読み物
森谷和輝 整音 ④


作品紹介 はじめに
■技法のおさらい
森谷和輝さんのガラス技法は大きく分けると2種類。
バーナーワークで作るガラス、キルンワークで作るガラスがある。
・バーナーワーク
森谷さんの場合は、酸素バーナーによって棒状や管状の硬質ガラスを溶かしながら成形していく。
使うのは「ホウケイ酸ガラス」という理化学器具等に使用される透明度が高く、耐熱性、耐衝撃性を持つガラス。古い時代にランプの灯りを主な熱源としていたことから欧米では伝統的なニュアンスを込めてランプワークと一般的に呼ばれる。もっと現代的なニュアンスやイメージの中においてはフレームワークの呼称を使うという。ガラスは紀元前に起源を持つといわれ、その最も初期段階に装飾品などの制作でバーナーワークは行われていたとされている。
・キルンワーク
キルンは窯の意味で、電気窯である。低温(とはいっても800度前後)の窯で、型を用いてガラスを融かし成形する。森谷さんが使うのは「廃蛍光管リサイクルガラス」という、独特の淡い淡い青緑色が特徴的なガラス。
キルンワークは更に多くの技法が枝分かれしており、そのどれもが歴史が古い。
もっとも有名な例はパート・ド・ヴェール技法。非常に細かい粉末状の無色のガラス(森谷さんが使用するもガラスと違って、更に細かくさらさらしている)と色ガラスを混ぜるなどして、粘土で作った原型をもとに耐火石膏で鋳型を起こしそこにガラスを詰め窯で焼成する。歴史としては古代メソポタミア文明の頃(紀元前15世紀-16世紀)に金属の鋳造技術を応用し発祥したとされている。
ちなみにガラスを取り出す過程で鋳型を壊さざるを得ないため大量生産には向かず、その後紀元前1世紀頃の古代ローマ時代になって吹きガラス技法が発明され量産する技法もこれを機にが新たに生まれていくこととなる。
キルンワークの中でも森谷さんが多く用いる技法はキャスティングとスランピング。
※調べるとキャスティング技法は古代ローマ時代の紀元前1世紀に発明されたと言われている。
(1)キャスティング 型の中にかけら状のガラスを敷き詰め流れ融けることで成形する技法。
(2)スランピング 予め作っておいた板状のガラスを型に置き、焼成すると型に沿って重力で流れ融けていくことを利用して成形する技法。
作品紹介|The case of Lampworking バーナーワーク篇
「つくり手としては目の前ですぐかたちが作れてガラスに道具を介して触れるところが魅力。そういう意味では即興性があるガラスの様子が、使う側の人にも感じてもらえる楽しさがあると思います。(森谷)」
バーナーワークのガラスについて森谷さんは昔からよく「バーナーのガラスは中に水をいっぱいに入れておくと本当にきれいですよね」と話す。
高い透明度で凛とした硬度を帯びたホウケイ酸ガラスだが、森谷さんのバーナーワークによってやわらかで揺らぎのある輪郭が生まれる。
ガラスの中を水で満たしてみると、ガラスと水との境界がたちまちぼんやりとしてくる。
不純物など何ひとつ感じられず、硬質だったはずのガラスは水に溶かされたかのように水と同化して、そこにはただ水そのものだけが不思議な実在感を湛えて存在している錯覚を起こしそうになる。どこまでも澄み切った純度の森谷さんのバーナーワークのガラスは、ただ静かに空間にあることを好んでいるかのようだ。
kui |新作
まず先に花器kouの存在があって生まれた新作。
今回の展示前に「kouの別バリエーションを作ってほしい」と百職側からリクエストして、森谷さんが作ってくださった花器。
作品名のkuiは杭?
