読み物
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ④
今回初めて、
きっかけはcol tempo土居さん。
「制作の時には、必ずと言っていいほど三温窯 佐藤幸穂さんのマグカップと八角皿をおともにしています」
ということからでした。
三温窯さんは父子二代で作陶をされている窯。
お父様である佐藤秀樹さんが1983年開窯。
息子である幸穂さんが2010年から加わり、協業されています。
「大らかであたたかな安心感を覚えて、
という土居さんの言葉が表すように、
訪れた秋田県五城目町の工房。
2代目である幸穂さんと連絡を取らせて頂き、
豊かな木々に囲まれた広い敷地に工房はあり、移築してきたという古い木造建築の作業場、奥に進むとガス窯と登り窯の窯場が築かれていました。
そして住居(内装は少しずつ父・秀樹さんが自作し、増築部分は幸穂さんが基礎から作ったという見事なもの)も併設されていました。
幸穂さんに工房内を丁寧に案内して頂き、多岐に渡ってお話を聞かせてくださいました。
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佐藤:父は会津若松の宗像窯というところで七代目の方に師事して修業し、その後修行の年季が明けて秋田に来て、ここ五城目町で仕事を始めて40数年になります。器の形はその宗像窯の形が結構入っています。そこは民藝運動に関わっていた窯元だったので柳とか濱田庄司が窯を訪ねてきていたという話は聞いています。
私は、秋田公立美術工芸短期大学では漆コースで、短大の付属高校では金属コースでした。陶芸は避けていた気がします。ふにゃふにゃと柔らかいものより、金属や木材など手や道具でカキっとした形を立体物を作ることが好きでしたので立体であれば何でも興味がありました。その結果、いろいろな素材に触れる機会が多かったです。
研修所で漆芸を学んでいた時、先生から『塗よりも形を作るほうが向いている』との言葉をもらった時があり、はっとしました。塗のもので身近なうつわを作ることを考えた時に、塗椀は別ですけど、マグカップや皿なんかはやっぱり素材として陶器のほうに広い可能性を感じたんです。今となってみれば子供の頃からのの仕事をそばで見てきたことが自分の中では強かったんだろうと。
家業に入った頃、漆の影響があるのか、(自分の作る)形が硬くて。父は最初から土をいじっているので土の柔らかさなどが風合いに出ていますけど、私は木工とか、平面出すことを一生懸命やっていたので。乾漆も好きだったんです。石膏取りをして形を作るのが好きで。その乾漆の型の作り方を生かして始めたのが梅型の小皿だとか八角皿です。ただそれがやきものに適したやり方なのか悩むこともあります。父は型ものはほぼやっていなかったですし、私はほかの窯に修行へ行ったりはしていないので。よそでいろいろ経験を積んでおけばよかったかもしれないと思うことがあります。父のやり方しか知らないので。
良かったと思うのは、形などはよそでの影響は受けずに、自分がいいなと感じたものをやってこられた点でしょうか。
作りたい形が思い浮かぶと、形や用途によっては他の素材の方が良かったりするともったいないので土で作る良さを優先的に考えます。
→→→続きは⑥にて
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ③
土居さんはフィレンツェにある皮革職人の養成学校「scuola del cuoio」に短期留学し、鞄作りの基礎を学びました。
厚紙みたいなのに革のシートみたいなのを貼って、
面白いんだけど、なんか…
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ②
今回の展覧会がいつもとはちょっと違う形になったきっかけは、土居さんと三温窯の佐藤幸穂さんとのつながりから。
秋田県五城目町の三温窯さんのもとを取材で訪れた際、まずはという口ぶりで、佐藤さんが土居さんとの出会いを訥々と話してくださったのが印象的でした。
標準語とほぼ近い口調に、時折ほんの少しだけ混じる秋田弁と思われるイントネーションもまた優しくて。
出会いとご縁に感謝し心から向き合ってくださっている姿勢に、誠実であたたかな佐藤さんの人柄を感じました。
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佐藤:実は土居さんを知ったのは、2019年の「工房からの風」
その翌年。応募した2019年度の「工房からの風」
何回かあったミーティングのタイミングもそのまま過ぎていってし
コロナ禍に入りしばらくは野外イベントの機会もなくなりましたが
そこでずっとほしかったコインケースも買えました。色、
それがこれです。毎日身につけてます。ちょっと雑に扱っているかもしれないですね。もっと丁寧に扱ってあげたほうがいい感じに育つのかな。
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話しながら、5年越しに手にしたコインケースを大事そうに撫でて手の中に収めていたのがまたいいなあと思ったのでした。
これからますます佐藤さんの手もとや日々に溶け込んでいって、ふさわしい姿へと育っていくのでしょう。
col tempo土居祥子さんと三温窯さん ①
土居さんの工房兼お住まいをお訪ねした日。
