラックスできるしテンションも上がると思うし。思考の遊びが増えたとはいってもまだそれほど変わってないかもしれないですけどね。でもふとした時にひらめく回数がうんと増えた気がします。まだ「気がしてる」ってだけですけど。
‐余白があったほうが自分には向いてるなってことですかね。詰め込んだほうがいいっていう人もいたりするけど。
小野:そういうことは多分ありますね。でもある意味詰め込みっていうのもあるのかな。いろいろがーっと考えて、休んだ時に思いつくみたいな。ちょっとリラックスしてる時とか何気ないときとかにひらめくことが多い気がしてますけど、まだかたちになってないですね。
‐まだここに移ってきて年数経ってないですからね。でも興味深い話です。仕事に追われないとアイデアが浮かばない人もいるからね。
小野:でも適度にストレスがあったほうがいいっていう話も聞きますけどね。僕は仕事に追われると本当に落ちるから…。(奥様と)二人して結構落ちやすいから。
‐新しいリムのお皿とかもお願いしたら作ってくださってて釉薬にも力を入れてるけど、形をつくるのが本当に上手ですよね。
小野:本当ですか?いやいや、まだまだです。なんかやっと思考の遊びが増えたので、よくよく考えたら普通そうだよなって。
‐どうなんだろうね(笑) いろんな人がいると思うよ。まあ形もそうだけど釉薬の調合とかに関しても同じで、自分の頭の中に余裕をつくって考えたほうがうまくアイデアも浮かぶんじゃないですか。
小野:そうですね。テストピースとか見てると「あれ、これ使えるんじゃね?」とか思ったり、環境プラス気持ちの余裕みたいなものは大事かなと。でも切羽詰まってる時は切羽詰まってる時の…あれ、どういえばいいんだろう。
‐大丈夫ですよ。切羽詰まってる時はそれはそれで思い浮かんだりするのかな?
小野:いや、思い浮かばないです。でも色々発想が浮かぶことは増えました。いろいろこうしたらいいかなとか、こうしたら面白いかなとか。テストは増えましたけど…でもまだまだ失敗ばっかりです。
‐まあなかなか納得できるものを狙ってつくるのは難しいですよね。
小野:(器のひとつを手に取って)これもちょっと固いし…。
‐色味が?
小野:いや、釉調がもっと動きがほしいなと。こっち(新しい器)の色味のほうが好きかもしれない。ただ、動きがないなとも思う。そういうことを模索したりだとか。あとはいろいろ狙おうとするのもあるし、思考を分散して偶然にまかせてみたり、好奇心から発見するものがあったり。青伊羅保なんかはそうですね。どうなるのかなってやってみたら面白かったみたいな。
‐計算とかじゃなくてね。
小野:好奇心で見つかるものもあるし、こっちは計算で狙ってるんですけどうまくいかないっていうね。あとは両方組み合わせてみたりとか。偶然なんか面白いもの見つかったけどもうちょっとこっち寄りにしたらいいかなとか。
‐なるほどね、仮説を立ててコントロールしてみようっていう。
小野:そうですね。で、失敗してるっていう(笑)
‐でも成功するときもある。
小野:そうですね。
後編に続く→→→Polaris⑤