キャンドルの炎のような細長い形は優美な印象。
細長い形はどちらかというと西洋的な印象を与える形。
けれど和の草花にも良く似合うたおやかもある。
kou
すっかり定番となった花器kou。
グラスの、ステムのような脚がついた花器は個性的で、上品な印象。
丸い部分や脚は、ひとつひとつバーナーで熱した材料であるホウケイ酸ガラスを吹きガラスのう要領で吹いて作るので個体差が生まれる。
脚の長さも異なるし、水を入れる部分の球体部は真ん丸に近い形、やや細長めの楕円のような形など様々なものが生まれる。
プロポーションの異なる中から、自分だけのものを選ぶお楽しみが醍醐味。
sankaku|新作
片手の中に収まってしまうくらいの小さな三角柱の形をした花器。
インタビューで「最近あまりやってなかったけど実は自分らしいのはこれかなっていう花器」と話していたのは、恐らくこの花器のことだろう。
型を使いそれに沿って制作したり、やや技巧的なものに取り組んできた数年。
今回ももともとは複雑で自分の内に内に向けた形を追っていたらなんだか疲れたのだそう。
自分が好きで、みんなも好きな感じをやろう。
いったん立ち止まってから、もう一度手を動かして出来たものは好きなやつだった。
以前はこういった大らかな作品群もあったけれど久々に見た気がする。
さりげない原点回帰。
森谷さんの大らかで飾り気のない少年っぽさをこの作品から感じる。
お会いして以来、十角形や八角形、六角形などポイントポイントで多角形のアイテムを森谷さんは少しずつ作ってきている。
今回は三角。
新しい多角形アイテムがまた増えて嬉しい。
tide cup|新作
tideとは潮。
tideシリーズ、これはカップ。
無機質な質感のホウケイ酸ガラスに、ゆらめきを思わせるテクスチャーが与えられている。
カップというさりげないアイテムだけれども、森谷さんのバーナーワークの新しい場所に感じられる。
縁は真っ直ぐにカットされていない。
少し波打つような。
時折風で波立つ小波のようなディテール。
遠くでささやかに聞こえる潮騒のような静謐さは、うっかりすると聞き逃してしまう、見逃してしまう。
耳を澄ましてほしい。
少しの間だけでいいから、映る影をじっと見つめてみて。
tide bowl |新作
tide(潮)シリーズ、これはボウル。
こちらもまた無機質な質感のホウケイ酸ガラスに、光が差すとゆら
どこにでもありそうな小鉢くらいのサイズのカップ。
でもそこに濃淡のある陰影、あるいは凹凸の影がはかなく零れてい
カップと異なり、口縁は柔らかな気配の線を描いている。
凪の水面のような広がりをと、森谷さんは言った。
私は海と空との境目をゆるやかに漂う水平線だと思った。
どちらにせよ、私たちは海を思ったのだった。
薄く軽いけれども、耐衝撃性を持つホウケイ酸ガラスは見た目ほど
流しに落としたくらいでは割れない、頼もしさを備えていることも
続きは 「A piece of artwork with glass 作品紹介 キルンワーク篇 ①」 にて
森谷和輝 整音 ③


昨年は変則的に十月に行いましたが今年は例年通りに戻って、森谷和輝さんの個展は恒例の七月に行います。
森谷さんとご一緒するのも十一年目となりました。
昨今では二年に一度くらいのペースでの展覧会が多いように感じますが、森谷さんとは毎年ベースでという刻みになっています。
独特のテクスチャや色合いを持つキルンワークのガラス作品、薄手の耐熱ガラスで柔らかないびつさに愛嬌を感じさせるバーナー作品という、まったく異なる制作方法を言わば「二刀流」で行っており、その両方において、それぞれの目標ややりたいことを見出しながら、一年に一度の歩みを見せて頂いています。
あっという間の一年ながらも、過ごす中ではやってみたいことや課題というのは尽きないようです。
2021年の夏の足跡はいったいどんなもので、今いったい何を考えながら制作をされているのか。
今回は電話インタビューにてお話を聞きました。
森谷さんの謙虚なお人柄とさりげない中にも作ることへのますますの意欲など、森谷さん自身が撮影してくださった工房のお写真とともにお楽しみください。

大きい方のバーナー。森谷「もう少し大きなものが作りたくて手に入れました。ガラスにくびれをいれるためヘラ(古道具を改造)
○ 見たいんですよね、バーナーでできるもの。自分がどんなもの作るのか
――今現在出来上がってる作品で自分が好きなものってなんですか?