当初は販売員としての商品知識を充実させるべく商品展示会やタンナー(〈tanner〉とは、採取された皮をなめし加工しなめし革にする人やメーカーのこと)さんのもとに運んでいたのが、次第に革そのものの魅力、革を素材にものづくりする人々の思いに触れ、強く心を惹きつけられるように。
工房を兼ねたお店では、店頭で実際に革小物をつくる職人技を目にすることができたそうです。
物が生まれていく光景と、その魔法のような時間に魅せられた土居さん。
自分の好みの革を選んではバッグなどレザークラフトを趣味で行うように。
革のものづくりの工程や技術を学びたいという思い。
それとともに胸に浮かんでくるフィレンツェでの出会い、「Il Bussetto」のこと。
旦那さまのあたたかい応援と後押しもあり、土居さんはフィレンツェにある皮革職人の養成学校「scuola del cuoio」に留学し、鞄作りの基礎を学ぶことに決めます。
「師匠の制作作業が見られるのは、学校が終わってからの放課後、毎日1時間とかほんのちょっとでした。限られた時間の中だから、その日見せてもらえる工程にも限りがあるんですよね。終わったら当然、制作物は次の工程に進むわけですけど、師匠はひとつだけそのままの状態のものを残しておいてくれて。で、私が次に行ってから、前の続きからを見せてくれたりだとか。すごい優しくて。留学期間は3か月だけだったので、完成までの工程をひと通り見せてもらうまでで終わってしまいました。留学中にすべてを作れるようになったわけではないんです。だからこそ師匠が少しずつ教えてくれたものを思い出しながら自分で必ず形に出来るようにしたいって」
帰国して数年後の2018年、土居さんは「col tempo」を立ち上げました。
森谷和輝 resonance ④
森谷和輝さんの個展は今回で9回目。
百職を2009年にオープンさせた際、お取扱いをお願いした第二号の作り手が森谷和輝さん(第一号は先月展覧会をしてくださった陶芸の高木剛さん)。
2010年にはじめて個展開催して頂いて以降、毎年展覧会をお願いし、今年も無事迎えることができました。
グループ展も含めるとこれまで15もの展覧会に出展してくださっています。
そんなに続けていたらやることがなくなってしまいそうにも思えますが、一つの展覧会が終わると森谷さんとともにやってみたい次の目標が自然と浮かんできます。
森谷さんがいつまでも尽きないガラスの面白さを見つめ続けるように、私もまた森谷さんの作るガラスの中に美しさと他の誰とも違う個性を多分見ているのだと感じます。
まだ模索している構想中の作品に触れるところから始まり、昨年にも少し披露してくださった新たな素材「透きガラス」についてなど、森谷さんは何を考え、どのように変化しつつあるのか。
ひとつの〈過渡期〉を迎えているとも言える今について聞かせて頂きました。
展覧会に興味を持ってくださっている方にもぜひ読んで頂いた上でお運び頂けると嬉しいです。
使い易さは愛着にも繋がる。だけど…自分の中ではそれが一番じゃない
渡邊:材料の話に戻ると、材料作りにある程度しっかり取り組んでいる間は、作品制作にまで時間がとれないこともあると思うんですが、焦りを感じたり作品が出来てこそだなって感じる時はありますか。
森谷:自分は現象みたいなものとか素材自体に興味がすごいあるからやりたかったことはできてるんです。ただ実際モノになってないから、使う人には届いていないってことになる。だから材料作りの期間は自己満足みたいな感じなのかもしれない。
渡邊:まだかたちになってないけどもっともっと作りたいものがあるんでしょうか。今は頭の中にだけあるけど、作ることができていないものが。
森谷:ああ、無い。
渡邊:無いですか(笑)
森谷:理想しかない(笑) 僕はガラスが楽しいし、それを喜んでもらいたい。喜んでもらうって僕の中では、ずっと大事にしたくなるとかそばに置いておきたいみたいな。それって別に使い易いからとかじゃなくて、雰囲気が好きとかいろいろあるじゃないですか。使い易さだけを求めてはいないっていうのは自分でも…うん、わかってる。
渡邊:そのものが持つ存在感や気配。触れた時の感じや五感を刺激するような部分ですかね。
森谷:やっぱそこに自分が面白いなって思っているガラスの表情みたいなものが出てたりとか。実際それが愛着が湧いてくれるかとかは手にしてくれた方次第だから、なんか壊れにくいとか…えっと、何だろう、重すぎないとか?そういう使い易さは愛着にも繋がる。だけど…自分の中ではそれが一番じゃないんです。
渡邊:そうですね、用途が一番だと考えて作ってるガラスではないと私も感じています。森谷さんのお品が好きで、よく見に来てくださる方や手に取ってくださる方のお話をだいたいまとめると『森谷さんが作るガラスの雰囲気が好き』という方が圧倒的に多いんですよね。ガラスを型詰めして溶かしたりガラスの円板溶かして型に添わせるといった間接的な方法で成形するという、ある意味での不自由さや制約の中、その方法だから生まれるガラスの魅力や良さみたいなものがあると思うんですよね。森谷さんの作品に対するお客様の反応から受け取れるのは、皆さん必ずしも利便性や実用性を求めてということではなく、きれい、面白いという感覚的な感想や反応が多いです。それはもしかするとお客様方の中でも「現象が面白い」という森谷さんの感覚も共有してくれてるのかもしれないとも感じます。森谷さんはガラスの現象の面白さを魅力に変えて伝えられる人だから、お客様にもそれが伝わって楽しみにしてくださっているんだと思います。
森谷:じゃあいいんだ。
渡邊:いいです。(カメラマンに)森谷作品のどこが魅力ですか?