森谷「えっと、なんですかね、あれかなkouかな。意外と作ってますね」

花器「kou」
――kouのどんなところが好きですか?ものとして?作り方に面白さがあるとか?
「なんか吹きガラスって感じですよね。シンプルに吹いて丸く膨らむっていう。特性があるじゃないですか。そういうのってキルンワークやってると作れない形なので。内側からこう力が加わってこう作れる形。バーナーをする時って、そういうキルンでできないようなことをバーナーでやりたいって思っていて。ガラス自体にすごいテクスチャーがあるわけじゃないんですけど、形として、うーん、バーナーワークのほうは形としての…うーん、なんていうんですか……(長考)」
――ふふふ、大丈夫です、すぐ言葉にまとめようとしなくていいですよ。
「……その場のガラスが動いたみたいな形っていうのかな」
――ああ。今が含まれていますよね、確かに。今膨らませたという。全然キルンとは性質が違いますしね。やはり好きなんですねバーナーも。両方ね。
「好きだからやってるんでしょうね。それぞれ違うからやるんでしょうね。でも難しいんですよ、ほんとに。どっちも一生できるくらいのことだと思うので。絞った方がいいと思ってた時もあるし。なんかもう好きだ嫌いだとかじゃなくて、もう自然にやってるだけなのかな。ま、見たいんですよね、バーナーでできるもの。自分がどんなもの作るのか。ただでもキルンだけでももっとやってみたいと思うから。まあまあそれはもうどっちもやったらいいかなって感じですよね」
――やりたいっていう内は、やれるなら、やれる環境があるなら、やりたいことをやったほうがいいんじゃないでしょうか。
「いいんですかね。まあ好きなのかやっぱ。そう言ってしまえばそうか。楽しいんでしょうね。楽しいし、こんなんできたって見てもらいたいし、っていうのがあるんですよね。去年は割とバーナー作品少なかったんですけど、今年はちょっとね雰囲気変えたいので。頭の中のイメージはもう結構、バーナーのものが並んでるんですよ」
――もう脳内展示が始まってるんだ。
「そう。これはもう誰の展示なのかくらいの。頭の中ではあるんですけど。作れるのか!」
――わからないけどやれるだけやって展示迎えたいですね。

キルンワーク 葉皿の制作。棚板に直接ガラス片を置くので離型のため石膏を塗っています。
○ それが実は自分らしいのかな
――あと今出来てる中で気に入ってるものをあげてと言ったらkouをあげてくださったわけですが…
「あ、そうか!まだここからねkouの形変えたバージョンみたいなのを作ろうって話してましたけど、そっちがおすすめなのかな?まだ出来てないけど(笑)あれもね苦戦してて(笑)コンポートみたいに広がってるやつ作りたいなと思ってたけどすごく難しくて今の感じだとうーん、って感じなんですね。で今ちょっと他の形で、ひょろっと長い、一輪挿しになってるみたいなのを出そうと思ってるので。これがいいかもしれない。これからできる予定の新しいものの中では」
――まだできてないから見えてない部分があるけれども(笑)
「はい、そう!あと小さい花器って前あったんですけれども」
――懐かしいですね。
「ありましたよね〜。初心に戻ってちょっと小さい花器を出したいなと思ってます。あ、でも前の小さい花器と同じやつじゃないんですよ。本当に言葉通りの、サイズがちっちゃめの、ちょっと差して、キッチンとかちょっとしたとこにちょんって置く用のやつを、もういっぱい出したいと思ってるんです(笑)」
――いっぱい出したい、ね(笑)頭の中ではね!
「そう頭の中では(笑)なんで、はい!僕はそれが実は自分らしいのかなとそういうのは思ってました。最近なんか、ね?全然、うん…」
――そうですね、そういうのはなかったかな。
「そうそう、ですよね?そういうのは作ってなかったなってやっぱり自分で思って。kouとかもどんどん技術に走っていくと複雑なもの作りたくなっちゃうし、そういうのもあるんだけど、ちょっと本当に作りたいというか欲しいというか好きな感じというのを、なんとなくこういろいろね、ごちゃごちゃガラスをくっつけてやったりもしてたんですね、なんか。最初はね。やったんですけど、ちょっと無理があるなあっていうのと、うーん。うまくいかないし、時間ばっかりとって。これどうなんだろ?って。出来たものが悪いってわけじゃないけど。我が強い感じのをいっぱい作っちゃって。そっち方向にいっちゃって。だからまだいくんですね、僕は。素直になったと思ったら自分の内側に行ってしまって、それでちょっと疲れてしまい。僕も好きだし、最初の頃の感じで作ってみようと思って。すっとやってみたやつがなんか良かったんですよね。『おっ、これ好きな感じのやつだ』と思って。本当にちっちゃいやつなんですけど。それでわかってきて。それをいっぱい作ろうと思ったんですけど…後が続かなくて…なんか(笑)」
――自然なことな気がします。楽しむというか遊ぶというスタンスで作るからできるものは、よし作ろうと思ってやると違う感じになるのは自然のなりゆきじゃないですか。
「そうか、なんなんですかねー。それは出したいと思ってて。僕のおすすめはその辺です。まだ出来てないけど(笑)それが一番気に入ってるやつです。本当はそれなんで。あーやっと出た。
でもやり過ぎちゃったやつも持っていこうかな」
――そういう作品も展覧会という意味ではあるといいですよ、きっと。

ガラス片を敷き詰めた様子。葉皿は細かいガラス片を使います。
○ 『毎回どんなのが見れるんだ?』って。その部分っていいなと思います
「あとこの間、剛さん(陶芸家の高木剛さん。森谷さんと同時期くらいに京都・百万遍の手づくり市に出展していた時代があって二人は昔からの顔なじみ)の展示のこと、渡邊さんリポストしてましたよね」
――印象に残ったのでしましたね。
「ですよね。剛さんは『人気のものばっか出さずにいろいろ作ってちゃんと自分で選んで出しました』みたいに書いていたでしょ。あれはいいっすよね。引っ越して作り方も一新して窯も変わって。いいなあと思ってます」
――展覧会をやる心意気を感じましたね。自分でも楽しく、見る人にとっても楽しか、そういうふうに出来たらね。
「いつも来るお客様も楽しいですよね。もちろん新しいお客様もだし。毎回『どんなのが見れるんだ?』って。わざわざ来たいと思わせるって大事っすよね。その部分っていいなと思います」
――新しいものを発表できて、それをお客様が見ることができる場って今は展覧会が主流ですね。
「そうですよね。だから、自分でいいと思ったものをちゃんと選んで出すって、展示会をする意味でもあるような気がします。定番とか売れてるものも大事ですけど。定番と言ってもおんなじものというか、ちょっとずつ変えたりしているから違うんですけど毎回。ま、でとにかくやっぱりその展示会でだけのものを作ったりとかはこっちも楽しいし、お客様も特別感を楽しんでもらえるかなと」
――いいですよね。
――今回は音や場の雰囲気を大事にしながら、やっていきましょう。
「あとbell(森谷さんの作品で風鈴形オブジェ)出したいんですけど前回は室内で展示したけど、今回ちょっとでもいいから外とかに吊るして、外でも鳴る感じにできますかね?」
――出来ますよ。あんまり風が強かったら引っ込める時もあるでしょうけど、いいですね、しましょう外に。
「なんかこれからもっといろいろ音出すもの作りたいんですけどね。音のこと考えるのもいいなと思ってます」
(了)
森谷 和輝(もりや・かずき) 略歴
1983 東京都西多摩郡瑞穂町生まれ
2006 明星大学日本文化学部造形芸術学科ガラスコース 卒業
2006 (株)九つ井ガラス工房 勤務