カメラマン:手触り。
森谷:そう?
カメラマン:手に持った時の感覚ですかね。重さとかもあると思うし表面の質感とかもあると思うし。手に持った時の馴染み具合というか、目で見る印象よりも直接触れた時の印象の良さが僕はありますかね。
森谷:そうなんだ。それはなんでなんすかね?(笑)
カメラマン:僕も個人でいろいろ買わせていただきましたけど、フォールコップ?あれはフォールグラスか、あれは。修理していただいたフォールグラスもまず目で見て面白いなって思ったのもありますけど、決め手になったのはやっぱり実際に手で持った時の独特な低重心の重さだったりとか、くびれている部分がよく手に馴染んだとか。あとは手に触れた時のちょっとざらっとした部分があったりつるっとした部分があったりとかっていう面白さが良いなと思って買ったんですけど。やっぱり触れた時の色んな情報が自分には心地が良かったから選んだ感じですかね。
森谷:…そうだと思います。いやほんとにね、そうだと思うんですよ。そういうのってやっぱ感じますよね?見てもわかんないぐらいのちょっとした何かがありますよね。
カメラマン:ありますあります。フォールグラスに関してはガラスが落ちてくるのをそのまま生かした形っていうのは後から聞いて。ああ、そういう理由でこういう形なんだっていうのはもちろんそれも面白いなとは思いましたけど。やっぱりそうですね、一番にくるのは直接触れた時の色々伝わってくるものですかね。
森谷:そんな気がする。確かに写真だとそこまではわからないですよね。
カメラマン:特に森谷さん(の作品)は難しいと思います。色々撮らせていただいてますけど難しいなとは思いますね。単純に綺麗だなっていうのはあるんですけど、そこ以上のものが自分が買った時にも感じたものはあるんで。写真は、ちょっときっかけになってくれさえしたらいいかなって感じです。全部を伝えるのは難しい、(手触りは)やっぱり直接触れて皮膚に伝わるものなので難しい。(写真は)きっかけとして、実際に来ていただいて触れてもらえたら。触れてもらえさえすれば森谷さんのものなので(笑)
渡邊:面白いですね、はじめに視覚的なきっかけがあって、そこから手を伸ばして持ってみると、そこで新しい印象が加わって変わるというのが。
森谷:変わりますよね。
渡邊:フォールグラスの形の面白さは視覚情報として入ってくるんだけれども、独特の作り方からの低重心で、持つと重みがある。溶けた時のつるつる感や型に触れている面のざらざら感もあるし。とにかくたくさん感覚を刺激するものがあるけど見ているだけだとわかりにくいかも。そういうのって実物に触ることではじめて実感してわあってなります。
カメラマン:意外性が多いんでしょうね。目で見た印象と実際に手に取った時の意外性が多いからそれが面白いって思うんじゃないですかね。
渡邊:そういう時って、脳の中に刺激が送り込まれるらしいですよ。
カメラマン:まさにそういう感じだと思います。
森谷:うわあ、嬉し。
渡邊・カメラマン:(笑)
森谷:ちょっと思い出してていいなって思ってた印象があるのが、僕が大学を卒業してからたまたま遊びに行ったんだったかな、その時に見せてくれたやつで。大学の課題で、キューブなんですけど、5cm角くらいの。キューブを磨くんですけど道具もそんなに無いから、手磨きでこう磨いていくっていう課題を出してみたらすごい良いのが出来たって言って先生が見せてくれて。角が丸くなっちゃうんですよね、キューブなんだけど手磨きだから。皆の磨き具合でちょっと角が取れた四角がいっぱい出来てて。めっちゃかわいかったんですよね。あれ、いいなっていうのを思い出してました。あの感じがいいなって。なんかすごい良いものに見えたんですよね。ピシってなった(角の整った)四角とは全然違ったんですよね。そういうのがいいなって思いました。それはすごいよく覚えてるんですよね。あれ何で良かったんだろう?例えば古い時代のものは、ものを作った当時は道具が無いじゃないですか。道具が無い、便利なものが無い時代につくられたものって甘さもあるしムラもあるし…でもなんか良いですよね。手で作ってるものはそういう甘さやムラが出るんだと思うんですよね。それがやっぱ既製品というか工場で作ったコップのつるつるっとしたやつとは違う手触りで感じる部分なのかなって。精度の問題なのか温もりの問題なのかはわからないけど。そういうものをつくりたいですね。
(了)
森谷 和輝(もりや かずき) 略歴
1983 東京都西多摩郡瑞穂町生まれ
2006 明星大学日本文化学部造形芸術学科ガラスコース 卒業
2006 (株)九つ井ガラス工房 勤務
2009 晴耕社ガラス工房 研修生
2011 福井県敦賀市にて制作を始める