2009 晴耕社ガラス工房 研修生
2011 福井県敦賀市にて制作を始める
森谷和輝 整音 ②


“ 展示会でだけのものを作ったりとかはこっちも楽しいし、お客様も特別感を楽しんでもらえるかな ”
昨年は変則的に十月に行いましたが今年は例年通りに戻って、森谷和輝さんの個展は恒例の七月に行います。
森谷さんとご一緒するのも十一年目となりました。
昨今では二年に一度くらいのペースでの展覧会が多いように感じますが、森谷さんとは毎年ベースでという刻みになっています。
独特のテクスチャや色合いを持つキルンワークのガラス作品、薄手の耐熱ガラスで柔らかないびつさに愛嬌を感じさせるバーナー作品という、まったく異なる制作方法を言わば「二刀流」で行っており、その両方において、それぞれの目標ややりたいことを見出しながら、一年に一度の歩みを見せて頂いています。
あっという間の一年ながらも、過ごす中ではやってみたいことや課題というのは尽きないようです。
2021年の夏の足跡はいったいどんなもので、今いったい何を考えながら制作をされているのか。
今回は電話インタビューにてお話を聞きました。
森谷さんの謙虚なお人柄とさりげない中にも作ることへのますますの意欲など、森谷さん自身が撮影してくださった工房のお写真とともにお楽しみください。
バーナー作業の視点、
○ 『お父さんが余裕を持てますように』って書いてて(笑)
――ようやく展覧会のフライヤーを送らせてもらいました、遅くなりました。
森谷「今回あのー、タイトル(整音)をつけてもらって。あれすごいいいですよね。僕も最初見た時ちょっと感動して」
――感動?ありがとうございます!
「僕この言葉、ほんと知らなくって。まだ意味わかってないんですよね。だから自分なりの感じだと、展示会の…展示会やってる時に聴こえてくる音とか、僕が思ったのは、ですけど。そういう音とかが記憶に残るようなものをしたいって思っていて」
――うんうん。
「場の。ほんと雰囲気」
――気配だったり?
「そうそう。そこにいて作られているみたいな。そういうのを自分も体験したい。お客さんもね、そういう場にいて記憶に残るようなものができたらいいなと思うので。なんか僕がタイトルから受けた印象はそういう感じで」
――ありがとうございます、嬉しい。
「そういうのにしたいなと思ったんすよね。全然言葉に出来てないけど」
――いえいえ、わかるような気が。展示会って、その時、その時間、その季節とか消えていくんですよね、結局。場は作られていくんですけど消えていくもので。だからこそその消えちゃう時間とか場とか音とかを大事にして、記憶に残していける展示、時間にしたいですよね。私は、目の前の時間や一日、日常を過ごすことを流すんじゃなくて、今一度大切にしたい、焦らずに過ごそうよ、と自分に言い聞かせるような部分もありました、このタイトルを決めたときは。
「うーんなるほど。焦らずか。そういえば今年も七夕あったでしょ。短冊をねちょっと前に書いたんですけど、なかなかお願いが思いつかなくて。思いつかなくないですか、お願いって?」
――そうですね、改めて出してってなると思いつかないかな、当たり前のことしか。
「ね。健康第一とか」
――ね、そういうの。
「娘がなんか僕のお願い書いてくれて。『お父さんが余裕を持てますように』って書いてて(笑)」
――すごい(笑)一番のお願いかもしれない。
「素晴らしいですよね。で『展示会が成功しますように』ってのも書いてくれて」
――ふえ〜良く見えてる(笑)
「具体的に僕の願いを二つ書いてくれて」
――それさえあれば、ですね。
「そ。本当にそれだよ、と思って。それがうまく行けばすべてが丸く収まるよと思って。家族も平和だよきっと。もう本当に余裕を持とう余裕を持とうと、ずっと、焦らない焦らないと自分に言ってて」
――そうですね、まだ私たちの世代はフルで働いているしね。余裕をって心がけることは大切ですよね。
「そう。そう思って『よし散歩行こ(愛犬の)』って出かけるわけですよ」
○ 面白いから出そ。これ好きだから
――今回気に入っている作品とかありますか?
「花器。予定ではいろんなの思っているんですけど。結局積んで戻ってみたいなのを繰り返していて。やってはいますよ。始まってはいます(笑)でも実になるのはちょっとしかないかも」
――大丈夫、そういうものですよ。展覧会はここから出発点みたいなものだから。
「ああそう、うん、なんかね百職の展示っていつもそんな感じで。いつも何かしらきっかけをもらって、そこから一つのものに詰めていけるみたい場なんですよね」
――ああ、嬉しいです。
「展示本番でうまく出せるといいんですけど」
――今回、撮影用に大鉢を出してくれた理由は?
「あ、大鉢?理由とかってないんですけど。気に入ってるから。家でめちゃめちゃ使うし。すごい気に入ってる」

大鉢
――家でどう使ってますか?
「家では…なんだろうな?お刺身が多いかな。お刺身盛ったり。あれって大盛りをばっと行きたいじゃないですか?そういう時に出ますね。あと本当そうめんはやったりするし。サラダ的なのも多いですね。みんなで分けて」
――大鉢はもう4、5年くらい作ってますよね。
「ああ、もうそんな経ちました?あー、経ってますね。僕の中ではまだ新しいと思ってて。新しめの中でも、あれはだんだん自分の好きな感じになってるなあって。結構たわんじゃったりとか。そういう感じがいいなぁとは思っていて。まああんまりやり過ぎていると、人を選んじゃうけど。どうしよう、一個ね、すごいたわんじゃったやつがあって、出そうか迷ってんですよね」
――出してみては?
「みてもいいですか?ちょっとこれは注文仕事で納品したら全然違うよって言われるやつで」
――そういうのできちゃいますよね。そりゃあ。
「なんか意外とこういう変なやつのほうが、愛用できそう。ニュアンスがあって」
――気に入ってくれた方は他にないからってなりそうですね、うん。
「うん出そ。面白いから出そ。これ好きだから!」
――そばにあったんだ。
「ああそう、あります、今なでなでして。ね、こういうのって結構使う人によりますよね、大きさがね」
――大きい器は使う人、使わない人、使えない人がはっきり分かれますね。暮らしのスタイルや家族構成も関わってくるし。
「そう。人によってね、生きるのもあるし。なんか結局器だけがあってもしゃあないですよね。使ってくれる人がいてだなと思います。僕のほうがお客さんにどう使ってるのか聞きたいです。アイディアないので」
――それぞれ使う方のセンスによって同じ器でも見え方は全然変わってきますよね、それが面白い。
「そうやっていろいろ使ってもらえるものを作りたいですね。そうするとだんだん自分がなくなっていっちゃう。なくしたほうがいいというか。あんまり『こう使ってほしい』っていうのはなくて。僕はこうやって使ったりもするけど、『こう使ってほしい』というのはないから。自由にしてほしいし、いい使い方あったら僕にも教えてって思ってます」

小さい方のバーナーで、森谷さんが
○ だんだん厳しくなってきちゃって、眼が
(ガサガサ音がして、ガラスの当たる音がする)
「あっ、今ちょっとクリアのLLのいい感じのが出来てる。すいません、このタイミングで窯開けちゃった」
――あはは、よかったあ、いいのが出来てて。
「LLいいっすよ。大皿ばっかり」
――大きいのがうまくできると嬉しいですよね。
「そう、大きいのは好きだし。あ、でも銀彩のSは出ますよ。10枚くらい」
――わあ、たくさんある。
「改めてね銀彩皿はという感じ。銀彩が初代ですもんね、皿の中では」
――そうですね、初めて作ったお皿は銀彩でしたもんね。クリアじゃなくて。
「今回のは使いやすいんじゃないかな。形が前よりよくなった。焼き直したりを今回して。その分良くなったかな。一回できれいな形出ないんですよね。最初のやり方ってあんまり型に沿わせないで自重で落としたりってやってたので、それをもう一回焼き直してやってるんですけど」
――単純に焼き直すだけですか?ガラスを足すとかではなく?
「うん、じゃなくて単純に曲がっちゃってるのを修正する感じでやってます」
――型を変えるとかもせず?
「同じ型を使います。落ち方が曲がって落ちちゃったやつを正しく置いて、直すような感じでやってます。二度手間なんですけどね。 だんだん厳しくなってきちゃって、眼が。いいな、出せるなと思う基準がどんどん高くなってきちゃって。それで時間使ってしまってる」
――質を良くするための試行錯誤の段階なのでは?二度手間かもしれませんが大切なことですよ絶対。焼き直しというのは、そもそも均一に熱が行き渡るわけじゃないから、二度やることによって偏っていた部分にまた熱を加えて微調整するってイメージ?
「うんうん、そう。調整するとより良いなってものが出来て。こういうことですよね、どんどん時間がなくなるという。一発で決めてくる人もいるとは思うんですけど。もうほんと人のこと考えちゃダメですよ、すごい人いっぱいいるから」
――森谷さんもいいもの作っています。
「ああ、自分ではね、なかなかそう思えないんです。でもだからありがたいです、そんなふうに思ってもらえて」

小さいバーナーに酸素を送るジェネレーター。もう10年位頑張ってくれているとのこと。相棒!
はしもとさちえ 旋律がくりかえすように ⑤


“悲しかろうが嬉しかろうが一緒なんですよ
百職では2年ぶりに個展をして頂く、大阪の枚方で作陶されているはしもとさちえさん。今回インタビューの最中に話をしている際に、出会ってから4、5年くらいだったかなとお互い話していたのですが、改めて遡ると、知り合ってからもう7年も経っていました。依然として世界中では新型コロナウイルスと戦いが繰り広げられている中、多くのつくり手の皆さんはそれでも淡々と制作を進めている方がほとんどです。
その中でもはしもとさちえさんは、妻として母として世の中の変化も見守りながら暮らしと家庭を動かし、同時に制作もふだんと変わらぬペースを守っているとのことでした。
仕事以外でもプライベートでおうちに行かせて頂くこともあり、改まった形ではしもとさんにインタビューをさせて頂くことは今回が初めて。
制作に向かう姿勢や家庭と仕事を行き来することへの考え方など、はしもとさんらしいナチュラルさで語ってもらいました。
○色や装飾技術を最大限に魅せられるよう
――加飾技法や多彩な釉薬などで幅広いうつわを作っている方だなというのが最初から印象的でした。どう
はしもと「イメージは…ないと思う。私ね、なんていうかね、基本的な制作スタイルというか作業工程と
――ほんと?出来ないタイプ?
はしもと「はい。出来ないタイプなんです。だから自分の持ってる色の感覚と装飾の技術しかないんですよ
――はい、それはもう焼いてますね!
はしもと「そう、焼いてるんですけどね(笑)。ま、それしか私は出来ることがなくって。持ち味の、色や装飾技術を最大限に魅せられ
――自分の持ち味を見つけるのも簡単じゃないし、最大限に活かすっていうのもすごいことです。更に、努力するのも口で言うほど簡単ではないし。ところで電気窯ですよね、今?電気窯でも釉薬表現に取り組んでい
はしもと「うーん、苦手とか嫌いではないけど、たぶん私には出来ないことや
――家で使ってたりしますっけ?ザ・土物みたいなやきものは。あまり出てきたことないなと。
はしもと「ああ、土物っぽいものは持ってないなあ。そういうのは手に取らな
――ご自分の中ではっきりしてるんですね、嗜好が。
○今一番いい形だなって思えているのはやっぱりリム皿
――美しいものっていったらどういうイメージを持ってますか?
はしもと「形はどうしてもルーシー・リーを意識しちゃいますね。佇まいとか
――リム皿は毎回人気ですね。はしもとさんの感覚と求めてくださ
はしもと「うーん。この間、渡邊さんが『リム幅を太くしたタイプのも今回作ってみ
――大きいですよ、1ミリは。特に作家さん自身から見れば、それはもうかなり
はしもと「そう、すごく大きかったです。だからそれを見直せてね。たまにそうい
――感謝されるなんて(笑)。それだけはしもとさんは途切れなくた
はしもと「そうそう、あれね。バイカラーみたいに裏は普通の白の釉薬なんで
――はしもとさんの中ではモンブラン。食べたくなってきます。きっと似合いそう。あれはほんとにワイドリムな造りで特別感楽しめそうで素敵です。
はしもと「あれ結構いいなと思ってて。一応今回もう少し数作る予定です
――そうですね、イメージや思いつきでひとつふたつは出来ても、注文が来たり
はしもと「そうなんです。それをこうこの先へって意味でつなげていけるよう
――嬉しいです。今回の展示の副産物として先につなげていけたら本当に嬉しいし、今回やった甲斐あるなあって。もちろん展覧会はそれと
はしもと「楽しみます!あと輪花と稜花のうつわもいくつか作ってて。なんか私がやると…
――鉢?お皿?
はしもと「うーん、小鉢くらいの感じかな。輪花とか稜花って言ったらいかんよう
――それは楽しみが増えました。わくわくします!
○彫る前に見ていると模様が思い浮かぶ
――もうひとつ、はしもとさんがいい仕事が出
はしもと「蕎麦猪口にしろリム皿にしろ、粘土練ってろ
――ああ、ほんまに好きなんですね。彫りの作業そのものが。
はしもと「好きです。蕎麦猪口とか一輪差しとかお茶碗とか、彫りを入れる前
――のっぺらぼうって(笑)。
はしもと「でも何もないと本当にそう。彫る前に見ていると模様が思い浮かぶ。これ入れようかな、あれ入れよう
――出来上がったばかりの時は作った本人のはしもとさんから見ると自信のなさも手伝って「物」感のほうが強いんですね。少し距離が離れると冷静に見えることってふだんもありますね。
はしもと「そう、お店の空間で見て最後変わります」
○心の安定はろくろの安定
――今のように展覧会前ではいつもとちょっと違う感じになるとか、普段の暮らす中でも何か意識することはありますか?
はしもと「うーん、ないです。いたっていつだって同じペースです。ただ気持
――焦ってもいいものできない…耳が痛いです。積み重ねてきたんですねはしもとさんは、経験として。
はしもと「そうです、本当にそう。悲しかろうが嬉しかろうが一緒なんですよ
――ベテランというか仙人みたいな領域ですね。
はしもと「生活の場所とひとつだから、余計そうなのかな。仕事も生活も一緒なんで(はしもとさんは住居兼工房というスタイル)。工房が別とか、家が別とかやったら自分の中で変わっていたかもしれないんですけど、家事のことも仕事のことも引っくるめていくことで、私の中ではうまいこと回ってます。だから毎日やってることはほんまにおんなじ。ほんまに毎日おんなじのことの繰り返しなんですけど、でもこれなんかこう、同じことの繰り返しがないと逆に作れないのかなって気がしています。心の安定はろくろの安定」
――自分を機嫌良くさせるという言い方ありますけど、安定したルー
はしもと「そうだと思う。まあまだ充分な技術がついているかっていうと『?
はしもとさちえ略歴
1976 大阪府に生まれる
2001 大阪産業大学大学院環境デザイン専攻修了
2006 大阪府枚方市に工房設立
(了)